読み物
Making Magic
ローズウォーター・トーナメント
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年3月11日
もう何年も前の話になるが、イニストラードのデザインをしていたときのこと。私はそれが13回目のリード・デザイナーだと思い、(13はイニストラードの小テーマだったので)イカしていると思った。数日後、数え直してみたらイニストラードは私にとって14個目のリード・デザイナーを務めたセットだった。数え間違えていたのだ。14個ということは、あとたった2つで16個。16個ということは、プレイヤーの投票によって毎日1戦ずつ、テーマに基づいたプレイヤーの投票による1対1のトーナメントを行なうことができる。トーナメントをするには2の累乗でなければならないが、8個のときは私はこんなことを考えていなかった。
16個目のセットが世に出たとき、私は1対1のトーナメントを開催しようとに決めていた。そして、16個目となったのはギルド門侵犯(正確にはマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebとの共同リーダーだ)で、そのデザインが終わってから数年待った今、いよいよトーナメントの準備ができたことになる。そう、ローズウォーター・トーナメントの幕開けだ。各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で告知し、Twitterで投票を募った。何百人ものプレイヤーが投票してくれて、トーナメントと呼ぶにふさわしいものになったのだ。
さて、手法の説明が終わったところで、メンバーの紹介と実際の試合内容を説明していこう。トーナメントを観戦していなかった諸君のために、各試合の説明前に結果を予想する機会を与えようと思う。その後、もし私だけが投票していたら、という話もしよう。言ってみれば、マーク・ローズウォーター・トーナメントというわけだ。
まずは選手紹介。私がリード・デザイナーを務めた発売済みのマジックのセットはこの16個である。時系列順に並べると......。
テンペスト
Unglued
ウルザズ・デスティニー
オデッセイ
ミラディン
フィフスドーン
Unhinged
ラヴニカ
未来予知
シャドウムーア
イーヴンタイド
ゼンディカー
ミラディンの傷跡
イニストラード
闇の隆盛
ギルド門侵犯
Countrymenのデザイン・チーム(イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer、ダン・エモンズ/Dan Emmons、マット・タバック/Matt Tabak、それに私。エリック・ラウアー/Erik Lauerもデザイン・チームのメンバーだが、この日は病欠していた)が仮に付けた順位はこうなった。
1. ラヴニカ
2. イニストラード
3. テンペスト
4. ゼンディカー
5. ミラディン
6. Unglued
7. ギルド門侵犯
8. シャドウムーア
9. 闇の隆盛
10. ミラディンの傷跡
11. 未来予知
12. ウルザズ・デスティニー
13. Unhinged
14. オデッセイ
15. イーヴンタイド
16. フィフスドーン
そして、これを伝統的な上位16人によるトーナメント表に当てはめた。仮の順位での上位同士が早い間に衝突するようなことはなくなっている。
さて、トーナメント表はできた。いよいよ試合開始だ!
組み合わせを提示したときに私がプレイヤー諸君に説明したのは、どのマッチアップにせよ、どちらのセットが好きか選んで欲しいということだけだった。どういう基準で投票するかは、投票者の自由に任せられたわけである。
ここからは試合ごとに見ていこう。投票できなかった諸君は、結果を見る前にどちらのセットに投票するかを考えてみてくれたまえ。投票したのはTwitterでの私のフォロアーであり、マジックにはまり込んでいるプレイヤーであることを書き添えておこう。
それではトーナメント表を公開しよう。
第1試合:シャドウムーア(#8) vs 闇の隆盛(#9)
第1試合は闇のセット同士の対戦となった。また、頑強と不死の戦いでもある。
シャドウムーア |
闇の隆盛 |
頑強 |
不死 |
畏縮 |
窮地 |
共謀 |
進化した両面カード |
アンタップ・シンボル |
進化したフラッシュバック |
単色混成 |
さらなる陰鬱カード |
「色」テーマ |
より強い怪物部族テーマ |
大量の混成マナ |
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
第1試合の結果は、60対40の僅差でシャドウムーアが闇の隆盛を下した。シャドウムーアが勝った理由は、大型セットであるという大きなアドバンテージによるものだと考えられる。カードが多いだけでなく、完全に新しいメカニズムが導入されるのだ。小型セット、特に闇の隆盛のような第2セットのメカニズムのほとんどは、その直前の大型セットで使われたメカニズムなのだ。
まとめると、混成への愛が「さらなるイニストラード」への愛よりも勝ったということになろうか。
第2試合に続く。
第2試合:ギルド門侵犯(#7) vs ミラディンの傷跡(#10)
第2試合は「回帰」同士の対戦だ。ラヴニカへの回帰か、それともミラディンへの回帰か?
