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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
アブザン・パルヘリオン:コンボからミッドレンジへ(パイオニア)
“秋の夜長”と昔から人は言う。秋の夜は長い、それはフィーリングの問題ではなく、季節の変化により日照時間が短くなるという根拠が伴っている。暗くなるのが早くなることは、現代人はともかくとして、電気のなかったころの人々にとっては大きな問題だったのだろう。いかに夜を過ごすか、現代人の我々は幸せである。だって明るい室内で、テーブルトップ(紙のカード)でも、オンライン上でも、マジックを楽しめるのだから……。
過去の3年間ほどの期間、イベントというものは開催するのが困難な日々が続いていた。今では季節ごとの大規模イベントのみならず、各店舗やコミュニティでもトーナメントが開催されるのが日常の風景に。素晴らしいことだ、この当たり前を有難いものだと気付かされたよなぁ。そう思いながら皆も遊んでるんじゃないかな。
秋になり日照時間が縮まり、寒いと感じる日も増えた。せっかくカードを集めてデッキを組んだけど、なかなか出るのも難しくなったり……あるいは、そもそもフリーな時間が夜分しかない・物理的に近くで開催されている大会がない、色んな事情にプレイヤーがいることだろう。安心してほしい。皆の夜長は、ちょっと一歩踏みだせばマジックで満たされたものになる。顔を合わせてのゲームを行うのが困難だった期間に、ウェブカムやスマホを用いて盤面を映した画面を共有することで「家に居ながらどこかのプレイヤーと対戦を行う」という夢のような方式の対戦会というものが発展してた。深夜でありながらも、それぞれに組み上げたデッキをシャッフルして、手札を眺めながら「うーん」と考えながら対戦を行える。これぞ秋の正しい過ごし方。皆もオンライン上での紙のカードの対戦会、参加してみよう。素敵な時間が待っているはず!
僕もそういった対戦会の模様を不定期で拝見させていただいている。家に居ながら熱い試合が観れる、これもまた幸せである。そして公開されるデッキリスト……当コラムにとっては財宝だ。そんなわけで今回は、あるオンライン対戦会で使用されたデッキリストをご紹介。フォーマットはパイオニアだ。
3 《マナの合流点》 2 《神無き祭殿》 1 《草むした墓》 2 《寺院の庭》 2 《秘密の中庭》 3 《花盛りの湿地》 2 《剃刀境の茂み》 2 《闇孔の小道》 1 《ラノワールの荒原》 1 《低木林地》 1 《耐え抜くもの、母聖樹》 1 《平地》 1 《沼》 -土地(22)- 4 《ラフィーンの密通者》 4 《象徴学の教授》 4 《大牙勢団の総長、脂牙》 1 《黙示録、シェオルドレッド》 -クリーチャー(13)- |
4 《思考囲い》 2 《ウルヴェンワルド横断》 4 《忌まわしい回収》 4 《エシカの戦車》 2 《領事の旗艦、スカイソブリン》 4 《パルヘリオンⅡ》 3 《狩人の贖罪》 2 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(25)- |
1 《封印突破法》 1 《使役学基礎》 1 《壊死放出法》 2 《未認可霊柩車》 2 《グリッサ・サンスレイヤー》 2 《致命的な一押し》 1 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント》 1 《突然の衰微》 2 《強迫》 1 《黙示録、シェオルドレッド》 1 《領事の旗艦、スカイソブリン》 -サイドボード(15)- |
このデッキは「アブザン(白黒緑)脂牙」。パイオニアを代表するデッキの一つだ。パルヘリオンこと《パルヘリオンⅡ》を軸としたコンボを中心としたもの。この機体はマナ総量8と超重量で扱いにくいのだが、これを墓地から《大牙勢団の総長、脂牙》でリアニメイトすることでコストを踏み倒す。脂牙は戦闘開始時に墓地の機体を戦場に戻すことが可能で、これ自身がパワー4あるので1枚でパルヘリオンの搭乗コストを満たせる。釣って乗って攻撃、4/4飛行・警戒の天使が2体生成され、しかもこれは攻撃している状態だ。いきなり空から13点!しかもブロックにも回せる強力クリーチャーが2体おり、攻防一体!この強力ムーブをなんと3ターン目に決められる。
