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Making Magic -マジック開発秘話-
都の目玉 その2
2023年12月18日
先週、初代『ラヴニカ:ギルドの都』ブロックが、我々がセットをデザインする方法に多くの新しい概念を導入したことについての話を始めた。先週お話しした3つの要素は以下の通り:
- 2色のペアの均等な重みづけ
- 混成マナ
- 多色陣営
しかし、『ラヴニカ』が導入したのはそれだけではなかったので、今日の記事は先週の続きになる。
2色のペアのカラー・パイの理念
その1では、ギルドがいかにメカニズム的な陣営化を導入したかについて話したが、ギルドはいくつかの面で革新的だった。次の革新は、それらがどうカラー・パイを取り入れたかだった。常連の読者なら、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがマジックを作ったときに3つの天才的なアイデアを生み出したことはご存知だろう。私が「黄金の三要素」と呼んでいるものだ。
- トレーディングカードゲームの概念(podcast | transcript)
- マナのシステム(podcast | transcript)
- カラー・パイ(podcast | transcript)
もし、私がそれぞれを素晴らしいアイデアだと思う理由をもっと詳しく聞きたいのであれば、それらについての3部構成のポッドキャスト・シリーズがあるので、上にそのポッドキャストと書き起こしへのリンクを貼っておく。
私はカラー・パイがマジックの根幹だと考えている。フレイバーもメカニズムもその上に成り立っている。それはマジックにエートス(訳注:行為の反復によって獲得する持続的な性格)を与え、マジックを独特なものにするための心理学的根拠を与えている。(カラー・パイに関する私の記事とポッドキャストのリストへのリンクはこちら。)
『ラヴニカ』までは、我々は個々の色を通してのみカラー・パイにアプローチする傾向があった。白はこれを意味し、黒はそれを意味する。色同士の関係について、どのように友好色なのか対抗色なのかについて話し合ってきた。通常、メカニズム的に複数の色を反映するカードは、ある色が他の色を助けたり傷つけたりするものだった。確かに多色カードは存在するが、それは単独で行われたものであり、少なくとも個々のカードのフレイバー以上に、色の組み合わせとして哲学的に考えられたことはなかった。
ブレイディ/Bradyがギルドのアイデアを思いついたとき、彼と私は2色の組み合わせが何を意味するのかを探求することに興味をそそられた。例えば、オルゾフは白黒だ。フレイバーの観点からは、どのような意味があるのだろうか。このグループはどのように機能しているのだろうか。彼らの哲学は何なのか。そのグループにはどのようなクリーチャーが含まれるのだろうか。より大きな世界の中で見た時、このグループは何をするのか。
そしてメカニズム的には、それはどういう意味を持つのか。各ギルドには、そのギルドだけが持つメカニズムがある。そのメカニズムは何をする必要があるのか。その2色の組み合わせは、どのようなプレイスタイルを目指すのか。ゲームプレイがギルドの雰囲気に合うようにするにはどうすればいいのか。
我々2人は、その質問が興味をそそるものであり、クールなコンテンツにうってつけであることに気付いた。
これらすべての疑問を探求していくうちに、我々はカラー・パイを次のレベルに引き上げていた。たしかに、マジックを5色に分けることはできるが、それ以上のこともできるのだ。『ラヴニカ』では色を10のグループに分け、そうすることで、我々はより明確な定義を持った分割を行った。先週、私は派閥の感情的パワーについて話した。その多くは、この心理学的な解明から来ている。特定の2色であることには意味があり、あなたが分類される種類のプレイヤーに対して話しかけているのだ。興味深いことに、2色のペアを見る方法は1つだけではなかった。そう、『ラヴニカ』では安易な選択肢を選んだが、色の組み合わせを見る方法は数多くあり、我々が他の2色の組み合わせをすることも可能になっていたのだ。加えて、我々は3色の派閥もできるようになった。(4色の組み合わせも検討したが、そこにはフレイバーよりもメカニズムに関係した制限があった。)
すべての鍵は、我々が信じていた以上に強いカラー・パイの力を発見したことだった(そして私は以前からカラー・パイの大ファンだった)。マジックは常に自己の同定という強い要素を持っており、色を組み合わせることで、色の使い方をより深く知ることができることは、強力な道具であることが証明され、今やセットへのアプローチ方法の標準となっている。
