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Making Magic -マジック開発秘話-
『イコリア』展望デザイン提出文書
2020年5月4日
展望デザイン全体の終わりに、リード・展望デザイナーは展望デザイン提出文書をセットデザイン・チームのために作成する。この文書では、展望デザイン・チームがそのセットのために作った展望を描き出し、そのために作ったメカニズムやテーマを書き記している。昨秋、『エルドレインの王権』の展望デザイン文書を公開した(その1、その2)。それが好評だったので、同じことを『イコリア』でもやることに決めたのだ。(文書中ではコードネームの『Cricket』で呼ばれている。)
始める前に、2つ注意点を述べておこう。1つ目に、注釈以外のすべては2年前に私が書いた実際の文書である。注釈は、展望デザイン中に起こったことについてのさらなる洞察や、セットデザイン中にどのように変更されていったかについての説明である。2つ目に、セットデザイン中に多くのものが変更になっているので、諸君にお目にかけるものは提出時のこのセットの姿である。未完成で舞台裏のものなのだ。
『Cricket』展望デザイン提出文書
まず最初に、展望デザイン・チームの紹介から入るのが常である。通例ではクリティティブ・チームのパートナーも紹介するのだが、今回は少しばかり複雑だったのでこの文書から除いた。サム・バーレイ/Sam Burleyはアイデアを思いつき、コンセプトの推進を主導した。アンドリュー・ヴァラス/Andrew Vallasはワールド・ガイドと割り当てを担当した主なアート・ディレクターで、シンシア・シェパード/Cynthia Sheppardとドーン・ミレン/Dawn Mirrenはアンドリューが離れた後に何枚かの割り当てを行なった。ダグ・ベイアー/Doug Beyerはクリエイティブ・リード(世界構築、コンセプト決定、クリエイティブ文章担当)だった。
展望デザイン・チーム
- マーク・ローズウォーター(リード)
- アンドリュー・ヴィーン/Andrew Veen
- コーリー・ボーエン/Corey Bowen
- デイブ・ハンフリー/Dave Humpherys
- ピーター・リー/Peter Lee
セットには核となる特徴があるものであり、『Cricket』の特徴とは怪物である。怪物を作る、怪物を扱う、怪物と関わる、そして怪物と暴れる。
私は、文書の初めに、必ずそのセットを他のセットと差別化しているものが何なのかも強調することにしている。展望デザインの最も重要な部分の1つが、それ以降に関わるすべての人が同じ目的を共有できるよう、そのセットの本質について明確な展望を示すことである。私が『イコリア』は怪物のセットだと強調したことで、最初から始点を共有できるのだ。
このセットの展望、あらゆるメカニズムは、セットを怪物のためのものにするため、そしてそれを具体化するために作られている。
私が展望デザイン提出文書の先頭の方ですることが多いもう1つのことは、大きな課題が何であるかの説明である。関わる全員に、私が提示した展望に取り組むにあたって何を目的とするのかを理解してもらいたいのだ。
解決すべき問題がいくつか存在した。
1.マジックに怪物が存在するのは普通のことである。このセットを特に怪物のセットとして特徴づけるにはどうするべきか。
2.怪物は大型になりがちで、そのためマナ・コストとレアリティが高くなりがちである。基本的な開封比が非常に低い状況で、テーマに焦点を保つにはどうすればいいか。
3.怪物を使う伝統的なゲームプレイはランプである。今回のテーマに基づいたままで、さまざまなプレイパターンを生み出すにはどうすればいいか。
これらの問題に答えるために我々が取った手法は次の通りであった。
セットデザインに、単に我々がしたことを伝えればいいわけではない。我々がなぜそうしたのかを説明したいのだ。我々はさまざまな選択をしてきた。それらの選択を形作った因子について1つずつ説明していくことが重要なのだ。『イコリア』においては、これまでマジックが怪物をどう扱ってきたか、そして怪物に焦点を当てたセットを作るために違った形の何をしなければならなかったかということと深い関係があった。通常は少しだけ扱うテーマを取り上げ、拡大して大テーマにするというのはよくあることだ。そのためには、それを通常どう扱っているかを見て、そしてそれを扱う量を変えたら何が起こるかを理解することが必要となる。怪物は、通常、大きくて派手だが、数は少ないものである。このセットが怪物だけなら、すぐに行き詰まってしまうことになるだろう。
