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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『統率者マスターズ』の鎖

Mark Rosewater
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2023年7月12日

 

 『統率者マスターズ』カード・プレビュー・シリーズにようこそ。これからこのセットのデザインを解説し、関わったデザイナーたちを紹介し、そしてプレビュー・カードをお目にかけよう。

『マスターズ』の匠たち

 この記事の常に倣い、最初にその製品を作ったデザイナーたちを紹介したい。いつものように、デザイン・チームのリードにメンバーを紹介してもらおう。ガヴィンは本体セットと統率者デッキの展望デザインのリードを務めた。ブライアン・ホーレイは本体セットのセットデザインのリードで、コーリー・ボーエンは統率者デッキのセットデザインのリードである。

ここをクリックして『統率者マスターズ』を手掛けたデザイナー全員を見る

可能性のマスター

 『統率者マスターズ』というセットのアイデアは新しいものではない。我々が10年以上前にモダンマスターズというアイデアを思いついたとき、それを他のフォーマットに転用するのは簡単だった。問題だったのは、それをスケジュールに組み込むことだった。私はこの記事を書くに当たってガヴィン・ヴァーヘイにインタビューした(先述の通り、彼はこのセットの展望デザイン・リードだった)。彼は、何年もの間この製品を作ろうとしていたと言っていた。彼は最初、本流のセットにあった多人数戦でよく使われたカードに加えて『コンスピラシー』や『コンスピラシー:王位争奪』過去の多人数戦製品からカードを再録する「多人数戦マスターズ」セットとしてを提案した。

 統率者戦フォーマットの人気と統率者戦のための再録の需要のおかげで最終的に動き出すことになったのだ。一般的に、強力なカードは多人数戦で人気になることが多く、再録製品に入ることも多い。しかしながら、統率者戦での需要の中には非常に狭いものもあり、我々がもっともよく再録するカードという枠には簡単には入れることができない。統率者マスターズのセットを作れば、それらのカードを入れることができる。

 マスターズ製品でしなければならないことは、プレイヤーが望む再録を選ぶことと、楽しいリミテッド環境を作ることの大きく2つである。後者のほうが難しい。『統率者マスターズ』にはそれに加えて、これまで『統率者レジェンズ』と『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』の2回作ったことがある、統率者戦ドラフト製品でなければならない。

 その2回で学んだことは以下の通り。

教訓1—大量のカードが必要である。

 統率者戦ドラフトではカードを複数入れることができるが、統率者戦らしく感じさせるために同じカードを大量に入れることで決定づけられるフォーマットにはしたくない。統率者戦ドラフト・セットの性質上、プレイヤーたちが様々な伝説のクリーチャーを基柱にしてドラフトできるように多くの多様性が必要となるのだ。最後に、再録すべきカードが大量にあるので、スロットも大量に必要となる。『統率者レジェンズ』では、カードは451枚(コモン130枚、アンコモン135枚、レア135枚、神話レア35枚、基本土地15枚、《虹色の笛吹き》)あった。これは通常のドラフト・セットよりもかなり多い数である。『機械兵団の進軍』の本体セットは281枚だった。加えて、(ほとんどのセットには存在しない)ボーナス・シートのカードが106枚あった。合計すると387枚だが、これは『統率者マスターズ』の総枚数よりも60枚以上少ないのだ。

教訓2—大量の伝説のクリーチャーが必要である。

 統率者戦をプレイするためには、統率者が必要だ。リミテッドでいくらかのルールを調整できるが、統率者ルールは統率者戦の体験において非常に中心的なもので、必要だと考えた。ドラフトで成立させるため、プレイヤーに統率者の選択肢を大量に提供する必要がある。プレイヤーが統率者として1枚か2枚しか選択肢がなければ、そこには行為者感がなくなってしまう。これを解決するための鍵は、多くの伝説のクリーチャーを入れることである。セット内の451枚のうち、119枚は伝説のクリーチャーである(アンコモン55枚、レア48枚、神話レア15枚、《虹色の笛吹き》)。開封比はおよそ3である(つまり、『統率者マスターズ』のブースター1つの中には平均して3枚の伝説のクリーチャーが入っていることになる)。無色の伝説のクリーチャー3枚(うち1枚の固有色は5色)、単色の伝説のクリーチャー83枚、多色(2、3、5色)の伝説のクリーチャー32枚が入っている。

教訓3—色を変える方法が必要である。

 これは『統率者レジェンズ』セットからの貴重な教訓だ。プレイヤーが初期に統率者を選び、以降のドラフトではそのカードの固有色にあった色をドラフトするだけであれば、すぐに「レールの上」になってしまう。つまり、選択肢がほとんどなくなってしまうのだ。ブースター・ドラフトのクールなことの1つが、流れているものを見て途中で調整できることである。統率者戦ドラフトでうまくドラフトできるように、いくらか色を変えることができるメカニズムが必要なのだ。

