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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

目に見えるよりもっと『基本』

Mark Rosewater
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2019年6月24日

 

 先週、『基本セット2020』のプレビューを始めた。このセットの中核となる特徴のいくつかについて語ったが、まだ論ずるべきものは存在する。今回、このセットに含まれるサイクルについて語ることでそれらを論じていこう。なお、そのサイクルの1つが今日のプレビュー・カードである。(そう、5枚あるのだ。)これらのサイクルの中にはまだプレビューされていないカードもあるので、そこかしこに抜けが存在する。

 それでは席についてシートベルトを着用してくれたまえ、これから『基本セット2020』の数々のサイクルを巡るツアーにご案内しよう。

コモンのサイクル

ライフを得るタップインランドの10枚サイクル
 

 基本セットの目標の1つが、必要で基本的な道具の多くがスタンダードで使えるようにしておくということである。その中には、プレイヤーが高レアリティの2色土地を使えなくても多色デッキを作る助けとなる、コモンの2色土地が含まれている。『基本セット2020』では、セットデザイン・チームは『タルキール覇王譚』のライフを得るタップインランドを採用することにした。これらはタップ状態で戦場に出て、戦場に出たときにコントローラーに1点のライフを与える2色土地である。

 このサイクルのうち友好色の土地は、初代『ゼンディカー』で初登場したものである。それ以前から純粋なタップインランド(他に能力を持たず、タップ状態で戦場に出る2色土地)は存在していたが、それらをもう少し強力なものにする余地があるということに気づいたのだ。1点のライフを得るというのは、これらの土地に持たせられる一般的に有用で単純な能力であると考えられた。『タルキール覇王譚』では友好色の土地の名前を変えて(元の土地は、カード名にゼンディカーの固有名詞を含んでいた)、敵対色の土地を加えて10枚の完全サイクルにしたのだった。

「参照する」呪文

 このサイクルには今日のプレビュー・カードが含まれているので、まずそれをお見せしてから語ることにしよう。

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 これは、それと同名のカードの存在を参照する5枚のカードのサイクルである。それぞれの参照の仕方は異なるが、どれも構築戦でなら4枚、ドラフトでなら可能な限りの枚数を入れることを推奨するものとなっている。そして、それが簡単にできるよう、コモンに配置されている。これらのカードは、『アルファ版』から存在しているテーマを扱うものなのだ。

 マジックが世に出た当初は枚数制限は存在しなかったので、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは集めた限りの枚数を使ってプレイすることを推奨するカードをデザインしたいと考えたのだ。(マジックの最初から4枚制限が存在していたら、《疫病ネズミ》は「デッキに○○という名前のカードを何枚入れてもよい。」という文を書かれていたに違いない。)リチャードはマジックがここまで圧倒的に成功するとは考えておらず、普通のゲームとして計画していたので、《疫病ネズミ》を大量に入れたデッキを作るというのはトレーディングにおけるかなりの挑戦になると考えていた。

 《疫病ネズミ》は大人気のカードとなり、そして年を経て、同じような方向性を扱うさまざまなデザインの元になったのだ。(例えば、スリヴァーは《疫病ネズミ》の直接の子孫である。)《疫病ネズミ》に触発されて私がデザインしたカードの1枚が、『テンペスト』の《焚きつけ》であり、それによって《疫病ネズミ》のアイデアを他のカードが戦場にあることを参照するという枠から広げて掘り下げたのだ。《焚きつけ》は他の多くのデザインに影響を与えた。その中には、今日のプレビュー・カードの何枚かも含まれている。

 このサイクルの裏にあるアイデアは、新規プレイヤーに明瞭で単純な任務を与えることである。構築戦では、これらのカードは4枚をデッキに入れるように主張してくる。ドラフトでは、これらのカードは、これらのカードの中の1種を可能な限りドラフトするという明瞭なドラフト戦略を作ってくれる。このサイクルで楽しんでもらえれば幸いだ。

