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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

今週のCool Deck:青単殉教者(レガシー)

岩SHOW

 暖かい部屋でやるマジック。外はCold、室内はWarm、脳内はCool。理想形だね。

 さあ今週もクールなデッキを紹介するお時間だ。マジック史上最もクール……飛び越えてコールドなセットは何か、知っているかな。そう――『コールドスナップ』だ。

 セット名にコールドと入るくらいだからそれはもう寒い寒い世界が舞台。ドミナリアの氷河期を描いた『アイスエイジ』『アライアンス』に連なるセットであり、雪解けを迎えた世界を再び氷河期に戻さんとする霧氷風魔術師ハイダーとその協力者たち、彼らに対抗する勢力の攻防を描く。

 このセットには氷雪マナが登場したり、イラストも雪が積もり寒風が吹き荒れる光景がメインとなったりしているため、とても冬を感じられるものとなっている。セットのコンセプトはかなりクールで、収録されているカードにもクールなものが多く、小型エキスパンションにも関わらず多くのカードがさまざまなフォーマットで活躍した。

 《砂の殉教者》などは青春の1ページを彩るカードだなぁと思う人もいるんじゃないかな。

 自らの手札を公開し、その中にある所定の色のカードの枚数分だけ何かをする殉教者サイクル。《砂の殉教者》は公開した白のカード1枚につきライフ3点回復と、バカにできない回復量により構築で活躍したものだ。

 サイクルの他のカードは印象が薄いとよく言われるが、中でも能力があまり評価されなかったのが青の《霜の殉教者》。

 その能力は呪文の打ち消しと実に青らしい……のだが。打ち消しを構えて相手から自由を奪い、手札を持っているだけでプレッシャーをかける青にとって、その内容を公開する殉教者の能力はあまりに噛み合っていない。これはクールじゃないよ~ってことで構築で使われることはほとんどなかった。

 のだが……いつものようにレガシーのデッキリストを漁っていると、この《霜の殉教者》を名に冠したリストと遭遇した。どんなデッキかと覗いてみたらその内容がまあ衝撃的。調べてみると、1人のプレイヤーがレガシーのトーナメントで用いたことでごくごく一部のマニアに注目され、細々とチューニングされているらしい。なんだよその文化は。それだけでもう……クールじゃないか(ニッコリ)。

Kyle Milligan - 「青単殉教者」
PEI Monthly #1 @ Charlottetown (Prince Edward Island, Canada ) トップ4 / レガシー (2020年11月28日)[MO] [ARENA]
11 《
2 《不毛の大地
-土地(13)-

4 《審判官の使い魔
4 《霊廟の放浪者
3 《霜の殉教者
2 《ニヴメイガスの精霊
2 《呪文づまりのスプライト
2 《厚かましい借り手
1 《スカーブの殲滅者
2 《深き刻の忍者
4 《空の軽騎兵
-クリーチャー(24)-
4 《霊気の薬瓶
2 《祖先の幻視
3 《狼狽の嵐
4 《目くらまし
2 《否定の力
4 《意志の力
2 《撹乱する群れ
2 《梅澤の十手
-呪文(23)-
2 《呪文づまりのスプライト
1 《ヴァントレスのガーゴイル
1 《スカーブの殲滅者
4 《トーモッドの墓所
2 《真髄の針
1 《蒸気の連鎖
2 《基本に帰れ
2 《水没
-サイドボード(15)-
mtgtop8 より引用)

 

このクールなデッキは?

 「青単殉教者」……とでも呼ぼうか。かなりオンリーワンなビジュアルには否応なしに惹きつけられる。

 青いデッキにしてはクリーチャーが24枚と多く、されど非クリーチャー呪文も23枚と十分な量。すなわち土地が削られており、たったの13枚。ほとんど《》なのがビビるよね。

 殉教者のような軽いクリーチャーと《霊気の薬瓶》でのサポートにより使えるマナはごく少量でもOK、むしろ土地を引きすぎると使い道が本当にないのでこの枚数に抑えられている。

 打ち消し呪文も《意志の力》《目くらまし》《否定の力》とマナが不要なものばかり。《撹乱する群れ》まで採用しているくらいの徹底ぶりだ。

 とにかく軽い打ち消しで固められたこのデッキ、その詳細を見ていこうじゃないの。

どこがどうクールなのか?

クールポイントその1:No Brainstorm, No Ponder, No problem

 青を主体とした、軽量クリーチャーを最序盤から展開しながら打ち消しで守りつつ殴り勝つデッキ、というもの自体はレガシーでは珍しいものではなく、むしろ主流である。

 それらとこのリストが一線を画するのはクリーチャーの量。そして《渦まく知識》《思案》の不採用だ。これら1マナのドロー呪文を使うことで切り詰めた土地を引き込み、それが不要な時にはそれらをライブラリーの中に押し込んで打ち消しなどのカードを取りに行く。《沸騰する小湖》などのライブラリーをシャッフルする土地と合わさることで、ライブラリーの上をリフレッシュさせてその効果をより高めるわけだが、このデッキにはそういったパッケージは全くの不採用。

 では13枚と異常に少ない土地を引きに行ったり打ち消し呪文を補充したりしたい時にはどうするのか。《祖先の幻視》が早いターンに待機できれば良いが……そうでない場合にはクリーチャーを用いる。2マナ以下のクリーチャーは計15枚採用されており、これらを複数並べることは容易。しかる後に……《空の軽騎兵》を用いる。

