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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

巣穴の開花 その2

Mark Rosewater
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2024年7月15日

 

 先週、私は『ブルームバロウ』の先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを諸君に紹介し、プレビュー・カードを公開し、このセットのデザインの物語を語り始めた。今週はセット・デザイン・チームと統率者デザイン・チームを紹介し、さらなるプレビュー・カードを公開し、このセットのデザインの物語を締めよう。楽しんでもらえたら幸いである。

ゲーム、セット、マッチ

 まずは『ブルームバロウ』のセット・デザイン・チームを紹介しよう。いつもの通り、チームの紹介はリード・デザイナーにやってもらう。今回はイアン・デューク/Ian Dukeだ。

クリックしてセット・デザイン・チームを表示


 続けて、統率者デザイン・チームも紹介する。このチームを率いたのはアニー・サルデリス/Annie Sardelisであるため、彼女に紹介してもらおう。

クリックして統率者デザイン・チームを表示


良いメカニズムを探す

 展望デザインからセット・デザインへバトンが渡されたとき、ファイルには5色すべてに持たせたい全般的なメカニズムが3つあった。まずはそれらを紹介しよう。

新生

 このセットの最初のメカニズムは、先行デザインの段階で見つけた。動物について考えた我々は予想されることを書き出し、そこからその動物の年若いバージョンが出現するというアイデアが生まれた。我々はそのメカニズムをひと目見た瞬間に気に入った。それは展望デザインの最初期にファイルに入れられ、そのまま離れることはなかった。我々はそのメカニズムを、社内での開発段階から「新生」と呼んでいた。ルール・テキストは以下の通りだ。

新生N(この呪文を唱えるに際し、追加でNを支払ってもよい。そうしたなら、このクリーチャーが戦場に出たとき、1/1でこれのコピーであるトークン1体を生成する。)

 アイデアはいたってシンプルである。クリーチャーを唱えるに際し追加でマナを支払えば、それの小さな子供も一緒にやってくるのだ。このメカニズムは、今回の核となる10種類のクリーチャー・タイプすべてに、意図を持って使われている。あらゆるアーキタイプで楽しめると考えたからだ。『アモンケット』の「不朽」メカニズムと同様に「新生」にはトークン用のアートが多く必要になる問題があるものの、このアイデアはあまりに可愛らしく、早い段階で全員が賛同したのだった。

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 「新生」をデザインするのは楽しかった。ついそのクリーチャーに1/1というサイズと関連する能力を持たせたくなるが、それは基本的に元のクリーチャーほど強くなることはない。特に実りが多いデザイン領域は誘発型能力で、中でも戦場に出たときや攻撃時に誘発するものは充実している。その領域を使うことで、子供のバージョンとの関連性を保ちながら戦闘に適した大きなサイズを実現できたのだ。

 しばらくの間、黒緑リスのアーキタイプには生け贄テーマがあったのだが、「新生」したトークンが生け贄に捧げられやすい傾向があった。それはこのセットの親しみやすさに反することであったため、生け贄テーマはなくなったのだった。

 本日のプレビュー・カードは、その「新生」を持つカードである。

クリックして「脚当ての補充兵」を表示

贈呈

 デザイン初期に我々が問いかけたのはもう1つ、「この世界の雰囲気をどうやって捉えるか?」ということだった。このセットの題材であるジャンルは明るい雰囲気になりやすく、その感覚を捉えたいと我々は思った。明るく、友好的なメカニズムは作れるだろうか? 我々が導き出した回答が、「贈呈」と呼ばれるメカニズムであった。

 このアイデアもいたってシンプルである。効果が増幅する「キッカー」風の呪文、ただしあなたが持つリソースを支払うのではなく、対戦相手にリソースを与えるというのはどうだろうか? 対戦相手のために何かをすると呪文が強化される、というアイデアを我々は気に入ったため、それを「贈呈」と呼んだ。贈呈のテンプレートは以下の通りだ。

[何か]を贈呈する(あなたがこの呪文を唱えるに際し、対戦相手1人に贈呈する約束をしてもよい。そうしたなら、これが戦場に出たとき、そのプレイヤーは[あなたが贈呈する約束をしたものを得る]。)