アンコモンのサイクル

プロテクションを持つクリーチャー
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 プロテクション(○○)は、マジックの一番最初から存在していた能力である。マジックの歴史のほとんどの期間、これは常盤木、つまり(ほとんど)すべてのセットで使われる能力だった。『マジック・オリジン』で、我々はこれを常盤木メカニズムから落葉樹メカニズム、つまり必要に応じて使えるが、常盤木メカニズムほど頻繁ではないメカニズムに変更した。

 開発部の多くのメンバーはプロテクションを少しばかり減らしすぎたと感じており、ここ数年に比べて高い頻度で登場させるようにすることに興味を示している。特にプレイデザインは、メタゲームのバランスを取るための非常に有用な道具であるプロテクションを増やすことに興味を示しているのだ。『基本セット2020』のセットデザイン・チームは、プロテクションと似た、もう少しルールが単純なメカニズムを作ることを試していた。(「プロテクション」という名前のままでそのメカニズムの働きを単純化することまで検討していたのだ。)しかし、最終的には、プロテクションをそのまま使うことに決めたのだった。

 このセットでは、プロテクションは6枚だけに使われていて、そのうち5枚はクリーチャーのサイクルである。(残り1枚はアンコモンの白のインスタントである。)厳密に言えば、このサイクルのうちアンコモンは4枚であり、残り1枚(緑)はレアなので、これはアンコモンのサイクルではない。おそらく、最初はすべてアンコモンで、プレイデザイン上の理由から、緑のアンコモンのクリーチャーから緑のレアのクリーチャーにプロテクションが移ったのだろう。これらのクリーチャーは、それぞれ敵対色の1つに対するプロテクションを持っており、カラー・ホイール順に、各色にプロテクションを持つクリーチャーが1体いるという形でサイクルになっている。

 プロテクションの将来について確信はないが、おそらくは、常盤木に戻るか、落葉樹のままスタンダードで使えるセットに登場する頻度が上がるかのどちらかだろう。

色対策呪文
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 これは、それぞれ自身の敵対色2色に対して働くインスタントやソーサリーのサイクルである。(「色対策」は、特定の色に明確に害を与える呪文を指すスラングである。)これらのカードは敵対色に対してだけ働くものであり、つまり、サイドボード・カードとしてもっともよく使われるようにデザインされているのだ。基本セットに「色対策」が入ることが多いのは、色の関連性を説明する上で有用だからである。カラー・ホイールで隣り合っている色が友好色で、対角線上にある色が敵対色であるというのが新規プレイヤーにとって当然のものではないということは忘れがちである。マジックの初期にはそれを明確にしていたが、ゲームプレイ上の理由からいくらか引き下げてきている。また、色対策はプレイヤーに友人のデッキに対応するためにできることを教える最初の一歩でもある。例えば赤のデッキに負け続けていたなら、赤に対して特に強力なカードを数枚入れたくなるのではないか。プロテクションも、これと同じような役割を果たしている。

金色のドラフト・アーキタイプ
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 エリック・ラウアー/Erik Lauerが開発部で働き始めたときにデザインに導入した革新の1つが、金色のアンコモンの、ドラフト・アーキタイプ・カードだった。これらは、それらの色がドラフトですることを声高に主張するアンコモンの多色(大抵は2色)カードである。それらのカードを早い順目でドラフトすれば、そのセットにある他のカードで強化されるであろう方向性を教えてくれる、というアイデアである。

 例えば、先週語ったとおり、『基本セット2020』の白青は飛行をテーマにしている。飛行を具体的に参照している白や青のカードを与えることで、白青のテーマを伝える助けにしているのだ。『基本セット2020』では、2色の組み合わせそれぞれのドラフト・アーキタイプが存在しており、これらの10枚のカードがドラフト・プレイヤーを助ける道標となっている。(それらのドラフト・テーマが一体何なのかについて詳しくは、先週の私の記事を参照のこと。)