 アップキープにこのカードの予見能力を使用するのだ。クリーチャー2体をタップしこのカードを手札から公開することでカードを1枚引く。これを3ターン目以降毎ターン行って常に2枚引いている状態を作り出せたら理想的だ。

 前述のように《》以外に色マナが出る土地が入っていないので《空の軽騎兵》はそもそも唱えることができず、完全にこの予見ドロー用の枠である。こんな思い切った構築はクールという他ない。

 青いカードなので、状況によっては《意志の力》《否定の力》をマナなしで唱える際のコストになってくれる。5マナなのも《撹乱する群れ》のコストにすることで相手の《意志の力》を打ち消せるという点でよくできている。

 そして、予見という能力は手札を公開するという点にも注目。すでに見られているので、《霜の殉教者》の能力で公開してしまっても内容がバレるもへったくれもない! 開き直って運用すべしってことだ。Oh cooool men.

 軽騎兵以外には、《深き刻の忍者》を忍術で突っ込ませてドローするのもクールだね。

 《霜の殉教者》など1マナクリーチャーで早くも2ターン目に仕掛けたり、《呪文づまりのスプライト》を回収して再利用したりするのもテクニカルで、「マジックやってる感」を味わえる。

クールポイントその2:肝心のクリーチャー陣

 低コストのクリーチャーを並べて軽騎兵で毎ターンドローし、殉教者まで採用するほど徹底して相手のカードは打ち消す。しかしながらそれだけしていてもゲームには勝てない。重要なのはその低コストのクリーチャーの内容だ。これらで殴って勝利するのだからな。

 で、1マナ圏から見ると……《霊廟の放浪者》《審判官の使い魔》、お前さんはやっぱり打ち消し重視かい!

 どちらも生け贄に捧げることで、一部の呪文に追加コストを要求するタイプの打ち消し能力持ちだ。序盤は軽騎兵のために並べつつ相手の呪文に睨みを利かせ、他のクリーチャーも出そろってきたら飛行を活かしてコツコツと殴っていく。《梅澤の十手》さえ持てばそれでゲームを支配できるのでパワーなどの不要ってことかな。

 個人的には大好きなカードのひとつである《スカーブの殲滅者》が採用されている点がなんともクールだ。

 3マナで5/6飛行とレベルの違うスペックの持ち主で墓地からも唱えられる。ただし墓地からクリーチャー・カード3枚の追放という追加コストを要求してくるので使いにくいカードである。

 このデッキであれば、殉教者率いるスピリットや梟など生け贄打ち消し軍団が仕事を果たすことでそのコストは捻出可能。1マナのちっぽけなクリーチャーをドロー・打ち消し・将来的な打点とあらゆる面でフル活用する。おばあちゃんの生活の知恵が詰まったかのような構成は見ていてホッコリするってもんだ。

クールテクニック!

 非常に線の細いデッキではあるが、特大の一撃を狙えるタイミングもある。対戦相手も青いデッキだった場合、《意志の力》《目くらまし》などを中心にインスタント・タイミングで呪文が飛び交う打ち消し合戦になることもあるだろう。そのシメに《狼狽の嵐》を唱えると、お互いが唱えた呪文の数だけこれのコピーが生まれる。

 {1}支払えよ支払えよと連続で要求することで狙った獲物を打ち消すことに成功するだろうが、相手が支払えないマナを通り越して過剰な数のコピーが生まれることもあるだろう。そういった余分なストーム分は《ニヴメイガスの精霊》で追放してやると良い。

 +1/+1カウンター2個に変換して打点を大きく引き上げ、返しのターンに決着すら狙えるかも。上手いプレイヤーは自分の呪文を対象にわざと《狼狽の嵐》を唱えてコピーを作り、それらをすべて追放して巨体のエレメンタルを早いターンに作り上げたりするのだろう。まさしく、クールテクニック。

さらなるクールのために

 このデッキを好きなようにいじくって良いよと言われても、正直どこをどうすれば良いのかわからない(笑)。こればっかりはプレイを重ねた者にしか見えない部分だろう。

 ただひとつ断言できるのは、打ち消しがすべてのデッキだけに《夏の帳》は怨敵だということ。

 打ち消されなくなった呪文は《非実体化》で戻すくらいしか対抗策はないが、ちょっとカードパワー的に厳しいか。帳自体を全力で打ち消すしかないだろうな。帳が怖けりゃそもそもこのデッキは使っちゃいけない、それぐらいのクールさが求められるのだろう。その域に達したとき、さらなるクールとは何かが見えてきそうだ。

クールなまとめ

 マジック初心者のころ、ルールにも慣れてカードも集まってきたころにこういう打ち消しばかりを入れたデッキを組むというのは、多くのプレイヤーが通った道だろう。そしてそれらは、打ち消し続けることはできてもゲームが長引くと撃ち漏らしが出て、それで負けてしまうという……敗北の思い出もともにあるはずだ。

 ここまで徹底したデッキであれば、あらゆる挙動を打ち消し続けて勝利できるのかもしれない。そんな気にさせてくれる、なんとも言えない妖しさに満ちたデッキである。

 こういうデッキはそれを使うのに専用の修練を積む必要がある。クールの道も一歩から。それでは今週はここらで、Stay cool!!!

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