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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

龍の嵐の兆し その2

Mark Rosewater
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2025年3月24日

 

 先週、『タルキール:龍嵐録』のプレビューをスタートした。先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを紹介し、『タルキール覇王譚』ブロックの初期構想を話した後に『タルキール:龍嵐録』のデザイン・ストーリーを語り、そしてプレビュー・カードをお披露目した。今回はセット・デザイン・チームと統率者戦デザイン・チームを紹介した後、クールなプレビュー・カードを新たに披露して、このセットの誕生秘話を締め括る。

完璧な「竜の嵐」

 セットの話に入る前に、2つのチームを紹介する。1チーム目は『タルキール:龍嵐録』のセット・デザイン・チームだ。このチームをリードしたのはアダム・プロサック/Adam Prosakなので、アダムがメンバーの紹介文を書いている。

クリックして『タルキール:龍嵐録』のセット・デザイン・チームを表示

 次は、『タルキール:龍嵐録』統率者デザイン・チームを紹介する。リードのメーガン・スミス/Megan Smithがチームを紹介してくれる。

クリックして『タルキール:龍嵐録』統率者デザイン・チームを表示

「龍嵐」日和

 先週は、本セットにおけるドラゴン要素のデザインについて語った。今回は、氏族要素に焦点を当てる。『タルキール覇王譚』における陣営構造を踏襲することは、初期段階から定められた方針であった。各氏族が視覚的に明確であるべきであり、それぞれ固有の氏族キーワードを持つべきだと考えた。ただし、キーワードはすべて新規のメカニズムとすることが前提であった。ここでは、我々が設けたデザイン上の条件を記す。

条件1 ― 氏族のメカニズム的な感触を維持すること

 陣営を持つ世界を再訪する際の基本的なルールの1つは、初訪時のカードと再訪時のカードを混ぜても、問題なくプレイできるようにすることだ。キーワードやアーキタイプを変更すること自体は問題ないが、その陣営の「感覚」や「らしさ」は保たれるべきである。

条件2 ― 各氏族に新しい要素を与えること

 再訪とは、前回と同じことを繰り返すのではなく、同一テーマ空間の中で新しさを見出す試みでもある。そのため、各氏族に新たなメカニズムを用意することは、その「新鮮味」を担保するうえで重要であった。

条件3 ― 氏族同士がメカニズム的に協調すること

 陣営セットをデザインする際には、各陣営が互いに連携可能であることが重要である。三色陣営セットでは、すべての陣営が1~2色を共有しているため、各メカニズム間で相互に機能するよう入念に設計を行う必要がある。

 ここからはアブザンを皮切りに、五つの氏族それぞれについて順に紹介する。各氏族はアジアの様々な地域に着想を得ており、ドラゴンの異なる側面を崇拝の対象としている。

アブザン

「必要を成せ」

  • 龍の忍耐を崇拝
  • 龍鱗を象徴

 アブザンは防御を最重視する氏族だ。戦いとは、耐えて最後まで立っていた側が勝利するものだという信念を持つ。アブザンに適したメカニズムを見出すまで、我々は最も長い時間を要した。五つの氏族の中で最も防御的かつ動きが遅いため、それにふさわしいメカニズムが必要であった。また、アブザンは初登場時にカウンターを多く用いたため、それを活かす道も模索した。キーワード・カウンターの使用も試みたが、最終的には+1/+1カウンターに重きを置く形となった。

 最初に試したのは補給/Resupplyというメカニズムであった。

補給([カード名]や他のクリーチャー1体があなたのコントロール下で戦場に出るたび、{2}を支払ってもよい。そうしたなら、[カード名]に+1/+1カウンター1個を置く。)

〈補給する兵士〉{4}{W}
クリーチャー ― 人間・兵士
あなたがコントロールしている、+1/+1カウンターが置かれているクリーチャーは飛行を持つ。
補給([カード名]や他のクリーチャー1体があなたのコントロール下で戦場に出るたび、{2}を支払ってもよい。そうしたなら、[カード名]に+1/+1カウンター1個を置く。)
3/2

 補給のプレイは長久(『タルキール覇王譚』におけるアブザンのメカニズム)と似た領域に位置した。氏族のメンバー同士が助け合うという構造は好みだったが、これのプレイ体験は少し味気ないと感じた。次に試したのは祖先/Ancestryである。