ギルド門侵犯 |
ミラディンの傷跡 |
大隊 |
感染 |
湧血 |
金属術 |
暗号 |
増殖 |
進化 |
進化した刻印 |
強請 |
ファイレクシアの侵略はじまる |
新魔除け、新ギルド魔道士 |
新ギルド門、新ギルド指導者 |
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
第2試合は第1試合と同様、60対40の僅差でギルド門侵犯がミラディンの傷跡に勝った。結果を見たあとで(プレイヤーになぜそう投票したか聞いてみた)、ギルド門侵犯の勝利はミラディンの傷跡への反対票を投じられた結果であるように思われた。賛否両論あるメカニズムやしばしば批判されるリミテッドのせいで、ミラディンの傷跡は非常に意見のわかれるセットだったのだ。また、ギルド門侵犯はまだ印象の強い現在のセットであるというメリットもあった。公平を保つために言っておくと、ギルド門侵犯には人気のあるメカニズムがたくさん入っているのだ。
まとめると、両セットには多くのファンが居るが、現在のセットの方が少しばかり多かったということになる。
第3試合に続く。
第3試合:Unglued(#6) vs 未来予知(#11)
この試合は馬鹿なセット同士の対戦となった。未来予知は今までにデザインされた黒枠セットの中でもっとも異常なことから、第3の銀枠セットと呼ばれることもある。それが第1の銀枠セットと対峙するのだ。
Unglued |
未来予知 |
ダイスを振ること |
ミライシフト・カード |
物理的要素 |
ミスマッチさせたカード |
音声的要素 |
進化した占術、待機、消失 |
新枠の使用 |
10個の新キーワードと新キーワード処理 |
全面イラスト・カード |
契約サイクル |
トークン・カード |
接死、絆魂、到達、被覆の導入 |
ユーモアやパロディ |
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
未来予知は競技マジックに初の混乱をもたらしただけでなく、80%の得票を得て華々しくUngluedを打ち破った。Ungluedが銀枠でありイベントで使えないということが、同じように異常な黒枠セットとの対戦においてはやはり大きなハンディキャップだったと言えるだろう。未来予知には、マジックの将来に登場しうるミライシフト・カードも収録されており、その中には《》や《》、《》などの人気カードが入っているのだ(もらっているリクエストでは、からくりは未だに上位5位に入っている)。
まとめると、黒枠の馬鹿が銀枠の馬鹿を打ち倒したと言える。
第4試合に続く。
第4試合:ミラディン(#5) vs ウルザズ・デスティニー(#12)
この試合はアーティファクト・サイクルのセット対アーティファクト・ブロックのセットの対戦である(ウルザズ・サーガは、ブロックの主たるテーマがエンチャントだったのにもかかわらず、ストーリー上の理由からアーティファクト・サイクルと呼ばれていた)。さて、アーティファクトのセットとエンチャントのセット、どちらを取るか?
