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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

得られた教訓 その2

Mark Rosewater
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2023年3月20日

 

 先週、私がデザインや展望デザインの、リードあるいは共同リードを務めたセットから得た教訓を語ってきたポッドキャストの「Drive to Work」というシリーズをもとにした「得られた教訓」という新シリーズを始めた。セットごとに、その製品をデザインすることから得た最大の教訓を語っていく。先週は『Unhinged』まで進んだので、今日は初代『ラヴニカ:ギルドの都』から始めよう。

『ラヴニカ:ギルドの都』(2005年10月)

教訓「構造はテーマに従うべき」

 『ラヴニカ:ギルドの都』は、私が主席デザイナーになって初めてリードを務めたセットだった。先週言った通り、私はブロックのデザイン、つまりマジックの1年間のセットを、最初の大型セットを完成させる前に企画することに注目していた。その年の最初の大型セットのデザインは、全体像の中で各セットがどのような役割を果たすかに依存するのだ。言い換えると、ブロックには事前に計画された構造が必要だ、となる。今日ではそれもあるが、扱いはもう少し難しいものになっている。

 『ラヴニカ』は、前の多色ブロックであった『インベイジョン』と違う多色ブロックを作るという目標のもと始まった。『インベイジョン』は可能な限り多くの色をプレイすることをテーマにしていたので、『ラヴニカ』は可能な限り少ない色をプレイすることをテーマにすべきだと考えた。多色で最も少ない色数といえば2色である。また、友好色と対抗色を構造上均等に扱うことにした。ここに到るまでは、我々は友好色の組み合わせを好むことが多かった。これは友好色のほうが協力して働くことが多いというフレイバーを再現したかったからである。(ちなみに、対抗色より友好色のカードのほうが多い理由がこれである。)私は、選択肢が多いほうがマジックは楽しいものであり、そのフレイバーは無視できないほどは重要でないと強く感じていた。

 ともあれ、最初の『ラヴニカ』のプレイテストには2色の組み合わせ10組と、私がかつて作って居場所を探していた新しいもの、混成マナがあった。そのプレイテスト後に、ヘンリー・スターン/Henry Stermという開発部員がやってきた。曰く、「私は世界選手権で2回連続トップ4になったことがありますが、これは難しすぎます。いったいいくつの束を作らなければならないかわかりません。」と。他のプレイテスト参加者に聞いたところ、誰もが同じように感じていたことがわかった。一方、当時クリエイティブ・ディレクターだったブレイディ・ドマーマス/Brady Dommmermuthは、フレイバー的にこれらの2色の組み合わせ10組をどう表すかに取り組んでいた。そんなある日、彼は、ギルドが大量にある街の次元というアイデアを思いついたのだ。

 ここで、『ラヴニカ:ギルドの都』の重要な教訓に行き着くことになる。私はブレイディのギルドという概念を気に入り、ヘンリーが提示してきた複雑さの問題に対処しなければならないと認識した。そこで、この考えがひらめいたのだ。このギルドをブロック全体に分配したらどうだろうか。大小小のブロック構造を踏まえて、私は4-3-3を提案した。セットのギルドのテーマを重視し、そのテーマを強調する構造を使うことを計画したのだ。当時、これは過激なアイデアだった。人々は、各セットに各色の組み合わせを少しでも入れるべきだと口々に言ってきたが、私は決して譲らなかった。ブロックを成立させるためには、明確で集中したメッセージが必要なのだ。これによって各セットは単純化され、ブロック全体に明確な構造ができた。『ラヴニカ』は、我々の作ったセットや次元の中で最も成功したものの1つとなり、おそらくは以降のデザインに最も影響を与えたセットとなったのだ。

『未来予知』(2007年5月)

教訓「ユーザーを理解せよ」

 『ラヴニカ』ブロックは、私の主席デザイナーとしての最初のブロックだった。そこでは、10個のテーマを選び、それを3つのセットに分配する、いわば「パイ方式」を使った。『時のらせん』は2つ目のブロックだったので、別の方式を試したいと考えた。このブロックには時間というテーマがあったので(新しいメカニズムの待機と刹那があり、常盤木キーワードとして瞬速を導入した)、このブロックをそのテーマに合うような構造にする方法を探したのだ。私は、同じテーマを違う方法で見ることができるような構造を求めていた。時間を3つに分割するにはどうしたらいいか。答えは一見して明らかだった。過去、現在、未来だ。