1.このセットには通常よりも多くの怪物が必要である。展望デザインは、ほぼ間違いなくメカニズムの選択を通して、そのための方法を見つける必要があった。
2.我々は、小さくて軽い怪物を作る方法と、通常よりも多くの大型怪物をデッキに入れられるようにするさまざまな方法を見つける必要があった。
3.セット内の怪物を作る新しい方法を見つける一環として、それらを使った新しいプレイパターンの構築があった。これをするための方法の1つに、時間を掛けて怪物を作るというものがある。
怪物を作る
何らかの形で怪物の進化が必要だったので、それを扱うためのさまざまな方法を検証した。
怪物のセットをうまく作るために進化が必要だということは最初から明白だった。第1に、それによって小型の怪物が作りやすくなり、クリーチャーのマナ・カーブを埋めることができるようになる。第2に、ゲームが進行するにつれてクリーチャーを強力なものにすることができるようになる。第3に、元ネタに基づく独特のフレイバーをもたらし、他のマジックのセットと雰囲気の異なるものにできる。
最初に思いついたのは、進化していく一連のクリーチャーであった。クリーチャーAをプレイする。これはクリーチャーBに進化できる。Bはその後さらにクリーチャーCに進化できる、というものだ。これにはいくつもの問題があるが、その中でも大きな2つを挙げるなら、安定して起こるようにするのが難しいということ、そして成立した時のプレイパターンが類似してしまうということがある。我々はもっと流動的な、さまざまなクリーチャーがさまざまに行なう進化を作る必要があると判断した。また、この進化には変動性が内包されているというアイデアも採用することになった。
キーワード・カウンター
そのとき、数週間前に行なわれたばかりのデザイン・ハッカソンで作られたあるもののことを思い出した。我々はハッカソンで、『アモンケット』で使われたパンチアウト技術で何ができるかを掘り下げていた。そこで我々が思いついたアイデアが、キーワードを永続的に与えることを表す、キーワード・カウンターだった。+1/+1カウンターは、クリーチャーに+1/+1を与える。飛行カウンターなら、クリーチャーに飛行を与えるだろう。
『Cricket』展望デザイン・チームは常盤木キーワードすべてを検証し、実用的と思われるものを選択した。
興味深いことに、これらのキーワード・カウンター8種はそのまま印刷に到った。
- 接死
- 先制攻撃
- 飛行
- 絆魂
- 威迫
- 到達
- トランプル
- 警戒
採用しなかった常盤木キーワードは以下の通り。
防衛
不利なキーワードを与えるのは適切でないと思われる。
二段攻撃
カウンターにするほどの頻度で使うべきだとは考えられない。
呪禁はこの種の中で唯一メインセットで採用された。その理由は、青に飛行以外の選択肢を与えたかったことであり、展望デザイン・チームのこの問題を解決するための取り組み(後述)はうまく成立しなかったのだ。結局、二段攻撃と破壊不能は、同時発売の統率者デッキでキーワード・カウンターになった。
速攻
この後述べる変容メカニズムとシナジーを持たない。
呪禁
呪禁を与えすぎると不公正なゲームプレイにつながることが懸念される。
破壊不能
カウンターにするほどの頻度で使うべきだとは考えられない。
果敢
この能力は累積するものであり、同じクリーチャーに複数個置きたくなるようなキーワード・カウンターは避けたい。果敢を常盤木キーワードでなくすことに関しても多くの議論が存在する。
青の問題を解決するため、我々は青で使えるような新しいキーワードを2つ作った。最終的にセットデザインは常盤木キーワードだけをキーワード・カウンターに採用することにしたので、それらの2つのキーワードはボツになって呪禁が採用された。それら2つのキーワードのそれぞれについて常盤木キーワードにすることも検討したが、『イコリア』のキーワード・カウンターを増やすためだけにそうすべきではないと判断したのだ。
青のキーワードが足りていないことに気付いたので、2つの新しいキーワードを追加した。
Sneaky(隠密)
「パワーが3以上のクリーチャーではこのクリーチャーをブロックできない。」(青と黒で使う。)
Resistance(抵抗)
「この能力を持つクリーチャーを対象とする呪文のコストは{2}多くなる。」これは累積しないものとしてデザインされた。(青と黒で使う。)