アーキタイプのフレイバー付け
陣営もカラー・パイの理念も素晴らしいが、ギルドはそれだけにとどまらない。もう一つ重要なことは、アーキタイプをフレイバー付けするというアイデアを導入したことだ。ドラフトが進化するにつれ、我々はドラフト・プレイヤーがどのようなドラフト上の選択肢があるのかを理解する手助けをすることが重要であることに気づいた。この点で重要な道具は、そのセットにおける2色アーキタイプを強く伝える指標となるアンコモンの多色カードだった。この技術は『ラヴニカ』の後に登場することになるが、ギルドは同様の方法で役立つ重要な道具を追加した。
一緒にプレイすることが想定されているカードを、物語の中で一緒に属するものとしてフレイバー付けすれば、プレイヤーにこれらのカードを一緒に使いたいということを伝えることができる。これはドラフトで役に立つ。なぜなら、プレイヤーに互いに連動するカードを直感的に選ばせるもう一つの方法だからだ。カジュアル・プレイでは、デッキのカードが一体化しているように感じたいというプレイヤーの欲求を強める。プレイヤーが直感的に組み合わせられるカードを作ることは、優れたゲームデザインの一側面であり、プレイヤーにとって楽しい自然な意思決定の感覚を確立する。(ちなみにこれは、2016年にゲーム・デベロッパーズ・カンファレンスで行った講演で行った20のレッスンのうちの1つだ。これを3部作の記事にしたものをここで読むことができる: その1、その2、その3)。
フレイバー付けされたアーキタイプには、もうひとつ大きな利点がある。それは、世界をよりまとまりのあるものに感じさせてくれることだ。トレーディングカードゲームの本質は、プレイヤーが自由にカードを組み合わせられることだ。これは、多くの風変わりな創造的な組み合わせにつながるだろう。メカニズム的なテーマをクリエイティブ的に繋げることで、デッキがクリエイティブ的な一貫性を持つ頻度が高まる。つまり、デッキがより大きなまとまりのあるテーマを持つようになるのだ。
これは理解するのに時間がかかった要素である。『ラヴニカ』の後、我々は陣営にフレイバーをつけることを大きなポイントにしたが、派閥セットでなくてもアーキタイプにフレイバーをつけることができると理解するのには時間がかかった。この好例が『エルドレインの森』である。これは陣営セットではないが、我々は2色のアーキタイプをそれぞれおとぎ話でフレイバー付けした。プレイヤーからのフィードバックは、フィーリングとプレイの両方で、セットに多くのものが加わったというものだった。アーキタイプにフレイバー付けをすることは、今や標準的な習慣になりつつある。
透かしとアイコン
ギルドの影響はまだこれだけではない。デザインの途中で、こんな疑問が出てきた。カードにどこのギルドのカードかを示すようにしたほうがいいだろうか。もちろん、多色カードがどのギルドのカードかを知るのは容易だが、単色カードには複数の可能性がある。それは我々が示すべきことなのだろうか。示すべきだ。どうすれば示せるか。
独特なフレームは少しやりすぎだと感じたし、ルール文は使うと我々が望むカードが作れなくなるかもしれないと思ったので使いたくなかった。その解決策は、結局、それまでプロモカードにしか使っていなかった道具、透かしと呼ばれるものに行き着いた。透かしは、文章欄のテキストの下に軽く入れた画像のことである。
よく聞かれることなので、ちょっと余談を。透かしはメカニズム的に意味を持つことはできない。なぜなら、同じ英語名を持つカードはすべてメカニズム的に同一でなければならないため、アーティスト、エキスパンション・シンボル、透かしなど、版ごとに変わる可能性のあるものは、ルールによってメカニズム的に参照することができないからである。もしそうしたいなら、『Unstable』では小さなテーマとして扱っている(アン・セットは、ルールに関してかなり無頓着だ)。特定のカードには必ず透かしを入れるという約束はできないのか。そうすると、透かしのあるセットにカードを再録することができなくなり、セット内の他の透かしと矛盾する透かしが入ってしまうことになるかもしれない。
透かしは通常図形なので、10ギルドそれぞれのシンボルを作らなければならなかった。それらのシンボルは、その後多くの場所で使われることになった。カードアートにも描かれている。各ギルドをテーマにしたプレリリース・パックには、そのギルドのシンボルを使ったステッカーとピンが入っていた。シンボルマークを使ったグッズを作り、Tシャツは特に人気があった。
