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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

さらなるこぼれ話:『テーロス還魂記』

Mark Rosewater
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2020年2月3日

 

 先週、『テーロス還魂記』に関する一問一答を始めた。今回はその続きとなる。

Q: 『テーロス』ブロックで没になったカードで今回『テーロス還魂記』に入ったものはありますか?

 そう言われて思い至ったカードは《無傷のハクトス》だ。彼は、母親にステュクス河に浸されたことで無敵になったギリシャの英雄アキレスを元にしている。彼は、母親が河に浸すときに掴んでいたせいで無敵になっていなかった踵に矢を射られたことで死ぬことになる。この話は、アキレスの踵という言葉の元になっている。初代『テーロス』では、イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerがこんなカードをデザインした。

RU03
〈アキレス〉
{4}{U}{U}
クリーチャー ― 人間・兵士
5/5
プロテクション(点数で見たマナ・コストが5以外)

 我々はこれをファイルに入れたが、デザインの提出から印刷までのどこかの時点でボツになっていた。イーサンはそれを自分がデザインのリードを務めたブロック最終セット『ニクスへの旅』でも再度入れたはずだが、再び後の工程でボツになったのだ。忍耐を経て印刷に到るという私の前例を追って、イーサンは『テーロス還魂記』の展望デザイン中に調整を加えたそれを提出し、今回はそれがこのカードとなって残ったのだ。

 そしてもう1枚連想されるのがこのカードである。

 これは、ペルセウスがメデューサと戦うために使った鏡の盾を表している。なぜこれが前回ボツになったのかはわからない。おそらく、単に数字の問題だったのだろう。

 『テーロス』のカードで私がデザインした中で、ボツになったことで一番悲しかったのはヘラクレスをもとにしたカードである。

〈ヘラクレス〉
{2}{G}{G}
伝説のクリーチャー ― 人間・神
12/12
あなたがパーマネントを12個コントロールしていないかぎり、これは攻撃もブロックもできない。

 後に、このカードを『イクサランの相克』で昇殿というメカニズムにした(ただし並行デザインである)ので、私はまた別のヘラクレスを作ろうとしたのだ。(残念ながら、私はデザインしたものを見つけることができなかった。だが、すごいものだったはずである。)最終的にセットデザインが亜神を追加したので、私のヘラクレスはボツになったのだった。

 私が思いつくのはこの3つだけで、このセットに採用されたのはそのうち2つだけである。

Q: 前回のテーロスでは、バニラのクリーチャー・エンチャントはクリーチャーでもエンチャントでもあるという働きを見せないので印刷しなかった、と言っていましたね。どんな変化から、バニラのクリーチャー・エンチャントが許容されるようになったんですか?

 クリーチャー・エンチャントとは何かという私の考え方が、初代『テーロス』以降で変化したと考えられる。当時、私は、クリーチャー・エンチャントはエンチャント性を示すことが非常に重要だといたので、エンチャントだと感じられるような文章を持たなければならないという規定を定めたのだ。私が初代『テーロス』から学んだ教訓の1つが、この制限は邪魔であり、「エンチャント関連」を単純な方法で成立させるのを難しくしていたということであった。

 また、それ以降に、私は『アルファ版』にも、イリュージョンなどフレイバー的に魔法の産物だからという理由でエンチャントであるクリーチャー・エンチャントがあるべきだったという結論に到っていた。アーティファクトが意味を持つセットのほうがずっと多いのは、アーティファクト・クリーチャーの存在がシナジーを成立させられるだけの開封比を得る助けになっていたからに違いない。クリーチャー・エンチャントがほとんどのセットに存在する常盤木にさえなっていたら、多くのセットでエンチャントがテーマ的に組み込まれていたことだろう。

 テーロスへの再訪を決めたとき、これらすべてが表に出ることになった。私は、フレイバー的な理由だけでエンチャントであるクリーチャー・エンチャントは問題ないと言い、そして我々は展望デザイン中に何枚ものバニラやフレンチバニラなクリーチャー・エンチャントを作ったのだ。セットデザインがいくらか減らし、「エンチャント関連」と信心の開封比を高める助けになりうる、コモンで複数の色マナをマナ・コストに含むバニラ・クリーチャーのサイクル1つだけを残したのだった。

Q: 『アモンケット』のように神々の別のメカニズムを検討しましたか、それとも信心依存のクリーチャー性を再登場させるというのはずっと計画されていたままのものでしたか?