 注釈文では、贈呈する約束がされるとどうなるのかが説明されている。

 大きな問題は、どのようなリソースを贈呈するのが良いかということだった。展望デザインで我々が気に入ったのは、以下の3つだった。

 カード1枚――我々は過去にも、対戦相手がカードを1枚引く代わりにコストが軽い呪文を多数作ってきた。この能力は簡潔で、呪文を強化するに足る代価である。

 クリーチャー・トークン1体――「贈呈」するものを考える上で難しい部分は、それが一般的に役立つものでなければならないことだ。(ほぼ)あらゆるデッキで有用なものといえば、クリーチャーである。クリーチャーは勝ち手段になり、ダメージからも守ってくれる。贈呈するクリーチャーのサイズに関する議論はあったものの、最終的に1/1が中心に据えられることになった。それでもクリーチャーを与えるのは少し強すぎることが判明したため、印刷に至ったバージョンではクリーチャー・トークンがタップ状態で戦場に出るようになった。青の1/1の魚にしたのは、魚は動物がよく互いに贈るものであるからだ。

 食物トークン1つ――我々はクリーチャーでないトークンも色々と検討した。中でも一番気に入ったのが、すでにこのセットで使われていたものだった。このジャンルには、どこかで食べ物が出てくることが求められる。さらに食べ物には陽気さを感じられて、求められる雰囲気にも合っていた。単にライフを与えるという方法も検討したが、それはフレイバーにやや欠けるところがあった。

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 以上が、展望デザインから提出した3つだ。セット・デザインはそこへ、第4の選択肢として宝物トークンも加えた(最終的に使われたのは1枚のみだった)。セット・デザイン・チームは新たなカードを多数デザインしたが、このメカニズムの核心部分は我々が提出したものから変わらなかった。統率者デッキの方には、贈呈するものがさらに2つ加えられている。

才能とクラス

 他に我々がデザインで表現することに興味を持ったのは、群れの感覚を捉えることである。ブルームバロウでは、多種多様な動物がそれぞれの仕事を担っている。そのことを表現できるカードを作る方法はあるだろうか? このような問いかけが出たとき、我々はまず過去のマジックのメカニズムを振り返り、以前その問いに答えを出したことがあるかどうかを確かめている。今回のケースでは、「クラス」を見つけることができたのだった。

 「クラス」は『フォーゴトン・レルム探訪』で初めて登場したエンチャント・タイプである。それらは「ダンジョンズ&ドラゴンズ」でキャラクターを作成する際に選ぶ、ウィザードやファイター、ローグといったさまざまな職業を表している。今回我々が求めたのは、冒険の旅に出る職業というよりは小さな町で生活する職業の方だった(鍛冶屋や宿屋のようなものだ)。

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 「才能」は、フレイバー面を微調整したクラスである。機能やレイアウト、アートの比率は同一だ。今回は、アンコモンとレアの2つのサイクルが収録されている。

接着剤

 最後にもう1つ、展望デザインが作成した要素について語ろう。タイプ的テーマのリミテッドをデザインする上で最も困難なことの1つは、さまざまなデッキで求められるカードを十分に用意することである。カワウソのカードがカワウソ・デッキのプレイヤーにしか求められないと、ドラフトのデッキは毎回似たものになり、長い目で見るとそのセットのリミテッド体験を損ねることになる。つまりそういうセットには、プレイヤーがさまざまな動物のアーキタイプをドラフトしたくなるようにカードを作れる要素が欠かせないのである。その要素のことを、開発部では「タイプ的接着剤/Typal Glue」と呼んでいる。

 タイプ的接着剤で最も有名なものは、すべてのクリーチャー・タイプを持つ「多相」メカニズムであろう。『ローウィン』で導入されたこのメカニズムは、『モダンホライゾン』や『カルドハイム』でも姿を見せている。『ブルームバロウ』にも多相が見受けられるが、アーティファクト・クリーチャー2枚に留まっている。

 我々は最終的に、『ローウィン』のデザインでも触れた「二人組」と呼ばれるアイデアを用いることにした。二人組のアイデアは、協力する2体のクリーチャーを表現している。これにより1枚のカードに2つのクリーチャー・タイプを収めることができ、それぞれのクリーチャー・タイプをドラフトするプレイヤーにとって魅力的なものにできる。今回の二人組には2つのサイクルが用意され、どちらもコモンで単色である。そのため、それぞれのクリーチャー・タイプが2回ずつ使われることになる。また、これは各クリーチャー・タイプの開封比を上げる助けにもなる。