有色アーティファクト
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 『カラデシュ』がスタンダードに与えたひどい影響から生じた結果の1つに、開発部がアーティファクトを深く検証したということが挙げられる。歴史的に、大量のアーティファクトをプレイすることに焦点を当てたセットのほとんどではプレイデザイン上の問題が生じ、禁止につながることも多かった。市場調査の結果からプレイヤーたちがアーティファクトを大好きだということがわかっていたので、我々はそれを続ける方法を見つける必要があったが、それによって生じ続けている問題に対処する方法も必要だったのだ。この問題について研究した結果、カラー・ホイールを組み込むようにすることが必要だということが明らかになった。壊れたアーティファクトがほとんどどんなデッキにも入るという事実が、通常の強力すぎるカードに比べてアーティファクトでの失敗をはるかに問題の大きなものにしているのだ。

 有色のアーティファクトを増やし始めることで、我々はカラー・ホイールを働かせるようにすることができ、特定のカードをプレイできるデッキに制限をかけ始めるのである。アーティファクトはしばしばフレイバー的に特定の色に寄っているので、フレイバー要素は問題ないと思われる。大きな問題は、アーティファクトがエンチャントの領域に踏み込んでしまうことだが、我々はそれがマジックにとっての利益のために必要なことだと判断し、その2つを分けるのをメカニズム的な違いよりもクリエイティブ的な要素に頼ることに決めたのだ。(ただし、エンチャントはタップしないなどのいくらかの違いは存在する。)なお、有色アーティファクトを増やすというだけであり、今後も不特定マナのアーティファクトは作っていく。これはつまり、不特定マナのアーティファクトはリミテッドやカジュアル構築、あるいは構築用ではニッチなカード(つまり、どんなデッキにも入れられるようなカードではない)寄りになっていくということである。

 この決定により、我々は有色アーティファクトを落葉樹にした(常盤木になる可能性もある)。新規プレイヤーにこれがマジックの一部であるということを知らせたいので、基本セットに含むのはいい機会だと感じたのだ。そのため、『基本セット2020』のセットデザイン・チームは、アンコモンのサイクル(装備品3つとそうでないアーティファクト2つ)を作った。また、先週私がプレビューした、レアの有色アーティファクトである《チャンドラの調圧器》もある。

レアのサイクル

敵対色占術土地(神殿)
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 占術土地(あるいは神殿)は、『テーロス』ブロックで、3セットに渡って初登場した。これは、タップ状態で戦場に出る2色土地だが、1点のライフを得るのではなく占術1ができる。これらの土地が初登場したとき、プレイヤーはこれらに物足りなさを感じたが、すぐに競技プレイでも存在感を示すようになった。

 なぜこれらのレアの2色土地が『基本セット2020』に入っているのか。2色土地は展望デザインやセットデザインが決定するものではなく、プレイデザインが決めている。(この例外は、セットのメカニズムが必然的に2色土地のメカニズムを強く推していた場合だけである。)プレイデザインはスタンダード環境全体を見て、競技プレイにふさわしい組み合わせになるような2色土地の組み合わせを提言する。今回は敵対色2色土地のサイクルの番だったので、『基本セット2020』には敵対色占術土地が入ったのだ。占術土地が選ばれたのは、スタンダードの大きなメタゲームにおいてうまくプレイされるからだと思われる。

力線
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 力線は、初期手札にあった場合に戦場にある状態でゲームを始められるエンチャントである。その能力は、防御的な全体効果を持つことが多い。『ギルドパクト』で初登場し、(その後で『基本セット2011』でも登場して、)初期の脅威への対策としてデザインされていたので、しばしばサイドボードで使われたり、極度のメタゲームの問題に対応するために使われたりしていた。力線は『基本セット2020』で、3枚の再録と2枚の新カードで戻ってきた。

 なぜ新旧のカードが混じっているのかという問いには、力線のデザインは難しいということを答えておきたい。デザイン空間が非常に狭いので、良い力線のデザインが見つかったらそれを再利用する傾向にあるのだ。