ミラディン |
ウルザズ・デスティニー |
親和 |
「公開」メカニズム |
双呪 |
「ロボトミー」メカニズム |
装備 |
「ちらつき」 |
刻印 |
「場からのサイクリング」 |
アーティファクト・土地 |
「アーティファクト」テーマ |
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
ミラディンが65%の得票を得てウルザズ・デスティニーを破った。ウルザズ・デスティニーには様々な不利な要因があった。大型セットに挑む小型セットである。新セットに挑む旧セットである(新、というのは「比較的古くない」という意味である)。さらに、ウルザズ・デスティニーは壊れたブロックの中の最弱のセットであったし、ウルザズ・デスティニーのテーマは一貫したとは言えないものだった。
まとめると、最も長く「最も売り上げを上げたセット」であったセットが勝った、ということになる。
第5試合に続く。
第5試合:ゼンディカー(#4) vs Unhinged(#13)
この試合は全面土地カード同士の戦いとなった。「土地セット」対銀枠第2セットの戦いはどうなるか。
ゼンディカー |
Unhinged |
同盟者 |
ゴチ |
上陸 |
派閥 |
探索 |
「アーティスト・テーマ」 |
罠 |
ロバ・テーマ |
「土地」テーマ |
ユーモアやパロディ |
威嚇の導入 |
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
今回も、銀枠は勝利を得ることはできなかった。ゼンディカーの得票は80%と圧倒的にUnhingedを打ち破った。多くの投票者が銀枠セットを賞賛していたが、安定して人気のある黒枠セットを差し置いて投票できるとは思わなかったのだ。上陸メカニズムが一番のお気に入りで、ゼンディカーの冒険世界が好きだという人も多かった。
まとめると、人気のない方の銀枠セットにはチャンスなんてなかった、ということになる。
第6試合に続く。
第6試合:テンペスト(#3) vs オデッセイ(#14)
この試合は私が手がけた最初の2つの大型セットという、懐かしのセット同士の対戦となった。
テンペスト |
オデッセイ |
バイバック |
フラッシュバック |
リシド |
スレッショルド |
シャドー |
「墓地」テーマ |
スリヴァー |
ストーリーの繋がり |
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
各セットにファンがいる熾烈な対戦となったが、結果としてはテンペストが65%の得票を得てオデッセイに打ち勝った。テンペストが競り勝ったのは、オデッセイがあまりにスパイク寄りのセット過ぎた(私がデザインした中でもっともスパイク的だった)ので、カード・アドバンテージにこだわらないプレイヤーたちが離れたのだろう(「ここでの正解は、ほら、手札全部を捨ててこのクリーチャーに無駄に先制攻撃をつけることさ」)。また、テンペストはウェザーライト・サーガの起点であった(ウェザーライト・セットは出発前の下準備だった)ので、古いファンの中にはそのストーリーが好きというプレイヤーも多かったのだろう。
まとめると、ジェラードとその仲間たちが《》とその仲間たちを打ち倒した、ということになる。
第7試合に続く。
第7試合:イニストラード(#2) vs イーヴンタイド(#15)
この試合は闇の世界同士の第2戦である(イニストラード次元とシャドウムーア次元は第1試合でも対戦している)。
イニストラード |
イーヴンタイド |
呪い |
彩色 |
両面カード |
回顧 |
陰鬱 |
進化した敵対色混成カード |
「狼男」メカニズム |
進化したフラッシュバック |
格闘の導入 |
トップダウンのホラー・デザイン |
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
上位陣と下位陣の対戦なので、結果はより一方的なものになりがちである。イニストラードは85%の得票を集め、たやすくイーヴンタイドを打ち破った。これまでで最大の差である。イニストラードはもっとも人気の高いブロックの最初のセットであり、イーヴンタイドはそれほどではない世界のパッとしない後発セットだった(ローウィンとシャドウムーアの二重世界が好きというプレイヤーも多くいることは公正のために添えておこう)。
まとめると、ホラー・セットというのはとてもヤバイ対戦相手だということになる。
第8試合に続く。
第8試合:ラヴニカ(#1) vs フィフスドーン(#16)
第1回戦最終戦は2色推奨セットと5色推奨セットの対戦となった。
ラヴニカ |
フィフスドーン |
召集 |
占術 |
発掘 |
烈日 |
放射 |
「ほぞ(0?1マナのアーティファクト)」テーマ |
変成 |
さらなる親和、装備、刻印 |
混成マナ |
5色テーマ |
ギルド・モデル |
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
ラヴニカが第1回戦最大の差を付けての圧勝で、1位の実力を見せつけた。90%の得票を集めてフィフスドーンを下したのだ。フィフスドーンにもファンは居るが、ギルドの都という巨獣ラヴニカに太刀打ちなどできなかった。その人気は現在のラヴニカへの回帰を生み出したことでも証明されている。
まとめると、フィフスドーンに勝ち目なんてありえなかったということになる。
準々決勝第1試合に続く。
第9試合:ゼンディカー(#4) vs ミラディン(#5)
さて、準々決勝第1試合。「土地テーマ」対「アーティファクト・テーマ」、冒険世界対金属世界の対戦となった。勝ったのはどちらか?
