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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『統率者マスターズ』の語り手 その2

Mark Rosewater
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2023年7月24日

 

 先週、『統率者マスターズ』のカード個別のデザインの話を始めた。語るべき内容が多々あるので、今週はその続きとなる。

限りないもの、モロフォン
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 私の仕事の1つに、プレイヤーとのやりとりがある。そのため、デザインのリクエストが多く届く。ここ10年ほどで最も多かったリクエストの1つが、「私の(クリーチャー・タイプ)デッキのための統率者を作ってもらえますか?」だった。

 タイプ的テーマは非常に人気で、マジックには多くのクリーチャー・タイプがあり、我々は常に新しいそれらを作り続けてきた。多くのクリーチャー・タイプについて、プレイすることでメカニズム的な利益を得られる伝説のクリーチャーがあるが、それが存在しないクリーチャー・タイプはさらに多い。そして、プレイヤーがそれらを楽しむので、我々は新しいものをデザインし続けているが、まだ作ることが出来ていないクリーチャー・タイプは大量に存在するのだ。

 この話は、『モダンホライゾン』に向けてのハッカソンの間に始まっている。イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerと私はそれぞれに、マジックの歴史上のあらゆるメカニズムを使える、複雑さの高いサプリメント・セットを提案していた。我々は、1周間をかけて、専門のチームとともに、我々が想定した感覚を開発部のマネージャーたちに伝えるために充分なカードをデザインした。

 その週に、多くのカードをデザインしたのだ。私が常々デザインしたいと思っていたが入れるべき場所がなかったカードをデザインする、というのが私の思いついたことの1つだった。その中の1つが、万能のタイプ的ロード、つまり全てのプレイヤーが自分の好きなクリーチャー・タイプ向けの統率者にできる可能性があるものだった。歴史的正確性の観点から言うと、このカードがデザインされたのがハッカソンだったか初期展望デザインだったかは確かではない。展望デザインの初期にファイルに加えられたのは確かで、私はハッカソンで最初にデザインしたと記憶しているので、ファイルに入るより少し前にデザインされた可能性はある。

 このカードに必要とされたものは次のような条件であった。

  • 不特定マナ・コストを持つ必要がある。

     どのクリーチャー・タイプでも使えるようにするため、どのデッキにも入れられる必要があった。そのための最も明瞭で簡単な方法は、不特定マナ・コストを持たせることだった。

  • 5色の固有色を持つ必要がある。

     数が多くないクリーチャー・タイプで統率者デッキを作るのは難しい場合があるので、デッキにすべての色を入れられるようにしたかった。

  • クリーチャー・タイプを選べるようにする必要がある。

     大量のクリーチャーをプレイすることで利益を得られるカードを作ることは目的ではなかった。特定のクリーチャー・タイプをプレイすることで利益を得られなければならない。幸いにも、「クリーチャー・タイプ1つを選ぶ」は何年も前から使用可能になっていた。

  • 一般的に有用でなければならない。

     あらゆるクリーチャー・タイプと作用できる必要があるので、そのデザインは非常に柔軟でなければならなかった。つまり、与えられるボーナスは基本的にすべてのクリーチャーに作用しなければならない。

 それが全てである。デザインの目標は、わずか4つだった。問題は、それらがお互いに相性が良いとは限らなかったことである。例えば、不特定マナ・コストで5色の固有色を持つのは難しいので、文章欄内に色マナ・シンボルを入れる必要があった。

 最初に、すべてのクリーチャー・タイプにとって利益になるのは何かを考えた。私が思いついた最高の答え2つは、パワー/タフネスを増やすこととコストを減らすことだった。どのクリーチャーにもパワーとタフネスとマナ・コストは存在する。そこで私は、有色マナ・シンボルをカードに入れる方法の鍵となるものに気がついた。コスト減少効果を、不特定マナではなく有色マナに対するものにするのはどうだろうか。マナ・コストを{W}{U}{B}{R}{G}減らすことで、有色マナを各1点ずつ減らすのだ。それを書き下せば5色の固有色を持つようにできる。1つの能力で2つの目標を達成できることになる。

