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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『イコリア』に出会う以上に

Mark Rosewater
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2020年4月6日

 

 やあ、諸君。私の『イコリア:巨獣の棲処』プレビュー第1週にようこそ。このセットには、私が語りたくてしょうがなかったクールなデザインの話が大量にあるので、今日語ることができて嬉しく思っている。『イコリア』展望デザイン・チームを紹介し、主要なメカニズム(変容)をどのように作ったかの話をし、そしてクールなプレビュー・カードをご紹介しよう。この説明で読み進めたいと思ってもらえれば幸いである。

怪物を作った人々(クリックで表示)

ただ強烈に

 最初に『Cricket』(『イコリア』のコードネーム)を基本計画(かつては「5か年計画」と呼ばれていたが、いつもその後に2~3個追加していたので私は「7か年計画」とネタにしていた)上で企画した時、テーロスへの再訪の予定だった。『Archery』と『Baseball』はどちらもエルドレインを舞台にする予定だった。最初のセットで世界を見て、その後第2セットで主役であるローアンとウィルが深く暗く恐ろしい森に踏み込んでいくというアイデアだったのだ。『Baseball』の展望デザインの初期に、エルドレインを舞台にするのは1セットだけにして、『Cricket』でなく『Baseball』の舞台をテーロスにするということが決まった。つまり、埋めなければならない穴ができたのだ。

 私の上司のアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheは、今後数年のために企画してきた多くの世界の中に、『Cricket』の枠を埋めるために前倒しで使えるものがあるかどうかを調べるように言った。満たさなければならない条件はいくつもあった。

  1. テーロスへの再訪とゼンディカーへの再訪の間なので、新しい世界であることは重要である。
  2. メカニズム的にその前後の期間の世界と噛み合う、つまりシナジーがありながらその領域に踏み込まないようなものでなければならない。
  3. 雰囲気が違うものでなければならない。プレイヤーがマジックに飽きない理由は、マジックが変化し続けているからである。世界がその前後のものとあまりにも似通っていると感じられないようにすることは重要である。
  4. メカニズム的に実装できると確信できるものでなければならない。
 

 興味深い世界のアイデア(そのほとんどはこれから数年の間にお目にかけることになるだろう)は大量にあったが、私の目に留まったのが1つあった。我々はそれを怪物世界と通称していた。(ゴジラのような)怪獣映画を元ネタにした系の世界なのだ。その世界には巨大な怪物や、それらとやりとりをする人間がいるのだ。私はこのアイデアに大いに心を躍らせ、プレイヤーが楽しむに違いないと感じた。しかし、それをどうメカニズム的に実装するかという大きな疑問がある。それが課題だということを認識したが、私は課題に取り組むのが大好き(しかも、いくつかのアイデアもあった)なので、アーロンに、怪物世界をやるべきだと伝えたのだった。1か月でそれは承認された。

怪物チャレンジ

 デザインの障碍となったのはこれだった。リミテッドと構築の両方でプレイして楽しいセットを作る中で、どうすれば元ネタの範囲内に収めることができるのか。最初に参照したのは、共通する問題の多くを抱えていた『エルドラージ覚醒』だった。あれは、3体の巨大な「怪物」(エルドラージ)を軸にしたセットだ。この問題をどう扱っていたのか。我々が「大艦巨砲主義マジック」と呼ぶ、他の選択肢のほとんどをなくすことで巨大クリーチャーを扱うことを強要するという方法を使っていた。環境は遅く、アグロ戦略は弱体化していて、巨大クリーチャーを出しやすいようにランプが追加されている。

 この手法の問題は、1つ(これについては後述する)以外のあらゆる指標で見て『エルドラージ覚醒』はプレイヤーに不人気だったということである。購入量は少なく、プレイ数は少なく、市場調査の結果は悪かった。しかもこれは、同じゼンディカーを舞台にした人気セット2つの直後のセットだったのだ。例外だった1つとは、熱心なドラフト集団だった。通常の戦略が成立せず、どうプレイするかを再考しなければならないという事実は、ドラフト・フォーマットを彼らには好評なものにしたのだ。それと対照的に、そう熱心でない集団は1~2回プレイして、通常の手法が成立しないことで理由も理解できずに混乱することになり、楽しくないのでプレイを止めてしまっていた。

