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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

重点への『基本』

Mark Rosewater
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2019年6月17日


 『基本セット2020』プレビュー特集第1週にようこそ。今週は、このセットのデザインについて語り、それからプレビュー・カード3枚をお見せする。このセットには独立した展望デザイン・チームとセットデザイン・チームが存在しておらず、私はこのセットのデザインには関わっていないということを最初に強調しておこう。デザインはすべて、このセットのデザインの裏にある話を私に伝えてくれたヨニ・スコルニク/Yon Skolnikが行なったものである。

『基本』その楽しきもの

 『基本セット2020』のデザインは、『基本セット2019』のデザインを振り返ることから始まった。複数年に渡る基本セットの休止のあとで、我々はそれを再開することを決めた。そして『基本セット2019』は新しい基本セットを作る最初の試みだったのだ。ヨニ率いるチームは、まず最初に『基本セット2019』が成功したことの検証から始めた。

身近さ

 基本セットを再び作ることにした主な理由の1つが、新規プレイヤーにとっての良い導入になる製品の必要性であった。通常の、スタンダードで使えるセットは楽しいが、その主な対象は初心者ではなく現在のプレイヤーであり、そのため、新規プレイヤーにとっては少しばかり恐ろしいものでありえるのだ。

 基本セットは、複雑さのレベルが低くなっていることと芳醇さのレベルが高くなっていることという2つの大きな点で新規プレイヤーの助けになる。前者は、プレイヤーが触れることになるであろうメカニズムの数を慎重に調整するということである。後者は、カードを可能な限り親しみやすくわかりやすいものにするということである。この2つのことが、マジックに初めて触れるプレイヤーが最も魅力的だと思うセットを作る助けになっているのだ。『基本セット2019』は身近にすることに関してうまくやっていたので、『基本セット2020』も同じことをすることにした。

入門用製品の統合

 基本セットだけが、初心者向けの製品というわけではない。実際、我々が初心者向け製品群と呼んでいる、特定の順番でプレイして新規プレイヤーがマジックに慣れるための助けしてデザインされている一連の製品が存在している。最初はウェルカムデッキだ。これは、店舗で無料で配られている30枚入りの単色デッキである。ウェルカムデッキは、リスクなくマジックに触れる機会なのだ。次はプレインズウォーカーデッキだ。プレインズウォーカー・カードを基柱にしており、この構築済みデッキでは、プレイヤーがメカニズム的テーマに満ちて完全に具体化されたデッキを経験することができるようになっている。その次が、プレイヤーにテーマに基づいたかなりの枚数のカードを提供し、それぞれ自身のデッキを組む最初の機会をもたらす、デッキビルダーセットだ。そして最後がはじめてのブースターパックを中心とした製品であり、マジックのトレーディングカードという側面を導入することになる基本セットである。

 これまでは、ウェルカムデッキやプレインズウォーカーデッキ、デッキビルダーセットを、後で、基本セットのカードを使って作っていた。『基本セット2019』では、このモデルを完全に覆したのだ。プレイヤーが最初に見る製品群を後で作るのではなく、それらのデザインを基本セットのデザインに編み込んだのである。それはつまり、基本セットのデザイン・チームはただ基本セットだけを作るのではなく、これら4種の製品を一度に作るということであり、基本セットをデザインするにあたってこれらの製品に必要なものすべてを作り統合することができるというこである。(また、特に基本セットと関連した初心者向け製品のために、基本セットのブースターには入れない、そして大抵はとても単純で基本的な、カードをデザインすることを認めた。)『基本セット2019』はこれを非常にうまくやったので、『基本セット2020』もその足跡をたどることにした。

常磐木でないキーワードの不使用

 『基本セット2011』から、基本セットでは単純で常盤木でないキーワードを再録していた(『基本セット2011』は占術、『基本セット2012』は狂喜、『基本セット2013』は賛美、『基本セット2014』はスリヴァー、『基本セット2015』は召集)。中断前の最後の基本セットとなった『マジック・オリジン』では、基本セット史上初めて新しいキーワード2つ(高名と魔巧)を導入した(ああ、『アルファ版』では導入していた)。『基本セット2019』ではこれを引き下げ、過去のキーワードを再録するのをやめることにした。(ただし、厳密に言えば、変身キーワードを使っている神話レア1枚(《破滅の龍、ニコル・ボーラス》/《覚醒の龍、ニコル・ボーラス》)が存在している。)『基本セット2020』では、この『基本セット2019』がしたことを続けることにした。