展望デザイン・チームはキーワード・カウンター10個を提案するが、実装上はそれ以上にすることも可能だと考えられる。注意すべき点は、すべての色に充分な選択肢を与えることと、重複しないことである。青赤以外のすべての色の組み合わせは網羅してある。
キーワード・カウンターにはいくつかの用法がある。
展望デザイン中に、我々は、それぞれの2色の組み合わせごとの10種類のキーワード・カウンターを揃えるように本当に尽力したが、果敢には問題があったので青赤は該当するものがなくなった。そして、セットデザイン・チームは、9つで印刷することに決めた。
変容
これについては後述。
呪文効果
ターン終了時までキーワード能力を与えるという場合に、そのクリーチャーにキーワード・カウンターを置いている。
多用途クリーチャー
そのクリーチャーが戦場に出たときにプレイヤーがキーワード・カウンターを選べるようにしたクリーチャーがある。2つの選択肢を提示するコモンのサイクル1つと、3つ以上の選択肢を提示する高いレアリティのカード数枚が存在している。
トレーナー
アンコモンの人類(怪物でない)サイクルで、戦場に出たときに特定のキーワード・カウンターを他のクリーチャーに置き、その後、その能力を持つクリーチャー1体に影響する起動型能力を持つ。
サイクリング
アンコモンに、サイクリングを持つクリーチャーのサイクルが存在している。そのカードをサイクリングしたら、そのクリーチャーが持っている能力と同じキーワード・カウンターをクリーチャー1体に置く。
上述の中で、変更されたのは2つだけだった。1つ目、変容はセットデザイン中に変更されてキーワード・カウンターと直接の相互作用はなくなった。2つ目、怪物化はこのセットでは採用されなかった。この文書の時点で、私は、怪物化キーワードを持つカードが実際に印刷されるとは思っていなかったが、セットデザインが決定できるようにここに残したのだ。最終的に、キーワードを持つクリーチャーがマナを支払って自分で強化するという形のカードが作られることはなかった。しかしそれらは非常にクールなので、将来、クリーチャー・キーワードが再録されるかもしれない。
怪物化
怪物化能力を使って+1/+1カウンターではなくキーワード・カウンターを与える呪文が多数存在している。これらのカードは怪物化というキーワードなしでも可能だが、フレイバー的にこのセットにまさに相応しいと考えられる。
変容
変容は、プレイヤーが自分の怪物を作り上げられるようにするために使ったキーワードである。現在のルール文章は以下の通り。
あなたがこの呪文を変容コストで唱えたなら、あなたがオーナーでありこれと共通のクリーチャー・タイプか引き継ぎ可能なキーワードを持つクリーチャー1体を対象とする。これをそれに重ねる。そのクリーチャーの引き継ぎ可能なキーワードのカウンターをこれの上に置く。
変容は、工程の中でメカニズムがどのように変化するかの素晴らしい例である。展望デザインは、怪物セットの要素として進化が存在することが重要だと考えた。ゲームプレイと新奇性とフレイバーの組み合わせとさまざまな理由から、我々は自分の怪物を次第に成長させていくというアイデアを採用した。そのために、我々は変容のメカニズムを作ったのだ。この文書では、我々がしたことの理念が語られている。セットデザインはその後、そのメカニズムがそのセットに存在する理由の本質を保ったまま、そのメカニズムを向上させる方法を探すことになる。
今回は2つ大きな変更があった。1つ目に、変容できるもととなるものの条件を緩和した。展望デザインでは、クリーチャー・タイプかキーワードを共有しているクリーチャーしか変容させられなかった。この理由は、一部はフレイバーによるもので、一部は理解上の複雑さを抑えるためだったが、セットデザインは何を変容させられて何を変容させられないのかを把握するという戦略の複雑さが、変容を使ったプレイやドラフトやデッキ構築をあまりにも難しくしているということに気付き、そしてあらゆるクリーチャーに広げて、後に人間でないクリーチャーに変えたのだった。この変更によって、一部のプレイヤーにとって我々が予想していたよりも複雑で把握しにくい「引き継ぎ可能なキーワード」という概念から離れることできた。