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
ゼンディカーが70%の得票を集め、ミラディンを打ち倒した。ミラディンの敗因は2つある。まず、ゼンディカーは近年でも最も人気の高いセットの1つであるということ。もう1つは、ミラディンと聞いて、当時プレイヤー離れを引き起こしてしまったあのひどいスタンダード環境を作ったことを思い出したプレイヤーがいると言うことだ。
まとめると、上陸がスタンダードの墜落を引き起こしたセットを打ち破ったということになる。
準々決勝第2試合に続く。
第10試合:テンペスト(#3) vs 未来予知(#11)
過去のスリヴァーと未来のスリヴァーの対戦となったこの一戦。勝つのはどちらか?
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
今回も未来予知が70%の得票を得てテンペストを倒すという番狂わせを演じた(ここまでで番狂わせを起こしているのは未来予知だけだ)。テンペストは革新的なセットだったが、いかんせん出場セットの中ではもっとも古い。そのため、そもそも存在をよく知らない人もいるし、古くさいと思う人もいる。未来予知はマジックにはまり込んでいるプレイヤーたちに人気があると言うことは証明されている(そしてTwitterで私をフォローしているプレイヤーは、マジックにはまり込んでいるプレイヤーたちなのだ)。
準々決勝第3試合に続く。
第11試合:イニストラード(#2) vs ギルド門侵犯(#7)
準々決勝第3試合は、私が前のブロックでデザインした大型セット対現在のブロックでデザインした大型セットとなった。
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
やはりイニストラード。85%の得票を集めてギルド門侵犯を打ち破った。ギルド門侵犯も人気の高いセットだが、新しすぎてまだその全貌が理解されていなかったのだ。そして相手は私の作ったマジックのセットの中で最高のセット、イニストラードだった。
準々決勝第4試合に続く。
第12試合:ラヴニカ(#1) vs シャドウムーア(#8)
この試合は、混成を作り出したセットと、混成にもっとも注目したセットの対戦である。
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
鎧袖一触、ラヴニカが75%の得票を得て勝利した。シャドウムーアにもファンはいるが、「シャドウムーアへの回帰」が登場していない点を見てもラヴニカのファンのほうが多いのは明らかだろう。
準決勝第1試合に続く。
第13試合:ラヴニカ(#1) vs ゼンディカー(#4)
準決勝にふさわしく、大人気のセット同士の対戦となった。いよいよラヴニカにも勝負の時が来たのか?
諸君ならどちらに投票するかを決めてから、結果を見たまえ。
この試合に至るまで、ラヴニカは全てのマッチに圧勝してきた。しかし今回は紙一重の勝利と言っていい。ラヴニカの得票は、わずかに52%。ゼンディカーにも多くのファンがおり、ラヴニカ相手に善戦したが、やはり1位の壁は厚かった。
準決勝第2試合に続く。
第14試合:イニストラード(#2) vs 未来予知(#11)
ここまで下馬評を覆し続けてきた未来予知。さて、もっとも人気が高いセットの1つを相手にも下克上を果たせるだろうか?