薄いフレイバー的テーマ

 基本セットは現行の物語を扱わないが、『基本セット2019』では物語において重要な人物の1人であるニコル・ボーラスを選び、彼の過去に焦点を当てた。しかし、『基本セット2020』は、主な物語がちょうど終わったところという点で『基本セット2019』とは異なっているので、『基本セット2019』よりも軽いタッチでフレイバー的テーマを薄くすることにした。

5人の単色プレインズウォーカー

 プレインズウォーカーというカード・タイプがマジックに導入されて以来、プレインズウォーカーという概念を新規プレイヤーに紹介するため、基本セットには(少なくとも)5人の単色プレインズウォーカーが入っていた。『基本セット2019』には5人の単色プレインズウォーカーと、それに加えてクリーチャーからプレインズウォーカーになる両面のニコル・ボーラスが入っていた。『基本セット2020』にも、これから取り上げる新しいひねりを加えて、5人の単色プレインズウォーカーを(ただし、全員が同じではない)入れることにした。

 『基本セット2019』に関して多くのことを『基本セット2020』のデザイン・チームは気に入っていたが、いくつかの部分では改善の余地があると考えた。

ドラフトにて

 『基本セット2020』のデザイン・チームが向上させようと考えた一番大きな部分は、リミテッドとドラフトの体験だった。『基本セット2019』は、2色の組み合わせ10組のドラフト・アーキタイプを基柱としていた。その中には、白青の「アーティファクト関連」テーマや緑白の「オーラ関連」テーマのように、非常に辺境で隣接するドラフト・テーマと組み合わせるのが難しいものがいくつかあった。その結果、カードのパワーレベル的位置づけにプレイデザイン上の問題が生じたのである。強くしすぎれば、そのアーキタイプをドラフトするプレイヤーが1人しかいなかったとき、(他の参加者はそれらのカードを選ぶ理由がないので)強くなりすぎる。また、弱くしすぎれば、誰もそのアーキタイプをドラフトしなくなってしまうのだ。基本セット以外のセットでは、必要な色の組み合わせで重複するテーマを作る助けとなる新メカニズムを利用することができる(例えば、青赤のドラフトを強化したければ、この2色を新メカニズムの主な色にすることができる)。しかし常盤木キーワードしか扱えない基本セットには、そのような道具は存在しない。

 『マスターズ25th』と『アルティメットマスターズ』のセットデザインのリードを務めてドラフトのアーキタイプを作った(再録カードだけからなるマスターズ・セットでは、既存の要素だけからドラフト環境を作るという非常に独特な技術が必要とされる。)経験のあるヨニは、この問題を解決するための斬新な手法を思いついた。このセットを、3色の組み合わせを基柱にしたらどうだろうか。

 『基本セット2019』には、「弧」3色(1色とその友好色2色)の伝説のドラゴンのサイクルがあった。これらは基柱とするためのフレイバーに富んだカードとしてデザインされており、セットに統率者戦で興奮させるものを加えていた。『基本セット2020』を『基本セット2019』と差別化するため、ヨニは「楔」3色(1色とその敵対色2色)の伝説のクリーチャーに注目するというアイデアを面白いと考えたのだ。そうなると、彼のドラフトの3色は楔(赤白黒、緑青赤、白黒緑、青赤白、黒緑青)になる。

 楔の組み合わせを使うことを選んだので、ヨニ率いるチームは、それぞれの楔に含まれる友好色の組み合わせ(楔の中にはそれぞれ友好色の組み合わせが1組だけ存在する)に濃くテーマを持たせ、同じテーマを敵対色にはやや薄く持たせることに決めた。こうすれば、友好色2色でそのテーマのドラフトをすることも、敵対色を加えて3色でプレイすることもできるのだ。展開されるテーマは次の通り。