2つ目に、変容させるときにどちらのクリーチャーを上にするかを選べるようにした。今回も、展望デザインはメカニズムを単純にするために制限していたが、セットデザインはクリーチャーの上に置くか下に置くかを選べるようにすることでプレイ価値(一番上のクリーチャーがそのオブジェクトのルール文章以外のすべての要素を定義するというルールの大きな理由である)を大きく広げる、ということに気がついたのだ。
これらの2つの変更がこのメカニズムの働き方を変えたのは明らかだが、それでもこのメカニズムが表す理念(変容したクリーチャーは同一のクリーチャーとして扱われる、など)は最終的な製品にまで貫かれているのがわかるだろう。
この注釈文ではいくつかの新語が導入されているので、それらが厳密にどういう意味かを説明していこう。変容を持つクリーチャーは、通常通り唱えることができる、マナ・コストを持つ通常のクリーチャーである。変容コストを持つクリーチャーは、この世界では「怪物」と呼ばれる。変容を持つクリーチャーは、変容コストという第2のコストを持ち、そのクリーチャーを(ほとんどの場合)軽いマナ・コストでプレイすることができる。
変容カードを使う場合、戦場にあり、自分がオーナーであり、クリーチャー・タイプかキーワードをその変容クリーチャーと共有しているクリーチャーに重ねることになる。例えば、飛行を持つ2/3の猫である〈有翼猫〉を変容させる場合であれば、猫であるか飛行を持つ(あるいはその両方の)クリーチャーに重ねることができるのだ。重ねるというのは、そのカードを直接上に置くということであり、この時点でそのクリーチャーは変容クリーチャーのスタッツを持つものとして扱われるようになったのだ。重ねられたクリーチャーは同一のクリーチャーとして扱われるので、タップ状態や召喚酔い、ついているものやカウンターといった元のクリーチャーの性質はそのまま残る。他の呪文や効果がその変容したクリーチャーの領域を移動させる場合、それやその下にあるカードはすべて新しい領域に移動する。例えば、ビーストで、元のビーストを変容させたとする。その後、それが《送還》された。元のビーストと変容させたビーストは、どちらもオーナーの手札に戻る。
変容したときには、ほかに2つのことが起こる。1つ目に、下になったクリーチャーが持つ引き継ぎ可能なキーワード(キーワード・カウンターとして存在しているキーワードで定義される)は、変容したクリーチャーの上のキーワード・カウンターに変換される。2つ目に、変容カードは必ず、変容させた時の効果を持つ。ここで例を挙げる。2/3で飛行と変容を持つ猫である〈有翼猫〉を持っているとする。これが変容すると、あなたは〈有翼猫〉の上に+1/+1カウンターを1個置く。あなたは戦場に、2/2で警戒を持つ猫である〈監視猫〉を出しているとする。あなたは〈監視猫〉を〈有翼猫〉で変容させる。〈監視猫〉は警戒を持つので、〈有翼猫〉は警戒カウンターを持つ。変容させたので、〈有翼猫〉の上には+1/+1カウンター1個も置かれる。〈有翼猫〉は、3/4で飛行と警戒と変容を持つクリーチャーとなる。
変容は現在、サイクルとしてカード化されている。サイクルは以下の通り。
コモン単色サイクル
キーワード1つを持ち、変容したときに+1/+1カウンターを与える。
サイクルが変化していく中でメカニズム的に意味を持たなくなったキーワードが失われ、低いレアリティでもさまざまな効果が存在するようになった。(展望デザインでは単純化のために低いレアリティでは+1/+1カウンターを使っていた。)しかし、興味深いことに、上述のうちレアの楔3色サイクル以外のすべてのサイクルは、セットに残ったのだ。セットデザインは、何度変容したかに基づく拡大効果を持つアンコモン単色のサイクル1つと、何枚かの個別の変容カードを追加した。
アンコモン単色サイクル
キーワード1つを持ち、変容したときに+1/+1カウンターを与える。
アンコモン敵対色サイクル
キーワードは持たず、変容したときに何か別の効果を持つ。
レア単色サイクル
キーワード2つを持ち、変容したときに何か別の効果を持つ。
レア楔3色サイクル
キーワード1つを持ち、変容したときに何か別の効果を持つ。
神話レア楔3色サイクル
キーワード2つを持ち、変容したときに何か別の効果を持つ。
変容に関連する主なクリーチャー・タイプが5つ存在する。
これらの5つのクリーチャー・タイプは特定の楔3色のうち特定の色で中心であり続けているが(単色のコモンや変容を持つ多色カードすべてで登場している)、最終的な製品では展望デザインが提案したように一極集中はしていない。これは基本的には、クリーチャー・タイプと変容の条件がセットデザイン中に切り離されたことによるものである。
