READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『イニストラード:真紅の契り』 その2

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2021年12月13日

 

 先週から、『イニストラード:真紅の契り』に関する諸君の質問に答えている。大量の質問があったので、今週もさらに答えていこう。

両セットでフラッシュバックを使うことは検討しましたか? 切除がやりたいすべてのことができると思いますし、テーマにとらわれないものではありますが、途中で終わりになるのは奇妙だと思いました。

 

 『イニストラード:真夜中の狩り』と『イニストラード:真紅の契り』に繋がりを感じてはほしかったが、一方で、それらを2つの別々のセットであると感じてもらいたかったのだ。『イニストラード:真紅の契り』のセットデザイン・チームは、フラッシュバックを使うとあまりにプレイが似てしまうので、使わないことにしたのである。日暮/夜明の再録は、人狼をスタンダードでうまく組み合わせてプレイできるように連続性が必要だったことから認められた。降霊も連続したが、『イニストラード:真紅の契り』ではクリーチャー→クリーチャーではなくクリーチャー→オーラになり、別物になっている。

『イニストラード:真紅の契り』と『イニストラード:真紅の契り』統率者を作るにあたって、それらのデザイン・チームはどれぐらい連携していましたか?

 

 『イニストラード:真夜中の狩り』の展望デザインの時点では、『イニストラード:真紅の契り』はまだ存在していなかったので、考慮もしていなかった。『イニストラード:真紅の契り』の展望デザインが始まると、『イニストラード:真夜中の狩り』のセットデザイン・チームと『イニストラード:真紅の契り』の展望デザイン・チームの間で絶え間なく意見交流が行なわれていた。エリック・ラウアー/Erik Lauerが両セットの最初の数か月のセットデザインを率いていたので、彼はそれらの共通点や相違点に気づいていた。腐乱が『イニストラード:真夜中の狩り』で使えることや、『イニストラード:真紅の契り』で降霊のオーラ版が使えることに気づいたのはエリックだったのだ。

 開発部は、同じ次元を舞台にするセットだけでなくどのセットでも、セット感で起こっていることについて情報交換し、すべてのリードがそれに応じて行動できるように尽力している。マジックをデザインするという中には、大局的に見るために一歩引くことも含まれるのだ。

MID&VOWのような小ブロックは今後も出てくる可能性がありますか?

 

 現在の新システムでは、ふさわしいと感じたときに次元にとどまるという柔軟性が認められている。例えば、2022年には、続けてドミナリアを舞台とする2つのセット(『団結のドミナリア』と『兄弟戦争』)がある。こういった可能性は今後もあるだろうが、定期的な予定に組み入れられるものではないことを強調しておこう。そのセットにふさわしいと感じられたときに、起こるのだ。

なぜ切除/Cleaveという単語が選ばれたんですか? このメカニズムをこの単語に決めた工程を教えてください。

 

 メカニズムに名前をつける場合、2つ大きな目標がある。1つ目が、プレイヤーがそのメカニズムの機能を思い出す助けになるよう、そのメカニズムがすることを描写するものであること。2つ目が、可能なら、その次元のフレイバーを強化するために使えるものであることである。切除は、ルール文を切り取ることができるようにするメカニズムなので、我々は「切る/cut」の同義語を探した。イニストラードはゴシックホラーの次元なので、不気味な側に寄ったものを探すことにしたのだ。切除は「斧を持った恐ろしい殺人者」の雰囲気がある「切る」という単語だったので選ばれたのである。

切除の反響についてどう思いますか? #MTGvow

 

 切除は、特に最近においては、メカニズムの中でも賛否両論寄りのものである。肯定的否定的を問わず、プレイヤーは強い印象を受けた。私の記事をよく呼んでいる諸君は御存知の通り、ゲームデザインにおける私の自明の理の1つに、「誰もが気に入るものでも、誰も愛さないものなら、それは失敗である。」というものがある。(これは私が「Game Developers Conference」のスピーチで述べた20の教訓の1つである。動画(英語)や記事で紹介している。)