飛行(青赤白)

 彼らが最初に選んだテーマは、飛行だった。白青は伝統的に、経験を積んだプレイヤーには人気だが初心者にとっては把握するのが非常に難しい反応的コントロール戦略寄りになるので、もっとも初心者が基柱にしにくいテーマの1つである。それとは対照的に、飛行は非常に直接的だ。回避能力を持つクリーチャーをプレイして攻撃する。幸いにも、飛行は白と青が1種色である。そうなると、このテーマの3色目は赤になる。赤は通常、大量に飛行クリーチャーがいる色ではない(大抵はドラゴンとフェニックスだけだ)が、カラー・パイをそれほど曲げすぎることなく少し量を増やすことができるので充分である。

エレメンタル(緑青赤)

 クリーチャー・タイプとしてのエレメンタルは5色すべてに存在するが、主には赤と緑のものである。(例えば、単色のエレメンタルのおよそ7割は赤と緑に存在している。)興味深いことに、青は(赤の土と火に対して、風と水の色なので)3番目にエレメンタルが多い色である。このことから、緑青赤の楔にふさわしいものになった。エレメンタルは、このセットの顔であるチャンドラと直接関わっていることからも良いテーマであった。(彼女についてはまた後ほど。)

横並べ(白黒緑)

 緑と白は、クリーチャーの比率とトークン生成(緑と白で単色カードに存在するトークン生成の55%以上を占めている)の両方で上位2色なので、このカラーの組み合わせを「横並べ」戦略に集中させるのは正しいと思われた。「横並べ」は、しばしばトークンを使い、大量のクリーチャーで攻撃することで対戦相手を圧倒する、クリーチャーをもとにした戦略である。「横並べ」戦略は、クリーチャーを作ること、そして自軍全体を強化する効果(これも白と緑に多い能力だ)に頼っている。黒は、クリーチャーの比率、トークン生成の両方で第3位であり、3色目としてまさにふさわしい選択となった。

アグロ(赤白黒)

 これは少し扱いにくい問題だった。ほとんどのマジックのセットには、アグロ戦略が存在する。(「アグロ」は、毎ターンマナを使い切って毎ターン攻撃するクリーチャーをプレイし、対戦相手が安定できる前に可能な限り早くゲームに勝とうとするものとして定義される。)白、赤、黒はアグロ戦略に最も関連深い3色であるが、2色の組み合わせで言うなら赤白である。これは敵対色であり、友好色ではない。『基本セット2020』でのアイデアは、主に赤白のものだったアグロを主に黒赤のものにし、3色目に白を位置づけるというものだった。そのために白や黒のクリーチャーの位置づけについて再考する必要があったが、達成できるテーマだったのだ。

「登場」効果によるコントロール(黒緑青)

 先述の通り、コントロール戦略は新規プレイヤーにとって扱いにくいものでありうる。ヨニ率いるチームは、反応することよりも行動することに基づいている青黒は、コントロール・デッキを置くのにふさわしい場所だと判断した。青と黒はどちらも、クリーチャーに、その背後に存在するカード・アドバンテージ戦略を理解していない新規プレイヤーにも見て取れる、能動的に戦場をコントロールする助けになる「登場」効果を持たせることができる。彼らはこれを、登場効果と相性のいい大型クリーチャーに焦点を当てた色である緑と組み合せた。もう1つ、このテーマがうまく作用する理由として、他の4つのテーマがすべてクリーチャーに基づくものであり、登場効果と持つクリーチャーを使うことはテーマ間のシナジーを増やすことにつながるのだ。


 こうしてテーマを見てきたところで、今度はこれらのテーマがどのようにドラフトを成立させるのかを見ていこう。ドラフト参加者がドラフトするときの手法は3種類存在する。

 1つ目が、任意の友好色の組み合わせでドラフトするというもの。それぞれに、カードではっきりと主張されている濃いテーマが存在する。2つ目が、楔をドラフトすることで3色の戦略を使うというもの。先述の通り、5種類の楔戦略は、友好色2色のテーマを中心として敵対色の補助を加えたものである。3つ目が、敵対色のデッキをドラフトするというものだ。敵対色の組み合わせは、テーマAの1種色でありテーマBの2種色である色と、テーマBの1種色でありテーマAの2種色である色の組み合わせになるので、これらのデッキは2つのテーマをまたがるものである。青赤を例に取ってみよう。

