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包囲戦の中で その2
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包囲戦の中で その2
Mark Rosewater
2011年1月24日
ミラディン包囲戦プレビューの第2週へようこそ。先週、デザイン・チームと2つの新メカニズムについて紹介させてもらった。今週はより大きな視点からの絵と、ミラディン包囲戦のデザインに投入された部品について語ることにしよう。プレビュー・カードのないプレビュー・コラムではあまりに味気ないので、タイミングを見計らって未公開の情報をお見せすることにする。ジョニー向けの魅力的で、このセットで随一のリミテッド用だと信じているカードだ。
包囲戦の危険
マーク・ゴットリーブと彼のミラディン包囲戦・デザイン・チーム(グレゴリー・マルクス、ケン・ネーグル、マイク・チュリアン、私)の考え方を理解するために、彼らが解決しなければならなかった問題を検証していこう。大型セットは白紙から始まるが(確かに、たまにはそうじゃないこともある。ブロックの前後のことが部分的に定義することがあるからね)、小型の第2セットはそんなことはない。ミラディン包囲戦では、ミラディンの傷跡によって作られた道の先にあるゴールが先にあった。秋の大型セットの役割は、ブロックの構造と基調を定めることである。ミラディンの傷跡は2つの非常に明確に分かれた陣営、ミラディン軍とファイレクシア軍を示してくれた。ミラディン包囲戦はその構造や基調を元に、さらに先に進むことになる。
さらに、第2セットには、第3セットへの橋渡しとなるという役目もある。ここについては、少し語りにくいものがある。ミラディン包囲戦の重要な部分として、「Action」(2011年春発売のセットの開発名である。この戦争にミラディン陣営が勝てば「清純なるミラディン」に、ファイレクシア陣営が勝てば「新たなるファイレクシア」になる)に話を繋ぐということがある。驚くべきことに、私はそれについては話せない。まだ(時が来たらたっぷり話させて貰う)。
物語の基礎は「3章構造」と言われるものだ。全ての物語は3つの部分に区分できる。都合の良いことに、マジックのブロックのほとんどは3つのセットからなる。つまり、第2セットは物語の第2章を語ればいいということになる。第2章とは何か? ミラディンの傷跡・ブロックにおいては、それは戦争である。第1章で、舞台と登場人物について示した。対立については見て取れたが、清算はまだだった。始まろうとしているのは判っても、まだ始まってはいなかったのだ。
ミラディンの傷跡は、ホラー映画のオープニングに例えることができる。舞台になる場所を訪れ、一見すると普通に暮らしているように見える一見すると普通に見える人たちに出会う。画面のこちら側にいる我々は、何かがおかしいということに気づく。実際、何か恐ろしいことが起ころうとしていて、その存在に気づかずに歩いている人々を見ることになる。もちろん、誰かが何かがおかしいことに気づくが、周りにいる人々はその気づいた人を間違いだとして無視するのだ。しかし、やがて、人々は恐怖の存在に直面し――ストーリーが大きく動き出す。この動き出すことが、第1章と第2章の境なのだ。
それでは、ミラディン包囲戦のデザイン・チームが意識しなければならなかったことを確認し、第2章の火蓋を切って落とす出来事を検証していこう。
8:2から5:5へ
ミラディンの傷跡でファイレクシア陣営の割合を20%に抑えるためにどうしたかということについては、既に充分に語った。何をファイレクシアのカードとするかメカニズム的にも厳格な規定を定めたということも既に語った。なぜこれほど厳格な規定が必要だったのかというと、セットの進化を明確にするためである。ファイレクシアの割合が50%あれば、ミラディンの傷跡が戦争のセットだと感じられてしまい、第2章の趣を持つようになる。第1章では、恐怖は少しだけでなければならない。来るべきことへのヒントは得られても、物語の後半ほどの量があってはならないのだ。その理由は、片方の陣営が進撃してくると言うことを示す手段の一つに、数を増やすということがあるからである。
再びホラー映画で例えさせてもらおう。ホラー映画の第1章では、化け物(など、映画の後半で襲いかかってくる何か)はわずかにしか見られない。ホラー映画なのだから恐怖の対象は出てくるだろうが、最初はかすかにほの見えるだけである。それによって、後の方で本当の恐怖が出てくるまでの緊迫感を高めるのだ。
