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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

地底を行く その1

Mark Rosewater
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2023年10月24日

 

 『イクサラン:失われし洞窟』プレビュー第1週にようこそ。今回は、先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを紹介し、このセットのデザインの話を始めて、クールな新カード2枚をご紹介しよう。これぞ冒険だ!

 今日の話を始める前に、まず、これを作った先行デザイン・チームと展望デザイン・チームを紹介しよう。(セットデザイン・チームについては来週紹介する。)伝統に従って、展望デザインのリードが紹介する。このセットでは、私だ。

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掘り進む

 先行デザインと展望デザインの目標は、セットデザイン・チームが成功するための準備を整えることである。展望デザイン提出文書には3種類の異なる結果がある。興味深いことに、私は今年3つのセットで展望デザインをリードしたが、それぞれ異なる結果となった。1つ目は、展望デザインから生まれた構造とメカニズムは、セットデザイン・チームによって改良されるが、基本的には変わらないというもの。『ファイレクシア:完全なる統一』は、完成品と提出文書にあった内容が大局的に見てかなり近いセットだった。セットのメカニズムや大きな構造はすべて受け継がれていた。

 2つ目が、セット内のいくつかの要素が残り、他の要素が変更されるもの。『機械兵団の進軍』がこの分類の例である。セットの多くのメカニズムは展望デザインによって作られたが、このセットで最も派手な要素とも言えるバトルはセットデザインによって作られたものだ。展望デザイン・チームは、ブースター1つにつき1枚登場して様々な次元での戦いを表す、変身する両面カードの必要性を認識していた。私たちは新しいカード・タイプになる可能性も示唆したが、私たちが提出したものはバトルにはほど遠いものだった。

 3つ目が、展望デザインが試みたことがうまくいかなかったもの。その結果として、完成品は展望デザインの提出文書とは似ても似つかないものになる。『イクサラン:失われし洞窟』はこの最後の分類の一例である。ご覧いただくとおり、私たちのデザインが少し大胆すぎたことと、セットデザインで起きた大きな変更が相まって、完成品は展望デザイン提出文書にあるものとは似ても似つかないものになってしまった。私は前二者の分類については多くの記事を書いているが、この最後の分類についてはあまり書いていない。そこで今日は、展望デザインが何をしようとしていたのか、そしてなぜうまくいかなかったのかを深く掘り下げてみようと思う。

更に下へ

 この物語は20年あまり前に始まる。当時のクリエイティブ・ディレクター(=クリエイティブ・チームを統括する人物)だったタイラー・ビールマン/Tyler Bielmanと私は、初代『ミラディン』を提案していた。我々は、新しい次元3つを使った3ブロックの物語を構想していた。1つはミラディン。もうひとつは地下の監獄で、それ以前に地下を舞台とすることを提案したことがあるとは聞いていない。よく出てくるものではあるが。我々はほぼ3年ごとに新しい次元/世界を創造するためのブレインストーミングをするために集まり、そのたびに地底世界がテーマとして挙がっていた。実際、グレート・デザイナー・サーチ2では、最終選考に残った8人にそれぞれの世界をデザインしてもらったが、唯一複数提案されていたのが地底世界だった。

 地底世界というアイデアは常に出てくるが、たいていは他のアイデアに負けてしまう。いつかは実現する(「マジックは腹を空かせた怪物だ」というのは私の口癖だ)とは思っていたが、いつになるかはわからなかった。そして、現在のセットをブレインストーミングしていたときの話になる。どんな新しい次元/世界が欲しいか話し合っているときに、いつものように地底世界の話が持ち上がった。誰だったか忘れたが、たぶん私だったと思うが、誰かがこう言った。「我々はいつも地底世界の話をしている。とにかくやってみよう。」そして、それをスケジュールに加えたのだ。

 当初の計画では、この地底世界は新しい次元の中に存在することになっていた。既存の次元の地底を舞台にするということについて話はした。イクサランはベストだと感じたが、我々はそれを否定したのだ。「新しい次元を作ろう。」