結果を見たまえ。
無理だった。未来予知を愛する投票者も多かったが、57%の得票を得たイニストラードほどではなかった。イカしたコンセプトで作られた未来予知は素晴らしい成績を示したが、それでもイニストラードの完成度には及ばなかったのだ。
決勝戦に続く。
第15試合:ラヴニカ(#1) vs イニストラード(#2)
決勝戦は(トーナメント参戦者を除く)誰もが予想したとおりの対戦になった。このローズウォーター・トーナメントの優勝者として名を刻むのは、一体誰になるのだろうか?
結果を見たまえ。
このトーナメントで数々の圧勝劇を演じてきたラヴニカだったが、この最終戦でイニストラードの人気を打ち倒すには及ばなかった。決勝戦の勝者は、60%の支持を集めたイニストラードだった。
さて、ここまでローズウォーター・トーナメントの結果を見てきたが、ここからもう一度トーナメントをやりたいと思う。今度は投票権者はたった1人、この私だけだ。同じ対戦表を使い、どちらのセットがよりうまくデザインできていたかで判定する。自分で作ったセットばかりなので、身内贔屓をしてしまうことなくどちらのセットがより良くデザインされているかを公正に審査することができる。
マーク・ローズウォーター・トーナメント開始!
一般に投票を募ったときは、その投票基準は投票者任せにしていた。今回のマーク・ローズウォーター・トーナメントでは、より良くデザインできていると私が思っているセットに投票することにする。この判断は非常に主観的だが、そもそも意見の発表(と反論)というのはそういうものなのだ。
それでは第1試合を始めよう。
第1試合:シャドウムーア(#8) vs 闇の隆盛(#9)
私の選択は?
第1試合は私にとって簡単な問いだった。シャドウムーアは画期的なデザインだったのだ。大/小/小というそれまで当たり前どころか唯一だったブロック構成を打ち壊したセットである。ブロックの構成について、再検討することができるということを示してくれた。また、畏縮や頑強も秀でたメカニズムであり、さまざまな選択を可能にしたドラフト環境も面白いものだった。
闇の隆盛はイニストラード世界にうまく作り上げられているが、それほど革新的ではなかった。このセットで導入された新メカニズムの中で最高のものは不死で、これはシャドウムーアの頑強からの進化形に過ぎなかった。闇の隆盛の出来には誇りを持っているが、率直に言って、シャドウムーアのデザインの方が上だと言える。
次の試合に続く。
第2試合:ギルド門侵犯(#7) vs ミラディンの傷跡(#10)
私の選択は?
私はギルド門侵犯に満足しているが、そのデザインのほとんどは派生物だった。一部は旧ラヴニカ・ブロックから、また一部はラヴニカへの回帰からである。私自身の変化を加えはしたし、新しいギルド・メカニズムはどれも出来の良いものだったと思っているが、どれも感染や増殖より上だとは思わない。なんと言ってもそれらは私の一番お気に入りのメカニズム十選に名を連ねているのだから。また、感染や増殖はセットの雰囲気、2つの勢力の争いを形作る助けとなっていた。イニストラードでできたことのほとんどは、ミラディンの傷跡で学んだことを活かしたからできたのだと思っている。
次の試合に続く。
第3試合:Unglued(#6) vs 未来予知(#11)
これは第1回戦で一番難しい試合だと思う。
私の選択は?