〈翼の造り手〉{3}{W}
クリーチャー ― 人間・ウィザード
祖先 ― 飛行カウンター(このカードが戦場に出たとき、これにカウンターを置いてもよい。そうしなかったなら、飛行を持つ白の1/1のスピリット・クリーチャー・トークン1体を生成する。)
3/3

 このメカニズムは『カラデシュ』の製造から着想を得たものである。+1/+1カウンターを得るのではなく、キーワード・カウンターの使用を模索した。このアイデアには一定の可能性を感じたが、最終的には継承/Adoptという新たなメカニズムに方向転換した。

〈揺るがぬ兵士〉{3}{W}
クリーチャー ― 人間・兵士
[カード名]は+1/+1カウンター1個が置かれた状態で戦場に出る。
継承(このクリーチャーが死亡したとき、白の1/1の兵士・クリーチャー・トークン1体を生成する。これに置かれていたカウンターすべてをそのクリーチャーに置く。)
2/2

 継承は、クリーチャーが戦場に留まる様子を表そうとした試みだった。我々が注力していたカウンター・テーマに関係もしていた。継承を展望サミットに提出したが、参加者の誰も優秀メカニズムとして選ばなかった。よって、提出前に変更することを決断した。代案として我々が提出したのは、製造をアレンジしたメカニズムである。

 その後セット・デザイン・チームは製造をキーワード処理に書き換え、誘発型能力として扱えるようにした。この試行錯誤を通じて「N個の+1/+1カウンターを得る」か「N/Nのクリーチャー・トークンを生成する」かを選べる形に改良された。このメカニズムはとても好評だったため、結果として新たなメカニズムの闘魂が誕生したのである。

ジェスカイ

「一体となって行動せよ」

  • 龍の狡知を崇拝
  • 龍眼を象徴

 ジェスカイは最も賢明な氏族である。彼らは戦いにおいて最も重要なのは知略であると信じている。また、呪文を唱えることに最も関わりの深い氏族でもある。『タルキール覇王譚』では、ジェスカイのメカニズムは果敢であった。果敢は後に常盤木メカニズムとなり、さらに現在では必要に応じて使用される落葉樹メカニズムとなっている。我々は本セットでも果敢を使用するつもりであったが、新たなメカニズムも導入したいと考えていた。そしてそれは何らかの形で呪文と関わっている必要があると考えていた。直接呪文と関連する仕組み、あるいは呪文と相性の良い仕組みのどちらかだ。最初に試したのは焦点/Focusというメカニズムである。

〈風化した戦士〉{1}{W}
クリーチャー ― 人間・戦士
焦点(あなたのコントロールするパーマネント1つを対象とする呪文をあなたが唱えるたび、[カード名]に+1/+1カウンター1個を置く。)
2/2

 焦点は『テーロス』の英雄的の改良版のようなものであった。特定のクリーチャーのみを対象とするのではなく、自分のコントロールするどのパーマネントを対象としても誘発するため、複数の焦点持ちクリーチャーを同時に強化することができた。

 しかし、焦点によって多くの呪文がクリーチャーを対象にするよう強制され、それは我々が望むセットの方向性から逸れてしまった。次に試したのは疾風メカニズムで、これは我々がよく使う「2枚目の呪文を唱えたときに誘発する」デザインを参照する能力語であった。疾風はその名前と共にファイルに投入され、それ以来ファイルに残り続けた。このメカニズムが斬新でないことは自覚していたが、プレイ感が極めて良好であり、ジェスカイに非常に適していたため、そのまま採用することとした。

スゥルタイ

「無駄になるものは何もない」

  • 龍の残忍を崇拝
  • 龍牙を象徴

 スゥルタイは、欲するものを得るために手段を選ばぬ意志を持つ氏族である。戦いとは、他者が忌避する行動すら厭わぬ者が制するという哲学に基づいている。その思想は「死」との関係性にも現れており、倒れたクリーチャーを復活させて自らに仕えさせる行動に象徴される。メカニズム的には、スゥルタイは墓地との関係が最も深い氏族であり(前回は探査を使用)、今回もそれを新たなメカニズムの軸とすることは早い段階で決まっていた。

 最初に試みたのは骸起/Exhumeというメカニズムである。

骸起({2}, あなたの墓地からこのカードを追放する:黒の2/2のゾンビ・クリーチャー・トークン1体を生成する。これの起動はソーサリーとしてのみ行う。)