 この教訓では、否定的なものが含まれていても、強い反響を呼び覚ますことことの重要性について語っている。我々は一部のプレイヤーが嫌悪しても一部のプレイヤーが心の底から称賛するようなものを作りたいと考えており、切除はまさにそこに当てはまるのだ。誰もが称賛するほうがいいのだろうか。もちろんだ。それが可能ならいいことなのだが、マジックのプレイヤーにはいろいろいて、それぞれがマジックに求めるものが違っているのである。

『イニストラード:真紅の契り』にレンがいないのはなぜですか? チャンドラやケイヤがMIDにいたので、VOWではレンがソリンやゲートウォッチを助けるところが見たいと思っていたのですが。

 

 マジックのセットを作る上での課題の1つが、物語の鼓動を伝えることができるようなカードを見つけることである。最も重要なものについてはそのためのカードをデザインするが、カードにう場所を見つけられないような繊細な鼓動は存在するものだ。レンは『イニストラード:真紅の契り』の物語の一部だが、登場させる場所を見つけることができなかっただけである。物語上で誰が何をしたかを知りたいなら、ストーリー記事を読むことをおすすめしよう。

血・トークンについて、他にどんなデザインを試しましたか?

 

 さまざまなものについて、議論したりプレイテストしたりした。(Nはまだ未定の数字を表している。)

  • クリーチャー1体の上に+1/+1カウンター1個を置く。
  • ターン終了時まで、クリーチャー1体は+N/+Nの修整を受ける。
  • 占術N
  • 諜報N
  • 対戦相手1人はN点のライフを失う。
  • プレイヤー1人かれらN点のライフを吸収する。(そのプレイヤーがN点のライフを失い、あなたがN点のライフを得る。)
  • 引いて捨てる。(捨てて引く、ではなく。)

デザイン・チームが伝説のナメクジや2匹目の伝説の蛙を作りたいと考えたのはなぜですか?

 

 どのセットにも、いくらかの愉快さがあるようにしたいと考えていると思う。イニストラードのセットはいくらか暗くなってしまいがちなので、プレイヤーが見て笑うようなものを入れることが多いのだ。

リミテッドのセットの寿命はどう考えていますか? 「このセットはリミテッド期間中にX回のFNMでドラフトされるだろう」と考え、そのXがデザインに影響を与えているということはありますか?

 

 セットが主にリミテッドでプレイされる期間は発売後3か月(基本的には次のセットが発売されるまで)だが、といってそのセットがその後何年もにわたってプレイされることがない、というわけではない。その後何年もドラフトできるように、お気に入りのセットを取っておくプレイヤーは珍しくないのだ。また、フラッシュバック・ドラフトはデジタルプレイの定番になっており、そうなると発売からかなり時間の経ったセットを再訪することもできる。我々は、さまざまなゲームのデザインについて考えられているのと同じように、プレイヤーがずっとプレイすることができるものになってほしいと考えているのだ。つまり、そのXは我々がセットのリミテッドをデザインする上で大きな影響を与えるものではない、ということになる。

「血・トークン」の可能性としてエネルギーの衣替えは考えられましたか?

 

 いいや。一番最初から、血はアーティファクト・トークンにしたいと考えていた。実際、その能力が何になるかが決まるよりずっと前から、血がアーティファクト・トークンになることはわかっていた。

 これにはいくつかの理由がある。1つ目に、吸血鬼が使うだけでなく血自身にも能力を持たせたいと考えていたが、カウンターではそれは不可能である。

 2つ目に、リソースとしてのカウンターには大規模な構造が必要となり、セットの中で占める範囲が広くなってしまう。血・トークンをほぼ『イニストラード:真紅の契り』の吸血鬼部分に収まるようにしたかったのだ。

 3つ目に、その種の実装には新しいシンボルが必要となるが、それをこのセットでしたくはなかった。

吸血鬼化するのがオドリックだというのはずっと変わりませんでしたか?#MTGvow

 

 実際、そうではなかった。最初のアイデアでは、吸血鬼化するのはサリアになる予定だったが、そのアイデアを掘り進めていくうちに、ユーザーが好むのはそうではないとわかってきたのだ。そうなるとサリアのサリアらしさは失われてしまう。一方、オドリックのほうが人生を過ごしており、過去のキャラクターの成長に矛盾しない興味深いキャラクターの変化になると考えられたのである。

吸血鬼のネタで、あえて使わなかったものはありますか? #MTGvow

 