これは一番賛否両論のある判定かもしれない。特にファン投票と比べると理解しにくいだろうから、説明させてもらおう。この2つのセットは、私が今までデザインした中でも一番難しいセットだった。Ungluedは銀枠のセットを作る、というだけの条件から始まったもので(銀枠は「イベントで使えない」ということしか定義されていなかった)、未来予知は「マジックの未来を垣間見させる」という難しい任務を帯びていた。どちらのセットも将来のセットが進むべき道を示すものだったのだ。どちらも実験的であり、新しいデザイン空間を探求することができたセットだった。
どちらのセットもカルト的であり、熱烈な支持者がいる。私がUngluedに軍配を上げたのは、それがニッチな商品を目指して作られたものだったからである。一般の顧客に向けてデザインされたものではない。未来予知は、一般向けだった。広い訴求力を持つ、エキスパート・エキスパンションなのだ。そういう意味で、未来予知は失敗だった。売り上げが悪かったのは、顧客の大多数がついていけなかったからである。理解できた人たちは気に入ってくれたが、それは想定顧客の中のほんの一部だったのだ(私のフォロアーの中には理解できるほどのめり込んでいる人が多かったかもしれないが)。
未来予知が失敗だったと言うたびに、それを成功だと思っている諸君が憤りを感じるのは知っている。私は、未来予知を「小劇場作品」だと思っている。あらゆる批判家から褒められたが、発売週末の売り上げはさんざんだった。私は自分のデザインを審査するにあたって、対象顧客層を考慮しなければならない。未来予知はすばらしい出来だったが、それは私が作るべきものとは違っており、顧客の多数を逃してしまったのだ。ファンの声だけを聞くのではなく、理解できなかったプレイヤーたちの声にも耳を傾けねばならないのだ。
もう1つ明確な差異を挙げると、未来予知は想像させるデザインだった。つまり、プレイヤーが想像する未来像をデザインしたものだ。一方、Ungluedは野放図なデザインだった。どちらも難しいが、デザイナーとして誠実に判断するなら(これがこのマーク・ローズウォーター・トーナメントのテーマだ)、Ungluedのほうがずっと挑戦的だった。この判断は批判を呼ぶだろうが、自分に誠実にどちらのデザインが優れているかを判断するのが目的なので、私はUngluedを選ぶ。
次の試合に続く。
第4試合:ミラディン(#5) vs ウルザズ・デスティニー(#12)
もっとも強すぎたブロック2つからのセット、どちらが秀でていただろうか。
私の選択は?
ウルザズ・デスティニーは全て私1人でデザインしたセットである。今まで手がけた全てのセットの中で、このセットは一番「デッキを組みたくなる」カードの割合が多い(つまり、一番ジョニー向けのデザインだということだ)。私はこのことを誇りに思っている。つまり、ミラディンの圧勝とは言えない。ミラディンは一貫した世界観を持ち、その世界観を定義づけるためにメカニズムをデザインした最初の世界である。装備品を導入したのもここで、すぐに常磐木メカニズムになった。親和、刻印、双呪、どれもいいメカニズムだった(親和にはパワーの問題があったが、私は今でもこのメカニズムを信じている)。《》や《》といった印象的なカードも色々と入っていた。
ウルザズ・デスティニーはいいものだったが、ミラディンの方が上だった。
次の試合に続く。
第5試合:ゼンディカー(#4) vs Unhinged(#13)
私の選択は?
Unhingedにも私の誇るカードはたくさんあったが、セット全体としては少しばかり残念な出来だった。特に、ゴチは今まで私がデザインした中で最悪のメカニズムだと思っており、とにかくおもしろおかしいことを狙ったフォーマットの中でおもしろおかしさを台無しにしたものだ。他方のゼンディカーは、私が今までデザインした中で最高のセットの1つだ。この選択は当然だった。
次の試合に続く。
第6試合:テンペスト(#3) vs オデッセイ(#14)
古のセット同士の対戦、勝者はどちらか。
私の選択は?
これも圧倒的だ。テンペストは私の最高傑作の1つで、オデッセイは最悪の駄作の1つだ。オデッセイからは様々な教訓を得ることが出来たが、それは様々なことを間違えたからである。最大の過ちは、多くの顧客をしらけさせるようなスパイク向けすぎるセットを作ってしまったことだ。オデッセイでやるように仕向けたことは、プレイヤーがやりたいこととは違っていたのだ。
この顔合わせなら、答えは当然テンペストである。
次の試合に続く。
第7試合:イニストラード(#2) vs イーヴンタイド(#15)
私の選択は?