 『統率者レジェンズ』では、共闘メカニズムがそれに当たる。ドラフトでは非常にうまく働いたが、構築環境では問題を引き起こすことになった。『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』をデザインしたとき、別の対策が必要だとわかっていた。そこで取られたのが、特定の単色の伝説のクリーチャーと組み合わせることができて繊細な色指標やメカニズム的テーマを与えるエンチャントの背景だった。

 『統率者マスターズ』のドラフト・ブースターで新しいカードをデザインすることはできない。マスターズ・セットのカードはすべて再録なのだ。チームでは、共闘や背景・カードの再録を検討したが、それではこのセットがこれまでの統率者戦ドラフト・セットと似たものになりすぎた。次に、展望デザイン・チームは伝説のクリーチャーの比率を高めることを試みた。大量にあるので、どれを自分の統率者にするかを好き嫌いできるようになるだろう。プレイテストの結果、それでもプレイヤーは統率者を先に選び、それを基柱にすることがわかった。

 この問題への解決策はカードではなくルールにあった。統率者リミテッドは、通常のリミテッドとは少し異なるのだ。先に、統率者戦ドラフトにはシングルトン・ルールがないという話をしたが、カードのドラフトの仕方も変えるのだ。これは、『ダブルマスターズ』でのドラフト上の問題を解決するために各ブースターの第1ピックではカード2枚をドラフトするようにしたことをもとにしている。

 以下の、彼らが思いついたルールは、統率者戦キューブのプレイヤーの間で人気のある既存のメカニズムに似ている。『統率者マスターズ』のリミテッドでは、固有色が1色以下のすべての伝説のクリーチャーは共闘を持つかのように扱う。この一文で世界が変わった。これによってプレイヤーは統率者を初期に取った後で色の流れを見てドラフトを調整できるようになった。『統率者レジェンズ』同様、2色目の伝説のクリーチャーが見つからなかったときに備えて《虹色の笛吹き》が追加されている。どのデッキにでも入れることができる伝説のクリーチャーだ。セットデザインの話でする通り、これはすべてを成立させるための鍵だったのだ。

 ガヴィンは、『統率者マスターズ』の統率者デッキ4つの選択も監督していた。通常、製品の発売に合わせた統率者デッキには、その製品の延長となるテーマがある。ガヴィン率いる展望デザイン・チームには、別のアイデアがあった。プレイヤーがずっと求めているが、発売スケジュールには入れられていなデッキを作る機会にするのはどうだろうか。

 デッキの話に入る前に、2つ、別の話をしておくべきだろう。これらのデッキにはそれぞれ10枚の新カード・デザインが入ることになった。通常、マスターズ・セットは再録だけのセットだが、統率者デッキにはテーマを新しい方向に向かわせるための新カード・デザインという道具が必要だと感じたのだ。また、特定の製品に関連したデッキでは、そのデッキに入れることができるキャラクターが制限されることが多い。『統率者マスターズ』では、デザイン・チームは必要なキャラクターを入れることができるのだ。

デッキ1:無色エルドラージ

 プレイヤーがずっと求めていたデッキの1つが、無色の固有色を持つデッキだった。実際、これは『統率者(2017年版)』で惜しくも採用されなかったテーマの1つである。『統率者マスターズ』には伝説のエルドラージが2枚あるが、そのようなデッキをドラフトで成立させられるほどの無色カードは存在しない。しかし、ガヴィン率いるデザイン・チームはその夢をどうにか実現したかった。カードの選択肢が少ない中で無色デッキをデザインすることは困難を極めた。加えて、無色のインスタントは多くないので、デッキに対応性能をもたせることも難しかった。最終的に、彼らはこのデッキの中心をエルドラージだけに限らず無色の大型呪文をプレイすることにした。

デッキ2:5色スリヴァー

 これも長い間プレイヤーに求められてきたテーマで、『統率者(2017年版)』で没になったテーマである。スリヴァー・デッキを作る上での課題は、5色の伝説のスリヴァーはいて、その中には強力なものもいるということである。このデッキは、スリヴァー・デッキがこれまでにしてきたことを繰り返すものであってはならない。デザイン・チームはこのデッキを別の方向に向かわせ、スリヴァー・プレイヤーに新しい道に挑ませる道具を与える方法を探さなければならなかった。このデッキには新デザインの単色スリヴァーのサイクルと、どんなタイプ的デッキでもうまく働くカードが入っている。(タイプ的とは、「特定のクリーチャー・タイプを扱うテーマ」のことである。)

デッキ3:白黒緑エンチャントレス・デッキ

 エンチャントも統率者戦で人気のテーマだが、デッキの殆どは緑白である。この機会にもう1色、エンチャントと関わりを持つ第3色である黒を追加した。このデッキをデザインする上での目標は、エンチャントと別の関わり方をするデッキを作ることだった。黒を加えたことで、このデッキは墓地を扱うことができるようになった。このデッキを他の緑白のデッキと差別化するための鍵は、軽いエンチャントを大量にプレイするのではなく大きくて重いエンチャントをプレイすることを中心にすることだった。

