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戦略記事

原根健太の徹底解説!スタンダード・アナライズ

第4回:『ゼンディカーの夜明け』期スタンダードの今

原根 健太

 皆さんこんにちは。スタンダード連載担当の原根(@jspd_)です。

 この連載も第4回目を迎えました。前回記事は特に好評いただけたようで、ポジティブな感想を多くいただき、感謝とともにやり甲斐を感じております。今後も読者の皆様に楽しんでいただけるものを提供できるよう努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いします。

 前回記事では直近のスタンダードシーンに至るまでの大筋と、わずか1週間で5段階の変化を遂げた激動の期間についてお話ししました。その際、各変化をフェーズとして括ることで解説させていただきました。今回もこの話が関係してきますので、まずはそのおさらいをしていきましょう。お時間のある方は前回記事も合わせてご覧になってみてください。

目次

 

 

おさらい 『ゼンディカーの夜明け』期スタンダードのフェーズ進行

 『ゼンディカーの夜明け』リリース後、同セット内でずば抜けたカードパワーを有していた《創造の座、オムナス》が特に注目され、これを用いたデッキが環境を席巻。まもなく、オムナスを筆頭に3種が禁止カード指定されました。その後のスタンダードシーンは段階的な変化を遂げていきます。

フェーズ1 前環境の生き残り組デッキが注目される

 「ディミーア・ローグ」と「ラクドス・クロクサ」が該当。

 また両者の間では「ディミーア・ローグ」の切削能力が「ラクドス・クロクサ」の脱出を助けてしまうため、「ラクドス・クロクサ」が優位です。この事から「ラクドス・クロクサ」が最初に環境をリードする存在となりました。

フェーズ2 「ラクドス・クロクサ」に有利な緑系アグロが台頭

 「ゴルガリ・アドベンチャー」や「グルール・アドベンチャー」が該当。

 対処能力が限定される「ラクドス・クロクサ」に対し、出来事ギミック・プレインズウォーカー・アーティファクトといった多角的な脅威を押し付けることで優位性を生んでいます。

フェーズ3 緑系アグロに有利な緑系ミッドレンジが台頭

 「緑単フード」や「セレズニア上陸」が該当。

 アグロデッキの攻勢をしっかりと受け止め切る、強固な盤面構築能力を強みとしています。

フェーズ4 緑系ミッドレンジに有利なボードコントロールデッキが台頭

 各種ヨーリオンデッキやランプデッキが該当。

 《空を放浪するもの、ヨーリオン》により何度も繰り出される《エルズペス、死に打ち勝つ》、そして《精霊龍、ウギン》がミッドレンジデッキの築く盤面を蹂躙します。

フェーズ5 ボードコントロールに有利な純コントロールが登場

 「ディミーア・コントロール」などのカウンター呪文を多く採用したデッキが該当。

 ソーサリー・タイミングの大振りなアクションが中心のボードコントロールデッキに対しては打ち消し呪文やインスタント・タイミングのフィニッシュ手段が非常に効果的です。

フェーズ6 コントロールに有利なクロックパーミッションの復権

 「ディミーア・ローグ」が該当。

 マナ・コストの低いクリーチャー陣と、多量のインスタント・タイミングカード群。コントロールの戦略に対し構造的に有利に立ち回れるのがクロックパーミッションである「ディミーア・ローグ」の強みです。

 これが前回記事で取り上げた「激動の1週間」の様子です。「ディミーア・ローグ」と「ラクドス・クロクサ」の台頭から徐々にメタゲームが変遷していき、「ディミーア・ローグ」が返り咲くメタゲームの循環がわずか1週間で発生しました。前回記事はこの循環が生じた直後に執筆・掲載したものであり、後のメタゲームがどう進行していくのかを期待する形で終わりました。今回はその続きからお話しさせていただきます。

 

