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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『イニストラード:真紅の契り』 その1

Mark Rosewater
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2021年12月6日

 

 各セットごとに、私は1回か2回、セットに関する諸君からの質問に答える一問一答記事を書くことにしている。今週と来週で、諸君の『イニストラード:真紅の契り』に関するさまざまな質問に答えることにしよう。

 私のツイートは次の通り。

現在、『イニストラード:真紅の契り』の一問一答記事を書いている。この新セットに関する質問があれば、1問1ツイートで送ってくれたまえ。#WotCStaff


 

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 それでは、質問に入るとしよう。

なぜサリアの新カードがないんですか?


 

 《スレイベンの守護者、サリア》は、マジックのデザインにおける二律背反の素晴らしい例である。このカードは『闇の隆盛』で初登場した。つまり、『イニストラード:真紅の契り』発売前の時点で、モダンや各種エターナル・フォーマット(統率者戦、レガシー、ヴィンテージなど)で使えていて、スタンダードやパイオニアでは使えなかった。このカードは強力で、競技フォーマットでもプレイされていたのだ。

 これを再録するということは、スタンダードやパイオニアのプレイヤーがこれを使えるようになるということである。これは彼らにとって大きな利益になる。一方、モダンやエターナル・フォーマットをプレイしているプレイヤーはすでに《スレイベンの守護者、サリア》を使うことができている。再録した場合、新しいカードをデザインする機会が失われ、彼らは新しいものを手に入れることができなくなるのだ。加えて、ヴォーソスも人気キャラクターの新しい姿を見ることができない。

 難しいところは、1枚分しかスロットがなく、どちらの選択をしても一部のプレイヤーは満足し、一部のプレイヤーは不満に思うことだった。全員を満足させる選択肢は存在しないので、我々はカード個別に判断をするしかない。再録することに決めたのは、我々が再録したいカードの中で再録したのを見てスタンダードやパイオニアのプレイヤーが心を躍らせるであろうカードの選択肢ほうがずっと少なかったからである。

 対照的に、他方を満足させる新しいデザインのカードの可能性は大量にあるので、今回の場合は《スレイベンの守護者、サリア》を再録することに決めたのだ。

今後も血・トークンは出てきますか?


 

 私は、それらのアーティファクト・トークン・リソース(手がかり、宝物、食物、血、など)は2つの理由から実質落葉樹になると考えている。1つ目に、フレイバーに富んでいて汎用的であること。ほとんどの次元にはそれらの要素が存在している。2つ目に、それらは単純な処理をする傾向にあるので、シナジーを作り出す方向を見つけるのが難しくない。血を例に取ってみよう。

 マジックはクリーチャーを中心に据えた戦闘のゲームであり、つまりクリーチャー対策になる呪文は必ず存在することになる。これが、血が頻繁に登場するという基本的な理由だ。赤ルーター(捨てて引く)はすべてのゲームで有用な能力であり、特に墓地テーマを持つセットではシナジーが高い。そして、墓地テーマを持つセットは頻繁に作られている。赤ルーターと噛み合うメカニズム的テーマを持ち、少しばかり地を見るようなセットが新しく作られることは想像できるだろうか。もちろん、できる。つまり、私は、血・トークンの未来を感じているのだ。

なぜコモンに両面カードの吸血鬼がいないんですか?


 

 意図的に除いたわけではないと思う。セットデザイン・チームは変身する両面カード(TDFC)を何枚もデザインしており、そのほとんどはトップダウンのデザインで、メカニズム的にコモンがふさわしいものはコモンになった。吸血鬼の開封比は高く、高いレアリティにはクールな吸血鬼のTDFCもあったので、彼らがコモンのTDFCが吸血鬼になることを特に忌避していたわけではないと思われる。

 セットをデザインするにあたって注意すべきことの1つは、あらゆる判断にそのテーマを選ばないことである。テーマを伝えるために必要な影響を持つのに充分な選択はすべきだが、やりすぎてセットが一次元的に感じられるようにすべきではないのだ。

なぜ、「大アマゾンの半魚人」をもとにしたイニストラードのカードは存在しないんですか? ミイラ以外の古典的怪物が登場しない怪物映画なだけでなく、ミイラとは違って、イニストラードの世界観にも合うと思います。


 

なぜイニストラードにはマーフォークがいないんですか? 海を舞台としたホラー文学の多くでは欠かせない存在なのに。


 