 このアイデアから、このカードにもう1つ能力を追加することができるようになった。これは『モダンホライゾン』で、あらゆるメカニズムが採用できるので、これに多相を持たせることでデッキが参照するあらゆるクリーチャーにできるというアイデアを採用した。他のタイプ的カードで参照するクリーチャー・タイプを選んだ場合のボーナスになる。このカードをとても気に入った私は、これを『モダンホライゾン』のプレビュー第1週のプレビュー・カードにしたほどだった。これは好評で、自分のクリーチャー・タイプ・デッキをついに成立させられたという感謝の手紙が大量に届いたのだった。

各色の大メダル
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 先週も言った通り、私は開発部にデベロッパーとして雇われた。しかし、私の目標はデザイナーになることだった。そのための鍵は、私がデザインできることを証明する機会を見つけることだ。その機会が訪れたのは、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldと話していたある日のことだった。

 リチャードは、ふと、マジックのデザイン・チームに参加したいと言ったのだ。(リチャードは他のゲームをデザインするためにマジックから離れていた。)私は、当時の主席デザイナーだったジョエル・ミック/Joel Mickに、リチャードをチームに迎えたら私にリードを任せてくれるかと聞いた。ジョエルは同意してくれた。そして、諸君御存知の通り、私は『テンペスト』のデザインを担当したのだ。

 大メダルは、モックスの我々版を見つけようとしていて思いついた。「新しいモックスを作る必要は本当にあったのか」と疑問を持つ向きもいるだろう。私の初のデザインで、多くのことがそれにかかっていたので、デザイン・チームでは人気があるとわかっていたことをさせたのだ。もちろん、モックスのように壊れたものを作るつもりはなかった。初期に開発部が少しばかりやりすぎたものの「訂正版」を作ろうとしたのだ。

 また、私は、少しばかり明確な変化を加えることを考えていた。デザイン・チームを率いるなら、興味深い方法で変更できることを見せたかったのだ。マナ・コストを変えただけのモックスを作りたくはなかった。我々が大メダルに加えた変更の元になったのは、『アルファ版』の「ラッキー・チャーム」だった。

 知らない諸君のために説明すると、「ラッキー・チャーム」とは『アルファ版』からある、プレイヤーが特定の呪文を唱えるたびにあなたが1点のライフを得るというアーティファクトのサイクル(《象牙の杯》《水晶のロッド》《骨の玉座》《鉄の星》《森の宝球》)である。「ラッキー・チャーム」は、特に強くはなかったが、人気だった。私は、特定色の呪文を唱えるたびにちょっとした何かが得られるというあり方が気に入っていた。そこで、私が『テンペスト』のためにカードをデザインするにあたり、ライフを得させる以外の何かをする、新しい「ラッキー・チャーム」のサイクルを作るというアイデアを採用した。

 大メダルは、私が2種類のアーティファクトのサイクルをデザインしようとしていたときに、それらが1つにまとまったものである。1つ目のサイクルは、「訂正版」モックスだった。2つ目のサイクルは、「ラッキー・チャーム」の調整版だった。「ラッキー・チャーム」サイクルで使うことができる効果の一覧を作っていたときのことだった。能力の1つが、該当色のマナ1点を加えるというものだったが、同一ターンに呪文2つを唱えるのでなければ意味がなく、それは特にゲームの序盤においてはあまり起こらないということに気がついたのだ。そこで私は、「効果」として1マナ減らすというアイデアにたどり着いた。私が気づいた時点で、モックスを作ったようなものだった。最終的に、モックスとも「ラッキー・チャーム」とも違うものになったが、組み合わさってクールなアーティファクトのサイクルになったのだった。

ゴブリンの太守スクイー

 ある日、私は『ビジョンズ』のデベロップの会議に参加していた。セットを編集に引き渡す直前の会議だったと記憶している。《連続突撃》のフレイバー・テキストを読んで、私はゴブリンの童謡/ときの声という前提は気に入ったが、全体としては改善の余地があると感じた。ビルは、その会議が終わるまでに別の候補を出せば変更できると言った。

 そこで、そのデベロップの会議の進行中に、私はそのフレイバー・テキストを書いたのだ。ビルはそれを気に入り、採用した。(現在の工程とは全く異なっている!)フロッグという名前がどこから出てきたのかは覚えていないが、スクイーは私が思いついた中で最もゴブリンらしい「tree」と韻を踏んだ一音節の名前だったのだ。

 それから1年弱の時が流れ、マイケル・ライアン/Michael Ryanと私はマジック・ブランド・チームに提案するためのウェザーライト合の乗組員を作っていた。コミックリリーフが必要で、マジックでは、特に当時は、コミック・リリーフにふさわしいのはゴブリンだった。マイケルは、ゴブリンにいい名前はないかと聞いてきた。私はあると答えた。「スクイーはどうだい。」