そういうわけで、第1章にはファイレクシア側の存在はそれほど必要ない。他方、ミラディン包囲戦では、実際の脅威だと捉えられるだけのファイレクシア人が必要となった。さらに、第3セットを戦争の結果によって決めるために、2つの陣営が拮抗している場所が必要であった。拮抗、すなわち5:5である。真ん中のセットが5:5であるべきと判ってから、逆算して8:2に決まったのだ。
ファイレクシア陣営の比率が5割に引き上がると、いくつかの変化が必要になる。まず、厳格な規定に拡大解釈が必要になる。ファイレクシアの透かしを、今までの規定によるファイレクシア陣営にだけ与えていたのでは充分な数が確保できないのだ。例えば、バニラ、あるいはフレンチバニラ・クリーチャーについて考えてみよう。ミラディンの傷跡では、それらは全てミラディン陣営のものだった。セットの80%がミラディン陣営なので、セットを機能させるために必要なカードはすべてミラディン側が用意する必要があったのだ。ミラディン包囲戦に至って比率が変化したので、ファイレクシア側でもそういった必要なカードを用意する責任が生じた。それらのカードはメカニズム側からだけでなく、むしろクリエイティブ側から配分されることになる。バニラの8/8クリーチャーでも、クリエイティブがファイレクシア陣営だと定めたらファイレクシア陣営になりうるのだ。
この変更の残りの半分は、ミラディン陣営の縮小である。ミラディンの傷跡からのミラディンのテーマ(金属術、刻印、蓄積カウンター、ダークスティール、装備など)を継続するとともに、新しく戦争要素(喊声など)を導入しなければならない。つまり、ミラディン陣営は非常に詰め込まれた状態になるということである。カードの割り当てが三分の一以上も減らされる中で、良い状態を保ったままで新しい要素を加えるのは簡単なことではない。
ファイレクシア軍の進化
話を続ける中で起こってくることの中にもう一つ、ファイレクシア軍がファイレクシア軍のやることをできるようにするということがある。ファイレクシア軍のデザインについてミラディンの傷跡のプレビュー中に語った通り、私は、ファイレクシアのメカニズムをデザインするデザイン・チームにファイレクシアを表す4つの言葉を提示した。「変化する」「毒的な」「容赦のない」「ウィルス的な」。1つめの単語「変化する」は、ファイレクシア人が、常に変化し続け、成功するために必要なモノに変わっていく能力を持つということを意味している。
ファイレクシア人が変化するのなら、それをメカニズムでも再現する必要がある。前回我々が見たもの以上の何かができるようになっていなければならない。その一部が先週のコラムで示した新メカニズムの生体兵器であるが、より大きくは既にファイレクシア陣営にあるメカニズムの拡張である。
まず、私のお気に入りのファイレクシアのメカニズム、感染から始めよう。ミラディンの傷跡では、感染は黒と緑とアーティファクトにしか存在しなかった。ミラディン包囲戦では、これを第3の色――白にも拡張した。
選択肢は三色しかなかった。赤、白、青だ。青にはファイレクシアの要素である増殖が既に存在していたので除いて、赤か白から選ぶことになる。白を選んだのには、2つ理由がある。1つめに、クリエイティブは赤をファイレクシアに抵抗する色の筆頭にしたかった。赤は自由と独立の色だからである。2つめに、白に感染を動かした場合、デザインに面白い余地があることに気がついた。赤の感染クリーチャーは、黒や緑にあるものとそう変わりないものになることが予想できたのだ。
この変化のもう一つの利点は、新ドラフト順で巧く行くということだ。ミラディン包囲戦から、ドラフト順はA-A-B(Aが第1セット、Bが第2セット)からB-A-Aに変わる。白の感染は第1パックでしか出ないので、感染デッキを白にするかどうかを決める判断が楽になる。ミラディン包囲戦には白の感染など、新ドラフト順で巧く行くような選択肢が多く準備されている。
もう一つのファイレクシアのメカニズムは、増殖である。ミラディンの傷跡では、増殖は青とアーティファクトにしか存在しなかった。ミラディン包囲戦では、他の2色にも存在するようになった(1枚ずつ。枚数が減ったのは、デベロップが枚数を少なく抑える必要があると判断したからである)。最初に追加された色は黒で、そのカードは既にプレビューされている《病気の拡散》である。
もう一つ追加された色は、今日の私のプレビュー・カードになっている。興味のある向きは、クリックしてくれたまえ。
