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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『機械兵団の進軍』の学び その1

Mark Rosewater
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2023年3月29日

 

 『機械兵団の進軍』カード・プレビューの第1週にようこそ。今回は、先行デザインおよび展望デザイン・チームを紹介し、『機械兵団の進軍』のデザインを始め、そしてプレビュー・カード2枚をお見せしよう。楽しみにしてもらえれば幸いである。

健全で精密な『機械兵団』のデザイン

 我々がどのようにこのセットを作ったかを語る前に、まずチームの紹介から始めよう。(まずはデザインの初期のチームだ。セットデザイン・チームは来週紹介する。)

クリックして先行デザインおよび展望デザイン・チームを表示

『機械兵団』の歯車

 どのセットにもそれぞれの物語があるが、我々は何年にも渡る長大な物語を作ることが多い。ボーラスの長編物語では、我々は新しいことを試すことにした。巨大な物語の最終章を描いたトップダウンのセットをデザインしたのだ。私はそれを「出来事のセット」と呼んだ。ボーラスの長編物語では、そのセットは『灯争大戦』である。ボーラス率いる永遠衆の軍団と、既知のプレインズウォーカーほとんど全員がラヴニカで戦うことで終わりを告げた。

 『灯争大戦』は大胆な課題だった。ほとんどのセットにはプレインズウォーカーは少数しかいないので、プレインズウォーカーの大戦争の物語を描くのは恐ろしいことだった。しかしそれで見事な物語の完結を迎えさせたので、我々はそれを表すセットをどう作るかを考えたのだ。『機械兵団の進軍』はファイレクシアの長編物語の、出来事のセットである。『灯争大戦』同様、クリエイティブ・チームはこのセットが描くべき非常に壮大なアイデアを持っていた。

 このセットの物語について初めて聞いた時の私を、脚色付きでお届けしよう。物語と世界構築を監督しているのは、ダグ・ベイヤー/Doug Beyerである。(ここで協調しておきたいのは、そのために多くの人が尽力していることである。)

私:わかった。ファイレクシア人が新ファイレクシアを脱出する方法を見つけ、それで?
ダグ:奴らは侵略するのさ。
私:何を侵略する?
ダグ:多元宇宙をだ。
私:どの次元を?
ダグ:次元1つじゃないんだ。
私:わかった、じゃあどれどれの次元を?
ダグ:全部さ。
私:うん、「全部」というのは具体的に? 5個とか10個とか?
ダグ:いや、全部だ。マジックのセットやその他の関連商品で触れたことがあるすべての次元だ。
私:何千もの次元ということか? 何百か? 多元宇宙がどれだけ広いか、私にもわからないぞ。
ダグ:おそらく、すでに舞台にしたことがある次元に集中することになるだろう。
私:つまり、何十の次元ってところか?
ダグ:そうなる。
私:プレインズウォーカーの戦争を作るような興味深さがあるな。

 

 正直に言って、あまりにも巨視的なアイデアだったのでいくらか恐ろしかったが、挑戦を楽しんでこなければ28年間もマジックのセットを作っては来られなかった。私にとって、またデザイン・チームの面々にとっての鍵は、いい取っ掛かりを見つけることだった。このデザインの本質は何だろうか。幸いにも、それは先行デザインの初期に見つかった。私は、皆にそれを説明するために比喩を使った。次元は、『機械兵団の進軍』では、『灯争大戦』のプレインズウォーカーのようなものだ。

 さて、それは一体どういうことだろうか。それはつまり、セットのメカニズム的定義を様々な次元というレンズに集中させるということである。我々は先行デザインでかなりの時間を掛けてその意味を突き詰めた。最終的には、プレイヤーがお気に入りの次元を選び、それにセット内で輝かせる機会があるようにしたいのだ。ここから、次元を表す新しいカード・タイプというアイデアが生まれた。『プレインチェイス』には、様々な次元の様々な場所を表す次元・カードがある。私は、次元全体を表す何かを求めていた。

 また、多元宇宙のすべての住人たちとファイレクシア人との大戦争という物語を扱う必要がある。ここでも、我々はこの戦争の焦点を様々な次元というレンズで描く必要があった。我々はこれを、反攻する様々な次元に焦点を当てることで達成した。その次元についてよく知っていれば、カード1枚を見てどの次元のものかわかるようにするというアイデアだった。我々はクリーチャーの7割を連合代表にした。(連合とは、ファイレクシアがドミナリアに侵略した『インベイジョン』で呼んでいたものである。次元1つだけを侵略するもので、公式にはルール化されていない。)