 「大アマゾンの半魚人」の怪物は、イニストラードの各セットのデザイン中にトップダウン・カードとして作られていた。今思い出せるだけでも3枚あり、その中には初代『イニストラード』のカードもあり、それらはすべてマーフォークのクリーチャー・タイプを持っていたはずだ。なぜそれらが印刷されなかったかについては、一般的な回答と、個別の回答が存在する。

 一般的な回答としては、イニストラード・セットには部族(人間、スピリット、吸血鬼、狼男、ゾンビ)という大テーマがあり、これによってクリーチャーの空間がかなり取られてしまっている。独特なカード1枚を作る可能性はあるが、そのスロットを競い合うカードは大量に存在しているのだ。

 個別の回答としては、イニストラードの裏にあるテーマが「人間が怪物になる」というものであることがある。主要な怪物4つは、怪物になる前は人間だったものばかりだ。イニストラードのセットには他の怪物もいるが、それらを人間型にすることは避ける傾向にある。「大アマゾンの半魚人」がカードになっていない理由はおそらくこれだろう。我々はまたイニストラードに戻るだろうし、その素材はずっと出続けるだろうから、いつか印刷されたとしても驚くには当たらないと思う。

『イニストラード:真紅の契り』の吸血鬼対策カードよりもずっと多くの狼男対策カードが『イニストラード:真夜中の狩り』にありました。吸血鬼は、狼男よりも強くなっていると思われます。セットのショーケースとなるテーマに関して、どのあたりにバランスがあると思いますか?


 

 これは私の専門分野からは少々離れるので、プレイデザイン・チームに行って聞いてみた。私が聞いた限り、これが起こったのは、日暮/夜明が予測しにくかったので、問題が起こったときに備えて多くの安全弁を組み込んだからだという。長年マジックのセットのバランス取りをしてきて、理解できていない驚異に対する対策を入れることの重要性はわかっている。

 それに比べると、吸血鬼は、プレイデザインが理解している範囲にあるので、問題を低減するための対策カードにあまり依存しなかったのだ。これらはつまり、バランスがいいところというのは、そのテーマが問題を起こす可能性にかなり依存するということである。予測不能性の分散が高ければ、必要な対策は多くなるのだ。

指標となる伝説のアンコモンがこのセットに存在しない理由はありますか? また収録されますか?ブロールやカードパワーの低い統率者戦向けに最高なんです。


 

これまで、リミテッド向けの10組の色の組み合わせで、実用的だったりそうでもなかったりする、テーマを表現するよく似たレアやアンコモンが大量にありました。これはほとんど定型になっています。何か変化させる予定はありますか?


 

 この記事には、繰り返されているテーマがある。マジックのプレイヤーは、全員が同じものを望む一枚岩ではない、というものだ。親しみやすさを優先するプレイヤーもいれば、革新を優先するプレイヤーもいる。その両方を満足させるためにはどうすればいいか。うむ、まず、マジックのセットには基本となるテンプレート、つまり何らかの理由で何らかの変更が必要となることがない場合の作成方法が存在する。

 マジックのデザインを建築になぞらえる私が好んで使う比喩がある。家を建てる最初の数か月を見る限り、ほとんどの家は同じように見える。家の基礎を作る基本的な方法があり、それはほとんど家の建て方なのだ。やがて、家の作りによって違い始めるときが訪れ、完成した家はまったく違う姿になるのだ。マジックのセットでもほとんど同じことが起こる。マジックのセットはマジックのセットらしくある必要があるので、中核部分はそれほど変わらない。その構造の上にある装飾部分が、雰囲気を変えるのだ。

 アンコモンの2色の指標カードが伝説のクリーチャーであるかどうかは、変化しうる。そのセットで求められるものに依存することになる。伝説のクリーチャーが特別なものだと感じられないようになるほどの量にならないようにしながら、大量に欲しがるプレイヤーを満足させるだけの伝説のクリーチャーを入れるというバランスを取ろうとしている。

 その大きな構造自体もまた、変化しうる。アンコモンの指標カードは常に伝統的な金色のカードではないが、それが標準である。しかしながら、さまざまなアーキタイプがすることを示し、ドラフト・プレイヤーが特定のアーキタイプを見つけ出す助けとなる何かは必要である。

 我々がたどるべき道はこうだ。マジックの中核デザインには、ユーザーが正しいと思うよりずっと多くの柔軟性がある。例えば、技術的にはマジックのカードであって、どのカードも単体では理解できるが、全体としての体験はまったくマジックのゲームらしくないようなセットになってしまうことはありうる。