ここで、私が話している2つめのリストについて指摘しておこう。部族テーマを扱う上での課題の1つが、その前後のセットがそのテーマを助けられるようにすることである。我々が取った解決策は、クリーチャーが持つ他のクリーチャー・タイプを、『イコリア』の前後のセットと合うようにするというものだった。(その結果、このセットには奇妙な組み合わせのクリーチャー・タイプが存在した。)展望デザインは単にこのセットを単体で成立させる方法を考えるだけでなく、我々が作っているマジックのセット全体の大きな文脈の中で成立させる方法を考えなければならないのだ。
猫
主に白だが、赤、白、黒のクリーチャーに見受けられる。
エレメンタル
主に青だが、緑、青、赤のクリーチャーに見受けられる。
ナイトメア
主に黒だが、白、黒、緑のクリーチャーに見受けられる。
恐竜
主に赤だが、青、赤、白のクリーチャーに見受けられる。
ビースト
主に緑だが、黒、緑、青のクリーチャーに見受けられる。
変容カードはすべて、それが中心である色のクリーチャー・タイプを持つ。白の変容カードはすべて猫である。白黒の変容カードはすべて猫・ナイトメアである。赤白黒の変容カードはすべて猫・ナイトメア・恐竜である。単色の変容クリーチャーは、2つ目のリストから来るもう1つのクリーチャー・タイプを持つ。この2つ目のリスト(セットデザインが作成する予定)は、セットデザインが変容クリーチャーを他のスタンダードのクリーチャーと組み合わせられるようにするためにデザインされている。クリーチャー・タイプで1つ目というのは、数が多く開封比も高いということを意味しているが、楔3色のうちの他の色でもそのクリーチャー・タイプは存在している。
これらのカードにカード・ディスアドバンテージからの回復力を持たせるため、初期にこれについてプレイデザインとも話し合っている。そしてこれはデザインの間ずっと変わらないままだった。
変容クリーチャーについて最後に述べておくべきことは、変容させようとしたクリーチャーが破壊された場合に何が起こるかである。〈有翼猫〉が〈監視猫〉を対象にして変容させようとしたが、それに対応して〈監視猫〉に《ショック》が打たれた場合。その場合も〈有翼猫〉は戦場に出るが、変容させることはなく、つまりそのクリーチャーから何も属性を得ることはない。今回の場合、警戒のキーワード・カウンターは得られない。また、召喚酔いの影響も受けるようになる。(し、〈監視猫〉のエンチャントや装備品やカウンターを引き継ぐこともない。)そして、変容したときに発生する効果(今回の場合+1/+1カウンター)も得られない。〈有翼猫〉は、すぐに攻撃できて飛行と警戒を持った3/4クリーチャーではなく、召喚酔い状態の2/3飛行クリーチャーとして戦場に出ることになる。
協定/Covenant(旧名 アーキタイプ)
変容では怪物を組み上げることができるが、それらの怪物は複数のクリーチャーの混合物ということになる。性質としてもっと単一的な、キングコングのような元ネタに寄ったクリーチャーが必要なので、我々はそういったものを作れるようなメカニズムを探そうと試みた。また、「君の怪物との絆」というテーマを扱うため、怪物とプレイヤーに何らかの特別なつながりがあると感じられるようなメカニズムのアイデアを探した。
相棒は展望デザイン提出文書の時点でセットにあったが、セットデザイン中に数多くの変更がなされた。1つ目に、展望デザインはそれらのカードすべてを単色にした。セットデザイン中に、さまざまなデッキに入れられる柔軟性を求めて混成に変更されたのだ。2つ目に、展望デザインはドラフト向けにアンコモンのサイクル1つと、構築向けにレアのサイクル1つを作った。セットデザインはアンコモンがドラフトを歪めすぎているということに気づき、アンコモンのサイクルをレアに移動させた。これによって、混成の10枚すべてのサイクルが完成することになった。3つ目に、展望デザイン中は、相棒を使えるのは1枚だけではなく、デッキに問題がなければ何枚でもプレイすることができていた。さらなるプレイテストの結果、それは強すぎるということがわかり、ゲームで使える相棒は1枚だけとルールが改められたのだ。また、例えば唱える前の相棒はどこにあるのか、といった細かなことは、当時まだ決まっていなかった。(ゲームの外部、あるいはサイドボードであると後に決まった。)また、キングコング由来のカードは、最終的に、相棒ではなくなった。
検閲線は、まだ公開されていない未来のことについて語っているところである。
