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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

アゾリウス兵士!……なのか、これは?(スタンダード)

岩SHOW

 一体どのデッキが最強なのか?その答えを出すのはどんな時でも難しい。マジックの歴史、そのオールタイムで考えるのはもちろんのこととして、過去20年、10年で区切っても議論は止まらない。それはおろか現行のフォーマットにおいてもはっきりとこれを明言することは困難であり、それこそがマジックの魅力だと言える。何が最強なのか、一強を簡単に上げることが可能なのであれば、もうそのデッキだけ使えば良いじゃないかという話。そうも簡単にいかないからこそ、皆それぞれのデッキをトーナメントに持ってくる。群雄割拠であればあるほど面白い。身近なコミュニティでの大会でも、競技性の強いトーナメントでも、それは変わらない。

 優勝したデッキが最強なのでは?という考え方もあるだろう。ただ、トーナメントのあるあるなのだが「優勝したデッキのアーキタイプが全体で見ると負け組」という現象は多々見られる。強力であり人気を集めたデッキというものは、トーナメントに持ち込んだところ「それに勝てる対策デッキ」の海に飲まれたり、過剰なまでのサイドボードを用意されていたり、対戦回数が重なることでプレイヤーたちが戦い慣れていたり……そういった要員が重なることで、最強と目されていたデッキが、優勝という個人の突き抜けた結果を残しつつも、全体的に見れば下位に甘んじる、ということはよくある話。

 逆に言えば、優勝こそしていなくとも予選ラウンドで突き抜けた結果を残したデッキというものは、現環境における最強かどうかは置いておいて……「今大会のベストデッキ」と名乗っても問題ないのではないかな。使用者数が少ない中で成功を収めれば、その印象はより強まる。たとえば先日の世界選手権では、優勝こそ逃してはいるが以下のデッキをベストデッキの候補として、見逃すわけにはいかない。

サイモン・ニールセン - 「アゾリウス兵士」
第29回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権 トップ4 / スタンダード (2023年9月22〜24日)[MO] [ARENA]
4 《金属海の沿岸
2 《ミレックス
2 《天上都市、大田原
4 《要塞化した海岸堡
1 《さびれた浜
4 《アダーカー荒原
2 《皇国の地、永岩城
4 《平地
1 《閑静な中庭
-土地(24)-

4 《イーオスの遍歴の騎士
1 《人狐のボディガード
4 《毅然たる援軍
4 《微風の歩哨
3 《先兵の飛行士、ハービン
2 《威厳あるバニコーン
2 《ヨーティアの前線兵
4 《月皇の古参兵
4 《徴兵士官
-クリーチャー(28)-
4 《かき消し
4 《婚礼の発表
-呪文(8)-
2 《放浪皇
1 《威厳あるバニコーン
2 《邪悪を打ち砕く
3 《交渉団の保護
2 《ランタンのきらめき
2 《エルズペスの強打
3 《トカシアの歓待
-サイドボード(15)-

  同世界選手権TOP8入賞、サイモン・ニールセン/Simon Nielsenがスタンダード・ラウンドで使用した「アゾリウス(白青)兵士」だ。全105名の参加者のうち4名がこのアーキタイプを使用。ニールセンの用いたこの独特な構成はその内の3名が使用したチームデッキである。

 兵士デッキは低コストの兵士クリーチャーを並べて、兵士タイプを参照するカードでまとめて強化したり、アドバンテージを稼ぐことを狙っている。青を足すことで打ち消しを搭載、瞬速持ちの兵士らと打ち消しを構えて、対戦相手の行動を見てから動く。クリーチャーなどのダメージを刻む(クロック)ものを展開し、打ち消しでのパーミッション戦法を用いることからクロック・パーミッションと呼ばれるこの戦術。現スタンダードのクロック・パーミッションにおける筆頭がこの白青の兵士デッキだ。