上位陣と下位陣の対戦結果は予想できるものだ。イニストラードは私史上最高のデザインの候補者であり、イーヴンタイドは誤りが大量にあった。最大の誤りは、敵対色混成への転換であった。180度転換したことで、プレイヤーはついていけなかった。イーヴンタイドにも好きな部分はあるが、セット全体としては完成していたとは言えない。
次の試合に続く。
第8試合:ラヴニカ(#1) vs フィフスドーン(#16)
さあ、1回戦最終試合だ。
私の選択は?
ファン投票でもっとも圧倒的だったこの対戦だが、私の個人的評価でも同じようなものだ。ラヴニカはマジックの最高潮の1つであり、あらゆるイカしたことを作り上げた(ギルド、混成、印象的な多色カードの山、その他)。フィフスドーンは異常な第3部であり(同ブロック前半での誤りのせいではあるが)、まともにできたとは言えない。強いてフィフスドーンの功績を挙げれば、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheの価値を認識させてくれたことであり、彼を開発部に迎え入れたことである。
大差でラヴニカだ。
次の試合に続く。
第9試合:ゼンディカー(#4) vs ミラディン(#5)
さて、ここからが難しい(ああ、Unglued対未来予知も難しかった)。
私の選択は?
自分の作品に優劣を付けるというのは難しいものだが、この対戦はその中でも本当に難しかった。どちらのセットでもイカした新要素がゲームに導入されているし、どちらのセットもその世界らしさを作り上げる助けとなるメカニズムを使ったイカした世界を作り上げている。ミラディンのメカニズム(親和、双呪、装備、刻印)はどれも上質だが、ゼンディカーにも私の自作した中でもっともお気に入りのキーワード・メカニズムの1つである上陸が存在する(もう1つはフラッシュバックだ)。
それぞれのセットで、デザイナーとして私は違う一面を示している。ミラディンはメカニズムがどう世界を広げられるのかであった。ゼンディカーは新世界秩序の元で高い品質を維持するにはどうすれば良いかであった。様々な意味で、ミラディンでやったことにさらなる制約を加えてやろうとしたと言える。私はミラディンの出来には満足しているが(カードが強すぎるというのはデベロップの問題であり、デザインの問題ではない)、ゼンディカーのほうにまり満足したと言える。
ぎりぎりの勝負ではあったが、ゼンディカーに軍配を上げよう。
次の試合に続く。
第10試合:テンペスト(#3) vs Unglued(#6)
第10試合は、諸君の投票してくれたものとは違う対戦となった。
私の選択は?
準々決勝は難しいものだ。Ungluedでやったことは気に入っているし、カード個別のデザインを見れば私の最高傑作の何枚かがあると信じているが、対戦相手はマジックのデザインを再定義した歴史上のセットである。ミラージュはマジックにブロックの概念を導入し、テンペストはそのブロックの作り方を改めたのだ。ストーリーとメカニズムに関連を持たせた初めてのセットでもあるし、複数のメカニズム的要素にシナジーを持たせた初めてのセットでもある。これは大進化だった。確かに今日の標準から見ると古くさいものに思えるが、テンペストはT型フォードのようなものなのだ。
デザインの歴史家として、私はテンペストの名を挙げねばなるまい。
次の試合に続く。
第11試合:イニストラード(#2) vs ミラディンの傷跡(#10)
この試合も、違う対戦だ。
私の選択は?
ミラディンを再訪できたのは嬉しい。この世界の再構築のあり方も好きだ。マジックの巨悪であるファイレクシアの再来、そして毒をマジックに復活させたことも。しかし、ミラディンの傷跡はイニストラードには敵わない。ミラディンの傷跡はデザインの第5世代の始まりだったが、イニストラードは大きな進歩を遂げている。イニストラードはマジックのブロックの作り方を再定義し、そしてトップダウンのブロック・デザインを新しい輝きに晒したのだ(それまでのやり方は、つねにどこか拙かった)。
準々決勝の対戦はどれも難しかったが、これはそうでもなかった。イニストラードに決まっている。
次の試合に続く。
第12試合:ラヴニカ(#1) vs シャドウムーア(#8)
ついに準々決勝も最後の試合になった。
私の選択は?