 それについて少しは話し合ったが、そうしないことにした理由がいくつか存在した。

 1つ目に、信心の再録が必要だということはわかっていた。神々と信心の繋がりはフレイバー的に最高のもので、初代『テーロス』での使い方の中でも最高のものの1つだったので、それを再登場させないのは馬鹿げていると思われたのだ。

 2つ目に、テーロスの神々はクリーチャー・エンチャントなので、クリーチャーでない状態を持たせることができる。ほとんどの神々には存在しない選択肢なので、それがあるのであればその利点を活かすべきものだと思われたのだ。

 3つ目に、他のことをするだろうという多くの予想と戦うので、変更には高いハードルが存在する。

 4つ目に、成立させられるようなデザインがあると感じていた。

Q: なぜこのセットにはこれほどの量の伝説のクリーチャーがあるんですか、そしてそれは今後もそうなるんですか?

 統率者戦は非常に人気のあるフォーマットである。統率者戦を売り込むためにさまざまなことをしていると宣言しており、その中の1つがセット内に含まれる伝説のクリーチャーの数を平均的に増やすことである。「伝説関連」テーマが必要なので、全てのセットが『ドミナリア』級になることはないが、我々は普通の値を過去よりも高めようとしているのだ。これには、アンコモンの伝説のクリーチャーを増やすということも含まれる。

Q: 常盤木のエンチャント用カード枠的なものを作ってここで導入するということは検討しましたか? 『テーロス』はクリーチャー・エンチャントがある唯一のセットではなく、テーブルの向こう側から見つけやすくするような何かを使うことはできました。

 これまでのものよりも汎用的な、クリーチャー・エンチャントのカード枠を作るというアイデアがあった。しかし、テーロスに関連するクリーチャー・エンチャントの既存のカード枠があったので、新しくそれを導入するのに『テーロス還魂記』はふさわしい場所ではないのだ。そこで、このセットに関しては、ニクス枠の調整版を使っている。クリーチャー・エンチャントが登場する、また別のセットがあれば、その数が多ければ特に、クリーチャー・エンチャント専用の汎用カード枠を作るべきかどうか検討することになるだろう。それがあればクリーチャー・エンチャントを数枚だけセットに入れるようなことも簡単になるので、そうしたいと切望している私個人としてはそういうカード枠が望ましいと思っている。

Q: 『テーロス』のようなエンチャント中心のセットは、『カラデシュ』や『ミラディン』のようなアーティファクト中心のセットに比べて課題が多かったり少なかったりしますか?

 エンチャントのほうが制限がずっと多いので、エンチャント中心のセットのほうが難しい。アーティファクトは非常に多用途であり、そのためそれを軸にしたデザインは多少簡単なのだ。どのデッキにも入る壊れたカードを作れてしまう不特定マナがアーティファクトに関する最大の問題だったが、開発部が有色アーティファクトを採用するようになったことでこの問題の解決に向けて大きく進むことになった。

 エンチャントに関するよくある問題の例を示そう。エンチャントを参照したいとする。クリーチャー・エンチャントが存在しない通常のセットでは、エンチャントの開封比は非常に低いものになる。単にコモンに大量のエンチャントを入れるということはなく、ほとんどの場合は少量のオーラだけである。オーラはカード・ディスアドバンテージを引き起こすことが多いのでただでさえも問題であり、そのため参照するのに充分なだけのエンチャントをデッキに入れるのはほぼ不可能となるのだ。これが、テーロスにクリーチャー・エンチャントが不可欠な理由である。

 先述の通り、私はフレンチバニラなクリーチャー・エンチャントを入れるという交渉にさえ負けている。アーティファクトは、人の注目を惹くことすらなくすべてのセットでそれに成功しているのだ。エンチャント・セットを成立させるためには、デザインでかなり押さなければならない様々なことをする必要があるということである。つまり、エンチャント・セットのほうがずっと課題が多いのだ。

Q: なぜ今回はミノタウルスのサブテーマを省いたんですか?

 率直な答えと、丁寧な答えをお届けしよう。

率直な答え

 そのテーマには人気がなかったのだ。前回の訪問から採用したい人気のある要素が多く、しかも新しい要素を入れる場所も確保する必要があったので、すべてのものを入れることは単純に不可能なのだ。そのため我々は、満足するプレイヤーを増やすべく、前回人気があったものを優先した。ミノタウルス部族は、その順位付けの中で下位すぎたのだ。