 地底のことはずっと話題になっていたので、それについては少し意識していたことがあった。『シャドウムーア』以来のテーマである「色関連」セットをやりたかったし、グレート・デザイナー・サーチの地底世界の1つ(ジョナソン・ルークス/Jonathon Lucksが作ったもの)で、闇と光の二項対立をテーマにしていたのが気に入っていたのだ。光は色を表すかもしれない、と私は考えた。とにかく、私は各デザイン・チームにメンバーを割り当てる上席マネージャーの1人であるブレイディ・ベル/Brady Bellに、このセットに関するアイデアがあることを話していた。彼は私に『Offroading』(このセットのコードネーム)の展望デザインをリードしてくれないかと頼んできた。私は二つ返事で承諾したのだ。

 調査を始めると、地底世界の物語はさまざまな方向に枝分かれしていることがわかった。最初の分岐点は、アクション/冒険かホラーかというジャンルだった。私の展望デザイン提出文書より: 「アクション/冒険では、主人公たちは地底を旅し、新たな不思議を発見し、新たな脅威に打ち勝つ。彼らは自分たちが放り込まれた世界について学ぶためにやってきていて、たいていはそこが素晴らしい場所であることに気づく。ホラーでは、主人公たちはたいてい何か欲望のためにやってくるが(あるいは別の脅威から逃げている場合もある)、地底が暗くて危険な場所であることを知り、そこから命からがら逃げ出すことになる。」

 過去数年の間に、マジックは『イニストラード:真夜中の狩り』『イニストラード:真紅の契り』『ファイレクシア:完全なる統一』を扱ってきていた。また、1年ほど後には『Dusk Mourn: House of Horror』も控えていた。ホラーはすでに大量にあると感じたので、我々はアクション/冒険の方向に向かうことにした。そして次の分岐点である。アクション/冒険は、ゲームにおいて人気のある設定だ。地底世界の設定については、世代によって異なる傾向があった。年配のプレイヤーは、地底世界といえば隠された世界を探検する冒険パーティーを連想する傾向があった。若いプレイヤーほど、地底世界といえば資源獲得やアイテムの製造・強化を連想するのだ。『フォーゴトン・レルム探訪』でその前者は掘り下げていたので、我々はその後者に興味があった。

作製の体得

 我々は、自分たちが望んでいる感覚をとらえるために、ほとんど作製メカニズムに集中していた。プレイヤーが何かを見つけ、それをより良いものに強化するためにいくらかのリソースを使うようにしようと考えたのだ。我々が何を強化しようとしているかは明らかだった。元素材の中には、品物やクリーチャーなど、強化すべき選択肢となるものが大量にあったのだ。もっと厄介だったのは、私たちが使うべきリソースは何か、ということだった。

 そこで我々は、ゲームプレイでどのような行動を再現しようとしているのか、という別の疑問に行き着いた。地底世界というジャンルは、少なくとも私たちが手をつけていたジャンルは、地中を掘ってその中から有用な物に変えることのできる貴重な部品を見つけるというものだった。では、掘るというアイデアを表すものは、具体的にどのようなものだろうか?結局、気に入ったものは2つあった。墓地から発掘する、つまり追放することが1つ。ライブラリーから物を掘り出す、つまり追放したり墓地に置いたりすることが1つである。どちらもフレイバーに富んでいたので、それぞれに挑戦することにした。今日は墓地についての掘り下げについて話すが、来週はライブラリーのほうについて話すことにしよう。

 覚えておいてほしいのは、私は色を使う手段を求めてこのデザインを思いついたということだ。掘ることは貴重な宝石と非常に関係が深かった。マジックを最も象徴するカードのうち5枚は、モックスと呼ばれる貴重な宝石である。

 掘り出すものが、パール、サファイア、ジェット、ルビー、エメラルドだったらどうだろうか。それは有望だと思った。初期のバージョンでは、特定の色のカードを追放してアーティファクト・トークンを生成していた。これらのアーティファクト・トークンは、生け贄に捧げて単色しか出せないことを除けば、宝物のようなものだった。例えば、《パール》は「{T}, このアーティファクトを生け贄に捧げる:{W}を加える。」を持つアーティファクト・トークンだった。そして、我々は作製を怪物化のように振る舞うようにした。強化するには、特定の組み合わせの宝石を使わなければならないのだ。作製するために必要なカードが引けなかったとしても、他の方法でゲームを進めるために宝石を使うことができるようになっていた。

 墓地におけるこの「色関連」というテーマと組み合わせるために、我々は『シャドウムーア』で初めて登場した、不特定マナや任意の色のマナを2点使うことで支払える単色混成マナを利用することにした。