 過去部分は簡単だった。そのセットで、マジックの過去を振り返る大量のことをすることができる。古い枠の古いカードが入っているタイムシフト・シート(ボーナス・シート)のアイデアは、過去というテーマを掘り下げていて浮かんだものである。現在と未来は少し難しかった。現在について、私は、マジックが過去においてメカニズム的にもクリエイティブ的にも違う選択をした結果のもう一つの現実である現在というアイデアを思いつき、それらの選択の結果のマジックはどうなっていたかを描いた。しかし、未来は最も難しいと思われたので、私がリードを務めることにしたのだ。(ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanが『時のらせん』のデザインのリードを、ビル・ローズ/Bill Roseが『次元の混乱』のデザインのリードを務めた。)

 最終的に、我々は、『未来予知』ではプレイヤーにあり得る未来を覗き見させることにした。マジックでしたことがないメカニズム要素やクリエイティブ要素を詰め込んだタイムシフト・シートを作った。デザインした中には、既存のメカニズムを選び、今までなかった形で組み合わせた組み合わせカードがあった。これらの結果、このセットにはそれ以前のマジックに存在していたほとんどのキーワードが登場していた。

 『時のらせん』ブロックは、その中でも『未来予知』は特に、それまで見たこともなかったことをしたのだ。全認定イベントを含む組織化プレイは好調だったが、売上は落ち込んだ。これまでは、この2つの指標は同調していることが常だった。セットが認定イベントでよくプレイされたら、売上も上がっていたのだ。この2つの指標が逆を向いたのは、史上初めてのことだった。

 最初我々は困惑したが、それには原因があるので、我々はそれをつきとめた。もっともプレイしているプレイヤーたちは、「熱心なプレイヤー」である。彼らは、マジックに最も打ち込んでいる人たちだ。多くは認定イベントに参加して、オンライン・コミュニティの大部分をなしている。彼らは最も献身的なプレイヤーであり、もっとも可視性が高いプレイヤーである。このグループは、『時のらせん』が大好きだった。これはマジックへのラブレターであり、彼らはそれに浸っていたのだ。過去のメカニズムが大量に使われていたが、彼らは最初からそれらを知っていたので楽しめたのだ。

 もう1つのグループが、いわば「不可視の人々」だった。彼らはマジックをプレイしているのだが、可視性はない。彼らは認定イベントに参加せず、サイトでのアンケートにも答えず、我々が観測できるインターネットでもあまり発言しない。このグループについて我々が情報を得る手段は、いわゆる「深掘り」、一般に向けて大規模に質問をすることだけである。深掘りは実行が難しく、多くのリソースを必要とするので、他の市場調査に比べて頻度が低くなる。

 我々が認識したことは、「不可視の人々」は大きなグループだということだった。熱心なプレイヤーに比べると平均として購入量は非常に少ないが、ユーザーの中に占める割合はずっと大きいのだ。不可視の人々は、『時のらせん』ブロックに追い出されたのだ。あまりにも入り組んでいた。あまりにも多くのメカニズムがあり、テーマには既存のカードの知識が大量に必要だった。「このカードは君の知らない2枚のカードの組み合わせなんだ。このカードは君がプレイしたこともないカードの別の現実バージョンだ。このカードは我々がしたことのないあることをほのめかしているよ。君は我々がそのことをしたことがないということを知らないけど。」彼らにとってこのブロックは過剰だったので、離れたのだ。

 つまり、ここので教訓は、すべてのユーザーを理解することに関するものになる。一番わかっているユーザーに焦点を当てるのは簡単だが、それではほとんどの人を満足させる製品を作ることにはならない。この教訓の副産物として、一部のユーザーに頂点を当てるべき時期や場所が存在する。サプリメント製品だ。これが、我々が『モダンホライゾン』を作った理由である。『時のらせん』ブロックが大好きだったユーザーがいるので、我々はそれらのユーザーに向けた製品を提供した。しかし、ごく普通の本流のセットはより多くのユーザーを意識しなければならないのだ。

『シャドウムーア』(2008年5月)