 ウェザーライト・サーガの物語(『テンペスト』ブロックの物語)の第1章で、スクイーにはあまりやることはないが、彼の見せ場を1つ作ることにした。レガシーのアーティファクトでスクイーが愛着を持つものがあり、それは《スクイーのオモチャ》に描かれていた(多くの人々は気づかなかったがこれは洒落である)。これは、このセットのスクイーのカードで彼が抱えている品である。

 ウェザーライト号が(《ヴォルラスの要塞》に潜入するため)《ラースの死の奈落》を通るとき、スクイーは厄介事に巻き込まれ、ジェラードは彼を救わなければならなくなる。そしてスクイーは怯え、彼の「オモチャ」を握りしめる。そして結果的にジェラードは《操り骸骨人形》から救われることになる。物語上のこの瞬間が起こせるように、このアーティファクトはダメージ1点を軽減するのだ。

 これら全ては、スクイーを特徴づけているのは彼の幸運であるという事実が導かれる。そこで数年後、『メルカディアン・マスクス』での彼のカードをデザインしていて、私は、彼の幸運を扱うことにした。彼が死ねないという事実は、彼が不死であるということを意味するのではなく、運命が彼を愛しているように見えるということを示唆しているのだ。本来は、このカードは単純に彼が死なないとしているだけだった。文字通り「スクイーは死亡できない。」という常在型能力だったのだ。ルール上、これは作用しないので、我々はフェニックスや《ボガーダンの鎚》をもとにした回答を思いついた。彼は単純に、墓地から戻って来続けるのだ。このカード・デザインは後に、筆者が文字通り彼を不死にする元になるが、それは私の意図したものではなかったが面白かった。

歯と爪

 私が初代『ミラディン』のデザイン提出文書を提出したとき、デザイン・ファイルにはエネルギー・メカニズムが含まれていた。当時主席デザイナーだったビル・ローズは、そのセットには複雑さが少しばかり多すぎると感じた。私の解決策は、エネルギーを取り除くことだった。エネルギーは、かなりの空間を占めていて、セット内の他のものとあまり相互作用していなかったので取り除くのが比較的簡単だった。(もちろん、数年後の『カラデシュ』でエネルギーの居場所を見つけた。)取り除いたとき、私はインスタントやソーサリーで使われていたセット内唯一のメカニズムを取り除いた(親和、装備品、刻印はどれもパーマネントのメカニズムである)。そこでビルは、インスタントやソーサリーのためのメカニズムを見つけるように言ってきた。

 通常、最後のメカニズムが足りない場合、我々はそのセットを見て何がないかを考えることになる。このセットに足りないものは何か。私が見つけたものはこうだった。

  • そのメカニズムはインスタントやソーサリーに持たせるものである。

     これは今回の前提だった。

  • 可能なら、そのメカニズムはマナ消費先であるべき。

     「マナ消費先」とは、余剰のマナを支払えるカードのことである。長期戦で、プレイヤーはカードよりもマナが余る傾向にあるので、その余剰のマナを支払う方法を提供するのは良いことである。装備品はこの空隙を少し埋めるが、不充分だった。

  • そのメカニズムには選択が必要である。

     セットを見渡すと、選択が多くないことに気づいた。つまり、カードがすることの選択肢があるカードに持たせるということである。

  • そのメカニズムは直接的であるべきである。

     装備品は新規なもので、バランスをとるのが難しい。親和はコスト現象メカニズムで、危険であることで名高い。刻印はクールだが奇妙だ。最後のメカニズムは、説明や理解が簡単なものであるべきである。

 ビルがこの問題を解決するためにくれた時間は多くなかった。セットのデベロップメントをすぐに始めなければならなかったのだ。私は解決策を見つけようと頭を捻った。家に帰り、夕食を食べ、テレビを見て、床についた。長い日を過ごしたことで疲れ果てていたのだ。

 眠っている間に、私は夢を見た。そこで私はマジックをプレイしていた。ただのマジックではなく、『ミラディン』をプレイしていた。そして、見たこともないカードを引いた。そのカードには、双呪という名前の付いたこのメカニズムがあった。(夢の中で実際にその名前がついていたのだ。)目にしたこともなかった。私はそれを読み、非常にクールなメカニズムだと思った。余剰のマナを支払って両方のモードを選ぶことができる、モードを持つメカニズムだった。