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私だけのアーキタイプ

 先週話した通り、展望デザインはこのセットをまとめるためのもう1つの接着剤として「同朋/fellowship」と呼ばれるタイプ的メカニズムを作成した。セット・デザインは同朋を取り除くことを決定し(詳しくは来週語ることにしよう)、その代わりに各アーキタイプに独自のメカニズム的特徴を持たせることにした。キーワードや能力語を得たアーキタイプもあれば、機能面に一貫性を持たせただけのものもある。それぞれに少量の(8つ前後の)タイプ的恩恵を用意し、それらは高いレアリティに寄せた。以下に各アーキタイプを順番に紹介し、それぞれのメカニズム的特徴を解説しよう。

鳥(白青){W}{U}

 鳥は、同じキーワードが設定された2種類の動物の1つである(もう1つは、後段で登場するコウモリだ)。そのキーワードとは、飛行だ。2つのアーキタイプに少しのフレイバーを加え、両方とも飛行だけにならないように、セット・デザイン・チームは鳥の多くを飛行を持たないクリーチャーと機能的に関連させることにした。このシナジーにより、飛行を持つクリーチャーと持たないクリーチャーを織り交ぜた形が望ましいアーキタイプになった。白青であるため、勝ち手段である飛行持ちを守る助けになるコントロール的な要素も備えている。

ネズミ(青黒){U}{B}

 ネズミは、対戦相手の動きを遅くする要素をいくつか扱える。クリーチャー除去や打ち消し、手札破壊、強力なブロッカーを活かし、対戦相手の動きを阻害しながら墓地を肥やしていくことができるのだ。それから、あなたの墓地に7枚以上のカードがあるかどうかを参照するネズミがいくつかあるため、ゲーム中盤から終盤に強化されたそれらは勝利を手助けしてくれるだろう。

トカゲ(黒赤){B}{R}

 トカゲは攻撃的なデッキの1つであり、主な戦略は2段階になっている。まずは豊富にある攻撃的な方向へクリーチャーを強化するカードを駆使して積極的に攻撃を仕掛けていく。そして度重なる攻撃で残ったライフは、対戦相手に直接ダメージを与えられる効果で削っていく。トカゲのアーキタイプに名前付きのメカニズムは用意されていないが、対戦相手のライフを失わせることで恩恵を得やすくなっている。

アライグマ(赤緑){R}{G}

 アライグマは、大型クリーチャーを次々と繰り出していくランプ・ミッドレンジ系のデッキだ。あなたがパワー4以上のクリーチャーをコントロールしていると恩恵を受けられるカードが用意されている。それから、「積算」と呼ばれる新規メカニズムも使われている。「積算4」の注釈文は以下の通りだ。

(1ターンの間に呪文を唱えるための4点目のマナを支払うと、積算4を達成する。)

 「積算」は大型呪文をプレイすることに恩恵をもたらすが、1ターン中に小型呪文を複数回プレイすることを選択しても恩恵を受けられる。

兎(白緑){W}{G}

 兎は多くの兎を生み出す。トークンを生成するクリーチャーが最も多く、複数のトークンを生成するカードも一番多い。大量の兎をプレイすることで大量の兎トークンを生成でき、巨大な軍勢で対戦相手を圧倒できるだろう。このアーキタイプには多くのクリーチャーを並べることやクリーチャーを強化することに恩恵をもたらす呪文が多くあり、あなたの攻撃を支える。

コウモリ(白黒){W}{B}

 コウモリは鳥と同じく飛行を持つが、鳥とは異なる感覚を持たせたかった。そこで我々は、コウモリをライフを扱う方向へ寄せた。白はライフを得ることの第1位の色であり、黒はコストとしてライフを支払うことに最も長けているからだ。コウモリのプレイ感覚は、じわじわと追い詰めるデッキのようなものになりやすいだろう。優れたブロッカーや防御的な呪文で対戦相手の動きを遅らせ、ライフを得て時間を稼ぎ、対戦相手のライフを失わせて追い詰め、飛行クリーチャーでとどめを刺すのだ。

