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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

人間の歴史

Mark Rosewater
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2020年3月30日

 

 3か月ほど前、私は、ポッドキャストでマジックで(オラクルにおける個別カード数で)多いクリーチャー・タイプ50個について検証した。2位に3倍以上の差をつけて1位だったのが、人間であった。何年もに渡って大量の人間を作ってきたが、興味深いことに、このクリーチャー・タイプはマジックの最初からあったわけではなく、人間というクリーチャー・タイプができたのはほんの最近、初代『イニストラード』のときのことなのだ。人間は『イコリア:巨獣の棲処』で役割を果たしているので、プレビューが始まる前に、マジックにおける人間の歴史について語る記事を書くべきだろう。腰を落ち着けて、1993年の話を聞いてもらいたい。

 最初に1つ、質問をしよう。『アルファ版』のクリーチャー・カードのうち、(この記事を書いている時点でのオラクルによると)人間は何枚だったか。

 予想してから、クリックしてくれたまえ。

 1つ目のエキスパンション『アラビアン・ナイト』は、『アルファ版』のおよそ4分の1のサイズだったが、カードで描写された人間は多く(16枚に)なっていた。これは、人間にかなり焦点を当てた元ネタによる部分が大きい。それと対照的に、『アンティキティー』はアーティファクト・テーマに焦点が当てられており、人間を表すカードは6枚しかなかった。一方、『レジェンド』は、それらを蹴散らすほどだった。デザイナーたちのロールプレイングゲームでのキャラクターを元にした伝説のクリーチャーに焦点を当てていたため、『レジェンド』には人間を表すカードが46枚あったのだ。興味深いことに、人間のうち35枚は伝説のクリーチャーで、当時クリーチャーが伝説のクリーチャーであることを示すのはクリーチャー・タイプがレジェンドであることだった。つまり、『レジェンド』の人間のほとんどには、職業を示すクリーチャー・タイプすら存在しなかったのだ。つまり、最初の1年目でさえ、フレイバー的には人間はマジックの重要な部分だった。しかし、ゲームがメカニズム的に言及する方法はなく、参照されていなかったのだ。

 次に起こることは、人間がクリーチャー・タイプで表現されるようになり、そしてついにはカードでメカニズム的に言及されるようになることである。ここからもう少し回り道が必要になるが、これからの話も人間につながることだと約束しよう。マジックの歴史をひもとくなら、そのために何年もかかっていたとしても、マジックが特定の方向に動いた舞台裏の瞬間を語らなければならない。

私、入りたまえ

 1994年、私はウィザーズ・オブ・ザ・コーストでフリーランスとして働き始め、そして1995年秋には開発部でフルタイムで雇われることになった。今回の話に関して必要なのはたった1つである。私はクリーチャー・タイプが大好きで、マジックはあまりにもクリーチャー・タイプを無視していると感じていたということだ。私は『レジェンド』がクリーチャー・タイプとしてのレジェンドを伝説のクリーチャーだけで使っていると主張したが、それは正確ではなかった。例外が1つあった。クリーチャー・タイプ「エルダー・ドラゴン・レジェンド」を持つ、3色のドラゴンのサイクルがあったのだ。クリーチャー・タイプ3つ? すごい。私はすごいと知っていた。(私がウィザーズに引っ越す前に住んでいた)ロサンゼルスのマジックプレイヤー仲間はみんな、すごいと知っていた。しかし、なぜか、当時の開発部はそれほど気にしなかったのだ。もちろん、このカードのサイクルは後に史上もっとも人気のあるフォーマット(この5種類のドラゴンのうち1枚を「ジェネラル」として選ぶというルールから、統率者戦は最初「エルダー・ドラゴン・ハイランダー」と呼ばれていた)を生み出すことになるし、マジック最高の悪役であるニコル・ボーラスを生み出している。