この問題への解決策もまた、デザイン・ハッカソンにあった。現在「協定」と呼んでいるメカニズムである。協定を持つクリーチャーは通常通りプレイできるが、デッキが(例えばシングルトンであること、デッキの半分が基本土地であること、といった)特定のデッキ構築条件を満たしていれば、そのクリーチャーはゲームの開始前に追放しておくことができる。(統率領域に置くべきかもしれない。)デッキ構築上からは、その協定クリーチャーはデッキ内にあるものとして扱う。その後、それをゲーム中に、手札にあるかのように唱えることができるのだ。条件ごとに1枚しか協定クリーチャーは入れられないが、デッキが複数の条件を満たすことで協定クリーチャーを複数枚入れることは可能である。協定クリーチャーはすべてがフレイバー上は怪物である。
提出したファイルの中には、協定クリーチャーのサイクルがアンコモンに1つ、レアに1つ入っている。アンコモンのサイクルはドラフト向けに、かなりの場合にデッキ作成の基柱となるようにデザインされている。レアのサイクルは、カジュアルと競技の両方の構築向けを意識したものである。その中にはドラフトで可能なものもあるが、それを強く意識しているわけではない。協定は5色すべてに計画しているが、サイクルである必要はなく(つまり5の倍数枚でなくても構わず)、もっと増やす余地もあると思われる。原編集者注:ここの文章は削除します。見てはいけません。これはまだ公開されていません。すぐに知ることになりますが、それは今ではないのです。
サイクリング
最後にもう1つのメカニズムを入れる余地があり、それは通常通り再録メカニズムにしたいと考えた。(可能ならセットごとに1つ昔のメカニズムを入れたいと考えている。)これは怪物のセットなので、デッキに入れられる怪物をさらに増やすようなものを探した。サイクリングは、まだ唱えられない大型クリーチャーをサイクリングしてしまうことが出来るので完璧な選択だと考えられる。これによってプレイヤーはデッキに入れる怪物の割合を高めることができるのだ。
変容も協定も派手であり(特に変容は)複雑なので、サイクリングのデザインを大きく広げることは避けることにした。サイクリングに関してしたことは次のようなものがある。
単色混成サイクリング
レアに、強力なエンチャントのサイクルを作った。(今年の全セットを通してのテーマは単色とエンチャントである。)それぞれ、単色混成マナ({2}またはM)でサイクリングできる。
アンコモンのサイクリング・エンチャント
アンコモンにもサイクリングを持つ全体エンチャントのサイクルがあり、リミテッドで優秀である。
これらのうち半分はセットに残った。単色混成コストは、すでに要素が山盛りになっているセットには不必要だと判断された。アンコモンのサイクリング・エンチャントもまた、枠の都合でボツになった。諸君は、私が直前のセットと重なる可能なテーマを強調していることに気付くことだろう。サイクリングサイクルとサイクリング関連カードは存在し続けたのだ。
キーワード・カウンター
サイクリングしたときにクリーチャー1体を対象とし、それに自身が持つ能力と同じキーワード・カウンターを置くというアンコモンのクリーチャーのサイクルが存在する。
サイクリング関連
赤と白に、カードがサイクリングされることを参照するカードが何枚か存在する。これはこの2色のドラフト・テーマとしてデザインされたものである。
怪物以外
展望デザインが別のやり方でやってはいるが、人間が怪物に変容することはないというのはこのセットの最初から決まっていた。キーワードを持たないように人類クリーチャーをデザインするのは、興味深いデザイン上の課題だと言える。
怪物が主な注目点ではあるが、『Cricket』に住む全員が怪物だというわけではない。この世界には人類クリーチャーも存在しており、さまざまな形で怪物を関わり合っている。出会った時、あるものは絆を結び、あるものは狩り、あるものは悲鳴をあげて逃げ惑うのだ。変容はキーワード・メカニズムを参照するので、怪物でないクリーチャーにはキーワード・メカニズムを持たせないことにした。これによって、リミテッドの範囲では怪物でないクリーチャーを怪物に変容させることはできなくなった。(それは『イニストラード』の役目である。)怪物でないクリーチャーにキーワード・カウンターを置いてから変容させることは可能だが、これは我々がクリエイティブ的に表現する必要がない2段階の処理である。人類クリーチャーには、入場効果、死亡誘発、起動型能力、誘発型能力、キーワードでない能力といった、クリーチャー・キーワード以外のすべての能力を持たせることができる。
