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企画記事
マジック・プロツアー殿堂 八十岡翔太インタビュー ~その根源を探る~ 後編
マジック・プロツアー殿堂 八十岡翔太インタビュー ~その根源を探る~ 後編
by 金子 真実(WotC 日本コミュニティ担当)
こちらの記事は後編となります。前編はこちら!
八十岡翔太 その強さの秘密~直前のデッキ構築
――さて、前編では八十岡さんがマジックを初めてからの経歴をお話して頂きましたが、その中で出てきた「直前にデッキを組んだ」「練習してない」について少しお話を伺いたいのですが。
八十岡「ん? その言葉の通りだけど......。」
――そこを掘り下げていきたいんです。まずは「直前にデッキを組んだ」から。本当に前日や当日朝など直前にデッキを組んでいるんですか?
八十岡「それは本当。実際にそのタイミングで組んでることは多いよ。」
――どうやってそんなに短時間でデッキを組めるんですか?
八十岡「脳内のデッキテンプレートから作る。」
――......脳内? デッキテンプレート?
八十岡「うーん。例えば、今年のスタンダードでの『青赤《アーティファクトの魂込め》デッキ』だったら、28枚くらい固定パーツが頭の中に浮かぶよね? これはけっこうみんな出てくるんじゃないかな。」
――それは確かにそうですね。でも、それって特定の時代の固定のアーキタイプの話ですよね?
八十岡「それは違うね。例えばビートダウンデッキは、時代は違ってもマナ域や除去の枚数に共通点があるし、それは青黒コントロールも同じ。固定のカードじゃなくて、カードの種類でテンプレートを作るんだよ。」
――カードの種類でテンプレートを?
八十岡「例えば、青黒なら打ち消し呪文は何枚で、除去呪文は何枚。マナ域はこのくらいで振り分けて、ゲームを決めるカードはこのくらい、みたいな形。もちろんもっと精巧だけど、さっき言った『青赤《アーティファクトの魂込め》デッキ』と同じような感じで、『青黒コントロール』ってボタンを押すと、その時代のカードに合わせて『ガチャン』ってデッキができあがってるイメージだね。その後、細かいところを検討していく。」
――なるほど。準優勝されたプロツアー『タルキール龍紀伝』のレポートで「困った時の青黒」というフレーズが出てきていましたが......。
八十岡「そうだね、デッキテンプレートとしては青黒が一番脳内で強いと思う。」
――どうして青黒なんですか?
八十岡「青黒っていうデッキの基本的な構造はずっと変わってないんだ。打ち消し呪文と除去呪文、アドバンテージを取るカードとフィニッシャー、みたいな。それに、デッキ構造上必ず相性の良いデッキが存在するからかな。ミッドレンジ系には概ね相性の良いデッキになるんだよね。あとは単純に青黒って色が好きで、ずっと使ってたからじゃないかな。長年使い続けてるから、テンプレートの精度も高いよ。」
――ということは、前日デッキを組むというパターンは大抵この形?
八十岡「そうだね。だから、実際にテンプレートのないデッキを直前に組んだりすると、失敗デッキを作っちゃたりもするよ(笑)。グランプリ・神戸2008の『《川のケルピー》デッキ』とかね(笑)。」
――やっぱり失敗もあるんですね。
八十岡「まあ、それはしょうがないよね。ずっと同じことしててもうまくならないしね。」
練習してない?
――では、「練習してない」についてはどうですか?
八十岡「うーん、練習してないっていうと語弊があるのかな。マジックに関しても基本的には楽しいからやってるわけだし、『練習する』みたいな意識があんまりないよね。でも、一般的にいう『自分のデッキを回して調整して、また回して』みたいな練習はほとんどしないね。一番の練習は、グランプリに出ることだね。」
――どうしてですか?
八十岡「当たる相手は時によって違うし、グランプリかプロツアーかでも違うし、一定の相手とずっとやるようなこともないし。事前に決めた通りにゲームが進められるわけでもないし、相手のサイドボードから入ってくるカードも違ったりするし。特定の相手と対戦して、事前にいろいろ決めて、みたいな練習だと、応用が効かないんだよね。」
――確かに八十岡さんは、サイドボードの入れ替えを事前には決めていないイメージがありますね。多くの人が「◯◯相手ならこう入れ替える」と決めてたりしますが。
八十岡「だって、相手のデッキが全部同じ構成なわけじゃないからね。サイドボードも全然違うし。相手のプレイスタイルや、相手のサイドボーディングを読んでこっちも変えたりするから、グランプリやプロツアーでも一定ではないよ。」
――なるほど、事前には決めないんですね。準備自体はしているんですか?
八十岡「大会の結果を見てどんなデッキがあるか調べたり、他の人が使うであろうデッキを回したりはしてるよ。」
――メタゲーム読みとかはするんですか?
