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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

今週のCool Deck:カイ・ブッディの功績を振り返る(過去のフォーマット)

岩SHOW

 マジックのデッキをクールという観点から取り上げて紹介する今週のCool Deckのコーナー。さて今回は……先のプロツアーにて発表された最もクールなニュースから。

 カイ・ブッディ/Kai Budde。僕が最初に認知した競技マジックの世界は、この人の名前だった。同じ経験をした同世代の方も多いはず。ブッディは1999年に日本で開催された世界選手権で優勝。当時マジック取り扱い店に置いてあったチラシだったり、マジック専門誌だったりでそのことが大々的に取り上げられていたし、この世界選手権の模様は日本語版のビデオ(VHS)にもなっていた。あまりにも顔と声のイメージが違いすぎる吹き替え音声でブッディが自己紹介するシーンは忘れられない。

 しかしそれ以上にインパクトが大きかったことは、この世界選手権を皮切りにブッディはグランプリやプロツアーなど規模の大小を問わずトーナメントで勝ちまくったこと。「優勝はカイ・ブッディ」「ブッディ、トップ8入賞」いったい何度彼のニュースを目にしたことやら。プロツアーという世界をよくわかっていなかった当時の僕は「めっちゃ強い人が勝ちまくってるんだな~」と、そういうもんなのかくらいにしか思わなかったが……段々とその舞台が強豪ひしめくまさに魔界のようなところと知ってからは、強いとかそういう表現に収まらない偉業だったんだなと気付かされたものである。

 1年間でプロツアーと世界選手権で最も勝利したプレイヤーに贈られるプレイヤー・オブ・ザ・イヤーの称号。これを一度でも冠するだけでも素晴らしいことなのに、ブッディは4度も勝ち取っている。これは他に並ぶもののいない彼だけの領域だ。この伝説に敬意を表する形で、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーにブッディの名が冠せられることとなった。これはすごいことだよなぁ。野球の沢村賞とかサイ・ヤング賞みたいなことだもんな。マジックもそうやってレジェンドが賞の名前となるくらいに、長く続き広まった文化ということだなと、1人深夜に感動していた。

 今回はこのタイトルの誕生を祝し、そしてブッディの凄まじすぎるキャリアへの示すために、彼のかこのデッキを紹介しよう。ブッディこそまさしくクールなプレイヤー!

Kai Budde - 「アーティファクト・レッド」
世界選手権1999 優勝 / スタンダード(当時) (1999年8月8日)[MO] [ARENA]
3 《古えの墳墓
4 《裏切り者の都
13 《
-土地(20)-

3 《マスティコア
4 《欲深きドラゴン
1 《銀のゴーレム、カーン
-クリーチャー(8)-
4 《通電式キー
4 《緋色のダイアモンド
4 《厳かなモノリス
2 《摩滅したパワーストーン
4 《スランの発電機
4 《呪われた巻物
2 《ミシュラのらせん
4 《束の間の開口
4 《燎原の火
-呪文(32)-
2 《沸騰
3 《地震
1 《ミシュラのらせん
1 《ファイレクシアの処理装置
2 《荒残
2 《破壊的脈動
4 《呪文ショック
-サイドボード(15)-
MTGTop8 より引用)

 

 

 まず一つ目は先述のブッディ最初のトロフィーを勝ち取った世界選手権優勝デッキ、当時のスタンダードの「アーティファクト・レッド」。我々のような当時の日本のプレイヤーからすると「赤茶単」。アーティファクトが茶色い枠だったのでこの呼び方が一般的だったのだ。赤単色ではあるがメインデッキの赤いカードは8枚のみ、あとはアーティファクトでびっしり埋められている。《厳かなモノリス》や《スランの発電機》といったマナアーティファクトが計14枚!これらを《裏切り者の都》《古えの墳墓》ら2マナ土地から高速展開。それをさらに《通電式キー》でアンタップすることで、爆発的にマナを得る……マジックはクリーチャーの質は現在の最新のものが圧倒的に強いが、こういったマナ加速は90年代の方が今よりもずっと強かった。それはもうクールすぎてぶっ飛ぶほどに。

 

