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陣営を選ぼう、どっちでも
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陣営を選ぼう、どっちでも
Mark Rosewater / Translated by YONEMURA, Kaoru.
2011年2月21日
「陣営を選ぼう」特集にようこそ。今回、我々は諸君全員にミラディン陣営?ファイレクシア陣営の対立においてどちらの陣営につくかを選択して貰う。今回は全ての筆者が同じことをする(あるいはどうして選択したかについて語る)ことになる。ファイレクシア陣営でももっとも声高な支持者である私は、もうとっくに所属する陣営を決めている。もちろん、ファイレクシアだ。
テーマについては三行で語り尽くしてしまった。うむ。時間が余ったので、私がなぜファイレクシアを選んだか、より正確に言うなら私がなぜこのセットがお目見えして以来ずっとファイレクシアの応援団長をしているのかについて少しばかり詳しく語るとしよう。これから語ることの全てにおいて、私は私とその見解について語っているのであって、開発部やウィザーズの見解を語っているのではないことに留意して欲しい。今回のコラムでは、私、マーク・ローズウォーターがなぜファイレクシア陣営を選んだのかを語るのだから。
この話題に関して、私は2つの軸から語っていこう。メカニズムと、フレイバーである。
メカニズム
私はゲームデザイナーなので、最初に語るべきことは両陣営のゲーム上のメカニズムである。ファイレクシアには感染と増殖があり、ミラディンには金属術と刻印がある。キーワード能力や能力語でないメカニズムを含むなら、ミラディンにはこの他に「破壊されない」(つまりダークスティール)と蓄積カウンターがある。では、それぞれについて検討していこう。
感染
この検証は主観的な物で、客観的な物ではない。私は私が個人的に好んでいることについて語っている。マジックのゲームにおいて、毒以上に私を興奮させてくれる物はほとんどない。もしかしたら毒をセットないしブロックの中心的な構成要素にするというこの15年間の旅路によってそう染まっているのかもしれないが、ミラディンの傷跡・ブロックの色々なリミテッドをやっていても可能な限りのデッキで毒を使おうとしてしまうのだ。プレイテスト目的で、デザイン中の多くの時間を割いて他の戦略を試し、このセットに他の選択肢があることも確かめた。私が毒をプレイするのは、他の選択肢に気づいていないからではなく、私がそうしたいからなのだ。
どうして私がそれほど毒を好むのだろうか? 私は、いつでも、他の勝ち方の大ファンなのだ。フレイバーがとても強烈だと感じる。普通と違う方法でプレイさせるようなことをするのが好きだ。あらゆる合理的な説明はできるだろうが、最も重要なのはそうではなく、プレイしていて私が幸せになるということである。メカニズムができるもっとも重要なこと、それは、プレイヤーを良い気分にさせるということなのだ。
それにも増して、私はデザインとしてこの感染を気に入っている。毒を使うための最善の手段を探して多大な時間を費やしてきたが、感染は私が見つけ出すことが出来た中で飛び抜けて最高の出来映えである。毒をマジックの他の要素と絡められるように仕上げることができたと感じているし、それに加えて、この「萎縮」部分がクリーチャー間の戦闘にも新しい要素を付け加えたと言えるだろう。
では、これが完璧なメカニズムなのか、というと、そうとは言えない。来年のデザイン演説の記事において、私は毒がその遂行に成功したかどうかを評価しなければならない。現時点での答えを一言で言えば、二極化している、ということになるだろう。多数派は気に入っているが、少数の気に入っていない人たちは心底気に入っていない。これは成功と言えるだろうか? それに関する私の見解は、デザイン演説の記事まで待っていただくことになる(結論を導くために、今年一年全体のデータが必要なのだ)。
もし「嫌い」から「大好き」まで10段階で評価するなら、感染は、私にとっては、明らかに10点満点、いや、ボリュームを振り切って11点満点だとも。
増殖