カワウソ(青赤){U}{R}

 カワウソは、ブルームバロウにおける魔術師である。インスタントやソーサリーと関連し、それらを唱えることで恩恵を得られるカードが多くある。このアーキタイプはクリーチャーが少なく、呪文が多くなる。戦場をコントロールすることに長け、テンポ重視のプレイ・スタイルになりやすいだろう。

リス(黒緑){B}{G}

 リスにも新たなキーワード(厳密にはキーワード処理)が用意されている。「給餌」と呼ばれるそのキーワードの注釈文は以下の通りだ。

(給餌するとは、あなたの墓地にあるカード3枚を追放するか食物1つを生け贄に捧げることである。最終カウンターが置かれているクリーチャーが死亡するなら、代わりにそれを追放する。)

 「給餌」は、リスの焦点を墓地と食物という2つの要素でまとめてくれた。リスには給餌を含めあなたの墓地にあるカードを戻す手段が豊富にあり、墓地をリソースとして使うことができる。またこのアーキタイプは、食物トークンをよく生成し使用する。除去とクリーチャーの組み合わせが、リスを勝利に導く助けになるだろう。

ハツカネズミ(白赤){W}{R}

 ハツカネズミは、最も攻撃的なアーキタイプである。攻撃を是とするため、低マナ域のクリーチャーに寄っている。このアーキタイプにもまた、「雄姿」と呼ばれる新規メカニズムが用意されている。それは「[カード名]が各ターン内で初めてあなたがコントロールしている呪文や能力の対象になるたび」と書かれた能力語である。『テーロス』ブロックで登場した「英雄的」メカニズムの亜種だが、こちらは呪文でも能力でも誘発し、各ターンに1回しか誘発しない。雄姿は戦闘を有利にする呪文や装備品との相性が良いだろう。

カエル(青緑){U}{G}

 カエルは跳ねることが好きなので、バウンス(手札に戻す)や「明滅」(追放して戻す)の効果でアドバンテージを得られるようになっている。カエルには戦場に出たときの効果や、クリーチャーが戦場に出たり離れたりしたときの誘発型能力が多くある。戦場にパーマネントが増えるほどシナジーは強くなり、さらなるバリューを発揮してゲーム後半の力になるだろう。

ゲームに足跡を残せ

 最後にもう1つ、展望デザイン・チームが作成したものではないが、5色すべてにあるメカニズムについて話をしよう。セット・デザイン・チームは神話レアに面白いサイクルを求め、「季節」と呼ばれる実にクールなアイデアを生み出したのだ。

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 「季節」はいずれもソーサリーである。あなたはそれを唱えるときに、動物の足跡で表現された「獣痕」と呼ばれるリソースを5つ得る。季節には3つのモードがあり、1つ目のモードは獣痕1個、2つ目のモードは獣痕2個、3つ目のモードは獣痕3個を消費する。あなたはそれらのモードを好きなように選ぶことができ、同じモードも複数回選べる。唯一の制限は、獣痕を適切に支払えるようモードを選ばなければならない、ということだけだ。つまり、以下の5通りの選択肢がある。

  • 1つ目のモードを5回選ぶ。
  • 1つ目のモードを3回と2つ目のモードを1回選ぶ。
  • 1つ目のモードを1回と2つ目のモードを2回選ぶ。
  • 1つ目のモードを2回と3つ目のモードを1回選ぶ。
  • 2つ目のモードを1回と3つ目のモードを1回選ぶ。
  • なお獣痕5個をすべて支払わなければならないわけではないため、上記より少ないモードで唱えることも可能である。

 各モードの効果は互いにシナジーを生み出すようになっており、絶大な効果を発揮することもあるだろう。神話レアのソーサリーのサイクルを作成するのには高いハードルが立ちはだかるのだが、『ブルームバロウ』のセット・デザイン・チームはそれを見事に越えてみせたと私は思っている。

動物管理

 本日はこれで以上だ。デザイナーの紹介やプレビュー・カードの公開、そしてデザインの物語を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、本日の記事や取り挙げたメカニズム、そして『ブルームバロウ』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)TumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、「『ブルームバロウ』展望デザイン提出文書」を公開する日にお会いしよう。印刷には至らなかった展望デザインの2つの大きなアイデアについて語るつもりだ。

 その日まで、あなたがお気に入りの動物を手に『ブルームバロウ』を楽しめますように。


 (Tr. Tetsuya Yabuki)

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