 先の比喩を続けるなら、伝統的な装飾品がない家を建てることはでき、それは技術的には家かもしれないが、全く家らしくない、ということになる。マジックらしく感じさせるだけの構造が必要だが、すべてのセットが単なるマジックのセットと感じられることがないよう、各セットごとに独自のメカニズム的クリエイティブ的特徴があるようにしなければならないのだ。

 つまり、アンコモンの伝説のクリーチャーである指標カードがあるセットや、その役割を果たす他のものが存在するセットが今後も出るということである。我々は、可能な限り親しみやすく革新的にするために尽力しているが、一方で、そのどちらかの方向に寄せていくこともあるのだ。

このセットでは、友好色でドラフトするほうが敵対色でドラフトするよりも簡単に見えます。『イニストラード:真紅の契り』で一部のアーキタイプにサポートを寄せ、『イコリア:巨獣の棲処』のようにするのは計画したものでしたか? 一部のギルドが入ったセットのように?


 

 標準の話をすると、これがドラフトのためのマジックのセットの構造である。5組の色の組み合わせに、5つの主な戦略を割り振ることが多い。2色が標準で、ほとんどの場合は友好色か敵対色になる。これらの主な戦略は特に注目され、ほとんどの場合はそのセットの主なテーマを扱うことになる。主なテーマを扱うカードの枚数は最も多く、何度もドラフトするプレイヤーがそのテーマのいくつものフレイバーを試すことができるように多用性を持つことが多い。これらがもっともドラフトされる戦略となる。

 次に、第2の戦略5つを作る。これらは主な戦略と異なる色の組み合わせであることが多い。これらはほとんどの場合2色だが、3色であることもある。通例、これらのテーマはいくらかわかりにくく、ドラフトするのには少しばかり経験が必要となる。全体としての量は主な戦略よりも少ないがシナジー性が強く、うまくドラフトする方法を知れば強くなる傾向にある。これらの戦略はセットの大テーマに関わっているが、それほど直接ではない。これらが2番目にドラフトされる戦略となる。

 最後に、アンコモン以上のレアリティに、数枚の基柱カードがある。これらは、初期に取れば新奇なドラフト戦略を取ることができるカードである。これらの戦略をドラフトすることは少ないが、上級ドラフト・プレイヤーには新しく掘り下げるべき道となる。

 『イニストラード:真紅の契り』の主な戦略は友好色5組で、それぞれがその色の組み合わせに対応する怪物/人間のフレイバーに焦点を当てている。第2の戦略は敵対色5組である。つまり、質問者の観測は正しかったのだ。

開発中、マッドネス・メカニズムをこのブロックに戻すことは検討されましたか? 血・トークンとシナジーがありますよね。


 

 マッドネスは『オデッセイ』ブロックの『トーメント』で初登場した。このブロックは捨て札のテーマがあり、マッドネスで通常不利益なことを有利なことにすることができたのだ。その後、マードネスは『イニストラードを覆う影』で、赤黒の吸血鬼のものとして再登場した。マッドネスをイニストラードのセットに再登場させるなら、既にそうしていたので、吸血鬼のものにしなければならないだろう。

 問題は、『イニストラード:真夜中の狩り』や『イニストラード:真紅の契り』(そして過去のイニストラードのセットも)には、クリーチャー・タイプごとに1つしかメカニズムがないので、吸血鬼にマッドネスを与えると、それが吸血鬼のメカニズムになることになる。血・トークンをどうしても使いたいと考えていて、両方を使うことはできないので、我々は血・トークンを選んだのだ。

 とはいえ、広いフォーマットのプレイヤーが、『イニストラードを覆う影』ブロックのマッドネスを持つ吸血鬼を使えることはわかっているので、血・カウンターとマッドネスが両方存在する吸血鬼デッキを作ることができる場所はあるだろう。

『イニストラード:真紅の契り』で、血・トークンだけに集中せずに多くのメカニズムを入れた理由はありますか?


 

 過去のイニストラードのデザインでそうだったように、我々は5つの主要なクリーチャー・タイプ(人間、スピリット、吸血鬼、狼男、ゾンビ)それぞれを定義づけるようなメカニズムを1つずつ与えている。そのメカニズム的定義すべてがキーワードなわけではないが、『イニストラード:真紅の契り』ではそうだった。血はほぼ吸血鬼に限られている〈特に使い手は)ので、大量に使うことはできなかった。

エルドラージはなぜいないんですか?フレイバー・テキスト、アート、大患期の後にイニストラードがエルドラージをどう片付けたかの印などはあるのに。


 

ウルヴェンワルドの奇異》はメカニズム的にもフレイバー的にも『異界月』を連想させるものに思えますが、これをエルドラージの痕跡にすることは検討しましたか?