八十岡「メタゲーム読みみたいなことは基本的にしないね。どんな時でも『環境最強のデッキ』を目指してるから。それに、例えばマジックが100回戦をやるゲームなら別だけど、現実はグランプリでも2日でたったの15+3回戦。どんなデッキが何%、みたいな詳細を読むことよりは、環境最強のデッキを目指したほうが良いと思ってるよ。」
――なるほど。ということは、普段のマジックでは構築戦自体もそもそもあんまりやらない?
八十岡「そうだね。基本的にはグランプリとか、そういう明確なターゲットがあるときにやるのであって、あとは基本的にリミテッドだね。」
――それはどうしてですか?
八十岡「短期的に勝ちたいなら構築の練習で良いけど、本当にマジックが上手くなりたいなら、リミテッドをするしかないからね。」
「上手く」なるために
――上手くなるならリミテッド、とのことですが?
八十岡「やっぱり、マジック上手くなるためにはリミテッドをやるしかないんだよね。これはHareruya Prosに入る時にもインタビューで簡単に話してるんだけど、リミテッドにはマジックの基礎が詰まってる。盤面に対する判断、マリガンの判断、戦闘。」
※写真は記事「速報!八十岡 翔太、Hareruya Prosに加入!!」より引用しました |
――なるほど、マジックの基礎ですか。
八十岡「特にシールド戦なんかは盤面やマリガンの判断だけでなく、デッキ構築の基礎力もつくからね。一番基礎力の差が出る環境だと思うよ、シールド戦は。構築戦だと、例えばコンボデッキをいくら回しても、『コンボデッキが上手く回せる人』にしかなれないからね。とりあえずその時勝ちたいだけならそれでも良いけど、基礎力をつけたいならリミテッドだね。」
――基礎力がつけば、マジックが上手くなると。
八十岡「マジックの基礎を覚えておけば、環境が変わっても応用が効くからね。環境特有の情報を覚えたとしても、環境が変わったら強さがリセットされちゃう。長い目で見たら、基礎力をつけていくのが一番じゃないかな。」
――ということは八十岡さんの今を支えているのも、基礎力ですか?
八十岡「そうだね。『遊び』の時代にドラフトをはじめとしたリミテッドを死ぬほどやってたから、その蓄積じゃないかな。その時につけた基礎力が、今も活きているのは間違いないね。」
――だからこそ、それを多くの人に広めたいというのが、今の八十岡さんの意思ですか?
八十岡「自分の経験から考えた、理想の環境を作ってマジックがしたいよね。みんなが基礎力をしっかりつけてどんどん勝てるようになったら、マジックが盛り上がるし。」
――日本のマジックを盛り上げていきたいと?
八十岡「まあ、日本が、ってこだわるつもりはないけど、自分がこれから一生やっていくゲームだから、盛り上がってほしいよね。10年後に賞金が2倍、3倍になってほしいし。もちろん一番の目標は自分のプロツアー優勝だけど、でもそういったことにも力を入れていくよ。」
――ありがとうございました! 今後のご活躍も楽しみにしています!
八十岡翔太 戦績
プロツアー
- プロツアー「タルキール龍紀伝」 準優勝
- プロツアーチャールストン2006 チーム戦優勝(with 齋藤友晴・鍛冶友浩)
グランプリ
- グランプリ・京都2015 ベスト8
- グランプリ・クアラルンプール2014 ベスト8
- グランプリ・静岡2013 ベスト4
- グランプリ・京都2013 チーム戦ベスト4
- グランプリ・ボストンウスター2012 ベスト8
- グランプリ・ブリスベン2011 ベスト8
- グランプリ・シンガポール2011 ベスト8
- グランプリ・神戸2011 優勝
- グランプリ・仙台2010 ベスト4
- グランプリ・クアラルンプール2010 ベスト8
- グランプリ・マニラ2008 準優勝
- グランプリ・北九州2007 準優勝
- グランプリ・モントリオール2007 ベスト4
- グランプリ・ストラスブール2007 ベスト4
- グランプリ・ニュージャージー2006 ベスト8
- グランプリ・シドニー2006 ベスト8
- グランプリ・トゥールーズ2006 ベスト8
- グランプリ・クアラルンプール2006 ベスト8
- グランプリ・浜松2006 チーム戦準優勝(with 浅原晃・北山雅也)
その他
- マジック・プレイヤー選手権2012 準優勝
- 日本選手権2011 ベスト8
- 日本選手権2010 ベスト8
- 2009年 マジック・オンライン プレイヤー・オブ・ザ・イヤー
- インビテーショナル2007 出場(プレイヤー・オブ・ザ・イヤー)
- 2005-2006年 プレイヤー・オブ・ザ・イヤー
- The Finals2001 ベスト4
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