デッキ4:青赤白プレインズウォーカー

 ここまでの3つのデッキのテーマは、プレイヤーからの人気が高い需要を扱っていたので、すぐに決まった。しかし、最後のデッキのテーマを決めるのには時間がかかった。展望デザイン・チームは赤白黒「対戦相手に押し付ける」デッキを試していたが、楽しいものにはならなかった。また、緑青赤エネルギー・デッキも掘り下げていた。最終的に、他の製品で作るのが難しいと思われる、プレインズウォーカー・テーマを採用することにした。多くのプレインズウォーカーが『機械兵団の進軍:決戦の後で』で灯を失っているので、他の製品ではテーマ的にこのようなテーマは難しくなっているのだ。このデッキには統率者として使える多くのプレインズウォーカー・カードが入っている。(新しく統率者として使用できるデザインになったプレインズウォーカーもいる)。また、そのおかげでコーリーは印刷に至らなかった製品の中でカードがデザインされたキャラクターの《ガフ提督》を採用できた。

マスターズの戦い

 ガヴィン率いるチームがセットの展望をまとめて、そのファイルをブライアン・ホーレイ率いるセットデザイン・チームに引き継いだ。(先述の通り、この2チームの人員はかなり重複している。)セットデザインには、いくつもの課題があった。

課題1—このセットは通常のドラフト・セットよりもかなり大きい。

 先述の通り、統率者戦ドラフトでの需要から、ファイル内のカード枚数は膨らんでいた。セットのバランスを取る必要があるセットデザイン・チームには大きな影響がある。通常のドラフト・セットでは、変更するためには1〜2枚のカードを変更することになるが、『統率者レジェンズ』では4〜8枚変更しなければならなかった。それは一方で、我々が確立してきた基準が明確には成立せず、セットデザイン・チームがドラフトのバランスを取るために使える省力化ができなくなっていたということになる。

課題2—多人数戦ドラフトは難航しがちである。

 4人多人数戦の動きから、すべてがゼロサムとはいかないのでゲームが難航する可能性が高い。つまり、デザイン・チームは全体除去やゲームを終わらせるカードを増やさなければならないということである。そうなると、カードの平均パワーレベルが高くなる。幸いにも、デッキの平均パワーレベルを引き上げる、1色以下の伝説のクリーチャーは共闘を持つというルールがかなり有効に働いた。統率者戦ドラフトデッキは、構築済みの統率者デッキよりもパワーレベルは高くなる傾向にある。これはセットデザインやプレイデザインにかなりの圧力になった。

課題3—プレイヤーは伝説のクリーチャーを基柱にドラフトしたがるものである。

 統率者をドラフトに加えることは、そのセットのドラフトされかたに大きな影響を与える。プレイヤーは想起に少なくとも1枚の伝説のクリーチャーを取り、それを基柱にドラフトする。つまり、様々な伝説のクリーチャーのすべてが使えるようにするために、多くの自由度の高いテーマがなければならないということになる。伝説のクリーチャーの中に「罠」、つまりセット内に存在しないテーマをドラフトさせるようなことはしたくないのだ。2枚のエルドラージを例外として、ブライアンはすべての伝説のクリーチャーがドラフトの基柱にできると考えているが、中には他よりもずっと難しいものもあると指摘している。これのドラフトへの影響は大きい。これによって色の分類の仕方やテーマのつなぎ方、個別カードのデザインの仕方が変わるのだ。ドラフト・セットを作るときに、他の注意すべきことに比べてもなお注意する必要があるものがいくつも追加されることになる。

課題4—多人数戦ドラフトでは、アーキタイプはうまく作用しない。

 通常、ドラフト・セットでは、10組の2色ドラフト・アーキタイプがあるのが普通である。それぞれが、プレイヤーがドラフトの基柱にできるはっきりしたテーマを持つ。伝説のクリーチャーを基柱としたいという欲求と、それらすべてを成立させるための必要性から、デザインは明確なアーキタイプを外れてゆるいテーマに向かうことになる。これをブライアンはシナジー・クラスターと呼んでいた。『統率者マスターズ』における10組のシナジー・クラスターとその速度は以下の通り。

白青:アーティファクト(中速)
青黒:リアニメイト(低速)
黒赤:生け贄/コンボ(中速)
赤緑:パワー関連(低速)
緑白:カウンター/並べ(高速)
白黒:生け贄トークン(高速)
青赤:呪文(中速)
黒緑:トークン(低速)
赤白:装備品(中速)
緑青:ランプ(低速)

 これらの作業の結果、独特のドラフト体験が完成したので試してみてほしい。

 今日の締めくくりの前に、プレビュー・カードをお見せしよう。

ここをクリックして、昔のお気に入りの復活を見る

 本日はここまで。『統率者マスターズ』のデザインについての学びを楽しんでもらえたなら幸いである。この記事やこのセット全体について質問や感想があれば、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『統率者マスターズ』のカード個別のデザインの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが単色クリーチャーと共闘できますように。


(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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