 青は飛行の1種色でエレメンタルの2種色であり、赤はエレメンタルの1種色で飛行の2種色である。序盤では、青のエレメンタルの飛行クリーチャーを選ぶ。もちろん、これを白と組み合わせて2色の飛行デッキを作ることも、赤と白と組み合わせて3色飛行デッキを作ることも、赤と緑と組み合わせて3色エレメンタル・デッキを作ることもできる。一方で、赤のカードだけを選び「飛行関連」(赤は飛行の2種色だ)と「エレメンタル関連」(赤はエレメンタルの1種色だ)の両方のカードをドラフトするという選択肢もある。それらのテーマは、敵対色のテーマと噛み合うようにデザインされているのだ。

 また、このセットには5つしかテーマが存在しないので、ヨニ率いるチームは、経験のあるドラフト・プレイヤーがこのセットでもっと変わったデッキをドラフトできるように、基柱になるカードを、大抵はアンコモンに、デザインする余裕があった。

プレイン(ズウォーカー)でシンプル

 デザイン・チームが取り組まなければならなかったもう1つの問題が、このセットにプレインズウォーカーでちょっとしたスパイスを加える方法だった。『基本セット2019』ではボーラスの両面カードで加えていたが、『基本セット2020』の主な焦点はチャンドラであり、彼女は『マジック・オリジン』ですでに両面カードになっていた。チャンドラを輝かせるために何ができるだろうか。その答えは、マジックの上席ディレクターであるアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheからの提案をもとにしたものだった。

 『灯争大戦』で、アンコモンやレアのプレインズウォーカーがマジックに導入され(ああ、初代の『ローウィン』のプレインズウォーカーたちは、まだ神話レアが存在していなかったので、レアだった。)、興味深い可能性が開かれた。このセットにチャンドラが1枚でなく3枚あったらどうだろうか。『基本セット2020』に、アンコモンのチャンドラと、レアのチャンドラと、神話レアのチャンドラを入れることができるのだ。

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 こうすることで、プレイヤーは、スタンダードではあまりしないこと、1人のプレインズウォーカーをテーマとしたデッキをプレイすることができるようになる。見ての通り、すでにスタンダードにはこの5枚のカードが存在している。

 この3枚のプレインズウォーカー以外にも、チャンドラをテーマとしたカードは『基本セット2020』に4枚含まれており、そのうち2枚は今日のプレビュー・カードになっている。1枚目は《チャンドラの火炎猫》だ。

 プレビュー・カード1枚目を表示


 次が《チャンドラの調圧器》だ。長年の物語ファン諸君は、チャンドラが彼女の紅蓮術を制御する助けとして両親から受け取った道具に覚えがあるかもしれない。

 プレビュー・カード2枚目を表示


 本日最後のプレビュー・カードは、厳密に言えばチャンドラ・テーマではないが、フレイバー的にはチャンドラ・デッキに入りうるもので、これまでの2枚のプレビュー・カードと相性がいいものである。

 プレビュー・カード3枚目を表示


 チャンドラ・ファンの諸君は、『基本セット2020』で可能になるクールなチャンドラ・デッキに心を躍らせてくれていることだろう。

『基本』に忠実に

 本日はここまで。このセットについて語るべきことはまだあるが、幸いなことに来週も、何枚ものプレビュー・カードを携えてこれについて祟る記事を書くことができるのだ。今日の記事が諸君の『基本セット2020』への期待を高めてくれていれば幸いである。いつもの通り、この記事やプレビュー・カード、あるいは『基本セット2020』そのものについて、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『基本セット2020』のデザインについてさらに語る記事でお会いしよう。

 その日まで、あなたがあなたのチャンドラ・デッキの構想を楽しく始められますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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