単色の伝説の象徴的クリーチャー
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 もう1つ基本セットで導入したいものとして、象徴的クリーチャーがある。各色ごとに、レアや神話レアで焦点を当てることが多い、その色の鍵となる性質を示す人気のクリーチャー・タイプが1つ存在する。白の象徴的クリーチャーは天使であり、青はスフィンクス、黒はデーモン、赤はドラゴン、緑はハイドラである。『基本セット2020』では、この5種類の象徴的クリーチャー・タイプの伝説のクリーチャーからなるサイクルを作った。それぞれは派手でその色のテーマに沿うようにデザインされている。我々は、新規プレイヤー(や、馴染みのあるプレイヤー)が、心躍る象徴的クリーチャーをすぐに手に入れられるようにしたいのだ。それらは伝説のクリーチャーなので、統率者としても使うことができるし、いくらかカードパワーを高めることもできる。市場調査によると、人格を持たせることでカードをプレイヤーの多くにとって魅力的にできるという傾向があるのだ。

「二重の」カード
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 これは「柔らかい」サイクルと我々が呼んでいるものであり、非常に繊細で注意を惹かないようなものなので、このサイクルを入れるべきかどうか確信は持てないが、このセットの他のサイクルすべてを列記してきたのでこれも同じように指摘しておくべきだろう。このサイクルは、何らかの効果が2回発生するインスタントやソーサリーからなっている。デザインでは、これら全てはカード名に「二重の/double」という単語を含んでいた(が、この仕掛けは『Unglued』でもすでに扱っていた。)完成品では、これらはどれも頭韻を踏んだ名前になっており、何かが2つ含まれているというカードのコンセプトを持っている。

神話レアのサイクル

騎兵
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 これは、どれも2MMM(Mはそのカードの色の有色マナ1点を指す)のコストを持つエレメンタル・騎士のクリーチャーのサイクルである。それぞれは、常盤木のクリーチャー・キーワードと、登場効果と、死亡誘発を持っており、つまりこのクリーチャーは戦場に出たときに何かをして、それから墓地に行くときにもまた別の何かをする、ということになる。赤のカード、《炎の騎兵》は、先週の私のプレビュー・カードの1枚だった。このサイクルはその1で触れた「エレメンタル関連」のテーマを扱っている。騎士なので、『ドミナリア』の騎士部族にも少し関わってくることになる。

単色プレインズウォーカー
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 もう1つ基本セットに常に存在するのが(ただし『ローウィン』以降)、単色のプレインズウォーカーのサイクルである。長い間、同じプレインズウォーカーを基本セットに入れる傾向にあったが、単に違う人物を使うというだけでなく、新しいプレインズウォーカー・カードのデザインも含め、もう少し混ぜていくことにした。チャンドラはこのセットの顔であり、当然に赤の枠に入る。(そして、先週見せたとおり、コモン以外の各レアリティに1枚ずつ、合計3枚のプレインズウォーカー・カードが存在している。)ムー・ヤンリンが青に選ばれたのは、このセットのエレメンタル・テーマにふさわしいからである。(彼女は風と水を操るエレメンタル能力を持っている。)『灯争大戦』の出来事の後でリリアナに休息を与えることにして、黒のプレインズウォーカーの枠はソリンが入った。(ソリンは白黒だが、どちらかといえばはっきり黒寄りである。)緑については、ニッサとビビアンという選択肢があったが、スポットライトを浴びた期間が短かったビビアンを採用した。

楔の伝説のクリーチャー

 先週語ったとおり、『基本セット2019』で弧3色(あるいは断片、1色とその友好色2色)の伝説のエルダー・ドラゴンを出したので、『基本セット2020』では楔3色(1色とその敵対色2色)の伝説のクリーチャーのサイクルを作ることにした。このサイクルのクリーチャーは、統率者やブロウルを非常に強く意識してデザインされている。『基本セット2019』と『基本セット2020』は、基本セットに多色と伝説のクリーチャーを増やすという新しい流れを間違いなく作っていると言うことができる。

来るべき『基本』

 『基本セット2020』のサイクルは以上となる。今週と先週で、このセットに何が入っているか掴むことができていれば幸いである。いつもの通り、今日の記事や回答、そして『基本セット2020』についての反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『基本セット2020』のカード個別の話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが最もあなたの心を躍らせるサイクル(やその一部)を楽しく扱いますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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