 ほとんどない。使わなかったのは、ゴシックホラー世界になじまないと感じられたものだけである。私が忘れているものについてはわからないが、何かはあっただろうと思う。吸血鬼はゴシックホラーに非常に似つかわしいので、その素材のほとんどはきちんと成立したのだ。

ドラキュラのコラボはどうやって決まったんですか? #MTGvow

 

 いい機会に巡り合って、実行した。それだけだ。ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」は著作権が切れているので、ライセンスを取る必要はなかった。他の知財をマジックのメカニズムに組み込むことがどんどん増えているので、我々は既存のカードで表せるようなものを探し続けている。『イコリア:巨獣の棲処』でのゴジラ・プロモの評判は上々だったので、最近セットを作るときは、一部のカードの表装としてうまく働く知財はないか考えることにしている。『イニストラード:真紅の契り』では、ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」がうってつけに思われたので、採用した。

血は吸血鬼だけのメカニズムになるんですか、それとも他のクリーチャーも作れるようになりますか?

 

 血・トークンに関するルールは、血・トークンであることがふさわしいことだけであり、吸血鬼に縛られるものではない。他の文脈で使われることもありうるだろう。

どうやって、結婚式という素材の斬新さとホラーのバランスをとったんですか? #MTGvow

 

 イニストラードでの吸血鬼の結婚式というアイデアの中で我々が気に入ったことの1つが、吸血鬼にはもともと堂々たる雰囲気があることである。初代『イニストラード』で、我々は怪物同士を差別化するため、吸血鬼をその次元における貴族と位置づけた。吸血鬼はいつでも綺麗な衣装をまとっているので、その美意識から結婚式は容易に導かれたのだ。

血でもあるアーティファクト・クリーチャーは存在したことがありますか? #MTGvow

 

 初期のファイルには、「アーティファクト・クリーチャー ― 血・エレメンタル」である血・エレメンタルがあったと記憶しているが、それはそれほど芳潤なカードではなかった。もう少しこの次元らしいものを入れるためにボツになったのだろう。もしかしたら、いつか、トップダウン要素にそれほど頼っていない次元で見かけるかもしれない。

エドガーとオリヴィアの間に明確なシナジーがないのは、この結婚が政略結婚であることを表しているんですか、それとも単に別々にデザインされたからですか?

 

 その2枚は反シナジーというわけではなく、コンボのためにデザインされたものではないというだけである。私はそれが、この結婚が一緒になりたい者同士のものではないという事実に帰結すると考えている。オリヴィアは力のためにエドガーを操っている。もし結婚式のセットでそのカップルが本当に愛し合っていて結婚もその2人が永遠をともにするためのものだったなら、我々はその2枚の間に象徴的なつながりをデザインしたことだろう。実際、伝統的な結婚式で象徴的なつながりを持つ品々である、《花嫁衣装》と《新郎衣装》はそのようにデザインされている。

吸血鬼のほとんどが黒赤なのに、なぜエドガーはマルドゥ3色でなく白黒なんですか?

 

 主な理由は2つある。1つ目に、このセットにはリミテッドで3色を組むようなマナ基盤はなく、多色は2色に限っている。そのためエドガーはその最初のカードで使った3色のうち2色にしなければならなかったのだ。白黒を選んだのは、オリヴィアが黒赤、オドリックが赤白であり、吸血鬼の色のうち2色の組み合わせそれぞれに伝説の吸血鬼がいるようにしたかったからである。

 2つ目に、エドガーの1枚目のカードは定番の統率者なので、それと衝突するようなものにはしたくなかった。赤白黒のエドガーを使いたいなら、すでにそこにあるのだ。今回は、別の基柱となるエドガーなのである。

もし、MID-VOWに続く第3のセットを作るとしたらどうしますか? ゾンビのセットですか?