そう、増殖は緑に広がったのだ、しかも再利用可能な形で。ミラディンの傷跡のデザイン中に増殖を作ったとき、2色に入れるということも試してみた。カラー・パイの定義から、緑が一番良いと判断された。緑はカウンターを操作する能力を持ち、成長をテーマとしている。実際、《疫病口獣》の最初の版はミラディンの傷跡のデザイン中に生まれたのだ。最終的に、増殖は青だけのモノにして、緑の増殖カードは排除した。マーク・ゴットリーブは《疫病口獣》を気に入り、ミラディン包囲戦に持って行ったのだ。
このカードは、増殖カードの枚数を減らすためデベロップの間に取り除かれた。私はミラディン包囲戦のデベロップ・リーダーのエリック・ラウアーの元を訪れ、このカードを戻してくれと頭を下げて頼んだのだ。私のお気に入りの増殖カードでもあったし、ファイレクシア軍の広がりを強調するために増殖を2色目に入れることが本当に必要だと考えていたのだ。エリックは同意してくれて、《疫病口獣》は再びセットに戻ることになった。
ミラディン人がファイレクシア人に
ファイレクシア軍のもっとも恐ろしいことの一つに、相手を取り込んでしまうということがある。ファイレクシア人は犠牲者を支配し、ファイレクシア人にしてしまうのだ。ファイレクシア陣営が30%増えてミラディン陣営が30%減った理由は、ファイレクシア人がミラディンの住人のうち三分の一をファイレクシア人にしてしまったからである。ミラディン包囲戦では、この性質から来ているファイレクシア人の恐ろしさを表現することが重要だった。
これを表すためには2つの方法があった。1つめはメカニズム、2つめはフレイバーだる。まず、メカニズムの方から始めよう。先週、ツイッターの@dailymtgで、モンティ・アシュリーはこのカードを公開した。
このカードを作った理由は1つだ(ああ、まあ、2つかな。とてもクールだと考えているからというのはある)。私は、ファイレクシアがミラディンとその住人を変化させることで前進してきているということを示したかったのだ。メカニズム的にそれを表すには? いかにもミラディンといったカードを選び、それをファイレクシア人にすればいい。
私はGathererと延々にらめっこを続けた。ミラディン、ダークスティール、フィフス・ドーン。ただ象徴的なだけでなく強力なカードのリストを作った。ファイレクシア人は小さなマナ・マイアを変化させていたが、プレイヤーにとって恐怖を生じさせるものではなかった。なにか、ミラディンの力を示すものを探し、腐敗させる必要があったのだ。
やがて、私はもう一つの全く違うゴールを見つけた。パワーが10以上の感染クリーチャーを作る必要が出てきたのだ。何年も前(レギオンのころ)私は《触れられざる者フェイジ》というカードをデザインし、それ以来そういうカードは出てきていない。マジックには「殴られたら死亡」というクリーチャーはほとんど必要ないが、《触れられざる者フェイジ》以来充分な時が経った。そろそろ出しても問題ないころだ。リストには《ダークスティールの巨像》の名前があって、これに感染をつければ両方のゴールを達成できることに気がついたのだ。
《荒廃鋼の巨像》は、ファイレクシアによるミラディンへの腐敗を示す、メカニズム的な意味での広告塔となった。ミラディンの象徴と言えるカードに、いかにも「ファイレクシア陣営入り」を意味するメカニズム的要素を加えたのだ。
フレイバー側はルール・テキストではなく、カード名やイラスト、フレイバー・テキストで語る。ミラディン包囲戦のカードを見ていくと、ファイレクシア陣営のカードの中に見慣れたものがあるのに気づくだろう。ただし、前回見た時はミラディン陣営だったはずだ。ミラディン包囲戦のカードのテーマを決めるにあたって、クリエイティブは新しいファイレクシア側のカードがどこから来たのかを表現する機会を得たのだ。
この、メカニズム的方法とフレイバー的方法の組み合わせは、ファイレクシアの真の恐怖と、ファイレクシアの進軍がミラディン側にとって何なのかを表すために素晴らしい働きを果たした。
指揮すること 其の弐
ストーリーを発展させるだけでなく、ミラディン包囲戦にはもう一つ重要な役割がある。ミラディンの傷跡の第2セットであるということだ。第2セットには、第1セットの後を継ぐとともに、自身の道を示す必要があるということは今までにも何度も語ってきたとおりである。デザイン・チームがその目的のために考えなければならないことには、以下のようなものがある。
デッキ・テーマの発展
第2セットの目的の一つに、物事をかき混ぜることがある。第1セットで作り上げたものに、環境を新しくするためにいくつか手を加えるのだ。そのための方法はいくつかある。一つは新しいメカニズムを導入することであり、また一つは既存のテーマを調整することである。
