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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『イニストラード:真夜中の狩り』 その2

Mark Rosewater
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2021年10月4日

 

 先週、『イニストラード:真夜中の狩り』に関する一問一答を始めた。大量にあったので、今週はさらなる質問に答えていく。

墓地を基柱にしたセットをデザインするとき、「墓地セットのテンプレート」はありますか、そして物事を新鮮に保つためにそれから離れるためにどういうことをしていますか?

 もちろん、デフォルトのテンプレートは存在している。(それについては今年の「基本根本」記事で取り上げている。)また、色の表現を再現するために使っているテンプレートも存在し、通例は多色セットで用いている。これは多色テーマのセットを成立させるために調整すべき大量の場所があり、特にマナのリソースは様々なフォーマットでサポートする必要があるからである。

 ただし、個別のテーマについてテンプレート化することは少ない。その主な理由は、テーマは他のテーマと組み合わせられることが多く、それらのテーマの組み合わせによってセットの構造の多くが決まるからである。本質的に、テンプレート化する方法が存在しないのだ。ただし、これはセットで墓地テーマ(なり、何らかのテーマ)を扱うときにするべきことが決まっていないということではない。

 大抵の場合最初にすることは、カラー・パイの墓地関連の一面をうまく把握するようにすることである。それぞれの色に均等に割り振られているわけではないことがわかるだろう。実際、白、黒、緑には、墓地操作が青や赤に比べてはっきり多い。それぞれの色でどんな道具が使えるかを理解したら、それらをそのセットでどのように使うかを掘り下げ始めることができるようになるのだ。

 これがテンプレート化されていないのは、どのように変更するかがそのセットにあるそれ以外のテーマに大きく依存するからである。一般的な開始点となるのは、それらのテーマそれぞれがどう伸びるかを決め、それらに内包されるシナジーがあるかを見ることである。存在する場合には、テーマが着地点に影響を与えることになる。しかしながら、ほとんどの場合テーマから導かれるものは色のバランスが崩れていることが多く、そうなると同じテーマを使う別のセットではしないような方向に動かし始めることが必要になる。

 もう1つ検証しなければならないのが、どのように墓地を使うかである。実際、主に2通りの方法があり、私はそれぞれ「リソースとしての墓地」と「指標としての墓地」と呼んでいる。前者には、墓地で作用するカード(フラッシュバックなど)や、他のカードの燃料として用いるもの(探査など)がある。後者は、単に墓地を見て何かを決定するもの(宿根など)である。

 これらを少量混ぜることはできるが、そうすると葛藤が生じるので(墓地にあるカードをリソースとして使うべきか、残して枚数を保つべきか)、通例どちらか一方だけに焦点を当てることになる。別々のカードに焦点を当てることで、テーマを分割することができる場合もある。実際、イニストラードのセットでは、クリーチャーを墓地から使い切る(ゾンビ・テーマの一部であることが多い)一方で、インスタントやソーサリーだけに関係するメカニズムであるフラッシュバックも成立させることができている。どちらを選ぶかは、そのセットに他に何が入っているかに大きく依存することになるのが普通である。

 墓地など多くのテーマは、その使い方にいくらかの自由度があるので、他のテーマとどういった面が関わるのかを決めることになる。セット内の他の制約によって、墓地要素の価値評価が他のセットと変わるので、工程上で「物事を新鮮に保つ」ことができる部分はここになる。例えば、イニストラードのセットにはトップダウンの怪物部族要素があるので、墓地要素が特定のフレイバーを強めることを意識することになる。我々はたいてい、文字通り怪物たちが映画でする古典的なことを考え、それをカードで再現しようとするのだ。

 「物事を新鮮に保つ」もう1つの方法は、テーマを通常の色から別の色の組み合わせに移すことである。例えば、「墓地を扱う」色の組み合わせは黒緑であることが多いが、墓地テーマのセットでは、他の色の組み合わせが目立てるようにすることもできるのだ。

 つまるところ、想像されるような規範的なものではないということである。墓地テーマを作るための「正解」が1つ定まっているわけではないのだ。

秘密を掘り下げる者》が『イニストラード:真夜中の狩り』でショーケース版になっていないのはなぜですか?