 

 『イニストラード:真紅の契り』では吸血鬼にするかゾンビにするかを決めるのに少し時間をかけていたし、おそらくそうだろう。ゾンビにはスピリットよりは多くのポップカルチャー的素材がある。ゾンビの葬式とかどうだろうか。

「ハネムーン」というカードがこのセットにないのはなぜですか? 《ハネムーンの霊柩車》はありますが、実際の月もこのセットにふさわしかったと思いますよw

 

 おそらくどこかの時点では「ハネムーン」カードはあったと思われる。《ハネムーンの霊柩車》で充分ハネムーンという表現になっているということで、そこに追加のスロットを割り振ることはしなかったのだろう。トップダウン・セットでは、入る場所が見つけられなかったが実際にカードにできていたらクールだったろうというクールなアイデアはあるものなのだ。

狼男・吸血鬼・クリーチャーを作ることは検討しましたか?

 

 初代『イニストラード』のデザインで、「混線/crossing streams」と呼ばれていた議論があった。複数種類の怪物であるクリーチャーは必要だろうか。最終的に、トップダウンのセットであり素材空間において怪物はそれぞれ別のグループであることが多かったので、いらないと判断した。ただし、怪物たちが共存していて怪物の素材空間にそれほど依存していない別の次元ではありうるかもしれないが、私は、イニストラードのセットに関しては起こらないだろうと考えている。

なぜ『イニストラード:真紅の契り』レアで人間・トークンを生成する4枚のうち1枚だけが訓練持ちの1/1を生成するんですか? 『イニストラード:真夜中の狩り』で腐乱は大量に強力に使われていましたが、訓練のために魅力的なデザイン空間を温存しているように思います。

 

 腐乱は不利益な能力であり、訓練は有益な能力である。不利益な能力をトークンに持たせるのは、それを生成する効果に柔軟性を持たせられるのでずっと簡単なのだ。加えて、我々は開発部語の「5セント貨の上に1セント貨」問題、つまり自身の上に(+1/+1カウンターなどの)カウンターを置く能力を持つトークンを作ることに注意するようにしている。高レアリティで少数はするが、その頻度はできる限り低く抑えようとしているのだ。

なぜ《遠吠えの月》は呪いじゃないんですか? テンプレートには当てはまっています。

 

 テンプレートに当てはまっているとは言えない。呪いは、「エンチャント(プレイヤー)」を持つエンチャントで、そのプレイヤーに不利益な能力を与えるものである。《遠吠えの月》は、自分に有益な能力を、対戦相手に不利益な能力を与える。このカードの能力が2つ目のものだけで、対戦相手につけるものだったなら、呪いになっていたことだろう。

なぜこのセットの人狼のほうが人狼セットよりも強いんですか?

 

 同じメカニズムを使ったセットを続けて作る上での課題の1つが、第2セットのカードを作る際のプレイデザインの選択肢を制限することに繋がるので、最初から強くしすぎないことである。人狼は、日暮/夜明メカニズムの性質から、非常によく似たメカニズム空間に集まることになり、ほとんどの場合は同じデッキに入るので、そのデッキのスタンダードでありうる重要な要素のいくらかを第2セットに温存する必要があったのだ。今回の場合、プレイデザインは『イニストラード:真紅の契り』を手掛けている間に、『イニストラード:真夜中の狩り』での人狼の動きを把握して、人狼をもう少し強化する余地があると気づいたのだろう。

「各ターンに1回」の能力がかなり多くなっています。これは今後も続く傾向でしょうか、それともこのセットに限ったことでしょうか?

 

 それはおそらく、このセットだけのテーマではなく、進行中の変化の一部だと言えるだろう。本質的に、良いゲームデザインはプレイヤーが対策すべき制約を準備することである。勝利という目的を果たすことを簡単にするつもりはない。それは常に課題であり続けるべきなのだ。必要ならいつでも何度でも使える上限のない能力を持たせることは望ましいことに思えるが、それは魅力的なゲームプレイからは遠ざかる。良いゲームの目標は、勝つことや負けることではなく、課題に取り組む楽しいことができるようにすることなのである。つまり、制限は重要な道具だということである。

真夜中の時

 本日はここまで。今回も、質問を送ってくれた諸君に感謝すると同時に、回答できなかった諸君には申し訳なく思っている。いつもの通り、私の回答やこのセットそのものについての諸君の意見の感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。質問をするのが好きなら、私が私のブログ(Blogatog)で質問に答えていることを覚えておいてもらいたい。

 これから休みをいただくが、1月に再開するときには開発部語の話をしようと思っている。

 その日まで、あなたが『イニストラード:真紅の契り』を楽しく掘り下げられますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索