『ラヴニカ』は、透かしやシンボルは慎重に使えば大きな力を持つことを我々に教えてくれたのだ。また、熱心なプレイヤーは、より自分らしいと感じるシンボルを見つけることができる。今では、セットを強化するために使える貴重な道具だと考えられている。すべてのセットがそれを望んでいるわけでも、必要としているわけでもないし、使いすぎには注意しなければならないが、適切に使えば、かなりインパクトのあるものになる。
限界を超える
『ラヴニカ』の初期のプレイテストの1つでは、10組の2色ペアすべてが存在し、そのすべてにハイブリッド・カードがあった。プレイテストの後、開発部のヘンリー・スターン/Henry Sternが私のところに来た。彼は、「マーク、僕は世界選手権で2大会連続で準決勝に残ったんだ。世界で最も優れたマジック・プレイヤーの1人なんだ。その私にとって、これは過剰だ。私はカードを35の山に分けなければならなかったと思う。ファイルをこのままにしておくことはできない。」と言った。
新しいセットのデザインに取り組んでいると、さまざまな障害にぶつかる。「この問題を軽減するためにはどうすればいいのか」というのは最も多い疑問だ。しかし、中には別の疑問もあることがある。 「これはそもそも可能なのだろうか」というものだ。アイデアを思いついたからといって、そのアイデアが可能であるとは限らない。デザインの世界では、やりたかったことができないことに気づき、より大きな目標を達成するための別の方法を見つけることで進歩することがある。そのプレイテストの後、私は自分が望んでいることが実現可能なのかどうか疑問に思い始めた。
ここに核心があった。私は2色のプレイに重点を置いたセットを作りたかったし、10組の2色ペアをすべて均等に登場させたかったが、10組の2色ペアを揃えるのは1つのセットには多すぎたのだ。最もハードルが低いのは、友好色か対抗色のどちらかを1セットで行い、残りの5色を別のセットで行うことだろう。それは基本的に『インベイジョン』ブロックがやったことだ。『インベイジョン』『プレーンシフト』は友好色カードのみを使用し、『アポカリプス』は対抗色カードを使用した。しかし、私の主な目標のひとつは、『インベイジョン』のように感じさせないことだった。ブロックのテーマを繰り返すのは初めてのことだったので、以前やったものとは違う感じのものを作りたかった。そんな方法があるのだろうか。
その問題にどう答えたかを説明する前に、まずブロック・デザインの歴史について簡単に説明しよう。『アイスエイジ』は、我々が技術的に最初のブロックだと話しているブロックだが、ブロックとしてデザインされたものではない。『アライアンス』は『アイスエイジ』につながるようにはデザインされていない。開発中に追加されたものだ。『ミラージュ』と『ビジョンズ』は一緒にデザインされ、後に大小のセットに分かれた。『ウェザーライト』は社内でまったく別のチームが手掛けたもので、『ミラージュ』や『ビジョンズ』とはあまり関係がなかった。『テンペスト』『ウルザズ・サーガ』『メルカディアン・マスクス』は完全なブロックとしてデザインされたが、その関連性はただ2つのキーワード・メカニズムを共有しているというだけだった(『メルカディアン・マスクス』についてはキーワードすらなかった)。我々は、最初のセットを作り、拡張可能なメカニズムをちょうど2つ選び、小型セットはそれぞれその時点で何をしたいかを考えるという方法でデザインしていた。
『インベイジョン』ブロックは、ビル・ローズ/Bill Roseにとって主席デザイナーとしての最初の作品だった。これがブロック・テーマの始まりだった。『インベイジョン』は多色テーマ、『オデッセイ』は墓地テーマ、『オンスロート』はタイプ系テーマ、『ミラディン』はアーティファクト・テーマを持っていて、そして『神河物語』は日本神話のフレイバーを基柱にしたトップダウンセットだった。2つのメカニズムに制限されることはなく、小型セットは新しいメカニズムを持つことが許され、むしろ奨励さえされていた。しかし、それを作っているモデルは同じだった。まず最初のセットをデザインして、小型セットをどうデザインするかは、そこに着いてから考える。
このことが、私たちが「第3セット問題」と呼んでいたことにつながった。第3セットは、できることが制限されてしまうため、しばしばトラブルに見舞われた。その典型的な例が『フィフス・ドーン』だった。そのデザインに取り掛かるまでに、我々はこのブロックが壊れたメカニズムだらけで、我々が『ミラディン』や『ダークスティール』で使ったほとんどすべてのメカニズムが完全に使用できないか、それを基柱にすることができないほど限られた量で行わなければならないことに気づいていた。