『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド 1週目

Zendikar-Rising-League-Weekend-Logo.png

 新たなるメタゲームの皮切りとして、世界のトッププロたちが鎬を削り合う「リーグ・ウィークエンド」が開催されました。このイベントはプロプレイヤーとしての進退がかかる、彼らにとって非常に重要なイベントであり、プロの全力が見られる場です。ここでの様相は今後のメタゲームに多大な影響を与えることでしょう。そして気になるメタゲームブレイクダウンは以下のようになりました。

リーグ・ウィークエンド第1週 MPL+ライバルズメタゲーム(全71名※)
アーキタイプ 使用者数 使用率
各種ヨーリオン 26 37%
ディミーア・ローグ 25 35%
グルール・アドベンチャー 7 10%
ティムール・ランプ 4 6%
ラクドス・クロクサ 3 4%
その他 6 8%

※ライバルズ・リーグのメンバー入れ替えが急遽発生したため、1名減。次回以降は72名。

1、2番手 各種ヨーリオン、「ディミーア・ローグ」
Matthew Nass - 「セレズニア・ブリンク」
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(10月)ライバルズ 8勝4敗 / スタンダード (2020年10月24~25日)[MO] [ARENA]
9 《
4 《平地
4 《豊潤の神殿
4 《枝重なる小道
-土地(21)-

4 《金のガチョウ
1 《魅力的な王子
1 《漁る軟泥
4 《ラノワールの幻想家
4 《スカイクレイブの亡霊
4 《意地悪な狼
4 《空を放浪するもの、ヨーリオン
-クリーチャー(22)-
4 《パンくずの道標
2 《ガラスの棺
2 《耕作
2 《エルズペス、死に打ち勝つ
4 《エメリアの呼び声
2 《怪物の代言者、ビビアン
1 《精霊龍、ウギン
-呪文(17)-
4 《鎖巣網のアラクニル
3 《漁る軟泥
1 《打ち壊すブロントドン
3 《巻き添え
2 《ガラスの棺
2 《エルズペス、死に打ち勝つ
-サイドボード(15)-

 

Luis Scott-Vargas - 「ディミーア・ローグ」
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(10月)ライバルズ 9勝3敗 / スタンダード (2020年10月24~25日)[MO] [ARENA]
6 《
4 《
4 《欺瞞の神殿
4 《ゼイゴスのトライオーム
4 《清水の小道
2 《ロークスワイン城
-土地(24)-

4 《盗賊ギルドの処罰者
4 《空飛ぶ思考盗み
-クリーチャー(8)-
2 《血の長の渇き
2 《塵へのしがみつき
4 《湖での水難
3 《無情な行動
2 《本質の散乱
1 《取り除き
1 《否認
2 《無礼の罰
2 《シルンディの幻視
4 《サメ台風
4 《物語への没入
1 《アガディームの覚醒
-呪文(28)-
2 《血の長の渇き
2 《塵へのしがみつき
2 《強迫
1 《精神迷わせの秘本
1 《否認
2 《神秘の論争
2 《絶滅の契機
3 《凪魔道士の威圧
-サイドボード(15)-

 

 前回記事ではメタゲームの流れに重点を置いた解説を行ったため、特定のデッキをクローズアップすることはしませんでしたが、ヨーリオン系デッキは当時大きな注目を集めたデッキでした。MTGアリーナのランクマッチにおいても大流行を見せており、好成績を伝えるプレイヤーの多くがこのデッキを選択していました。環境に存在するデッキに対し満遍なく戦うことができ、雑多なフィールドを想定する上で優れた選択肢です。ヨーリオン系デッキと、そこに対し相性の良い「ディミーア・ローグ」が横並びでトップメタとなりました。

4、5番手 「ティムール・ランプ」、「ラクドス・クロクサ」
Autumn Burchett - 「ティムール・ランプ」
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(10月)MPL 7勝5敗 / スタンダード (2020年10月24~25日)[MO] [ARENA]
4 《
3 《
2 《
4 《ケトリアのトライオーム
4 《岩山被りの小道
1 《河川滑りの小道
4 《寓話の小道
-土地(22)-