『Cricket』での多色
最後に取り上げるのは、『Cricket』での多色の扱いである。高レアリティでは構築向けに楔3色のテーマを採用し、『Diving』(『ゼンディカーの夜明け』)の発売とともにローテーションする『ラヴニカのギルド』ブロックのマナ基盤を活用できるようにする計画である。『Cricket』に登場する多色には以下のようなものがある。
このサイクルはボツになった。このサイクルは5種類のクリーチャー・タイプがそれぞれ充分な開封比を持つようにするために存在していた。すべてのデッキが同じようなものにならないように充分な多様性があるようにすることも必要だった。強調しておきたいのは、展望デザインはこのセットを、最終的な構成そのままではないだけで混成マナを採用した状態で提出したということである。
コモン敵対色混成サイクル
コモンの金色クリーチャーを使わずにリミテッドの助けとするため、コモンには混成クリーチャーのサイクルが存在している。これらは2色なので、それぞれに対応するクリーチャー・タイプを持つ。
アンコモン敵対色変容サイクル
これらは敵対色の変容クリーチャーで、キーワードは持たないが変容の呪文効果は持つ。
アンコモン敵対色クリーチャー・サイクル
これらは敵対色のクリーチャーで、2色ドラフトのアーキタイプを扱う。
アンコモンの敵対色変容サイクルと敵対色非クリーチャー・サイクルは採用された。アンコモンの敵対色クリーチャー・サイクルは、ほとんどのセットに存在している10枚の2色ドラフト・アーキタイプ・サイクルに変わった。セットデザイン・チームは、さらに、アンコモンの友好色混成クリーチャーのサイクルを加えた。
アンコモン敵対色非クリーチャー・サイクル
これらはフレイバーに富んだ敵対色の非クリーチャー呪文である。
レア楔3色エンチャント・サイクルは採用され、レア楔3色呪文サイクルは根本原理になった。レア楔3色変容サイクルはボツになったが、セットデザイン・チームは別のレアのサイクルをいくつか作った。友好色クリーチャー・サイクル、敵対色伝説のクリーチャー・サイクル、10枚混成相棒サイクルである。
レア敵対色変容サイクル
これらは敵対色の変容クリーチャーで、キーワード1つと、強力な変容の呪文効果を持つ。これらはマナ・コストよりも高い変容コストを持つ。
レア敵対色呪文サイクル
これらは楔3色のインスタントやソーサリーである。
レア・エンチャント・サイクル
これらは3マナの楔3色のエンチャントである。
このサイクルはちょっとした変更を受けて残ったものがほとんどである。変容コストはマナの色の制限を守っているが必要とする不特定マナの量が変化しており、また、変容のキーワード関連テーマがなくなったのでクリーチャーのキーワードが2つちょうどに限られてはいない。
神話レア敵対色変容サイクル
これらは楔3色の変容クリーチャーで、キーワード2つと、非常に強力な変容の呪文効果を持つ。変容コストは1MMHで、Mは主要色、Hは他の2色の混成マナである。
結論
前回展望デザイン提出文書を公開したときにも語ったとおり、これは私がセットデザイン・チームと意思疎通する手段の1つに過ぎない。通常、私は彼らと話もするし、質問があれば受け付けているのだ。
これが『Cricket』について伝えるべきすべてとなる。展望デザイン・チームは作ったものに非常に満足しており、セットデザイン・チームがこれを素晴らしいセットにしてくれることを期待している。質問があれば、ぜひ私に連絡してくれたまえ。
ご清聴に感謝する。
マーク・ローズウォーター
これが、『イコリア』の展望デザイン提出文書だ。楽しんでもらえていれば幸いである。人々が見たいと伝え続けてくれている限り、今後もこれらを紹介し続けるつもりだ。いつもの通り、この記事や展望デザイン提出文書、あるいは『イコリア』全体について、諸君からを楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『イコリア:巨獣の棲処』に関する質問にお答えする日にお会いしよう。
その日まで、あなたが舞台裏を深く掘り下げることを楽しめますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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