〈忍び寄る死〉{2}{B}{B}
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それを破壊する。
骸起({2}, あなたの墓地からこのカードを追放する:黒の2/2のゾンビ・クリーチャー・トークン1体を生成する。これの起動はソーサリーとしてのみ行う。)

 骸起は、呪文などの他のカードにゾンビ生成の効果を付与するための仕組みであった。氏族メカニズムの多くはクリーチャーに偏っていたため、可能であれば呪文にも使用できるメカニズムを模索していた。生成されるトークンは常に同じだったため、コストも一定に設定された。しかし、最大の問題はこのメカニズムが単調すぎたことである。スゥルタイのデッキがすべて横並びを目指す方向に偏ってしまったため、採用を見送ることとなった。

 次に試したメカニズムは収穫/Harvestという能力語である。

〈ナーガの死魔道士〉{2}{B}
クリーチャー ― ナーガ・ゾンビ
威迫
収穫{3}{B}(あなたの墓地から[カード名]を追放する:あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とする。それの上に+1/+1カウンター1個と威迫カウンター1個を置く。)
2/2

 収穫はクリーチャー専用の能力であり、そのクリーチャーが墓地にあるときにマナを支払い、追放することで、何個かの+1/+1カウンターと、そのクリーチャーが本来持っていたキーワード能力に対応するキーワード・カウンターを別のクリーチャーに与える、というものであった。重要であったのは、得られる+1/+1カウンターの数が、そのクリーチャーの元々のスタッツよりも小さくなるよう設計されていた点である。これにより、除去呪文によってスゥルタイのクリーチャーによる脅威を十分に減速させられるようになっていた。しかし最終的に、このメカニズムはあまりに限定的であった。使用できるクリーチャー・キーワードの種類には限りがあり、特にスルタイの色に限定した場合、そのデザイン空間は我々が期待したほど広くはなかった。

 最終的に我々がたどり着いた答えが相続というメカニズムである。このメカニズムは墓地のカードが引き起こす効果により、多様な挙動が可能となる。展望デザイン段階では、製品版に採用されていないキーワード・カウンターも試用していたが、方向性としては現在の相続と共通している。

マルドゥ

「継続という挑戦」

  • 龍の迅速を崇拝
  • 龍翼を象徴

 マルドゥは何よりも速度を重視する氏族である。最速であることこそが勝利の鍵であり、敵に防御の隙を与えなければ勝利は確実であると信じている。マルドゥは五つの氏族の中で最も攻撃的であり、軽量クリーチャーと毎ターンの攻撃によって戦いを仕掛ける。そのため、攻勢に報いるメカニズムが求められた。前回のマルドゥは強襲という能力語が使われ、攻撃することでボーナスが得られた。

 五つの新たな氏族メカニズムの中で、最初に開発されたのが応召であり、当初は大群/Hordeと呼ばれていた。

〈空の斥候(バージョン#1)〉{1}{W}
Creature - Bird
クリーチャー ― 鳥
飛行
大群1(このクリーチャーが攻撃するたび、「このクリーチャーは可能なかぎり攻撃しなければならない」を持つ赤の1/1の戦士・クリーチャー・トークンをタップ状態かつ攻撃状態で生成する。)
1/2

 初期案では、生成されたトークンは一時的なものではなかった。戦場に出たターンに攻撃しなければならなかったが、生き残れば次のターン以降も使えた。プレイテストを重ねた結果、このバージョンは我々の想定よりも強すぎることが判明した。そこで、トークンを一時的なものにし、終了ステップまでしか存在しないよう変更した。これにより、戦闘後の第2メイン・フェイズでトークンを生け贄に捧げるような効果との相乗効果が生まれた。トークンが弱体化されたことに対する補填として、威迫を追加することを試みた。

〈空の斥候(バージョン#2)〉{1}{W}
クリーチャー ― 鳥
飛行
大群1(このクリーチャーが攻撃するたび、威迫と「このクリーチャーは可能なかぎり攻撃しなければならない」と「終了ステップの開始時、このクリーチャーを生け贄に捧げる」を持つ赤の1/1の戦士・クリーチャー・トークンをタップ状態かつ攻撃状態で生成する。)
1/2

 しかし、プレイテストの結果、威迫を加える必要はないと判断された。このメカニズムはすでに十分強力であり、簡略化とカラー・パイの整合性(白が威迫トークンを出すのは不適切である)を考慮して、威迫は削除された。