 つまり、クリーチャーの3割ほどがファイレクシアンだということになる。ファイレクシアに関して、解決しなければならない問題が2つあった。1つ目が、ファイレクシアンで一杯のセット『ファイレクシア:完全なる統一』を作ったばかりであり、それらのファイレクシアンとクリエイティブ的には関係があると感じさせたいがメカニズム的には新しい空間を掘り下げたいということ。2つ目に、様々な次元のレンズを代表するファイレクシアンをどうすれば作れるのかということ。

 先行デザイン・チームはこれらの疑問を見つけるすばらしい仕事をしたので、展望デザイン・チームはそれらを解決しなければならなかった。

己の恐怖に両面せよ

 ファイレクシアンで様々な次元を表す必要があった。幸いにも、クリーチャーをファイレクシアンにするのが彼らの習性なので、我々は各次元を象徴するクリーチャーのリストを作った。例えば、ファイレクシアン・侍を見かけたら、どの次元からの存在かわかるだろう。そこで我々は、ファイレクシア化される前のその次元の自然の姿でクリーチャーを見せるともっとクールだろうと思いついたのだ。変身する両面カード(TDFC)は、もう1つ、『ファイレクシア:完全なる統一』になくてファイレクシアらしいものを作る方法を探すという問題の答えにもなった。これを伝説のクリーチャーにも使えるということに気づくまでそう時間はかからなかった。愛されているキャラクターたちがファイレクシア化される以上にファイレクシアの侵略のトラウマをえぐるものはない。(ああ、オムナス。)

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多元宇宙の伝説たち

 

 セットにTDFCを入れるとなれば、他の場所でも使うことができることになる。次に我々が掘り下げたのは、ファイレクシアン・クリーチャー・トークンを生成できるアーティファクト・トークンを作ることだった。これまで最高のアーティファクト・トークンは、手に入れた後、マナを支払ってリソースを得られるものだった。(手がかりや食物など。)コストを持たせることで、そのトークンを生成するカードを大胆なものにできるのだ。

 我々は、ファイレクシアンの一番の得意はファイレクシアンを増やすことだというアイデアを採用した。このアイデアの最初の形は、展望デザインで繭と呼んでいたもので(セット内では培養器となっている)、マナを支払って2/2のファイレクシアン・アーティファクト・クリーチャーを生成することができるトークンだった。そのクリーチャーの大きさが変動できればさらにクールになるとは考えたが、どうすればそれができるかは思いつかなかった。すべての培養器・トークンがクリーチャー・トークンを得るためにそれぞれ異なるマナの量を支払う必要があるとはしたくなかったのだ。また、プレイヤーがこのメカニズムを使うたびに2種類のトークンを使う必要があるようにもしたくなかった。その解決策は、両面カードにあったのだ。

 まず、ファイレクシアン・クリーチャー・トークンを生成してクリーチャーでないアーティファクト・トークンを1枚のカードにまとめたらどうだろうか。そう、史上初の両面トークンである。(正確に言うなら、史上初なのは2つの面がメカニズム的に関連して働く両面トークンである。)そうなれば、+1/+1カウンターを使うことができる。変身するパーマネントはカウンターを保持するし、クリーチャーでないパーマネントの上に+1/+1カウンターを置くことはできる。(クリーチャーになるまで何もしないだけである。)こうして、このメカニズムは、クリーチャーでないアーティファクトの面を表にしてトークンを生成し、メカニズムの値に等しい数の+1/+1カウンターを置くものになった。固定のコストとして、第2面であるクリーチャーに変身するための{2}は存在する。変身すると無色のファイレクシアン・アーティファクト・クリーチャーになる。両面トークンをルールが扱えるかという議論はあったが、問題なく処理できるようになった。

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培養器 // ファイレクシアン・トークン

 

 次に、5人のファイレクシアの法務官を再登場させることがわかっていた。(最終章には5人の大敵が勢ぞろいしなければなるまい。)そこで、彼らを表す新しい方法が必要となった。いくつかの選択肢をセットデザイン・チームに提示した。そのほとんどにはTDFCが含まれていた。そして、セットデザインは、英雄譚に変身する法務官を使うことにした。