 このリストは海外では「Wildfire」と表記されることも。マナ加速から放たれる《燎原の火》が実はこのデッキの最重要な1枚。すべてのクリーチャーに4点のダメージを与えつつ、お互いが土地4枚を生け贄に捧げるというド派手なソーサリー!昔の方が強いと言えば、土地破壊も昔の方がヤバいものが多かった。Wildfireこと《燎原の火》で土地を吹き飛ばし、自分はアーティファクトが残るのでマナの心配は何もない、と。《ミシュラのらせん》でさらに土地をタップして相手を行動不能にし、《欲深きドラゴン》でフィニッシュする……ドラゴンは強さとビジュアルの良さを兼ね備えた、この時代を代表するクールカードの一つだね。

Kai Budde - 「リベリオン」
プロツアー・シカゴ2000 優勝 / スタンダード(当時) (2000年12月3日)[MO] [ARENA]
16 《平地
4 《低木林地
4 《リシャーダの港
2 《黄塵地帯
-土地(26)-

4 《レイモス教の兵長
2 《果敢な隼
3 《不動の守備兵
3 《長弓兵
4 《果敢な勇士リン・シヴィー
2 《果敢な先兵
1 《熱風の滑空者
1 《反逆者の密告人
2 《レイモス教の空の元帥
-クリーチャー(22)-
4 《増進 // 衰退
4 《キマイラ像
4 《パララクスの波
-呪文(12)-
4 《ハルマゲドン
3 《神の怒り
3 《獅子将マギータ
3 《浄化の印章
1 《果敢な先兵
1 《光をもたらす者
-サイドボード(15)-
MTGTop8 より引用)

 

 

 こちらは2000年12月に開催されたプロツアー・シカゴでの優勝デッキ。レベルというクリーチャー達は、所定のコストを支払うことでレベルの仲間をライブラリーから直接戦場に呼び出すことができる。リクルートと呼ばれたこの能力のおかげで1ターン目に《レイモス教の兵長》を出せば、あとは手札の消費がなくても戦場にクリーチャーを展開していける。この能力を活用して盤面を作り上げ、ビートダウンを敢行するのが「リベリオン」と呼ばれる白単並びにそれに色を足したアーキタイプだ。

 このデッキの生命線は《果敢な勇士リン・シヴィー》!効率の良いリクルートで盤面をスピーディーに形成し、さらに墓地のレベルをライブラリーに戻すことができる。彼女が倒れても2枚目のリン・シヴィーが墓地の自分をライブラリーに戻し……と、このデッキのクリーチャーを全滅させることは難題であった。いつまでも発生し続けるレベルの波で、硬くしぶとく戦う。1999~2000年のスタンダードを代表するアーキタイプである。

 

 ブッディのリストは当時の僕らにクールなテクニックを教えてくれた。《低木林地》と《増進 // 衰退》の採用だ。この分割カード、主に想定しているのは《衰退》の方だ。1マナのエンチャント破壊は、当時のスタンダードの中心にいた「ファイヤーズ」の《ヤヴィマヤの火》や《はじける子嚢》といったキーカードを狙い撃つのに最適だ。ダメージ除去に対して《増進》で耐えたりといった動きもできるように、緑マナの供給源として《低木林地》4枚のみを採用している……この4枚だけ?それだけのためにダメージを受ける土地を採用する価値があるのだろうか?初見の時はそう疑問に思ったのだが、当時の解説文でこの土地は《平地》でない白マナ源としての意味合いもあって採用されているということを知って目から鱗だった。「リベリオン」が依然としてスタンダードの中心に居続けていたため、赤いデッキは《野火》をサイドボードに備えるのが定番となっていた。これで一方的に土地を複数枚破壊され、白マナが得られなくなって負け……というパターンを《低木林地》はギリギリのところでカバーしてくれるというのだ。《増進 // 衰退》を足したのではなく、それとセットで《低木林地》を足すというクールなデッキ構築。これを実行したブッディのデッキが、彼が2000-2001シーズンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤーに輝くためのプロツアー優勝をもたらしたのだ。

 競技マジックの歴史で最もクールなプレイヤーの一人、カイ・ブッディ。彼は大きな病気を患いながらも、今回のプロツアーに参加。そこで結果は残せなかったが……同会場のサイドイベント、プロツアー予選に参加して見事に権利獲得!なんかもうちょっとした超人だ。そんな凄い人たちと戦える、プロツアーの舞台を皆にも目指して欲しい。いつか君も、マジックの歴史に名を刻むクールなプレイヤーに!

 それじゃあ今週はここまで。Stay cool!! Be legend!!

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