他の多くのコラムで明らかになっていなかった場合のために言っておくと、私はジョニーである(何を言っているのか解らない諸君は、マジックの心理学的分析に関するコラム(英語)を読んでくれたまえ)。私はマジックを通じて私の創造性を発揮し、私オリジナルのことをして私を表現することを楽しんでいる。従って、私は、使い道の広い、使い方の選択肢を多く与えてくれるようなメカニズムが大好きである。開発部では、我々はそういうメカニズムをジョニーなメカニズムと呼ぶ。ミラディンの傷跡・ブロックでもっともジョニーなメカニズムは、増殖である(増殖はティミーやスパイクにも魅力的だが、どの心理学的分析かを選ぶとなるとジョニーとなる)。
私は増殖の能力を使って本当に様々なことをして楽しんだ。ミラディンの傷跡のリミテッドにおいても、増殖は様々な役目を果たしてくれるのだ。私は、再利用可能な増殖カードを非常に高く評価しており、時には初手取りまでしてきた。それは、これらをプレイするのが楽しいからである。また、これを早いうちに取った時のデッキも気に入っている。
(マーク・グローバスとともに)これをデザインしたのが私なので、増殖をひいき目で見ているのは確かだ。しかし、デザイナーが自分のプレイしたいメカニズムを作るのは当然のことだ(デザイン技術の中でもっとも困難なことの一つに、自分のスタイルと違うものをデザインするということが挙げられる)。私の10段階評価で言うと、増殖は8 1/2点ぐらいになる(フェリーニ点とでも言おうか? ジョークジョーク)。
金属術
開発部では閾値メカニズムと呼ばれているものだ(これについては金属術特集の際にあなたの手札、私のアーティファクト、計ってみようと題して語った)。閾値メカニズムは、リソースを管理する(○○を発生させられるようにリソースを管理する)メカニズムなのでスパイク向きになりがちである。金属術の主軸性は、それにティミー向けの風味を付け加えている。
私は、金属術は非常に安定したメカニズムで、閾値メカニズムとしてよい働きを見せていると思っている。金属術がデッキ構築に果たしている役割が気に入っているし、イカしたカード単体を作ることやそれが巧く働くようにすることも助けてくれている。デザインにおいて、私は大量の金属術デッキを試し、どれほど巧く働くようにできるかを検討して、そしてどこでどうすればこれが輝くのかを掴んだ。これは私の個人的な一服ではないし、私が引き寄せられているマジックの一傾向でもない。私にとって(繰り返しになるが、これはあくまで私がマジックをプレイする上でどう感じたかの個人的な点数付けであってメカニズムの客観的評価ではない)、金属術は5点と言ったところだ。
刻印
刻印は旧ミラディン・ブロックからの私の子供の一つだ。様々な意味で、これはイカしたカード単体を作るようなメカニズムではない。私は多くの刻印カードが好きだし、それらをデザインすることを本当に楽しんだ。しかし、それ全体というよりカード一つ一つの魅力なのだ。また、このミラディンの傷跡・ブロックでも判るとおり、出来のいい刻印カードをデザインすることは難しいことなので、我々は本当にイカしたものだけに絞ることにしたのだ。
このメカニズムを評価することは難しい。個別の刻印カードなら9点や10点のものはあるが、メカニズム全体を通してとなると、飛び抜けたデザインのようには脚光を浴びることのなかった多くのカードの分だけ点数を引き下げて、7.5点をつけよう。
破壊されない(ダークスティール)
これをキーワードにすると言う現在進行形の探索のことは詳しくは述べないが、私は今も健闘していると言っていいだろう。破壊されない、というメカニズムは私のお気に入りで(これについてはダークスティール特集の際にThe Darksteel Returns(英語)で語った)、これを常磐木メカニズム(開発部の使うスラングで、必要に応じていつでも使っていい、しばしば全てのブロックで見かけられるもののことを指す)にしたいと押していた。私はミラディンの傷跡・ブロックでの使われ方が気に入ったが、実際の所、これは他のメカニズムと同じくらい特別だとは感じないような大黒柱になった。マジック全体を見て点数を付けるなら、8点。ミラディンの傷跡・ブロックの創造上の興奮という意味では、4点だ。これは必要で、そして使われるのは嬉しいのだが、それによってミラディン側が私にとって興奮できる物になったかというと、そうは言えないからである。
蓄積カウンター