 成立しないことがあったことには、そこから教訓を得ることができるという利点がある。そこで、私のチームは何が間違っていたのかを理解するために少し時間をかけた。まず、巨大な怪物の競争は、使いたければ使えるが使わなければならないものではない、というものにしなければならない。通常のゲームをプレイしたければ、それも選択肢にある必要があるのだ。次に、マナ・カーブ全体を埋める、つまりあらゆるサイズの怪物がいる必要がある。幸いにも、元ネタがここでいくらかの助けになった。3つ目に、このセットにはどういう怪物を使うかという行為者性が少なかった。プレイヤーに、怪物を操作する方法を与える方法はあるだろうか。

 熱心なプレイヤーたちが『エルドラージ覚醒』の何を気に入ったのかを理解して、それらの教訓の中でドラフト環境を作る上で可能なものを採用できるようにするためにもいくらかの時間を費やしたということも表明しておくべきだろう。

 これらの教訓すべてが、元ネタへとつながっていた。さまざまなサイズの怪物を作り、プレイヤーが自分の怪物を自分独自のものにできるようにするにはどうしたらいいのか。答えは、進化か変容だった。怪獣映画のネタとして、怪物は最初から巨大ではないというものがある。最初は小さく、可愛らしいことも多い。その後何かが起こって、怪物が何らかの変身を遂げ、ほとんどの場合は大きくなるのだ。これをゲームプレイ上で表す方法はあるだろうか。

 そこから、我々が『ローウィン』で扱った、覇権というメカニズムが浮かんだ。

 覇権は、進化のフレイバーに富んだ形としてデザインされていた。カードAがカードBになるが、毎ゲーム同じになってしまうことを防ぐため、それらのカードは特定のクリーチャー・タイプのカードである必要があった。(上述の例の《霧縛りの徒党》ではフェアリー。)メカニズム的には、覇権を持つクリーチャーが戦場に出たときにクリーチャー1体を追放するという形になっていた。その後、このメカニズムのカード・ディスアドバンテージを抑える(オーラとよく似た働きをしていた)ため、覇権を持つクリーチャーが戦場を離れたら元のクリーチャーが戻ってくるようにした。これは崇高な試みだったが、このメカニズムはプレイヤーにはあまり刺さらなかった。ゲームプレイは成立はしたが心躍るものではなく、意味の感じられるフレイバーに欠けていたのだ。では、この失敗から学ぶことはできるだろうか。結論を言えば、できた。しかも非常に心躍る方法で。

著大化》 アート:Johan Grenier

怪物パンチ

 もし覇権を作り直すことができるなら、どういう違った方法を取るだろうか。私は、戦場にあるクリーチャーをより良いものに変化させるカード、というアイデアが気に入っていた。毎回同じものに変化するのは好きではなかった。変容したクリーチャーを唱えるたびに違うものにする方法はないだろうか。ここから、変容元が影響するようにする、というアイデアにつながったのだ。変容元として選んだクリーチャーがどう変容するかに影響するというのはどうだろう。

 数か月前、我々は、開発部が1週間通常の仕事を休んでデザイン上の問題に取り組むハッカソンと呼ばれるイベントを行なっていた。第1回ハッカソンは新しいサプリメント・セットを探すものであり、最終的に『モダンマスターズ』と『Jumpstart』ができることになった。一番最近のハッカソンは、私のリクエストで将来のデザイン空間を探すものだった。私が率いたミニ・チームは「ゲーム外の部品」で、デッキ外のものを使うことができたら何ができるかを掘り下げるものだった。提案したものの1つは、パンチアウト技術に注目するというものだった。我々はそれを『アモンケット』で使ったが、開発部員の中には、デイブ・ハンフリーらそこにはさらなるデザインの可能性が大量にあると感じた者がいたのだ。

 このデザイン空間のアイデアの1つが、キーワード・カウンターだった。通常、クリーチャーに+1/+1カウンターや-1/-1カウンターを置いてスタッツを変えることがあるが、キーワードをクリーチャーに永続的に持たせる技術があったらどうなるだろうか。我々はハッカソンでそれを少し実験し、これにはデザインの深い鉱脈があることを見つけたのだった。キーワード・カウンターを用いて変容元が影響を持つようにするという目的を果たす方法はあるだろうか。そして、その方法は3つあるということがわかった。

 それらを例示していく前に、変容は展望デザインからセットデザインまでに大きく変容しているということを説明しておきたい。ここで説明しているのは、当時の変容の動き方である。それとは異なる最終版での動きは後で説明する。それでは、メカニズムとしての変容の進化を見ていこう。