 ジョニーのデッキビルダーとして、私は部族デッキを作るのが大好きだった。当時の大問題の1つ(この時点でマジックはまだ2年しか経っていないことを思い出してくれたまえ)が、部族のほとんどには充分な数がなかったことであった。この中には、物事をどう分類するかという問題がある。例えば、《ゴブリン岩ぞり隊》は、ゴブリンではなく岩ぞり隊だったのだが、私はクリーチャー・タイプがクリーチャーごとに1つに絞られていることのほうが大問題だと感じていたのだ。私は入社してすぐ、クリーチャー・タイプをけちりすぎているという問題を提起したが、(犬と猟犬に関する議論と同じように)何の反響も得られなかった。私を知っている諸君には、これが長い勝負の始まりだということがわかるだろう。(そう、私の成功の秘密の中には、永遠にこだわり続けて少しずつ状況を進めていくという手法が含まれているのだ。)

 私の目標が最初に進んだのは数年後、(私がデザイン・チームに所属していたセットである)『ウルザズ・デスティニー』のときだった。

 《アカデミーの事務局長レイン》は、先述の例外以外で複数のクリーチャー・タイプを持つ初めてのカードである。私は、伝説のクリーチャーに2つ目のクリーチャー・タイプを持たせないことで、さらなるフレイバーもメカニズム的に意味をもたせる可能性も失わせていると主張したのだ。《アカデミーの事務局長レイン》は確かにレジェンドだったが、同時にウィザードでもあったのだ。(レインはバリンの妻でハナの母である。)当時ウィザード関連のカードは存在しなかったが、私は将来を考えていた。

 そして、1年後の『メルカディアン・マスクス』で、私はついにアーティファクト・クリーチャーもクリーチャー・タイプを持っているのが明らかなら意味のあるクリーチャー・タイプを持つべきだ、という主張を通した。例えば、《銃眼付きの壁》はどう見ても壁であり、《玩具職人》は明らかにスペルシェイパーであった。《環状列石の守護者》を守護者にする同意を取ることはできなかったが、前進はしたのだ。

 そして、『インベイジョン』で、私はこのサイクルをデザインした。

 これらは、色の異なる2種類のクリーチャー・タイプの交差というフレイバーを帯びていた。当然、両方のクリーチャー・タイプを持たなければならない。それこそがこのデザインの中心だったのだ。それらのフレイバーは最高のものではなかったかも知れないが、私には気高い目的があったのだ。

 1年後、ビル・ローズ/Bill Rose(この少し前ぐらいに副社長になったと記憶している)が私のところにやってきて、頼み事をしてきた。クリエイティブ・チームが解散になり、開発部が新メンバーを探している。『オデッセイ』のクリエイティブ面の監修をしてくれないか、と。(つまり、カード名とクリーチャー・タイプのことである。当時、クリエイティブ・チームとアート・チームはまだ統合されておらず、カードのコンセプト立ては含まれていなかったのだ。)私は『Unglued』でそれを手掛けており、開発部でその経験があったのは私だけだったので、喜んで引き受けたのだ。大チャンスだった。

 私は、複数のクリーチャー・タイプをクリーチャーに持たせられるあらゆる機会を探した。まず第一に、エイヴンとナントゥーコという2つの新種族があり、私はそれらに2語のクリーチャー・タイプを与えた。エイヴンは鳥・戦士、ナントゥーコは昆虫・ドルイド。緑のスレッショルド・メカニズムに獣化のフレイバーを与え、そしてそのカードに変身前後両方のクリーチャー・タイプを持たせた。白のスレッショルド・カードは神話的エネルギーに係る放浪者というフレイバーにし、それらをノーマッド・神秘家にした。巨人だったゾンビを作り、その両方のクリーチャー・タイプをカードに持たせた。ウィザードやミニオンといった職業をカードに増やす可能性を探した。ドラゴンであり吸血鬼であるクリーチャーまで作ったのだ。