教訓「テーマをやりすぎることはある」

 『ラヴニカ:ギルドの都』のデザイン中に、私は混成マナを思いついた。私はそれに惚れ込んだ。伝統的な多色カードは「アンド」で、混成カードは「オア」なのだ。独特のデザイン空間を扱うものであり、新しいシナジーを生み出した。『ラヴニカ』ブロックでは多くのことをしていたので、混成マナは少ししか使わないことにした。各ギルドに、垂直サイクル(コモン1枚、アンコモン1枚、レア1枚)1つだけだった。これは斬新なものだったので、少しだけ入れることは充分筋が通っていた。私は、いつかセット内で大きな役割を占めることができる日に再登場させるつもりだった。

 そして1年が過ぎた。この年、基本セットでない4つ目の本流のセットを作る方針だったので、私は大型セットと小型セットからなる小型ブロックを2つ作るということを思いついた。それらは、変化を通じて次元の2つの面を表すのだ。最初の小型ブロックの『ローウィン』は、クリーチャー・タイプをテーマとしていた。2つ目の小型ブロックの『シャドウムーア』には、『ローウィン』とシナジーを持つ、ただしまた別のテーマが必要だった。クリーチャー・タイプのように小型ブロック内で意味を持ち、別のブロックでも登場できる特徴は何だろうか。色はどうか。『ローウィン』のカードのほとんどは1色以上の色を持っている。色が意味を持つセットを作ることは可能で、そのためのメカニズムもある。

 私がデザインを始めた時点で、その目標は可能な限り多くの混成を入れることだった。我々は最終的に、半分にした。私は、これははっきりした主張だと感じたのだ。実際、このセットを発表したとき、サンプル・ブースターから最初に見せたのはルール文が書かれていないカードだった。名前と、マナ・コストと、アートと、枠だけが書かれていたのだ。これは、このセットがどういうものかをはっきり示していた。

 このセットからの教訓は、いいことでも多すぎることはある、ということである。混成マナは「色関連」セットの中心として素晴らしい仕事をしたが、あまりにも多く入れすぎたのだ。本来あるべきよりも多くの色の曲げが必要となってしまい、このセットはそれによる制限に苦しめられたと言えるだろう。「可能な限りの混成を入れる」という目標は問題なかった。半分というのが多すぎると、セットの発売前に気づくべきだったのだ。

『イーブンタイド』(2008年7月)

教訓「ユーザーの視点を理解せよ」

 『イーブンタイド』の教訓は、『シャドウムーア』の教訓の派生である。セットの半分を混成にすることにした結果、友好色混成のデザイン空間を使い切っていた。その問題への解決策は、『イーブンタイド』を対抗色混成にすることだった。『インベイジョン』ブロックではセットを友好色(『インベイジョン』と『プレーンシフト』)と対抗色(『アポカリプス』)に分けていて、うまく言っていたので、これが自然な解決策に思えたのだ。

 問題は、この2つのセットを組み合わせてドラフトをするということだった。『インベイジョン』ブロックは可能な限り多くの色を使うことに焦点を当てていたので、友好色の組み合わせと対抗色の組み合わせを同じデッキに入れることは難しくなかった。そのブロックでは、プレイヤーに可能な限り様々な色マナの発生源を取るように示していたのだ。当時は、私はそれに警戒していなかったのだ。私は、『シャドウムーア』ブロックは単色でプレイするものだと考えていた。実際、すべてのマジックの中で、1色だけをプレイする(基本土地タイプ1つだけを使う)ことが最も簡単なセットなのだ。最初に開封した『シャドウムーア』のブースターから色を選び、その色をドラフトするだけだ。黒を選んだなら、『シャドウムーア』のブースターでは青黒や黒赤の混成カードをドラフトし、『イーブンタイド』のブースターでは白黒や黒緑の混成カードをドラフトするのだ。単純な話だ。

 ここに問題があった。私は、デザイナーとして考えていた。本質的に、『シャドウムーア』ブロックのドラフトのテーマは単色だったが、それはドラフトする中でプレイヤーが学ばなければならないことだった。『シャドウムーア』からのメッセージは、「これは友好色のセットだ」なので、プレイヤーは友好色のデッキをドラフトした。『イーブンタイド』からのメッセージは、「これは対抗色のセットだ」なので、プレイヤーは対抗色のデッキをドラフトした。この2つのものは、今回のようにマナ基盤がなければ特に、自然に両立するものではない。