 我々の計画は、すべてのアーティファクトを単色混成にするというものだった。これによって、プレイしている基本土地でサポートできない色をデッキに入れることができるようになる(そして、他の色をタッチさせても問題が起こることが少なくなる)。また、すべてのアーティファクトが不特定マナで唱えられるのは、フレイバーに富んでいると感じた。

 展望デザインの4ヶ月中の3ヶ月目には、我々が展望デザイン・サミットと呼んでいる、開発部内の様々な関係者がそのセットをプレイし、フィードバックをする場を設けている。プレイデザインの担当者は、この5つのトークンに対して非常に懐疑的だった。把握しなければならないことが多くなるだけでなく、多くの宝石を持つことによるマナの増加によって、バランスを取るのが不可能に近くなる。

 このメモを受け、展望デザイン・チームは我々が鉱山/mineと呼ぶメカニズムに移行した。

 色のついたカードを、アーティファクト・トークンではなく、プレイヤーであるあなたが得るカウンターに変えるようにしたのだ。副次的な能力はなくなった。レシピがあることを除けば、エネルギーの一種と考えることもできる。計画では、モックスをもとにした宝石のようなパンチアウト部品を入れることにしていた。それが、展望デザイン提出文書を提出したときのファイルの状態だった。セットを提出した直後に、クリエイティブ・チームはこのセットの舞台を新しい次元ではなくイクサランにするという決定を下したことを記しておこう。これはデザインに多くの影響を及ぼしたが、それについては来週扱う。

 ジュール・ロビンス/Jules Robinsに引き継ぐ前にセットデザインをリードしていたエリック・ラウアー/Erik Lauerは、この構造をうまく機能させるためにさまざまな実装を試した。それぞれ異なる機能を持っているが本質的に色に縛られてはいない3種類のアーティファクト・トークンのうち1つを生成するバージョンもあった。結局、アーティファクトの扱い方に大きな疑問符がついたまま、セットはジュールに引き継がれたのだった。

 ジュール率いるデザイン・チームは、数週間かけてさらなる先行デザインをすることにした。彼らはたくさんの質問をしたが、そのうちの1つが、制約がないとしたら、作製を再現する最善の方法は何か、というものだった。また、必ずしも『イクサラン』ブロックのメカニズム的なテーマに戻る必要はないにせよ、どうすればその次元をイクサランらしく感じられるようになるかということにも気を配っていた。その解決策は、2つの問題を組み合わせたようなものだった。初代『イクサラン』で最も印象的だった部分は、土地に変化する変身する両面カード(TDFC)だった。TDFCは作製に持ってこいだと考えたのだ。コストを支払い、そのカードを、それのよりよいバージョンに変身させる。

 ジュール率いるデザイン・チームは、リソースとしての墓地というアイデアは採用したが、色への言及は取り除いた。その代わり、各作製カードが墓地にあるカードのさまざまな側面を参照するようにしたのだ。一番手の届くところにあり、最もフレイバーに富んでいたのは、「アーティファクトで作製」だった。それが作製の最も一般的な使い方である。セットデザイン・チームは、他のカードの性質を作製するクールなデザイン(そのうちの1つが今日の私のプレビューだ)がたくさんあることに気づいた。彼らが下したもう1つの決定は、カードを作製すると、フレイバーにまさに一致しているアーティファクトになるか、そうでない少数のカードではクリーチャーになるというものだった。私のプレビューはその後者の一例である。このセットには土地になるTDFCもあるが、それらはどれも作製によるものではない。これについても来週詳しく語ろう。

「不気味な船長の玉座」はこちら。

 作製メカニズムを作ることは、『イクサラン:失われし洞窟』がメカニズム的に何をすべきかを理解するための第一歩に過ぎなかった。来週は、デザインの他の多くの構成要素について掘り下げ、特に、最初の訪問で核となったメカニズム的なテーマを繰り返すことなく、我々が知っている次元を再訪する「背景」セットを作ることの難しさについて話すつもりだ。

地底世界のルール

 本日はここまで。いつもの通り、今日の記事や作製メカニズム、あるいは『イクサラン:失われた洞窟』そのものについて、諸君の感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、「地底を行く」その2でお会いしよう。

 その日まで、あなたが多くのクールなカードを作製しますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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