#1:カウンターに意味を持たせる

 変容のすべての実装において、新しいクリーチャーは元になったクリーチャーと同一であるかのように扱うとしていた。つまり、オーラや装備品やカウンターはそのクリーチャーについたままになるということである。従って、キーワード・カウンターでクリーチャーに飛行を与えた場合、その飛行カウンターは新しいクリーチャーにも持ち越され、それも飛行を持つことになる。

#2:さらなる変容を可能にする

 我々は変容後のクリーチャーが変容元のクリーチャーを参照するようにしたいと考え、そしてキーワード・カウンターが助けになると気がついた。変容元のクリーチャーが、キーワード・カウンターとしても存在する能力を持っていたらどうなるか。変容後のクリーチャーもその能力を得られないだろうか。例えば、3/3トランプルのクリーチャーを出していたとする。それを5/5クリーチャーで変容させる。キーワード・カウンターとしても存在しているキーワード(「引き継ぎ可能なキーワード」と呼んでいた)を持っているので、変容後のクリーチャーはその能力のキーワード・カウンターを得るのだ。これによって、変容後のクリーチャーはその変容元のクリーチャーの能力の一部を得ることができるようになる。

#3:変容するもの

 もう1つ、クリーチャー・タイプが変容の条件になるということも覇権から引き継いでいた。覇権のように名指しにするのではなく、自身のクリーチャー・タイプの1つ以上が一致しなければならないという制限にした。フレイバーのために、我々は各色ごとに主要なクリーチャー・タイプを割り当てていた。その後、多色カードを作り始めたが、これはその色すべてのクリーチャー・タイプを組み合わせたものになっていた。白は猫、黒はナイトメア、緑はビーストだったので、白黒緑のクリーチャーは猫・ナイトメア・ビーストになる。

 さらなるフレイバーのために、我々は変容にもう1つ可能な条件を増やすことにした。キーワードを共有していたなら、そのクリーチャーにも変容できるようにしたのだ。説明しよう。警戒を持った4/4恐竜・ビーストがいたとする。変容クリーチャーが恐竜か、ビーストか、警戒持ちであれば、このクリーチャーを変容させることができるのだ。そのクリーチャーを変容させられるものが変わるので、キーワード・カウンターが意味を持つことになる。例を挙げよう。2/2のエレメンタルがいるとする。この上に飛行カウンターを置く。これで、エレメンタルであるか飛行を持っているか、いずれかの条件を満たすクリーチャーで変容させることができるようになるのだ。

 覇権からもう1つ大きく変わったことが、そのカードをプレイするために小さいクリーチャーがなくてもよくなったということである。マナがあれば、変容クリーチャーをただプレイすることができる。変容させなければならないわけではないのだ。プレイデザインの観点からは、これは構築戦で覇権カードが抱えていた問題の多くを解決する助けになる。とはいえ、我々は変容させてもらいたいと考えているので、2通りの方法で変容を勧めた。

 1つ目に、変容クリーチャーに変容コストを持たせた。変容させるにはクリーチャー1体を隠してしまう必要があるので、プレイするのは軽くなっている。2つ目に、ほとんどのクリーチャーは変容効果を持っている。つまり変容させたら何か効果を発生させるのだ。これは単に自分のクリーチャーを変容させるのを勧めるだけではなく、クリーチャーを複数回変容させることも勧めることになる。落ち着いてみると、我々が目標に定めたことは達成できていた。これは、覇権のような、それでいて変容させた時に進化したクリーチャーを作るという新しい要素を含んでいながら、メカニズム的、フレイバー的問題を解決したものだった。

 私は、このメカニズムを使った初めてのゲームのことを覚えている。アンドリューと私が対戦していて、そしてこんなことが起こったのだ。

:3/3トランプルだ。

アンドリュー:えっと、4/4警戒です。

:これで6/6トランプル先制攻撃。

アンドリュー:それで僕の7/7警戒威迫を止められますか?

:私の9/9トランプル先制攻撃呪禁をどうにかできるかね?