4 《水蓮のコブラ
4 《砕骨の巨人
4 《ラノワールの幻想家
3 《カザンドゥのマンモス
2 《玻璃池のミミック
4 《峰の恐怖
4 《豆の木の巨人
-クリーチャー(25)-
4 《耕作
1 《神秘の論争
4 《発生の根本原理
2 《髑髏砕きの一撃
2 《精霊龍、ウギン
-呪文(13)-
3 《鎖巣網のアラクニル
2 《長老ガーガロス
3 《焦熱の竜火
2 《神秘の論争
2 《サメ台風
3 《怪物の代言者、ビビアン
-サイドボード(15)-

 

Paulo Vitor Damo da Rosa - 「ラクドス・クロクサ」
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(10月)MPL 9勝3敗 / スタンダード (2020年10月24~25日)[MO] [ARENA]
6 《
4 《
4 《悪意の神殿
1 《ロークスワイン城
4 《寓話の小道
-土地(19)-

4 《死の飢えのタイタン、クロクサ
4 《ぬかるみのトリトン
4 《義賊
4 《砕骨の巨人
2 《残忍な騎士
2 《悪ふざけの名人、ランクル
2 《アゴナスの雄牛
-クリーチャー(22)-
4 《血の長の渇き
4 《ティマレット、死者を呼び出す
3 《ペラッカの捕食
2 《ハグラの噛み殺し
4 《髑髏砕きの一撃
2 《死者を目覚めさせる者、リリアナ
-呪文(19)-
2 《スカイクレイブの影
1 《アゴナスの雄牛
2 《強迫
1 《塵へのしがみつき
2 《苦悶の悔恨
2 《切り裂かれた帆
1 《取り除き
2 《エルズペスの悪夢
1 《魂の粉砕
1 《死者を目覚めさせる者、リリアナ
-サイドボード(15)-

 

 4番手の「ティムール・ランプ」と5番手の「ラクドス・クロクサ」は上記トップシェアの片側に対して有利なアーキタイプです。「ラクドス・クロクサ」は「ディミーア・ローグ」に対して強く、「ティムール・ランプ」はヨーリオン系デッキに対して強いデッキです。どちらかのデッキがより多く存在すると読むか、フィールドに同じぐらい存在した場合その片方に対し優位なデッキを選ぶことで勝率を担保する狙いがあったと予想されます。これらのデッキの問題点は逆側のデッキに対し相性が悪い点で、つまり「ラクドス・クロクサ」はヨーリオン系デッキが、「ティムール・ランプ」は「ディミーア・ローグ」が厳しい相手です。マッチングが偏れば大勝ちもあり得ますが、同時に大負けもあり得、概ね中間的な成績が期待値となります。

 さて、ここまでで1番手と2番手、そしてそれらのデッキを狙い撃つ4番手と5番手の話をしてきましたが、3番手に関しては話す順番を意図的に入れ替えさせていただきました。それはこのデッキが後のメタゲームに絶大な影響を与える、このイベントで最も特筆に値するデッキだからです。

3番手 「グルール・アドベンチャー」

 今イベントにおいて最も注目され、最も成果を挙げたデッキ、それがこの「グルール・アドベンチャー」です。

佐藤 レイ - 「グルール・アドベンチャー」
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(10月)MPL 11勝1敗 / スタンダード (2020年10月24~25日)[MO] [ARENA]
9 《
3 《
4 《岩山被りの小道
4 《寓話の小道
2 《進化する未開地
-土地(22)-