脂牙の能力のためにパルヘリオンを墓地に落とすため、《ラフィーンの密通者》や《ヴェールのリリアナ》で捨てる・あるいは《忌まわしい回収》などの呪文でライブラリーから墓地に落とすという方法を用いる。特に回収はまさにこのデッキの象徴的な1枚。墓地を満たしながら、土地や脂牙などのクリーチャーなど、その都度状況に合わせて欲しいカードを手札に加えられる。インスタントなのもあって対戦相手のターン終了時に仕込むことも可能で、隙のない立ち回りでコンボを決めにかかる。
最速3ターン目にコンボが決まるデッキで、故に「ぶっ放し系」「運任せデッキ」というイメージを持たれている側面もあるパルヘリオンデッキ。しかし事実は大きく異なる。このデッキ、作られた最初期には《忌まわしい回収》などの墓地肥やし呪文やそれと相性の良い《未練残り》をたっぷりと詰め込んだものが流行り、誰もかれもいち早く脂牙を戦場に出してコンボを決めようと必死になっていた。その頃のリストは確かにコンボに全力を傾け、ぶっ放すデッキであった。しかしコンボ誕生から1年以上の時を経て、研鑽された現在の「アブザン・パルヘリオン」は……コンボを搭載してはいるが、コンボデッキというよりもミッドレンジ、中速のデッキに分類した方が正しい構成になっている。
パルヘリオン以外に《エシカの戦車》《領事の旗艦、スカイソブリン》などの中マナ域の機体を備えているのが「アブザン・パルヘリオン」の基本構造。これらの機体は素で唱えるのに難がなく、なんだったら普通に運用して破壊されたり打ち消されたら脂牙で回収する、という動きが強い。コンボにオールインするのではなく、《思考囲い》で相手の手札を確認しつつ、クリーチャーや機体を展開。エシカやスカイソブリンの優秀さで押しつつ、隙があれば脂牙で墓地のパルヘリオンをリアニメイトして大ダメージ。
オンラインの対戦会、そのフィーチャーマッチでこのリストを使用されていたプレイヤーのゲームも観戦させていただいたが、とにかくプレイが丁寧。無理やりコンボを決めて勝つデッキではなく、じっくりとチャンスが訪れるまで、とにかくリスクを冒さない。対戦相手にとって最悪のタイミングで脂牙を出せるように、余裕をもって立ち回る。コンボまっしぐらなプレイだと、墓地対策や《引き裂く流弾》などで大きくプランを崩されてしまう。最初から「決められるなら決める」というスタンスでプレイすることで、コンボの弱点を克服した。それが現在のパルヘリオンデッキなのだ。
コンボを追求していたパルヘリオンには、脂牙をサーチするための手段がいくつか搭載されていた。《異界の進化》などがその例であるが、この呪文のようにコンボを狙いすぎているカードは脆い。そこで目を付けられたのが《狩人の贖罪》。この英雄譚はかつてエルドレインを訪れたガラクの物語を再現したもの。Ⅰ章能力で3/3のビーストをもたらし、Ⅱ章ではクリーチャーを生け贄にしてライブラリーからクリーチャーor基本土地をサーチして手札に加える。この2つの能力を合わせることで、カード1枚で脂牙を手に入れられる。もちろんビーストではなく《ラフィーンの密通者》や履修を終えた《象徴学の教授》などを餌にしても良い。ただサーチを行うだけでなく、トークンを生成できるので損をしないカードになっているところが高ポイント。なんだったら脂牙ではなく土地を持ってきたり、《黙示録、シェオルドレッド》で勝ちに行ったりと、アドリブの効く1枚になっている。Ⅲ能力もシェオルドレッドや《エシカの戦車》にトランプルを持たせることで、普通に殴って勝ちに行く展開をサポート。デッキと見事に噛み合っているね。この英雄譚、今後パイオニアを面白くしてくれること間違いなしだ。
紙でもオンラインでも、パイオニアは楽しめる。お店に出かけても良し、家でまったりしながらでも良し。秋の夜長、マジックにふけるおともに「アブザン脂牙」はいかが。コンボの気持ちよさと、プレイングの妙。趣味に没頭する秋、遠慮なくマジックやろうぜ。
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