丁寧な答え

 初代『テーロス』では、クリエイティブ的な誤りを犯していたと思われる。世界構築は、野生のミノタウルスを多く入れるというアイデアを採用した。そのフレイバーに合わせるため、ミノタウルスを2/3かそれ以上にするという制限をつけた。(ブロックの後半ではそれに例外を設けている。)特に部分的に赤である部族において、1~2マナが存在しないというのは非常に難しいものである。特に戦闘を中心にした部族プレイというものは、マナ・カーブに沿った形で圧力をかけ続けていくものである。3ターン目まで圧力をかけ始めることができないというのは、ミノタウルスを非常に弱くするだけだったのだ。人気はパワーレベルの影響を受けるものなので、弱すぎる部族、しかもリミテッドではまったく成立しないような部族はプレイヤーをそのテーマに幻滅させ、市場調査でも良くない結果を残すことになった。他のセットからもミノタウルスを集めて穴埋めができるようなカジュアル構築ではこのテーマは上手く行っていたが、それだけではプレイヤー全体の反応を良くするような数にはならなかったのだ。

Q: 『エルドレインの王権』のメカニズムとシナジーを作るためにもっとできることがあったと思いますか?

 先のセットは後のセットがどのようなことをするかについてシナジーを作れるほど充分細かな情報を持っていないので、将来に向けてシナジーを作るセットは過去に対応してシナジーを作るセットよりもずっと難しいものである。例えば、『エルドレインの王権』の時点ではテーロスに戻ることはわかっていたが、それが実際にどういうものになるのかはわかっていなかった。確かに、おそらく信心を使うことになるだろうということはわかっていたし、そうなると一徹メカニズムなどの単色テーマを使うことになることも予想できたが、信心が具体的にどう組み上げられるのか、どの色が信心に特に焦点を当てるのかもまったくわかっていなかったのだ。

 脱出が使われることがわかっていたら、我々はカードを自分の墓地に送り込むようなメカニズムを扱うことができただろう。しかし、脱出の存在は知らなかったし、『エルドレインの王権』のテーマとうまく働かないようなものをセットに加えることはできないのだ。出来事や食物は『テーロス還魂記』中心のデッキでも使えるほどに部品的だと思うが、『エルドレインの王権』のメカニズムに見られる単色性以上の強いシナジーは存在していない。

Q: 白にコモンのパワー4のクリーチャーを入れるに到った理由はなんですか?

 白に関して定めていた規則を確認して再検証することは白を助ける一環である。白はウィニーの色なので、初期のマジックでは白にはパワー3を超えるものをコモンに入れず、ほとんどはパワー2にしていた。当時はパワー5以上のコモンのクリーチャーは青と緑にしかおらず、時にはパワー4以上でさえその2色に限られていた。時を経て、他の色の規則は緩和してきたが、何らかの理由で白は「コモンでパワー4以上はなし」という規則を守っていたのだ。ある日、我々はそれを見つけ、「これは守らなければならないのだろうか」と言った。そして、その答えは、「いいえ」だったのだ。

Q: エルズペスがテーロスで死んだときに彼女はテーロスの死の国に行きましたが、ギデオンがラヴニカで死んだときにはラヴニカの死後に行かなかったのはなぜですか?

 ラヴニカにはテーロスのような死の国はないが、また別の形の死後の世界が存在する。幽霊になることはラヴニカで死を超えて「生きる」ものの宿命であるように思える。ラヴニカで幽霊になるのはどのような条件に依るものかはわからないが、ラヴニカで死んだ後の結果としてはありうるものである。

Q: 英雄譚が常盤木になるとしたらどういうときですか? 英雄譚は、エンチャントにアーティファクトと差別化できる助けとなる独特のメカニズム的空間を与えます。また、次元の物語を少しカードで描写することはクールですよね。

 英雄譚はすべてのセットで登場させるようなものではない(デザインするのが難しく、ユーザーが知っている物語が存在する次元でなければならない)ので、常盤木になりうるかどうかについて、私は懐疑的である。実際に聞きたいのは、英雄譚が落葉樹になるかどうか、つまり、どのセットでも扱うことができて通常の常磐木でないメカニズムよりも頻繁に登場することができるかどうか、だろうと思う。その運命は、英雄譚がどう受け取られるかにかなりかかっている。多くのプレイヤーが好きだと言えば、近いうちに再登場することになるだろう。

Q: なぜ《Oubliette》がないんですか?エンチャント・セットで、囚えられたクリーチャーにオーラを残すこともできます。フレイバー豊かですし……それに、再録がとてもとても必要なんです。

 基本的に、理由が2つある。

 1つ目に、再録の場合同じカード名にしなければならないが、「Oubliette」というのはそもそもギリシャ語ではない。フランス語だ。

 2つ目に、スタンダードのセットに入るカードは現代のカラー・パイに従うものであり、この能力は今は黒ではなく白の能力である。

 『テーロス還魂記』に入らなかった理由は以上である。喜ぶべきことにカードに収まるようなテンプレート化の方法を見つけた(これが長い間再録されなかった理由である)ので、将来の製品で再録することが計画されている。

Q: 土地・エンチャントをこのセットに入れることは真剣に検討されましたか?