4 《エッジウォールの亭主
4 《山火事の精霊
3 《漁る軟泥
4 《砕骨の巨人
4 《カザンドゥのマンモス
4 《恋煩いの野獣
2 《探索する獣
-クリーチャー(25)-
2 《焦熱の竜火
2 《グレートヘンジ
2 《原初の力
4 《髑髏砕きの一撃
3 《エンバレスの宝剣
-呪文(13)-
2 《エンバレスの盾割り
2 《運命の神、クローティス
3 《アゴナスの雄牛
2 《焦熱の竜火
2 《アクロス戦争
2 《解き放たれた者、ガラク
2 《怪物の代言者、ビビアン
-サイドボード(15)-

 

 同じ緑系アグロデッキには「ゴルガリ・アドベンチャー」や「セレズニア・アドベンチャー」といった選択肢もありますが、これらのデッキではなく「グルール・アドベンチャー」が選ばれた理由は《エンバレスの宝剣》にあります。「ディミーア・ローグ」が環境に返り咲いたころ、ある2つのデッキが成果を挙げ始めました。「赤単アグロ」と「グルール・アドベンチャー」です。両デッキは「ディミーア・ローグ」の蔓延るフィールドにおいて高いアベレージを記録しており、その数値は目を瞠るものがありました。両者が持つ特性の共通点は《エンバレスの宝剣》で、このカードこそが環境を打破する鍵となっていたのです。同カードは一度着地したアーティファクトへの対処手段をほとんど持たない「ディミーア・ローグ」や、インスタントタイミングの対応手段が限られるヨーリオンデッキに対し劇的なパフォーマンスを発揮します。

 また赤を用いることで「ディミーア・ローグ」に対し効果的なカードを採用する事が可能になります。《焦熱の竜火》は「ディミーア・ローグ」が序盤アクションの軸としている《遺跡ガニ》《盗賊ギルドの処罰者》《空飛ぶ思考盗み》といった軽量クリーチャーの一通りを対処でき、さらに追放してしまうことで《死住まいの呼び声》《夢の巣のルールス》《アガディームの覚醒》といった墓地利用手段を機能不全にします。

 対「ディミーア・ローグ」の対策には脱出クリーチャーが頻繁に用いられますが、脱出クリーチャー界の中でも最強と言って差し支えない《アゴナスの雄牛》は赤いデッキを選択する上での明確なメリットです。「ディミーア・ローグ」を意識する脱出カードは「より軽く」「より多くの枚数を追放できる」ことが重要視されるのですが、雄牛の「2マナ」+「8枚」は最上級の値であり、その上で盤面着地時には3枚ドローのおまけ付き(!)と文句なしの性能を誇っています。

 同じ《エンバレスの宝剣》デッキの中でも「赤単アグロ」ではなく「グルール・アドベンチャー」が活躍できた理由にはカードパワーの差が挙げられます。現在のスタンダードはローテーション直後ということもありカードプールが非常に狭く、その上で単色に絞ってしまうとどうしてもカードパワーの低いものがデッキに入ってしまいがちです。色マナトラブルが無い点や《朱地洞の族長、トーブラン》のようなカードをプレイできる単色のメリットよりも、使用できるカードを制限されるデメリットの方が勝ってしまう格好です。また赤単色は採用できる戦略の幅が狭くなり、《怪物の代言者、ビビアン》のような強力なプレインズウォーカーを用意できない点もマイナスです。

 《運命の神、クローティス》も2色のカラーリングであるからこそ採用できる強力なメタカードの1つです。最序盤から継続的に墓地を追放していくことで《物語への没入》のような墓地枚数を参照するカードのプレイを阻みます。またカードの性質上対処が難しく、展開するパーマネントの量をコントロールすることでサイドボードから追加されるであろう《絶滅の契機》や《凪魔道士の威圧》も無力化してしまえます。

 環境上絶好のポジションにつけた「グルール・アドベンチャー」は、このリーグ・ウィークエンドにおいて圧倒的なパフォーマンスを発揮します。

「グルール・アドベンチャー」使用者成績一覧
所属 選手名 成績
MPL 佐藤 レイ 11勝1敗
MPL Brad Nelson 7勝5敗
MPL Ondřej Stráský 7勝5敗
ライバルズ 熊谷 陸 8勝4敗
ライバルズ 原根 健太 8勝4敗
ライバルズ 井川 良彦 7勝5敗