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次元ブースター・ファン

シリアル番号入り法務官

 ファイレクシアンを表すTDFCの使用によって、「変身関連」を対立のファイレクシア側全体のテーマにすることができた。また、ファイレクシアンというクリーチャー・タイプ関連も可能になる。『ファイレクシア:完全なる統一』では、セットの中でファイレクシアンが占める割合が大きすぎたので控えたのだ。TDFC、変身関連、ファイレクシアン関連によって、このセットのファイレクシア部分を『ファイレクシア:完全なる統一』のカードとうまく組み合わせられる一方で雰囲気を近すぎるものにしないような、独自の雰囲気をもたらすことができた。

 TDFCの最後の使い方が、私がどうしても掘り下げたかった新しいカード・タイプのアイデアに取り組むことだった。まず前提として、私は各次元それぞれのカードを作りたいと考えており、それぞれの次元を表すカードは1枚だけにしたかった。その次元そのものを表すべきか、それともその次元が迎える戦いを表すべきかもわかっていなかった。興味深いことに、前者を中心にして始めたが、最終的には後者が中心になったのだ。

 最初期のバトルは、「次元」と呼ばれていた。(もちろん『プレインチェイス』のカードが次元なのはわかっていたが、正式名をどうするかはまだ検討していなかった。)我々は様々なものを試していた。その一部をお見せしよう。

  • コントローラーに、毎ターン1回使える能力と、その次元を生け贄に捧げることで使える大きな能力を与える、戦場に出るパーマネント。
  • コントローラーが切り替えられる、カード3枚の束として戦場に出るパーマネント。
  • コントローラーがいることを示すカウンターを置き、その次元にいる間はコントローラーが能力を使えるというパーマネント。ターンに1回、次元から次元に移動できる。
  • 別のデッキから戦場に出てコントローラーに能力を与えるパーマネント。同時に有効になるのは1つだけ。
  • 毎ターンコントローラーに能力を与えるパーマネント。さらにカウンターを得て、一定数に達したら大きな効果に繋がる。

 展望デザインの終わりに我々が提出したのは次のようなものだった。

〈アモンケットへの門〉

土地 ― 砂漠
これはタップ状態で戦場に出る。
{T}:{B}を加える。
{2}{B}, {T}:これを追放し、その後、変身した状態で戦場に戻す。その後、これにプレインズウォークする。これが忠誠度を持たなくなったなら、これはマナ能力でない全ての能力を失う。起動はソーサリーとしてのみ行う。
//

〈次元、アモンケット〉

土地 ― 砂漠・次元
{T}:{B}を加える。
あなたがコントロールしているクリーチャー1体が攻撃するたび、防御プレイヤーは1点のライフを失う。
{4}{B}, {T}:これにプレインズウォークする。
あなたがここにプレインズウォークするたび、白の2/2のゾンビ・クリーチャー・トークン1体を生成する。
忠誠度2

 

 当時、これは土地だった。次元はカードの第2面が持つ土地タイプだった。第1面は必ずマナ能力と、そのカードを次元面に変身させることができる、多くはマナを必要とする起動型能力を持っていた。次元面は、常在型(または誘発型)能力と起動型能力を持っていた。そして、その面に「プレインズウォーク」したときの1度だけの効果があった。次元はプレインズウォーカーと同じような忠誠度を持ち、対戦相手は攻撃することでマナ能力以外の能力を止めることができるのだ。

 これは最終的なバトルとは全く違うが、その話は来週セットデザインの話でする。今日のプレビュー・カードの1枚はバトルなので、その最終形を見て、この状態からどう進化したのかを想像できるだろう。

クリックして「ドミナリアへの侵攻」//「セラの信仰守り」を表示

いずれ変わらぬ多元宇宙

 ファイレクシアンと各次元での戦いの描写がデザインの大部分ではあったが、それ以外にもファイレクシアンと戦う多元宇宙の住人たちを描写しなければならなかった。先述の通り、このセットのほとんどは攻撃者ではなく防御者に焦点を当てている。大きな疑問は、どうやってそれを表すかだった。