私はカウンターの類(やトークン。ガラス玉への思いはこちらの記事(英語)で語っている)が好きだ。私がミラディン側でプレイする時、私が真っ先に入れるのはこれだ。ミラディンに入れた時も楽しんでいたし、ミラディンの傷跡でもそうだ。コレを進めることを阻害したのは、金属術がこれから焦点を奪ったこと、そしてデベロップはこのサブテーマをより小さくしようとしたことだけだった。
使用回数が限られているアーティファクト、というのは魅力的で、折を見てアーティファクト・セットに入れたいと思った。8点だ。
私の点数の平均を取ると、ファイレクシアが9.25点、ミラディンは6.125点となる。ファイレクシアには、私の歴代トップ10に入るメカニズムのうち2つが入っている。ミラディンのメカニズムでそのリストに入りうるのは刻印だけだが、それにしてもトップ5に入ることはないだろう。
フレイバー
この節に入る前に、いくつか明確にしておきたい点がある。まず、私は物語を作ることには関与していない。私は元のミラディン・ブロックの世界を作るのに関与していたが、ミラディンの傷跡で私がクリエイティブ・チームに関わったのは、デザインを選ばれた物語や環境に合わせて統合するためだけだった。私は戦争の結果には何の影響力も持っていなかった。私の仕事は、ブロックを既に定められた結果に向かってデザインすることであって、結果を作ることではなかったのだ。以下に述べるのは、クリエイティブの要素に関する私の個人的見解である。なお、ゲーム・デザイナーになる前の私の職は、ストーリーを作ることに関する仕事だったことを思い出して欲しい。
私はミラディン陣営を中傷するためにここにいるのではない。私はミラディン陣営が好きだ。上で言った通り、ミラディンの世界を作るのには直接関与してきた。人工的に作られた世界が他の次元からクリーチャーを捕えて居住させるというアイデアが好きだ。私はミラディンがそれらのクリーチャーを進化させ、生体部分を金属に変えていくというアイデアが好きだ。ミラディンの全体としてのコンセプトはとてもイカしている。問題は、私がミラディン陣営を好きかどうかではなく、ストーリー的に見て、私がファイレクシア陣営を好きな以上にミラディン陣営が好きかどうか、なのだ。
私は、マジックの歴史家の一人である。私はマジックの最初からマジックの一部であり、ここ15年間はその成形にも積極的に関与してきた。私が時のらせんのデザインに関わっていなければ、私はそれを貪るプレイヤーの一人だったろう。私はマジックの歴史が好きだ。ファイレクシア軍が私の心のそこかしこに巣くっているのはそのためだ。マジックにおけるファイレクシア軍は、スーパーマンにおけるレックス・ルーサー、バットマンにおけるジョーカーのようなものだ。私にとって、ファイレクシアとはマジックの象徴的敵役なのだ。
マジックで語られた大きな物語はほんのいくつかしかない。私の心に残っている最大の物2つを挙げるなら、歴史的な意味で言えば、まずは兄弟戦争(アンティキティのフレイバー・テキストで語られ、後に小説にまとめられた)、そしてウェザーライト・サーガ(ウェザーライトからアポカリプスまでのカードと、小説で語られた)となる。そして、それら両方の物語の敵役こそが、ファイレクシア軍なのだ。
ファイレクシア軍は、私を熱狂させるような類型に属する。類型について増殖特集の間に私が語ったのはこんな内容だった。
ストーリー上、ファイレクシア軍は私が「疫病」と呼ぶ種類の恐怖である。つまり、外部の生命体の種族であり、訪れて、諸君をゆっくりと同化していくものだ。この種の例としては、ドーン・オブ・ザ・デッドのゾンビや、ボディ・スナッチャーのポッド、スター・トレックのボーグなどがある。この種の存在のやっかいなところは、奴らを止めてもただ時間を稼いでいるだけにすぎないという絶望を感じさせるところである。加えて、自分自身が敵と同種の化け物にされてしまうと思うとゾッとせずにはいられないものだ。
ストーリーの話をするなら、マジックは「環境物語」とでも言うべき物語を語るのがもっとも良い。つまり、クリエイティブ的な意味でマジックが提示できる最高の物は環境である。トレーディング・カード・ゲームというジャンルは、大量のクリーチャー、場所、物を出さなければ成立しない。そしてそれらは多種多様な環境を見事に示してくれるのだ。