 その次の年が、『オンスロート』である。開発部を説得して部族にオールインした、つまりそれまでない量でメカニズム的にクリーチャー・タイプに意味があるセットにしたのだ。意味のあるクリーチャー・タイプの相互交流であったり、クリーチャー・タイプによって特徴づけられるサイクルであったり、単にクールでフレイバーに満ちた相互作用だったりするが、『オンスロート』は『オデッセイ』で私が始めたことを採用し、それを推し進めたのだ。私は新しいクリエイティブ・チームと密に協働していたので、複数のクリーチャー・タイプを持つクリーチャーを大量に作るという目的を共有していた。彼らがそのアイデアを次のレベルに進めようとしていたことはほとんど知らなかった。

種族と職業の組み合わせ

 ブレイディ・ドマーモス/Brady Dommermuthは最初マジックのエディターだった。その後、テクニカルライターに転身した。やがて、最終的にはクリエイティブ・チームを監督することになった。ある日、ブレイディは私に会合を申し入れてきた。私がクリーチャー・タイプについてやってきたことを知り、彼が手掛けていることに興味があるかもしれないと思ったというのだ。クリーチャー・タイプに、種族職業モデルを導入することについてどう考えるか、と。種族と職業が最初に導入されたのは、多分、「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」だったはずだ。キャラクターごとに、(人間、エルフ、ドワーフなどの)種族を選び、(戦士、ウィザード、盗賊などの)職業を選ぶのだ。クリーチャーの種族や職業を再現するのに、クリーチャー・タイプを使うのはどうだろうか。全てのクリーチャー、少なくとも職業のある人間的なクリーチャーについて、種族であるクリーチャー・タイプ1つと職業であるクリーチャー・タイプ1つを持つというのはどうだろうか。クリーチャーの中には、職業を2つ、あるいは種族を2つ持つものさえありうる。対応するクリーチャー・タイプがあることをしていないクリーチャーなら、種族だけを持つようにもできる。ブレイディは、最も受容的なデザイナーだとわかっていた私にまず売り込んだのだと言った。開発部の残りのメンバーへの売り込みについて、協力できることはあるだろうか。

 計画に目を通した後、彼と私は、大きな障害になるのは「人間」だと同意した。種族職業モデルに移行してしまえば、人間を人間と呼ぶことを単純に回避することはできないのは周知の通り。明らかな種族があるクリーチャーはそれをクリーチャー・タイプに持たねばならず、人間は人間として区別しないには少しばかり区別できすぎたのだ。我々は人間以外の単語を探したが、ふさわしいものはなかった。これは提案に対する大きな変化で、我々はにこれが人々を心配させる大変化だとわかっていたのだ。私は開発部のメンバーと1対1の話し合いを重ね、ブレイディがまとめたプレゼンテーションの協力をした。最も重要なのは、種族と職業がファンタジーのゲームでどれほど重要なのかということと、我々もそれに乗り出すべきだということだった。

 プレゼンテーションはうまくいったが、予想通り、唯一の問題が人間というクリーチャー・タイプだった。私はマジックにはすでに人間が存在していると主張した。一番最初から、マジックには人間が存在していたのだ。今回人間を追加したわけではなく、単に分類しただけである。しかし、分類してしまえばメカニズム的に処理するようになるという反論があり、否定派は処理するようにしたくはなかったのだ。私は反論したが、その必要はなかった。メカニズム的に人間に言及するカードを作るかどうかは我々に任せられることになった。(そして、クリーチャー・タイプを選択するカードは何枚もあったが、当時あったカードはどれも強力ではなかった。)結論が出た。種族職業モデルのクリーチャー・タイプを(初代『ミラディン』で)始めたが、意図的に、人間というクリーチャー・タイプにメカニズム的な意味を持たせなかったのだ。