ファイレクシアの「変化する」性質から、ミラディンの傷跡の時と違うことをすることが求められるのだから、この目的を果たすのは簡単だった。例えば、感染を白に入れ、増殖を黒や緑に入れたことによってそれまで存在しなかったデッキ構築の選択肢が与えられた。ミラディンの傷跡のドラフトでは、例えば感染デッキは黒緑か黒単か緑単になりがちだった(あるいは青と増殖を入れるという選択肢もあった)。ミラディン包囲戦では、白を入れた感染デッキの選択肢ができた。緑白、白黒も可能になったわけだ。
ミラディン側の変化は、戦争というテーマによることになった。ミラディン陣営が戦争を始めたので、デザイン・チームはより攻撃的なメカニズムを入れることができるようになった。ミラディン包囲戦のドラフトをすれば、ミラディン陣営のデッキがミラディンの傷跡だけのときよりも刺激的になっていることに気づくだろう。
メカニズムの発展
もちろん新しいメカニズムも存在するが、第2セットには第1セットのメカニズムを前進させる責任もある。ミラディンの傷跡から受け継がれたものについて、ミラディン包囲戦でどうなったかをざっと見ていこう。
感染/毒
メカニズムが白にも入ったことは言ったとおりだが、それだけではない。まずこのカードを見ていただこう。
ミラディン包囲戦では、「毒を受けている」という考え方が導入された。この考え方の背後にあるのは、「10個で死ぬ」以外の毒カウンターの価値を付けるということだ。プレイヤーは1点目の毒を受けるかどうかについて考える必要が出てきたわけである。これによって、毒デッキが0か10かという考えに疑義を呈するカードを作ることができるようになった。
次に、このカードを見ていただこう。
《ファイレクシアの槽母》は毒をコストとして用いる。ミラディンの傷跡では、毒は相手にだけ与えるものだった。ミラディン包囲戦では、自分自身に毒を与えるという選択肢も出てきたのだ。
増殖
新しい増殖カードはそれほど多くないが、いくつか進歩した点がある。まず、色が広がった(上のプレビュー・カードを見ての通りだ)。もう一つ新しい増殖の使い方はささいなことだ。カードのメカニズムの中心にあるのではなく、ミラディン包囲戦ではおまけとして増殖を持つカードが存在するようになった。
この変更は、増殖カードをデッキに入れやすくなったという意味で重要である。《病気の拡散》はクリーチャー除去としてデッキに入れることができるが、増殖の相互作用によってより有利を得ることが出来る。カードの第一の効果よりもオマケが優先されることがしばしばあることは、嬉しい驚きだった。
金属術
上で言ったとおり、新しいメカニズムが導入され、カードが8割から5割に減ったのだから、何かが割を食うことになる。金属術の進化はまさにそれである。金属術カードが追加されてはいるが、新しいことは何もない。
刻印
新しい刻印カードが追加されるたびに進化し、同じように働くカードはそもそも存在しないように思える。新しい刻印カードの中のお気に入りは、私が先週ツイッターでプレビューしたものだ。
《マイアの溶接工》は私の中のジョニー心を打ち振るわせてくれた。
ミラディン包囲攻撃の司令官
基本的に、今日語ったことはミラディン包囲戦のデザインにおいて動いた部品が大量にあるということだった。戦争なのだ。ファイレクシア陣営はミラディン人をさらに腐敗させていく。大量のメカニズムが絡み合っていく。その結果はイカしたものになる。
まだ気づいていない諸君のために、プレリリースに行くといつもと違う経験が出来るということを伝えておこう。席に着くと、ミラディンの傷跡のブースター3つと、ミラディン包囲戦についてはミラディン陣営ブースター3つかファイレクシア陣営ブースター3つを選んで受け取ることになる。
それぞれのブースターには、それぞれの陣営の透かしの入ったカード(と、どちらの透かしも入っていないテゼレット)だけが入っている。このような企画は初めてであり、歴史の証人になりたい諸君にとって今週末のプレリリースは見逃せないものだ。また、プレリリースに行く諸君は今日のもう一つの記事も読んでおいたほうがいいだろう。
今日はここまで。それではまた次回、カードごとのちょっとしたデザインの話をしよう。(え、してなかった?)
その日まで、あなたがファイレクシアの冷たい手に触れませんように。
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