 マジックのセットではさまざまなことが行われており、何がショーケース版になり何がならないのかを追跡するのは複雑な場合がある。そのための助けとして、我々はカードのうち1文で表現できることが多い一定の条件に合うものを特定の版にしていることが多い。実際、『イニストラード:真夜中の狩り』のショーケース「秋分」版になっているのは人狼(アーリンを含む)と邪術師であり、ショーケース「永遠の夜」版カードは人狼でも邪術師でもない伝説のクリーチャーと基本土地である。《秘密を掘り下げる者》は人気のカードであり、いつかショーケース版が作られるだけの価値があるとは思うが、このセットでショーケース版になるどちらの分類にも入らなかったのだ。

アヴァシン以前のイニストラードを表す集会と魔女のアイデアはどこから来たんですか?

 それはクリエイティブ・チームがかなり初期から、おそらく展望デザインの始まる前から持っていたアイデアだった。緑白人間のアーキタイプがこのセットで何をするかを決めようとしたとき、一番最初から、魔女と魔女魔法の雰囲気を再現する必要があるのはわかっていた。おそらく、クリエイティブ・チームが、ゴシックホラーの要素のうち今まで我々が触れてこなかったものを掘り下げようとして見つけたのだろう。

ホラー・テーマのトップダウン・セットは5度目ですが、トップダウン・デザインの井戸が枯れ始めていると思いますか?

 それは、そのトップダウン・デザインの素材のある井戸に大きく依存する。すべての元ネタが同等に作られているわけではないのだ。一般に、ジャンル全体の素材がもっとも元ネタとなるものが多く、そのため深さも深い。実際、私が座って、あらゆるポップカルチャーにおけるゴシックホラーへの言及を書き出せば、非常に長いリストができるだろう。そして、ゴシックホラーは新作映画やテレビ番組、本などの元ネタとして人気なので、そのリストは増え続けていくことになる。すなわち、新しいトップダウンのゴシックホラーのカードを作ることには、それほどの問題はない。

 最新のイニストラードのセット2つで我々が使っている他の手法として、何かの出来事(それぞれ、収穫祭と結婚式)を軸に作るというものがある。これによって、それらの出来事の素材空間も扱うことができるのである。

イニストラードは大成功でイクサランはいくらか問題があったと考えているそうですが、部族セットには多相メカニズムのような接着剤が必要だとも言っていましたね。イニストラードのセットでの違いは何ですか?(部族の数が4つと5つという以外で。)

 『イニストラード:真夜中の狩り』には部族のサブテーマが組み込まれているが、『イクサラン』ほどの「部族セット」ではない。実際、部族テーマでドラフトをする場合、『イクサラン』『ローウィン』『オンスロート』といった部族セットよりずっと選択的である。セットが持つ部族テーマの涼を知らせる方法の1つが、コモンカードを見ることである。メカニズム的に、特定のクリーチャー・タイプを扱うカードは何枚あるか。それが多ければ多いほど、そのセットは部族テーマ的である。

レンの数字はなぜ13ではなかったんですか? 遠い昔を舞台とした(だからこそセラがいました)『モダンホライゾン』で初登場したので、彼女の友人の樹木が1本しか変わっていないのは不可解ですし、13にしたらフレイバー的に素晴らしかったと思います。

 初代『モダンホライゾン』の、《レンと六番》も含む大部分は、現在を舞台にしていた。《慈悲深きセラ》は例外で、あのセットのルールではない。もう1つ、我々が六番から七番にした理由は、その数字が進むものだと明示したかったからである。六番を十三番にすることは何のパターンも示しておらず、ほとんどのプレイヤーは「レンが新しい樹に移行した」ということを簡単には把握できないだろう。イニストラードのセットに13という数字の居場所を見つける価値は認めているが、自然にハマるときにしかそうはしないのだ。

なぜエムラクールの影響にほとんど焦点が当たっていないんですか? この次元には起こったことのあとにも異界の恐怖があると思いますし、もしかしたらあの巨人たち自身もいるかもしれませんよね。

 『イニストラード:真夜中の狩り』のプロットは全体が、エムラクールが訪れたことによる直接の結果であるイニストラードの変化を基柱にしている。『イニストラードを覆う影』や『異界月』の出来事はイニストラードで現在起こっていることだったが、エムラクールは今も月にいるので、その一部であるエルドラージ・クリーチャーは地上に存在できないのだ。

 また、我々はイニストラードのコズミックホラー面よりもゴシックホラー面に焦点を当てたかったので、物語やその結果としてのセットはその方向に向くことになったのだ。

過去のイニストラードのブロックのメカニズムで、他にチームが今回の再録を検討したものはありますか?