アンドリュー:ええ、僕の12/12警戒威迫飛行ならね。

 アンドリューと私がクリーチャーを大きくて恐ろしいものに変容させ続けていたので、このゲームはひたすら一歩先んじようとし続けるものになった。私は、デザイン中に何かが起こった瞬間についての話をして、何かすごいことに触れたと気づかせるのが好きだ。変容は長い道のりを歩むことになるが、このプレイテストはこのアイデアの初期段階が非常に心躍らせるものだったということを示している。また、これはあらゆるレベルで実用的クリーチャーがいるのでゲームプレイにいい影響を及ぼした。大型クリーチャーが出てくるのを待つ必要はないのだ。マナ・カーブに沿ってプレイして、そして時間とともにそれらはゆっくりと大型クリーチャーに変容していくのだ。

 我々はこのメカニズムを色々といじったが、最終的にセットデザインのために提出したものはこうだった。変容クリーチャーは、クリーチャー・タイプかキーワードを共有しているあらゆるクリーチャーを変容させられる。その後、それはその変容元クリーチャーが持っていたあらゆるオーラ、装備品、カウンターを得る。変容元クリーチャーが引き継ぎ可能なキーワードを持っていたなら、それらの能力のキーワード・カウンターを得る。最後に、(確か提出時にはすべての変容クリーチャーが持っていた)変容効果が誘発する。

位置について、用意、デザイン

 セットデザインは変容に、単純化するものと少し複雑化するもの、複数の大変更を加えることになる。しかしそのどれもが、楽しいメカニズムをさらに楽しいものにするものだった。では、それについて見ていこう。

変容元のクリーチャーの制限を取り去った

 展望デザイン版では、クリーチャー・タイプかキーワードが共通している必要があった。セットデザイン・チームは、その制限は必要ないと判断し、変容を持つあらゆるクリーチャーが他のどのクリーチャーでも変容させられるように変更した。その後、人間が怪物に変化するのは今回の元ネタ空間的にフレイバー的ではないということから、人間でないという制限が加えられた。

すべての能力を得るようになった

 展望デザイン版では、変容後のクリーチャーは引き継ぎ可能なキーワード、つまりキーワード・カウンターとして存在しているキーワードだけを引き継いでいた。セットデザインは、単にすべてを引き継ぐべきだと判断した。もちろん複雑さを増すし変容後のクリーチャーがすることについてさらなる注意が必要になるが、非常に面白かった。

変容クリーチャーは一番上か一番下に置けるようになった

 展望デザイン版では、変容は必ず変容元のクリーチャーの上に置くことになっていた。セットデザインはこれを一番上か一番下かを選べるように変更し、それによってパワーやタフネスの参照元になる一番上のクリーチャー・カードを選べるようにした。

 さて、それでは、そろそろプレビュー・カードをお見せしよう。ここをクリックして、《海駆けダコ》をご覧あれ。

 実際のカードを元に、最終版の変容がどのように作用するのかを見ていこう。《嵐雲のカラス》(1/2飛行クリーチャー)が戦場にいて、《海駆けダコ》が手札にあるとする。{1}{U}で、《嵐雲のカラス》を変容させることができる。そうするなら、《海駆けダコ》を《嵐雲のカラス》の上か下に置く。上に置いた場合、そのクリーチャーは2/2になる。下に置いた場合、そのクリーチャーは1/2になる。いずれにせよ、それは飛行と「このクリーチャーがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、カードを1枚引く。」(開発部語で「好奇心/curiosity」)を持つ。では、《海駆けダコ》を上に置いて2/2にしたとしよう。そしてこのカードを引いたとする。

jp_67Bpl60YS6.png

 {3}{R}{U}{U}か{3}{G}{U}{U}(変容コストに赤緑混成マナが含まれている)を支払って、これでその《海駆けダコ》を変容させることができる。その場合、その束の一番上か一番下のどちらかに置く。上に置いた場合、そのクリーチャーは6/6になる。下に置いた場合、そのクリーチャーは2/2になる。上に置いたとしよう。そうなると、6/6で飛行とトランプルと「好奇心」を持つことになる。また、変容させた時、ライブラリーの一番上からカードを土地でないパーマネント・カードを追放するまで追放して、そのカードを戦場に出すか手札に入れるかする。

 ここで、対戦相手がこれを恐れて、黒の除去呪文を唱えたとしよう。その場合、この変容しているクリーチャーはクリーチャーとしては1体なので、カード群すべてが墓地に置かれることになる。これは、手札に戻したり追放したりといった他の方法で戦場から取り除く効果についても同じである。変容がどのように作用するのかについて詳しくは、近日公開される『イコリア』のリリースノートを参照してくれたまえ。

変容は充分

 変容は紆余曲折を経てデザインされたが、最終的には斬新でフレイバーに富んだとても楽しいものになった。諸君がこれをプレイしてみてどう考えるかを知りたくてたまらない。いつもの通り、今日の記事、変容、『イコリア:巨獣の棲処』についての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、さらに『イコリア』のデザインを掘り下げ、変容と同じぐらい奇妙なメカニズムを紹介する日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが楽しく怪物を作れますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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