 そして、扱うべき鍵となる要素は協力であると判断した。共通の敵ほどに人々をまとめるものはない。その協力感を描くため、我々は2つのメカニズムを採用した。1つは再録メカニズムで、もう1つは新規メカニズムだ。その再録メカニズムが召集である。召集は、初代『ラヴニカ:ギルドの都』のデザイン中にボロス・ギルドのためにリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが作ったものである。私はそのメカニズムを気に入ったが、1ヶ所だけ変更を加えた。協力するギルドと言えばセレズニアなので、セレズニアのメカニズムにしたのだ。

 召集は好評だった。(他の様々なメカニズムとともに)『未来予知』で再登場した。その後、再登場メカニズムとして、『基本セット2015』でも採用した。『ラヴニカのギルド』で再登場した唯一のギルド・メカニズムである。また、初代『モダンホライゾン』でもよく使った。我々は、協力するというフレイバーが必要なとき、チームワークを表しうるあらゆる既存のメカニズムを集めた長大なリストを経て召集に至ったのだ。まずリストの分量をある程度に減らし、チーム内でどれが一番使いたいかの投票をした。(その結果を元に掘り下げる順番を決めるつもりだった。)召集が圧倒的に勝ったので、まず試してみることにした。召集をセットに入れると非常にうまくいったので、それで決定とした。

 もう一方のメカニズムは印刷に到るまでにもう少し手がかかった。賛助(デザイン中は応援/boostと呼ばれていた)は、クリーチャー同士を相互作用させるためにアリ・ニーが作ったものである。すべての賛助クリーチャーは、そのターン他のクリーチャーに与えられる能力を持つ。。賛助能力には、必ず数がついている。賛助Nを持つクリーチャーが戦場に出たとき、クリーチャー1体を対象としてそこに+1/+1カウンターN個を置くのだ。賛助を持つクリーチャー自身に置くのでなければ、そのターンの間そのクリーチャーの持つ能力をカウンターを載せたクリーチャーに与える。実際の文章はこうだ。

賛助N(このクリーチャーが戦場に出たとき、クリーチャー1体を対象とする。それの上に+1/+1カウンターN個を置く。それがこれでないクリーチャーなら、ターン終了時まで、それは以下の能力を得る。)

 

 Nは数である。このセットでは、この数は1か2である。大きな賛助数も試したが、そうするとこのメカニズムの中心が能力を与えることではなく+1/+1カウンターになってしまうのだ。多くの場合に、ただし必ずではなく、自身以外のクリーチャーを選ぶことが有利になるような正しいバランスにすることが、セットデザインやプレイデザイン・チームにとっての興味深い挑戦だった。

 もう1つ、先行デザイン中に生まれたアイデアが、組み合わさった伝説のクリーチャーである。たしかこれは、2つの別々の問題を解決しようとしたものだと思う。1つ目が、これは通常の対立とは違い、より巨視的なものであるということを示す方法が必要だったこと。2つ目が、『機械兵団の進軍』はすべての次元を舞台とするので、可能な限り多くの名前付きキャラクターをカード化したかったということ。こうして、通常は協力することがありえないような2人のキャラクターが共通の敵に対して力を合わせるという状況が生まれた。これによって、伝説のクリーチャー・カードにできるキャラクターの数も倍になったのだ。

 最初の提案では異なる次元からのキャラクターを組み合わせることにしていたが、それはクリエイティブ・チームの考えた対立の形にそぐわなかった。次元を越えているのはファイレクシアンだけなので、我々は同一の次元から珍しい組み合わせとなるキャラクター2人を選ぶことになったのだ。展望デザイン・チームは、ファイレクシアンと戦う次元のクールなものを入れたボーナス・シートも提案していた。これについても来週詳しく語ろう。

 他にも、この対立を示すために展望デザインがしていて印刷に至らなかった提案はいくつもある。それらについては、『機械兵団の進軍』の展望デザイン提出文書を公開する時に語ろう。

 ここまでが展望デザインの話になる。それでは、今日の締めくくりに入る前にもう1枚のプレビュー・カードをお見せしよう。

クリックして「ザルファーの槍騎兵」を表示

 本日はここまで。いつもの通り、今日の記事や私が語ったメカニズム、『機械兵団の進軍』そのものについての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『機械兵団の進軍』のセットデザインの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたがファイレクシアの魔の手から多元宇宙を守れますように。
 

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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