ウェザーライト・サーガは、プロットの定まった物語をカードを通して見せるという試みだった。そして、そこから我々が得た知見は、プレイヤーがカードを見る順番を制御できない場合には、伝統的なプロットを伝達することは非常に難しいということだった。(これについてまだ知らない諸君は、順序通りに並べられたテンペストの物語(英語)を見てみてくれたまえ。通して見て貰えば、非常にイカしたものだとわかるはずだ)。マジックが得意とするのは、環境レベルでの変化を通して物語を伝えることだ。この場合、カード1枚ではなく、カードの一群を通して変化を見て取ることになる。他のメディアで物語を伝える時は、そのメディアの得意とする方法で物語を伝えることだろう。カード・セットは、カード・セットを通じて伝えることのできる形で物語を伝えなければならない。
ファイレクシア軍を完璧な敵役にしている理由として、私は、彼らが環境レベルで攻撃してくるということがあると考えている。ミラディンの傷跡を例に取ろう。ファイレクシア軍の攻撃は、単一のカードでだけ見られるようなものではなく、多くの色、多くのカード・タイプに渡って、本当に多くのカードにおいて見られるようなものだ。マジックの最高の敵役は、マジック(カード・セット)が語れる物語で有効なものであるべき、というのが私の論点である。
もう一つ、ファイレクシア軍について重要なポイントは、独特の外見を有するということである。アートはマジックにおいて欠くことの出来ない部分であり、マジックのキャラクターにおいて重要なのは強烈な外見を作ることが出来ることである。私は、ファイレクシア軍はマジックに独特で、かつ説得力のある方法でこれを満たしていると感じている。マジックには様々なファンタジー世界の怪物が導入されているが、ファイレクシア軍はマジック独特の物の一つである点で他とは一線を画している。
ファイレクシア軍には歴史的由来も、類型的魅力も、外見的特徴も存在する。言い換えると、奴らはすげえ。私はミラディン軍を否定するわけではない。ミラディン軍にもまた多くの利点があるが、私が今挙げた3つの点においては太刀打ちできないのだ。私の中では、ミラディン軍はとてもイカしている、が、ファイレクシア軍はそれよりさらにイカしているのだ。
善と悪の知識
あとファイレクシア軍を選ぶことに関して心掛かりなのは、私は正義の側を応援するほうが好きだということだ。私はコミックをよく読むが、敵役を打ち倒すヒーローが好きだ。勧善懲悪が好きなのだ。この戦争においてだけ、悪の側を応援しているのには抵抗を感じる。
その理由を考えてみると、私はマジックにおいては純粋な観客ではないから、だろう。私が観客なら、私は引き寄せられるままに善の側を応援するだろう。しかし、舞台裏の人間として、両陣営ともに代弁者が存在するようにする義務があると感じるのだ。プレインズウォーカーを物語の前面に出して中心に据えるという方針から、善の側の主役は何人もいる。
しかし、物語を語るためには、英雄たちには敵役が必要なのだ。もちろん、プレインズウォーカーの中にも敵役はいる。しかし、コミックを見れば判るとおり、英雄よりもはるかに多くの敵役が必要だ。英雄はずっと残るが、敵役は次から次へと出てこなければならない。場合によっては英雄に倒されることもあろうし、物語の展開上交代することもあるだろう。
この数年は、マジック世界のならず者を再構築し始めていた。そして、私にとっては、ファイレクシア軍が重要な役割を果たしたのだ。強調しておくが、ファイレクシア軍がこの戦争に勝たなかったとしても、それでファイレクシア軍が消滅するわけではない。ファイレクシア軍の侵略を始めるために必要なのは、ただ一滴の油なのである。
もし私が逆側に座っていたら、私は正義の側を応援していただろう。だが、英雄と敵役の両方を立ち上げるのは私の仕事なのだ。だからこそ私は、この闘争でファイレクシア軍が勝ってもいいと感じているのだ。
そして、それが、私がファイレクシア軍を選んだ理由である。
ダークサイドを散歩して
今日のコラムはこれで終わりだ。私の理由付けを楽しんでもらえたろうか。私の選択について意見のある向きは、メールやツイッターで(英語で)伝えて欲しい。私が今回のコラムで提起した問題への対立論もあるだろう。
それではまた来週、ちょっとした要点について私が語る日に。
その日まで、あなたが選んだ陣営を選べますように。
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