一般投票の結果も一方的だったが、私の評価も一方的と言える。シャドウムーアの功績も多々あるが、その相手は私の作った中で最も革新的なセットなのだ。公正な対戦とは言えず、ラヴニカは汗をかくこともなく蹴散らしてしまうことになる。
再び、圧倒的にラヴニカの勝利。
次の試合に続く。
第13試合:ラヴニカ(#1) vs ゼンディカー(#4)
そして準決勝が始まる。
私の選択は?
この対戦を見ると、準々決勝の判定は簡単なものだったと思える。どちらのセットも私の作品の中で最高のものだ。では、どちらが上か? これは判定に困る。どちらにも私の一番お気に入りの作品――ラヴニカは混成マナ、ゼンディカーは上陸――がある。どちらも、メカニズムがフレイバーの中核を成している世界だ。どちらも楽しい個別カード・デザインが大量に含まれている。しかし、最終的には、ラヴニカにはギルドというモデルがあり、ゼンディカーの作ったものよりもその点で一歩上を行っていると言える。
一般投票と同じく、私の個人的評価でもラヴニカがわずかに勝った。
次の試合に続く。
第14試合:イニストラード(#2) vs テンペスト(#3)
さて、準決勝第2試合だ。
私の選択は?
準決勝に残ったセットのうち、諸君の評価と違ったのはこのテンペストだけだった。私の初めて手がけたデザインと、最新最高のデザインとの対戦である。両方ともオリジナルで、それ以降のデザインすべてに影響を与えている。いろいろな意味で、これは公正な対戦とは言いがたい。テンペストをデザインして以来、私はいろいろなことを学んできているからである。イニストラードは長年のデザイン技術の進化の結晶であり、従ってより優れた商品であり、そしてこれもまた歴史を重ねても輝きを失わない作品であると信じている。
最初のことを忘れてはならない。しかし、涙を呑んでより良いデザイン、すなわちイニストラードを選ばなければならない。
決勝戦に続く。
第15試合:ラヴニカ(#1) vs イニストラード(#2)
結局の所、マーク・ローズウォーター・トーナメントとローズウォーター・トーナメント、私の評価と一般投票の結果は同じだったのだろうか。
私の選択は?
全ての対戦の中で、これが一番判断に悩むものだった。仮順位を決めるときにも、どちらを1位に、どちらを2位にするか悩んだのである。その時から、この判断は難しいのだとわかっていたのだろう。
どちらのセットもすばらしいものを導入し、そして全体として記憶に残るブロックとなった。判断を下すために、私はある質問を自分に投げかけた。その質問とは、「このセットは私のできうる限りの最高のものにどれだけ近かったか?」である。深く考え、可能な限り単純に誠実になると、答えは明らかだった。イニストラードの方が、ラヴニカよりも完璧に近かった。光輝は失敗だったと考えている。デザイン上、「都市らしさ」を描けていなかった。ギルド間のシナジーは公平なものではなかった(例えば、ゴルガリはセレズニアと完璧に重なり合っていたが、ディミーアとほどではなかった)。ラヴニカはかなりの部分で正解だったが、大量の間違いを犯していたと思う。
イニストラードに改善の余地がないと言っているわけではないが、しかしイニストラードの方が正解に近かった。イニストラードには6年間積み重ねられたデザイン技術と、6年間積み重ねられた経験が注がれている。従って、これも公正な対戦とは言えないが、トーナメントなので比較しなければならない。
こうして見てみると、マーク・ローズウォーター・トーナメントの勝者は、ローズウォーター・トーナメントと同じく、イニストラード、ということになる。
戦い済んで
あー、疲れた。これで終わりと言わせてもらおう。いつもの通り、諸君の私の見解に関する見解を聞かせてもらいたい。私のトーナメント結果や、一般投票の結果をどう感じただろうか? メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で待っている。
それではまた次回、ディミーアの話でお会いしよう。
その日まで、諸君の作品について人々が情熱的に意見を交わす機会があらんことを。