 もちろん気づいたプレイヤーもいたが、多くはそうではなかった。彼らはそのセットが示したメッセージに従おうとし、結局はプレイできない状況に陥ったのだ。我々の責任である。前回言った通り、プレイヤーにそのセットが求めるものを正しく伝えるのはゲームデザイナーの仕事なのだ。振り返ってみると、『シャドウムーア』と『イーブンタイド』は、混成マナの比率を抑えて単色テーマをもっと明確に打ち出したほうがよかっただろう。

『ゼンディカー』(2009年10月)

教訓「プレイヤーがしたいことをしたら利益があるようにせよ」

 『ゼンディカー』は、私が土地のメカニズムを基柱としたセットというアイデアにこだわったことから生まれた。私が、扱ったことがないと気づき、またそれで何かクールなことができると確信していたテーマだったのだ。ただし、その確信を共有していた開発部員は少なかった。当時の上司だったランディ・ビューラー/Randy Buehlerは、私が提示した5カ年計画の最後にこれを置いた。そして、実際にそのセットを作る時期になると、ビル・ローズは私率いるチームに3ヶ月でテーマを証明するように言ってきたのだ。彼を満足させられなければ、セットのテーマを変えなければならない。ビルは通常そういうことはしないので、彼が心配しているのは明らかだった。

 我々は最初の3ヶ月(当時はデザインとデベロップの2工程で、デザイン期間は1年間だった)のほとんどを土地のメカニズムに費やした。私が、40種類以上のメカニズムを思いついたと言ったのは大げさではなかった。我々が多くの時間を費やしたものの1つが、土地プレイを他のことへのリソースとして消費できるというメカニズムだった。例えば、土地プレイを消費して、+1/+1カウンターを置くことができるクリーチャーがいた。我々は、土地プレイに別の機能を持たせるという概念に興味があったのだ。

 このメカニズムのプレイテストで、問題が発生した。ほとんどの場合、戦術的に正しいプレイは、土地が手札にあれば土地をプレイするために土地プレイを使い、そうでないときに他の目的で土地プレイを使うことだった。こうすることで、毎ターン使えるリソースになるのだ。しかしプレイテストではそうは使われなかった。彼らは土地をプレイすること以外のことに土地プレイを使うことに魅せられて、土地をプレイすることよりもそれを優先したのだ。そしてマナ不足により負けることになる。これはもちろん楽しくなかった。

 そして我々は、当時は常識外れだったアイデアを思いついた。このメカニズムを逆転させよう。土地をプレイしないことではなく、土地をプレイすることで利益を得るようにするのはどうか。こうして上陸が生まれたのだった。当時の懸念は、実際にはリソースを費やしていないということだった。いずれにせよプレイヤーは土地をプレイするのに、それで利益を得られるようにする理由は何か。多くの疑念はあったが、我々はプレイテストする価値はあると判断した。

 前回のプレイテストと異なり、これは夢のようにうまく行った。もともとしたいことをすることで利益を得られるのは素晴らしいものだと感じられた。何かをただでできるようなものであり、すべてのプレイテスターが気に入ったのだ。ここから、今回の教訓が得られた。ゲームデザイナーとしての我々の目標は、プレイヤーにゲームを楽しんでもらうことである。すべてのことが、プレイヤーが選択肢を比較しなければならないような精神的負荷である必要はない。もちろん、緊張と厳しい選択が必要な時や場所はあるが、プレイヤーがしたいことをすることでプレイヤーが利益を得るようなメカニズムも作れるのだ。これは私にとってまさに天啓で、マジックのデザインへの取り組み方を再考させられることになった。ただプレイヤーにどう考えさせるかだけを考えるのではなく、プレイヤーにどう感じさせるかも検証しなければならない。よいデザインの鍵は、プレイヤーがそれをプレイすることを楽しむことである。この基準において重要なのが、何をプレイヤーに求めているのか、それがプレイする時の情緒的感覚にどう影響を与えるかをよく理解することなのだ。

日々の教訓

 今日の記事はここまでとなる。その3もいずれ書くが、それはすぐではない。機会を見つけて、このシリーズを続けていこう。いつもの通り、今日の記事やこれらの教訓についての諸君の感想を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『機械兵団の進軍』のプレビューが開始する日にお会いしよう。

 その日まで、すべての活動に学びの要素がありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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