 《雄々しい古参兵》による兵士の強化、《天空射の士官》での兵士生成とそれらをタップしてのドロー、いずれも素晴らしい。これらを《かき消し》などの打ち消しでバックアップする、テクニカルなデッキ……なのだが。上記のリストには《雄々しい古参兵》《天空射の士官》と兵士デッキの象徴的なカードが1枚も採用されていない。

 このリストはそれらの兵士の定番を排除して、世界選手権という舞台により適合した形へと練り上げられた逸品だ。一見兵士デッキに不可欠な上述のパーツであるが、古参兵はカード1枚で見た場合にただの2/2であること、士官は3マナと比較的重いものでありながら除去耐性が皆無であり、戦場に出すターンは無防備になるという弱点をそれぞれに抱えている。これらを考慮した上で、より隙のないカードを選択した結果がこの珠玉のリストだ。

 兵士の全体強化とアドバンテージ源、2大要素を失ったデッキは果たして兵士デッキと呼べるのか?ご心配なく、このリストは十分に兵士シナジー(相互作用)を備えている。《先兵の飛行士、ハービン》は5体以上の兵士で攻撃を行えば、全てのクリーチャーに+1/+1と飛行を与える。ハービン自身も兵士なので他に4体を揃えること、そしていざ5体以上で攻撃できれば兵士以外のクリーチャーも強化されるというポイントを把握しておこう。

 ただのこのリスト、単純な兵士カードの枚数自体はそう多いわけでもない。ハービン以外に4体並べるには《毅然たる援軍》の力を借りることになる。トークン生成を行うこの兵士、瞬速も持っているので《かき消し》を構えながら隙なく動くことが可能。そしてこれを《微風の歩哨》で手札に戻す。これまた瞬速なので対戦相手の動きを見てから安全な状況下で兵士を手札に戻すことが可能で、戻した援軍を再利用するのはもちろん、歩哨自身もパワー3の飛行と攻め手として優秀。これはハービンにも言えることだね。2マナ以下でより隙がなく、カード単体で見ても戦力になる。そういった兵士を最優先している設計思想が伝わってくるリストだ。

回転

 ハービンのポイントとして非兵士クリーチャーの強化に触れたのは、このリストがあまりにも多くの兵士でないクリーチャーを内包しているからだ。《月皇の古参兵》《威厳あるバニコーン》《イーオスの遍歴の騎士》……そして《婚礼の発表》の人間トークンなど、兵士以外のクリーチャーがこれだけいると、クロック・パーミッションデッキに兵士の要素を添えた、と解釈した方が正しいのかもしれない。

 これらのカードに共通するのは、クリーチャーを横並びさせることの相性の良さ。低コストで瞬速を持った兵士らと共にこれらの軽量クリーチャーも交え、面で押す。クリーチャーのタップによりマナをほとんど必要としない《イーオスの遍歴の騎士》で手札を補充し、この戦術へのアンチテーゼとなる《太陽降下》は《かき消し》で打ち消す。このプランを遂行できるのなら、世界選手権で勝ち組になれる……そのハードルは高いものではあるが、ニールセンのような卓越したプレイヤーならばそれを乗り越えられる。このような独自チューンを施したリストでしっかり勝って、プレイヤー・オブジ・イヤーの座を勝ち取っているのだから、天晴れという言葉しかないよね。世界選手権のベストデッキ、この兵士型クロック・パーミッションである!という意見には賛同だなぁ。

 このリストは使い手を選ぶとともに、世界選手権というトーナメントでの勝利を目的として作られている。丸々同じものをコピーして、地元の大会やランク戦などで勝てるかというと、そこは何とも言えない。ただこのようなリストをプレイして設計思想を学ぶことは、マジックを続けるうえで大いに意味のあることだ。

 流行りのデッキ、優勝デッキのみが勝ち組というわけではない。トーナメント結果をしっかりと見ることで、一体どのデッキが勝ち組となったのか?その理由は何か?ということが見えてくる……かもしれないし、そこまで深く考えなくても良いかもしれない。結局何が言いたいかって言うと、皆には自分で組んだデッキを自信を持って使ってほしいってこと!

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