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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

バント毒性:プロツアーへの鍵を掴んだ独自リスト(スタンダード)

岩SHOW


 定期的に開催されている日本の地域チャンピオンシップ「チャンピオンズカップファイナル」。今回は5月25・26日に愛知県常滑市にて、プレイヤーズコンベンション内の一イベントとして激闘の舞台が用意された。予選を勝つなどの方法で権利を得たプレイヤーが集合……ここに至るまではちょっと複雑ではあるのだが、あとは簡単。このトーナメントで勝てばプロツアーに行ける!上位に与えられる参加権利を目指して、歴戦のベテランから初参加の新参競技プレイヤーまで、様々なプレイヤーが集って真剣勝負を繰り広げる……そこには行弘賢選手の姿があった。プロツアーでは過去に4度のトップ8入賞、その他のトーナメントでも上位入賞多数、言わずと知れたマジックのトッププレイヤーの一人だ。

 かつては年間に開催されるプロツアー全ての参加権利も持っていた行弘だが、再開後のプロツアーへの参加権利には手が届かない日々が続いていた。モチベーションの低下など様々な悩みもあったようだが……しかしマジックは試練を突き付けるものであると同時に、それに立ち向かった者に応えてくれるものでもある。予選に参加し続けて2年。TOP8入賞がかかった予選最終ラウンドこそ敗れたものの、プロツアー参加権利を獲得!これは今回のファイナルにおいて、個人的にもとても嬉しいニュースだった。

 そんなわけで行弘選手が権利獲得に至ったデッキを取り上げさせていただこう。「バント(緑白青)毒性」だ。

行弘 賢 - 「バント毒性」
チャンピオンズカップファイナル シーズン2ラウンド3 17位 / スタンダード (2024年5月25日)[MO] [ARENA]
4《アダーカー荒原
4《金属海の沿岸
2《剃刀境の茂み
4《植物の聖域
4《種子中枢
4《ミレックス
1《平地
1《
-土地(24)-

4《這い回る合唱者
4《敬慕される腐敗僧
4《離反ダニ、スクレルヴ
-クリーチャー(12)-
4《実験的占い
1《ファイレクシア病の前触れ
4《血清の罠
4《渦巻く霧の行進
2《逃走のまやかし
4《妥当な疑惑
1《終焉よ来たれ
4《スクレルヴの巣
-呪文(24)-
4《門衛のスラル
4《ふくれた汚染者
2《終焉よ来たれ
2《失せろ
2《ガラスの棺
1《大群退治
-サイドボード(15)-
Melee より引用)

 

 バントカラーの毒性デッキと言えば……ベースは白と青。軽量の毒性クリーチャー及び《スクレルヴの巣》を備える白。攻撃を通すためのバウンス(パーマネントを手札に戻す)やクリーチャーを護る打ち消しを誇る青。この2色が中心となり、そこに緑の《敬慕される腐敗僧》を足した形が定番だ。腐敗僧と自身のクリーチャーを対象に《渦巻く霧の行進》を唱えて、腐敗僧の能力を誘発。直接毒を乗せてフィニッシュ。行進はクリーチャーをあらゆる除去から守護する手段であり、対戦相手のクリーチャーを複数体いないものとして攻撃をねじ込むための仕事もこなす。この青のX呪文を強く使うことを追求したデッキこそ「バント毒性」だ。

 スタンダードの強デッキとして、長い期間姿かたちを変えずに良い位置を保ち続けている。そんな毒性デッキだが、この行弘と彼の調整チームが使用したリストは一般的なものと少々形が異なる。クリーチャーは総数12枚と少な目で、1マナのものだけを採用し2マナ以上のものは除外している。そうして出来たスロットに、野心的なカードを搭載しているのだ。

 不採用となっているクリーチャーの代表は《顎骨の決闘者》。二段攻撃で効率よく毒を乗せる、毒性デッキの不動のアタッカーだと思っていたのだが……実際に決闘者レスなこのリストのゲームを見ていると、あればそれはそれで強いのだろうけども、なくても十分に毒を乗せることはできているなと。

 特に《這いまわる合唱者》が今のスタンダードでは強いなと実感。どのデッキも《危難の道》だの《間の悪い爆発》だの搭載している中で、死亡時にダニを残していく合唱者は偉すぎる。これと《ミレックス》や《スクレルヴの巣》でのダニを重要視し、除去耐性も何もない決闘者を抜く……そういった構築も大いにアリだということが示された。《離反ダニ、スクレルヴ》でブロックを乗り越え、強引に攻撃を通すのでクリーチャーのサイズは関係ない。1マナクリーチャーを中心にとにかく隙なく立ち回り、インスタントを構えられるターンを作ることが勝利に繋がる……というのが伝わってくる。

 さてさて注目の野心的なカードチョイスだが、実際にフィーチャーマッチでプレイされているのを見ていると、なるほどなぁと思わずうなってしまう選択だった。そんな目から鱗なカードが《妥当な疑惑》。呪文に追加の{2}を要求するごくごくありふれた打ち消し呪文……にオマケがついている。クリーチャー1体に容疑をかけるというものだ。これがかけられているクリーチャーはブロックに参加できなくなり、威迫を持つ。たとえば対戦相手があまり攻撃向きでないクリーチャーをコントロールしているなら、それに容疑をかける。こちらが複数体の小さな毒性を持ちを出しているなら、これでそうやってブロックを防ぎながら攻撃を通す。あるいはこちらの毒性持ちに威迫をつけるのを狙うシーンも。自身のクリーチャーが対象になるので、腐敗僧をしっかり誘発させつつ、攻撃を通して確実に毒を与えていく。この《妥当な疑惑》、あまり試されてはいないが、動いているところを見ると本当に良い、職人系のカードだったなぁ。

 《妥当な疑惑》にさらに輪をかけてテクニカルなカードも。《逃走のまやかし》!『サンダー・ジャンクションの無法者』からやってきたモードを持つ呪文だ。クリーチャーを一時的に追放、ターン終了時に戦場に戻すブリンクと呼ばれるモード。そしてパワーがそれより高いものがいないクリーチャーを破壊するモード……マナを支払って使い分ける。あるいはその両方を一度に使っちゃってもいい。

 そんな放題呪文、実際のところどちらのモードも、それだけを行えるカードと比べると、マナ効率は良くない。ただ単にブリンクしたい、除去したいというだけなら、もっと効率の良いカードはある。それでもこのまやかしを選んでいる理由は、状況によって使い分けられるから。対戦相手のクリーチャーを除去して攻撃を通すためだけのカードを持っていても、相手の除去からクリーチャーを護ることは出来ない。マナ効率を多少犠牲にしているまやかしであれば、除去でありながら自分のクリーチャーを様々なものから救ってやることが可能だ。こういった臨機応変なカードは熟練のプレイヤーにより好まれる傾向にある。初心者にはなかなかその真価を発揮させづらいが、使いこなせずとも使い続けることで学べることはあるはずだ。

 熟練の手練れである行弘選手らしい、カードパワーに頼らずにどちらかといえば単体ではちょっと弱いようなカードのポテンシャルを引き出してあげて勝利に繋げる。テクニカルマジック、ここに極まれりという「バント毒性」。真似してみてもなかなか勝てないリストかもしれないが……彼がプロツアーでどのような活躍を見せてくれるのか、期待しつつ実力者のデッキにトライしてみる。それもまた一興というやつなのだ。

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