 イニストラードのセットからの、すべてのメカニズムについて説明しよう。

陰鬱 ― 我々はこのメカニズムが好きで、イニストラード世界にはまさにふさわしいので、これの採用を検討した。大問題は、これ以外の初代『イニストラード』の主なメカニズム(変身、フラッシュバック、怪物部族、呪い、「人狼メカニズム」)すべてを使っていたり調整していたりしていて、何かを再録しないようにする必要があるということだった。もう一度イニストラードを再訪した時に、あるいはテーマ的、メカニズム的にふさわしい別の次元で、使われることは容易に予想できる。

不死 ― これの再録についても検討した。これはフレイバーに富んでいて、比較的人気である。ただしバランスを取るのが難しいメカニズムなので、やめておいた。

窮地 ― これは不人気なメカニズムだったので、再録について真剣には検討しなかった。

奇跡 ― フレイバーが合わず、このメカニズムが『アヴァシンの帰還』で初登場したときの評判も賛否両論だったので、再録候補から取り除かれた。

結魂 ― 我々がプレリリース開催時にすることの1つが、ジャッジにそのセットについて受けた質問をすべて転送してもらうことである。結魂は、他のあらゆるメカニズムよりも多くの質問を受けたという記録を持っている。奇跡同様、フレイバーはこのセットにまさにふさわしいものだとは言えない。

昂揚 ― このメカニズムには2つの問題があった。1つ目に、成立するにはセット内に充分な量の構造的サポートが必要である。2つ目に、イニストラードの住人に対するエムラクールの影響を示す、狂気のフレイバーがある。これについては少し話し合ったが、明らかに再録は筋が通らなかった。

マッドネス ― マッドネスは昂揚の持つすべての問題に加えてプレイデザイン上の懸念がある。これについての話し合いは、不採用の件だけだった。

潜伏 ― このメカニズムは結局、デザイン空間は予想より狭く、プレイヤーが使うのも予想より難しかった。これを、名前のないメカニズムとして1~2枚のカードに入れることも検討したが、それでさえも不採用になったのだ。

合体 ― 合体は大人気だったので、再録について話し合ったが、輝かせるためには正しい実装が必要で、それよりもふさわしいと思われる他のものが充分にあった。

現出 ― これはクールなメカニズムだが、このセットで筋が通るようなフレイバーに富んだものがなかった。いつか再利用することはあるだろうが、それはこれが輝けてフレイバー的に何かを再現するセットでになるだろう。

増呪 ― そもそもなぜこれがイニストラードのセットにあったのかわからない。機能的で(ただしデザインは難しい)楽しいので、これはいずれ再録されるだろうが、イニストラードのセットではないだろう。

 つまり、我々が真剣に検討したのは、陰鬱と不死であった。あと、合体については、必要以上に時間をかけて楽しんだ。

2つのセットを厳密に分けるのではなく、『イニストラード:真夜中の狩り』に吸血鬼を入れることにしたのはなぜですか? (言い換えると、人狼は『イニストラード:真紅の契り』に出ると考えるべきですか?)

 我々が『イニストラード:真夜中の狩り』をデザインしていた時、『イニストラード:真紅の契り』はまだ存在していなかったので、『イニストラード:真夜中の狩り』はイニストラードへの3回目の訪問としてデザインされており、そこに重要なクリーチャー・タイプすべてを含むあらゆる期待される要素が含まれていた。しかし、我々がこの2つのセットを『イニストラード:真夜中の狩り』のデザイン時期に一緒に計画していたと仮定した(『イニストラード:真紅の契り』は『イニストラード:真夜中の狩り』を意識してデザインされた)場合、これはずっと興味深い質問となる。なぜなら、そうだったとしても、我々はこの最終形と全く同じようにデザインしていただろうからだ。なぜか。イニストラード世界は、すべてのクリーチャー・タイプが絡み合うものとして構築されているからである。吸血鬼を切り捨てたとしたら、黒や赤のカードでは何をすればいいのか。それらすべてを人狼やゾンビにすることはリミテッドのバランスを崩してしまうので不可能である。

 メカニズム的に世界を構築するとき、さまざまな要素がお互いに調和して住まう生態系を作る。何か1つの要素を取り除くことは、そのまわりの全てに影響を与える。ある世界を再訪するとき、その世界を調整することはできるが、中核構造を根本的に変えてしまうことはできないのだ。(『灯争大戦』のようにその世界が単なる舞台として使われている場合を除く。)この2つのセットはそれぞれ異なる出来事を扱い、テーマも異なり、そして異なるメカニズムを使うので、世界内の仕組みを壊すことなく全く違うものにすることができるのだ。

 つまり、『イニストラード:真紅の契り』にも多くの人狼がいることだろう。

こんにちは、マーク! このセットにはさまざまなメカニズムがあります。フラッシュバック、調査、変身、それから新しい昼/夜、集会、腐乱、降霊。今後もメカニズムの数はこれほど多いままになりますか、それともこのセットが例外なんですか?

