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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:アブザン・サクリファイス(スタンダード)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:アブザン・サクリファイス(スタンダード)

by 岩SHOW

 『ゲートウォッチの誓い』はパワーカードの宝庫だ。登場時も強いカードが多いなと思っていたが、その気持ちは今なお薄れず、むしろ日々増すばかりである。《ゲトの裏切り者、カリタス》《炎呼び、チャンドラ》《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》《森の代言者》《ニッサの誓い》《難題の予見者》《現実を砕くもの》《ゴブリンの闇住まい》......挙げていけばキリがないな、とにかく小型セットの割に密度の濃い、恐ろしいセットである。このセットが発売される前に、あるコンボが話題になったのを覚えているだろうか。それは現スタンダードでも実際に高いカードパワーを発揮して暴れまわるカードの1つ、《変位エルドラージ》を軸にしたものだ。

 この3枚が戦場に揃うと、

  • 血統の観察者》の能力でエルドラージ・末裔・トークンが3体戦場に出る
  • →これを生け贄に捧げて3マナを捻出し、《変位エルドラージ》の能力を観察者を対象に起動
  • →また戦場に出た観察者がトークンを生む
  • →それでまた能力を起動......

 を繰り返すだけで、横にいる《ズーラポートの殺し屋》が対戦相手のライフを吸い尽くしてしまう、というもの。3枚コンボだが、揃った瞬間にゲームに勝てるのはコンボとして狙う価値のあるもの。すべてがクリーチャーというのも、統一性があってデッキを組みやすいね。

 このコンボを、プラチナレベル・プロプレイヤー瀧村和幸はこう評価していた。

「3枚使うコンボではあるが、出したターンに始動できて決まったら勝ちというのは試してみる価値がある。他のデッキとのハイブリッドなど、様々な形が生まれる、かもしれない。」

 今日紹介するデッキは、この発言をプロツアーチャンプが自らの手で形にした意欲作だ。「アブザン・サクリファイス」をとくと見よ!

瀧村 和幸 - 「アブザン・サクリファイス」
グランプリ・東京2016 14位 / スタンダード (2016年5月7〜8日)[MO] [ARENA]
5 《
1 《平地
1 《
4 《ラノワールの荒原
4 《コイロスの洞窟
1 《ヤヴィマヤの沿岸
3 《ウェストヴェイルの修道院
4 《進化する未開地

-土地(23)-

4 《壌土のドライアド
4 《薄暮見の徴募兵
4 《エルフの幻想家
4 《ズーラポートの殺し屋
4 《地下墓地の選別者
4 《変位エルドラージ
3 《ナントゥーコの鞘虫
3 《血統の観察者

-クリーチャー(30)-
3 《謎の石の儀式
4 《集合した中隊

-呪文(7)-
1 《悟った苦行者
2 《不屈の追跡者
1 《ゲトの裏切り者、カリタス
1 《難題の予見者
4 《現実を砕くもの
1 《光り葉の選別者
2 《精神背信
2 《歪める嘆き
1 《究極の価格

-サイドボード(15)-

 ベースとなるデッキはいわゆる「黒緑アリストクラッツ」と呼ばれているもの。このデッキについては以前に説明したのでそちらを参照してもらえればと思うが、改めてザックリ解説すると、《ズーラポートの殺し屋》の能力を《ナントゥーコの鞘虫》のクリーチャーを生け贄に捧げる能力で能動的に誘発させまくって相手のライフを吸い尽くす、クリーチャー主体のビートもできるコンボデッキだ。このデッキに、《ズーラポートの殺し屋》という共通のパーツを持った上記の《変位エルドラージ》コンボを織り込んだハイブリッド(雑種)が「アブザン・サクリファイス」だ。

 「黒緑アリストクラッツ」は地上を固めてから一気にライフを奪い去るデッキではあるが、前提としてまず地上に多数のクリーチャーが並びつつ、その中に《ズーラポートの殺し屋》が2体はいないと勝負は決められない。個人的な体験で最も多いのは、16点を吸えば勝てるという状況。序盤に殴ったりして3〜4点は削れるからね。《ズーラポートの殺し屋》2体と《ナントゥーコの鞘虫》1体、それと7体のクリーチャーがいれば安全にこのライフを吸いにけるかなというところだが......結局これだけのお膳立てが必要で。何より、《ズーラポートの殺し屋》1枚で決めるのはそう簡単ではない。だからこそ9点上乗せハードパンチをかましてくれる《不敬の皇子、オーメンダール》の存在が大きかったりするのだが。何が言いたいかというと、「黒緑アリストクラッツ」はこれだけの枚数を揃えて実質3枚コンボで勝利するデッキである。

 一見手間がかかるし難易度も高そうなコンボを《集合した中隊》や《謎の石の儀式》で成立させているこのデッキが、ほぼそのままの構成でプロツアー後も活躍し続けるデッキというのであれば、より少ない3枚のカードを戦場に出すだけで勝利できる《変位エルドラージ》コンボを搭載すると、より強くなるのでは?ということ。そして、実際強かったのだ。6マナと重い《血統の観察者》も、《謎の石の儀式》があれば問題なく運用可能。元々地上を固めるのを得意とするデッキだ。《地下墓地の選別者》なんかの、相手が攻撃してくることを躊躇うクリーチャーを複数立たせて粘りつつ、《集合した中隊》から《ズーラポートの殺し屋》と《変位エルドラージ》を探し出し、手札から《血統の観察者》を叩き付けてゲームエンド。《血統の観察者》がクリーチャー4体分の働きをするので、ズーラポート鞘虫ルートでも阻害しないどころか貢献してくれるのが頼もしい。

 注目はサイドボードの《現実を砕くもの》。《ズーラポートの殺し屋》の能力は、クリーチャーの死亡を追放に置換してしまう《ゲトの裏切り者、カリタス》を出されると沈黙してしまい、これを排除しない限り勝つことが困難となる。サイド後はこういったカードや全体除去を増量されることでメインの戦略で勝ちづらくなるのだが、そんな中この除去耐性の高い5マナ5/5速攻トランプルは頼りになることこの上なし。確実に相手に対処を迫るカードで、これ1枚で圧しながら相手が無理やり排除してきたところで《集合した中隊》からコンボを仕掛ける、というのはいやらしいことこの上ない。

 また、グランプリ前日にたどり着いたという《歪める嘆き》も注目のカード。元々ここは《難題の予見者》に割かれていたスロットだったそうだが、無色の《否認》とも言えるこのカードを見つけたことにより、入れ替わる形で採用。元々《難題の予見者》がこの枠を占めていた時は、4マナと重めの予見者を採用することで《集合した中隊》を抜かざるを得ず、しかしそういったゲームでは1枚で複数展開できる中隊も強いので......というジレンマがあったそうだが、2マナと軽く《衰滅》や《爆発的植生》なんかを打ち消すことができる《歪める嘆き》を構えつつ、何もなければ中隊を、というプランの方がより優れていたというわけである。

 この構築が功を奏して、13勝2敗、14位という好成績でグランプリ・東京2016を終えている。あと一歩でTOP8ということで、そのデッキパワーは保証されているぞ! ぜひコンボスキーの皆さんに使っていただきたいデッキだ。

 今週は、このデッキのようなコンボにて勝利することを主戦略とした歴代のデッキを紹介していきたい。「コンボ・ウィーク」、マジックの醍醐味をとくと味わってほしい!

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