 その瞬間に、私はこれは現実ではないと認識した。双呪はクールだが、このセットに入ってはいないのだ。そのとき、双呪をセットに入れられると思った。先に書いたすべての条件を満たしている。しかし、双呪を作ったのは誰だろうか。そのとき、双呪を作ったのは私だと気がついた。そこで、私は夢を見ているとわかったのだ。私は冷たい汗をかいて目覚め、即座に紙切れを掴んでそのメカニズムについて思い出せる限りすべてのことを書き留めた。それから夜通し、双呪カードをデザインし続けた。私はひどく興奮していた。

 その翌日、私はオフィスに行ってビルに解決したと告げた。私は彼に双呪のデザインを見せ、彼はそれを大いに気に入り、そしてその日のうちにそのメカニズムはセットに入った。こうして《歯と爪》に到る。このカードは、レアの緑の双呪カードが必要だったことから生まれたものである。良い双呪のデザインの鍵は、2つの効果それぞれが単体でも機能するが、組み合わせるとシナジーを持つ何かをするようにすることである。難しいのは、両方の能力が同じ色に属するようにすることだ。そして、《歯と爪》に関しては、両方がレアの緑の効果でなければならなかった。

 私は思いつく限りのレアの緑の効果を書き出し、組み合わせていった。最終的に、うまく組み合わせられる2つの効果を見つけた。緑はクリーチャーを教示者でき、緑は手札にあるクリーチャーを戦場に出せる。問題は、組み合わせた効果は通常我々がレアでやることだということだった。我々はその問題を解決するため、倍にした。これで、クリーチャー2枚を教示者したり、手札にあるクリーチャー2枚を戦場に出したりできる。2つ目の能力はマナを支払わないので、最も重いクリーチャー2枚を出せることになる。これで全体が成立して、素敵なカードが出来たのだった。

悲劇的な過ち
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 カードをデザインするとき、小さな決定にかなり集中するものである。ある理由から決定した結果として、そのカードが他の面でより良いものになることがある。《悲劇的な過ち》はその好例である。このカードの最初期のバージョンは、このようなものだった。

〈初期版悲劇的な過ち〉

{B}
クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは−1/−1の修整を受ける。
陰鬱 — 代わりに、そのクリーチャーを破壊する。

 このカードの問題点は、私が望むほど関連したものだと感じられないことだった。もちろん、クリーチャーに−1/−1の修整を与えることは傷つけるようなもので、殺すことの劣化版ではあるが、一足飛びに感じられたのだ。私が考えた訂正は、両方を−N/−N効果にすることだった。そうすれば、効果が似た別の効果ではなく大きさが異なる2つの効果になる。

 本質的には除去呪文なので、大きい方の−N/−N効果を非常に大きくすることができた。大きな数字だとなれば、その数字をいくつにするかははっきりしていた。デザインの初期に、ジェンナ・ヘランド/Jenna Hellandは、土地1つを破壊してクリーチャー1体にダメージを与える〈地獄口の中〉(最終的には《地獄の口の中》になった)というカードを作っていた。たしか9点だったと記憶している(今は赤はX呪文以外は6点を上限としている)。ゴシックホラーのセットを作っていたので、私は、いくつかの文化で不幸の数とされている13にした。それはすぐにテーマになり、デザイン上で13を多く使うようになった。そうなると、このカードが−13/−13の修整を与えるべきなのは当然だった。

 興味深いことに、このカードがクリーチャーを破壊するのではなく縮小させていることで、最終的にこのカードにいくつかの良い影響(破壊不能クリーチャーを殺せるなど)を与えることになった。これによって、トップタイアーの構築カードになったのだ。これは我々の目標ではなかったが、「クリーチャー1体を対象とする。それを破壊する。」から「クリーチャー1体を対象とする。それは−13/−13の修整を受ける。」への変更は、このデザインにとって素晴らしい恩恵となったのだった。

「そして最後に!」

 今日の記事はこれで終りである。この2週にわたるデザインの話を楽しんでもらえていれば幸いである。今日の記事や私の話したカード、あるいは『統率者マスターズ』に関する意見があれば、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、本年のデザイン演説でお会いしよう。

 その日まで、ここで語ったカードの一部あるいは全部をあなたが楽しくプレイできますように。
 

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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