 上限近くにある。現在進行中のことの1つとして、我々は、名前を付ける必要がなかったものに名前をつけることにしている。実際、デザイン時、腐乱や降霊はキーワードとして作られたものではなかった。多くのセットにはルール文に書き下されていて名前がついていないメカニズムがあり、それらは名前があるものに比べて「そのセットのメカニズム」とは認識されないことも多かったのだ。

ついに、呪いが少ないことを呪っていた人向けのカードが出ました。これからも彼のためのカードはできますか?

 私が常々言っていることの1つが、「マジックは飢えた怪物である。」ということである。我々は大量のカードを作っているので、常にもっと多く作る必要がある。プレイヤーが何かを求めたなら、我々はその声を聞く。我々には、プレイヤーが求めているカードの長いリストがあるのだ。多くの人が求めているなら、それはリストの上位に上がっていく。すぐに作るという約束はできないが、カードの需要に合い、「ついにプレイヤーが長年求めていたこれを作る時が来た」と言う日が来ないとは思っていない。

降霊は白青黒のクリーチャーに限られていましたか? 緑のものや多色を見落としているかもしれませんが、赤には少なくともいなかったと思います。

 降霊はスピリットのメカニズムなので、スピリットだけが持つものであり、このセットでの色は白青になる。降霊を持つ黒のスピリットが1枚だけある。理由はわからないが、おそらく、何か楽しいコンセプトがあり、それが黒にふさわしかったのだろう。

なぜ《村の略奪隊》は他の狼男や《アヴァシンの記念碑》と違うテンプレートになっているんですか? 自身が速攻を持って、他の狼や狼男に速攻を与えるというべきではありませんか?

 これは私の推測になる。人狼は物語を示している(両面があることがその助けになっている)ので、フレイバー・テキストは重要である。通常のテンプレートだとフレイバー・テキストが入らないので、機能が同じようなものになる範囲でテンプレートを多少変えてフレイバー・テキストを入れる場所を作ったのだろう。カードに必要なものに合わせるため、ときどきテンプレートを調整することがあるのだ。

これまでのイニストラードへの再訪で、-1/-1カウンターを使うという発想はありましたか? 非情な世界で使いたいと言っていたと思いますが、アヴァシンのいないイニストラードはまさに非情な世界だと思います。

 開発部は-1/-1カウンターのセットには本当にこりごりなのだ。-1/-1カウンターは我々が望まないゲームプレイの動機をもたらし、またそのセットのバランス調整も難しくなる。サプリメント・セットなどでカードに時々-1/-1カウンターを使うことは否定しないが、近いうちの本流のセットでセット全体で使うということは予想できない。

多くのカードで降霊コストが重くなっていますが、これは適正だと本当に思いますか?

 マジックをデザインしてきた経験から、私は、平均的なプレイヤーが何を過大評価し、何を過小評価するかのパターンに気がついている。よく過小評価されるものの1つが、降霊のような長期戦での汎用的効果である。彼らは能力を単体で、引いたカードであるとして見て、通常のカード評価のレンズで判断するのだ。このコストでただの飛行クリーチャー? 最悪のカードだ。ただし、1枚のカードでなければ。デッキ内のカード枠を使わないのだ。カードとして引く必要はないのだ。これは他のカードをプレイした時に手に入れられる、ある意味でタダのカードであり、評価するのが難しいと思われる。

 確かに、心霊やフラッシュバックのようなコストは単体で見ると重すぎるように見えることはわかっているが、それはプレイヤーがその真の価値を過小評価しているからだろう。この種の効果のデザインは常々行われており、プレイデザインはそのコスト付けを多く経験していて、そして、それらは見た目以上にずっと強いものなのだ。また、すべてのカードが高レベルの競技プレイ用に作られているわけではない。多くの降霊カードは、それらがよく使われることになるリミテッドやカジュアルな構築向けにデザインされているのだ。

今日はここまで

 本日はここまで。いつもの通り、この答えや話題にしたカード、あるいはこのセット全体について、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、カラー・パイに関するすべての私の記事とポッドキャストの紹介でお会いしよう。

 その日まで、あなたが『イニストラード:真夜中の狩り』のプレイを楽しみますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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