ティムール

「この大地が我らを導く」

  • 龍の獰猛を崇拝
  • 龍爪を象徴

 ティムールは、あらゆる性質の中で力を最も重視する氏族である。彼らは、最も強い氏族こそが戦いに勝つと信じている。これは、ティムールが中盤以降のゲーム展開において大型クリーチャーを活かす「縦に伸ばす(go-tall)」戦略を好むことを意味する。メカニズム的には、クリーチャーのスタッツ、特にパワーに着目させるデザインが求められた。前回のティムールは獰猛がキーワードであり、大型クリーチャーを持っていることで恩恵を得る仕組みだった。

 最初に試されたメカニズムは噴火/Eruptであった。

噴火{M}(あなたが土地1枚をプレイするたび、あなたはあなたの墓地のこのカードを噴火コストで唱えてもよい。そうしたなら、これを追放する。)

〈無限の成長〉{G}
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+2修正を受ける。
噴火{G}(あなたが土地1枚をプレイするたび、あなたはあなたの墓地のこのカードを噴火コストで唱えてもよい。そうしたなら、これを追放する。)

 噴火は、墓地から再利用できる、土地をプレイしたターンにのみ唱えられるという条件付きのフラッシュバック+上陸的なメカニズムである。前述のとおり、多くの新メカニズムがクリーチャー向けで偏っていたため、呪文に載せられるメカニズムを模索していた。ティムールはジェスカイと2色が共通のため、疾風との相性も良かった。しかし噴火のプレイ感は悪くなかったが、ティムールらしさに乏しかった。

 次に試したのは再燃/Rekindleというメカニズムである。

再燃(あなたがマナ総量が5以上のクリーチャー呪文を唱えるたび、あなたはあなたの墓地にある再燃を持つカード1枚をそのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。その後、それを追放する。)

〈再燃の成長〉{G}
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+2修正を受ける。
再燃(あなたがマナ総量が5以上のクリーチャー呪文を唱えるたび、あなたはあなたの墓地にある再燃を持つカード1枚をそのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。その後、それを追放する。)

 再燃もまたフラッシュバック系メカニズムであるが、土地ではなくマナ総量が5以上のクリーチャーを唱えることを誘発条件としていた。また、噴火と異なり、コストを払わず唱えることができる点が特徴である。

 次に試したのは熾烈/Fierceという、再燃の改良版であった。主な変更点は二つである。第一に呪文の誘発条件を「クリーチャーを唱えること」から「戦場に存在すること」に変更したこと。第二に「パワー4以上」のような数値部分をカードごとに変化させられるようにしたため、カードによって必要なクリーチャーのサイズが異なっている点である。

〈熾烈の地固め〉{2}{G}
ソーサリー
あなたのライブラリーから基本土地カード1枚を探し、それをタップ状態で戦場に出す。
熾烈4(あなたがパワー4以上のクリーチャーをコントロールしているなら、このカードを墓地からマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。)

 無料で唱えて効果を得られるようにすると、ゲーム・バランスを調整するための重要な調整手段が失われてしまうため、我々は「クリーチャーをタップし、そのパワーに応じてコストを軽減する」という新たなアイデアを考案した。この形でもメカニズム名は熾烈のまま維持された。展望デザイン・チームはこの状態でセット・デザイン・チームに引き継ぎ、セット・デザインはインスタントからこのメカニズムを取り除いた(インスタントにフラッシュバック系の能力をつけることを避けているため)ものの、それ以外の部分はほぼ変更されなかった。メカニズム名は最終的に調和に変更された。

 調和と言えば、今日のプレビュー・カードは調和カードだ。少なくとも、調和を与えるカードではある。

クリックして「歌作りの魔道士」を見る

「龍嵐」を越えて

 今週と先週にわたりお届けした『タルキール:龍嵐録』のデザインに関する私の見解を楽しんでいただけたなら幸いである。いつも通り、今日の記事や『タルキール:龍嵐録』のセットそのもの、いずれかの氏族やそのメカニズムについての感想やフィードバックを、メールやソーシャル・メディア(XTumblrInstagramBlueskyTikTok)を通じて(英語で)送ってもらえると幸いだ。

 来週までに、あなたに語りかけてくる氏族が見つかることを願っている。


(Tr. Ryuki Matsushita)

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