主席デザイナーになったとき、私はもっとブロックの計画を立てたいと誓ったのだ。つまり、最初の大型セットの役割は、ブロック内の各セットの定義を作ることだと私は信じていた。私は『インベイジョン』ブロックに着想を得ていた。ブロックの2色ペア10組をすべて配置したが、第3セットまで対抗色カードを後回しにして、友好色カードを追加で作れるスペースを確保していた。第3セットに本当の定義を与え、「第3セット問題」に対するアンチテーゼのようなものを与えている点が気に入ったのだ。
私は多くの時間を費やしてさまざまなブロック・デザイン・モデルを考え出し、そのうちのひとつをパイ・メソッドと名付けた。その背後にあるアイデアは、クールなデザインを考えて切り分け、ブロックの各セットに異なるピースを与えるというものだった。どのセットもパイを全部は持っていない。すべてのパイを手に入れるには、3セットすべてをプレイする必要があるのだ。
さて、私が『ラヴニカ』の問題をどのように解決したかに戻ろう。2色の組み合わせは10種類ある。1つのセットに10種類は多すぎる。これにパイ・メソッドを適用したらどうだろう。各セットに2色の組み合わせのいくつかだけがあるとしたらどうだろうか。構造的には、私はできると思った。より大きな問題は、正当化の問題だった。例えば、なぜ緑白は3つのセットのうちの1つにしか登場しないのか。
私の解決策は、ブレイディ・ドマーマスがギルドのアイデアを思いついたときに生まれた。各ギルドが独自のメカニズムを持つ小さなサブセットであれば、それを正当化できるだろう。ギルドはブロックを定義する構造となり、各セットはその一部だけを担当するのだ。私は心躍らせていた。我々はそれを作り上げることができ、プレイヤーもそれを受け入れてくれると私は信じていた。しかし、課題は残りの開発部を納得させることだった。
少し背景を説明しておくと、私は我々がやったことのないこと、やったことと似ても似つかないことを提案していた。私たちが多色で行ったセットはすべて、すべての友好色の組み合わせ、すべての対抗色の組み合わせ、あるいはそれらすべての組み合わせをバランスよく配合していた。最初のセットは4色で、残りの6色はまったく登場しないというアイデアは過激だったのだ。私はデザイン・チームを味方につけた。上司のランディ・ビューラー/Randy Buehlerにも了解を得た。主席デベロッパーのブライアン・シュナイダー/Brian Schneiderにまで同意を取り付けた。結局、充分な賛同者を得てこのセットは実現に至ったが、その過程では緊張もあった。
マジックのデザインにおいて、あるいはすべての創造的な努力においてとも言えるかもしれないが、興味深いことは、自分が成功すると、他の人たちも同じことをするようになる、「成功は反復の母」ということだ。『ラヴニカ』は、マジックのセットがどのようなものになり得るか、そしてセット間でデザインをどのように拡張できるかの限界を押し広げた。そうすることで、デザインが試みることを許される基準を設定したのだ。境界線を押し広げることが怖いことではなく、受け入れられること、目指すべきものになり、より大胆になりやすくなったのだ。
『ラヴニカ』は私にとって主席デザイナーとしての最初の舞台で、試してみたいアイデアがたくさんあった。私が『ラヴニカ』ブロックで成功したことは、その後のすべての道を切り開くのに大いに役立った。私は、それがマジックのデザインにおける理想像になったと考えている。振り返ってみると、私は『ラヴニカ』ブロックが成し遂げたあらゆることをとても誇りに思っている。私は、このセットが制作に携わったすべての者を奮い立たせ、真のホームランとなるようなセットを作らせ、その影響がその後のマジックのデザインのすべてを形作ることになったと感じているのだ。
都内観光
本日はここまで。初代『ラヴニカ』ブロックと、それが以降のマジックのデザインに与えた影響の数々を楽しんでいただけたなら幸いである。いつもの通り、この記事や先週の記事。『ラヴニカ』ブロック全体に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
これから2週間は休暇で休むが、3週間後にはまた、マジックのプレイデザインがなぜこれほど多くの制限(これをソーサリーとしてしか唱えない、これをプレイするのは自分のターンのみ、これをプレイするのは1ターンに1回のみ、など)をセットするのかについて語る記事をお届けする予定だ。
その日まで、あなたが素敵な休日を過ごしてたくさんマジックをプレイできますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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