 初代『ミラディン』で、我々はアーティファクト・土地を作った。それは非常に悪い結果を招き、結果としてさまざまなフォーマットで禁止するはめになった。よく言われる通り、一度やけどをすれば二度目には臆病になるものだ。我々は、土地・エンチャントを作ることには非常に慎重になっている。『テーロス還魂記』に入れることについて話し合ったが、星座がセットに入ることが決まると取り消しになった。見ての通り、星座と土地・エンチャントは非常に強力な組み合わせであり、つまり土地・エンチャントを入れるならすべての星座カードを弱体化させる必要があったのだ。この代償は充分なものとは言えなかったので、星座が確定したことで土地・エンチャントを採用しないことがはっきりしたのだった。いつか、おそらくは「エンチャント関連」テーマがないセットで、作るかもしれない。

Q: なぜ英雄的はキーワード化されなかったんですか?

 我々が監視していることの1つに、語彙管理と呼んでいるものがある。プレイを始めるときに、新しく学ばなければならない単語がどれだけあるかだ。ここで新しく学ぶという中には、見たことのない単語だけでなく、ゲーム内の意味を学ばなければならない単語も含まれる。その値がある閾値を超えていると、威圧的すぎて新規プレイヤーが避けるようになるのだ。

 語彙管理のために調整するものがいくつか存在する。

 1つ目に、セット内に含まれるキーワードの数に注意している。これは、常盤木キーワード(ほとんどすべてのセットに含まれる「飛行」などの語彙)と、落葉樹キーワード(ときおり登場するがすべてのセットには現れない「搭乗」などの語彙)と、セット・キーワード(そのセット固有の、『テーロス還魂記』で言えば「脱出」などの語彙)の合計である。

 2つ目に、そのセットの新しい語彙の開封比に注意している。新規プレイヤーが新しい語彙に触れる比率は彼らが扱いきれる範囲にしたいと考えている。どの語彙がどのレアリティで登場するかを意識することで、それを達成しているのだ。

 3つ目に、それぞれのキーワードがどれだけ難しいかに注意を払い、理解しにくい単語の量を減らすようにしている。例えば、飛行はその名前に完璧にふさわしいメカニズムなので、理解する助けになる語である。対照的に、警戒は何が起こるかをあまり説明しておらず、学ばなければならない語彙となる。

 4つ目に、いつどのように注釈文を使うかについて注意している。注釈文は新しい語彙の恐ろしさをすべて帳消しにはしないが、助けにはなる。

 これらすべての結果として、我々はそのメカニズムが常盤木でも落葉樹でもなく、そのセットの主役というわけでもない場合にはキーワードを使わないことにしたのだ。上陸を使うカードが1枚だけあった場合、カードが何かをするというほうがずっと威圧的でないので、単純に上陸というラベル付けはしない。英雄的は5枚のカードで使われていて、これは語彙となる単語を使うかどうかを検討する閾値前後なので興味深い状況である。カードは5枚ともまったく同じことをし、つまり同じ効果を持っている。通常、英雄的カードは対象にされるという同じ誘発イベントを持つが、異なる効果を持つ。かなりの議論を経て、これにラベル付けをするほうが緊張をもたらすと判断し、ラベル付けをしなかった。

 このポリシーについて説明するたび、反論として、過去のメカニズムを使うカードにラベル付けをすることは熱心なプレイヤーにとってそのカードの挙動が認識しやすくなるという反論がある。また、メカニズムを軸にしたデッキをつくるときに探す助けにもなるのだと。我々の回答は、新しいプレイヤーをマジックに取り込む助けとするため、熱心なプレイヤーに理解する上でいくらかの負荷をかけることを選んでいる、というものである。私は、マジックの参入障壁がおそらくマジックのゲームとしての最大の弱点であり、この譲歩が重要なのだと分かったという話をよくしている。これはゲームプレイに影響するものではまったくなく、ただどのプレイヤーにとって理解しやすいものにするかというだけのことである。プレイヤー層の一方に複雑さを寄せることができるとしたら、我々は常に熱心なプレイヤーの側に寄せることを選ぶ。基本的に、我々は熱心なプレイヤー諸君ならそれを扱うことができると信じているのだ。

ゲーム終了

 今日の時間はこれまで。時間を掛けて質問を考え、送ってくれた諸君に感謝し、答えられなかった質問を送ってくれた諸君には申し訳ないと思う。いつもの通り、私の回答やこの新セットについての諸君の意見を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、ついに『Unsanctioned』のデザインについて語ることができる日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが神話になる未知を見つけられますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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