暗い嵐の夜

 そして8年が過ぎた。私は『イニストラード』のデザインを手掛けていた。トップダウンのゴシックホラーのセットを作っていて、そこで怪物の部族が必要だということはすぐに明らかになった。このセットには吸血鬼、狼男、ゾンビがすでにいたので、それは明らかな選択に思われた。幽霊もテーマにそぐうものだったので、スピリットも入れられるということに気がついた。私には、人間が必要だということは明らかだった。その次元に犠牲者がいなければ、怪物には何の意味もない。そこに気づいた時、そのセットが完全に形をなしたのだ。友好色の陣営5つ。怪物4つと人間だ。問題は、8年前の約束だけだった。人間を、メカニズム的に意味があるようにはしないはずだった。

 そこで、私はビル・ローズのオフィスに向かった。あの会議に参加していた中で開発部に残っているのは彼と私だけだったので、これについて我々が話し合うべきだと考えたのだ。私は彼に、この問題を説明した。「『イニストラード』の大きな構造があるが、そのためには人間という部族が必要だ。」彼も知っていた通り、我々はそれを作らないと約束していた。ビルは私に尋ねた。「人間という部族をしたいのか?」「私は8年前にしたかった。だが、種族職業モデルが必要だったので、譲歩することにしたのだ。」ビルは、人間という部族について何も問題はないと言った。彼は、種族と職業というアイデアはいいアイデアだと考えていたのだ。あの妥協は、彼が満足するためのものではなかった。私は言った。「はっきりさせておきたい。我々はこれをすることで同意していて、すべきではないという約束をした人は誰一人残っていないな?」「そうだ。だが、承認する前に1つ質問がある。それでこのセットは良くなるのか?」「間違いない。」「それなら、やろう。」

 『イニストラード』には何らかの形でメカニズム的に人間に言及したカードが16枚入ることになった。そのほとんどは人間側のもの(白・緑・アーティファクト)だったが、数枚だけ人間に敵対するもの(赤)と、1枚だけ両方の働きをするもの(黒)があった。開発部の誰も、人間にメカニズム的な意味を持たせることに反対しなかったし、最終的にそれをすることに興奮していると表明したものも何人もいたのだ。『闇の隆盛』と『アヴァシンの帰還』は人間という部族を続け、『闇の隆盛』では人間にとっての最悪の日を描いた物語で人間をさらに押さえつけ、『アヴァシンの帰還』で天使が獄庫から解放されて人間を救うという物語で人間を強化するのだ。

 それ以来、人間という部族はデザイナーがふさわしいと考えたときに使えるものとして卓上に置かれるようになったのだ。そこかしこに数枚のカードがあり、ほとんどでは人間という部族はフレイバーを加えるために使われていた。次に人間という部族が大きく進歩したのは、『イニストラードを覆う影』と『異界月』でこのゴシックホラー次元を再訪したときで、主な色は緑白だった。

 人間が次にメカニズム的に重要な出現は、『エルドレインの王権』だったが、そのほとんどの使い方は「人間でない」だった。いくらかのクリーチャー・タイプをその世界の妖精的な種族としてまとめようとしたが、それはほとんど人間でないものすべてを含むということに気がついた。そこで、史上初となる何かでないことで利益を得る、否定的部族テーマを試したのだ。人間は何年にも渡って多くのサポートを受けてきていた。(そして、広いフォーマットでは強力な部族デッキさえも存在していた。)そこで、1セットでは人間を痛めつけてもいいと判断したのだった。

 そして『イコリア:巨獣の棲処』に到る。まだ人間がこのセットでどのような役割を果たすのかについて詳細に触れることはできないが、『イニストラード』の各ブロック同様、元ネタには大量の人間が存在している。実際、諸君がこれまで見た怪獣映画のほとんどで、人間は大きな役割を果たしていた。『イコリア』もその例外ではない。

人間だけ

 今日の記事を楽しんでもらえたなら幸いである。マジックのクリエイティブ要素だったところからメカニズム的な存在になるまでには多くの紆余曲折があった。今日の記事について諸君がどう考えているかを教えて欲しい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、ついに始まる『イコリア:巨獣の棲処』のプレビューでお会いしよう。諸君のために、巨獣のようなデザインの物語を準備してある。

 その日まで、あなたが必要なときには長い勝負に挑めますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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