 

 なぜエルドラージがいないのか。それにはメカニズム的とクリエイティブ的それぞれの理由がある。メカニズム的には、このセットのテーマにセットの焦点を当てるためである。

 『イニストラード:真夜中の狩り』統率者と『イニストラード:真紅の契り』には、それぞれ3つずつ主な目標があった。1つ目が、初代『イニストラード』の雰囲気に戻し、ゴシックホラー色を強めて『イニストラードを覆う影』ブロックで扱ったコズミックホラー色を抑えることである。2つ目が、各セットに全体的なイニストラードらしさがある一方で、それぞれで特定の部族(『イニストラード:真夜中の狩り』では人狼、『イニストラード:真紅の契り』では吸血鬼)に焦点を当てることである。3つ目が、それぞれのセットを出来事(『イニストラード:真夜中の狩り』統率者では収穫祭、『イニストラード:真紅の契り』ではオリヴィアとエドガーの結婚式)中心にすることである。エルドラージをカードにすることは、望まぬ方向に焦点をずらすことになる。

 クリエイティブ的には、(既知の)エルドラージはエムラクール、ウラモグ、コジレックの3柱しかいない。ウラモグとコジレックは現在死んでおり、エムラクールはイニストラードの月に封印されている。過去のセットで登場したことエルドラージ・カードはどれもこの3柱のどれかと関連していた。文字通り、それらの一部なのである。忘れてはならないのは、エルドラージは久遠の闇に棲まう異界の存在で、我々が理解できるような形で存在してはいないということである。エルドラージがある次元に存在するためには、そのエルドラージはその次元で自由でなければならず、現時点では3柱ともそうではないのでエルドラージ単体としては存在できない。エムラクールが自由になったことを示すとしても、それは必要な物語ではない。

 『イニストラード:真夜中の狩り』の一問一答記事2本目の中で、物語の重要なポイントは月による昼/夜のサイクルであり、それはエムラクールの行動の直接の結果なので、エルドラージそのものが登場しなくても、『イニストラードを覆う影』ブロックの物語は『イニストラード:真夜中の狩り』や『イニストラード:真紅の契り』で起こっていることに多大な影響を与えているのだ。

チェーンソーをカード化することはできなかったという話を聞きましたが、なぜ今回は印刷に至ったんですか?


 

 初代『イニストラード』のデザイン中に、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが〈チェーンソー〉というカードを作った。リチャードはすばらしいトップダウンのデザイナーで、ホラー・セットにはチェーンソーが必要だと考えたのだ。クリエイティブ・チームがその名前を受け入れないことはわかっていたので、私はデザイン文書提出前に〈回転刃〉に変更した。こちらのほうがマジックのアーティファクトらしいと考えたのだ。そのカードは最終的に印刷されたが、もっと『イニストラード』の設定にあった時代のものというコンセプトがつけられた。それが《穿孔の刃》である。

 これは、小さな曲がった刃で作られた剣で、攻撃した相手を切り分けるのだ。おそらく、クリエイティブ・チームはこれが一番近いと感じたのだろう。

 実際、何が変わったのかはよくわからない。マジックのユーザーは時とともにカジュアル性を増しており、我々はクリエイティブの限界を広げる方向に向かっているが、とはいえ、《棘付き縦鋸》を初めて見たときには驚いた。

これは吸血鬼のセットですが、人間の吸血鬼しかいませんよね。過去には、ドラゴンの吸血鬼が2枚いました。なぜこういった人間でない吸血鬼を増やさないんですか?


 

 次元を構築する上で重要なことの1つが、その次元の本質を再現する理念があるようにすることである。先述の通り、イニストラードのそれは「人間が怪物になる」である。ゴシックホラーの大きなテーマの1つが、ホラーの素材を用いて人間性を描くということである。

 イニストラードの世界構築はそれを次元の宇宙間に取り入れているので、吸血鬼化するのは人間だけなのだ。吸血鬼や吸血鬼化は、他の次元にも存在している。吸血鬼化がその次元の必要性に合うなら、人間でないものが吸血鬼になることを見る可能性もあるだろう。ただし、それはイニストラードではありえない(この次元に大変化が起こらない限り)。

月が出ている

 本日はここまで。質問を送ってくれた諸君に感謝しよう。いつもの通り、私の回答や『イニストラード:真紅の契り』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、諸君からの『イニストラード:真紅の契り』のさらなる質問に答える日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが探究を続けられますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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