 強者揃いのリーグ戦において使用者全員が勝ち越し、MPLの佐藤レイに至っては11勝1敗のハイスコアを叩き出しました。我々日本勢が使用したリストと海外プロが使用したリストは構成が大きく異なるのですが、佐藤レイのスコアも影響してか、これ以降は「和製グルール」が環境のテンプレートとして定着していきました。

 

『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド 2週目

 鮮烈なデビューを遂げた「グルール・アドベンチャー」の実力は広く認知され、一躍環境のトップメタに躍り出ます。リーグと同日に開催された『ゼンディカーの夜明け』予選ウィークエンドにおいては予選通過者8人中6人が「グルール・アドベンチャー」を使用(参考デッキリスト集:英語)。

 そしてこれに留まらず、その後のイベントにおいても「グルール・アドベンチャー」は勝ちに勝ちまくっていました。

 アドバンテージの取れるクリーチャー、プレインズウォーカー、勝負を決めるアーティファクト。多角的なプレッシャーを持つ同デッキは攻略が非常に困難で、いつしか「ベストポジションデッキ」から「環境屈指のパワーデッキ」にまで上り詰めていました。

 その結果、『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド第1週から2週間後に開催されたリーグ第2週のメタゲームブレイクダウンは以下のようになりました。

リーグ・ウィークエンド第2週 MPL+ライバルズメタゲーム(全72名)
アーキタイプ 使用者数 使用率
グルール・アドベンチャー 33 45%
各種ヨーリオン 22 30%
ディミーア・ローグ 9 13%
緑単フード 4 6%
その他 4 6%

 なんと使用者は全体の45%。この週は私原根も第1週に続き「グルール・アドベンチャー」を選択したのですが、その理由は「このデッキに対し有利を付けつつ、他デッキに対しても安定した勝率を期待できるデッキが見つけられなかったから」でした。おそらく「グルール・アドベンチャー」を選択したプレイヤーの多くがこの結論に至ったのではないかと思われます。いくつかのデッキは有利を付けることはできるのですが、著しく相性の悪いデッキが存在するなど、リスクを要する選択となります。第1週時の「ティムール・ランプ」や「ラクドス・クロクサ」と同じ状態になるわけです。

グルール包囲網

 圧倒的トップメタとなった「グルール・アドベンチャー」ですが、使用者たちもその状況は理解しており、ほとんどのリストがミラーマッチを意識した作りとなっています。

Luis Scott-Vargas - 「グルール・アドベンチャー」
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(11月)ライバルズ 9勝3敗 / スタンダード (2020年11月7~8日)[MO] [ARENA]
9 《
3 《
4 《岩山被りの小道
4 《寓話の小道
2 《進化する未開地
-土地(22)-

4 《エッジウォールの亭主
4 《山火事の精霊
3 《漁る軟泥
4 《砕骨の巨人
4 《カザンドゥのマンモス
4 《恋煩いの野獣
1 《探索する獣
-クリーチャー(24)-
2 《火の予言
2 《アクロス戦争
3 《グレートヘンジ
1 《原初の力
4 《髑髏砕きの一撃
2 《エンバレスの宝剣
-呪文(14)-
3 《打ち壊すブロントドン
2 《運命の神、クローティス
2 《灰のフェニックス
1 《魂焦がし
3 《アゴナスの雄牛
2 《火の予言
2 《怪物の代言者、ビビアン
-サイドボード(15)-

 

 ミラーマッチのキーカードである《恋煩いの野獣》を対処するために《魂焦がし》のようなカードが追加されている他、なんとメインから《アクロス戦争》を搭載した形が多数派となっています。《アクロス戦争》は同系対策カードの中でも特に汎用性が低く、使用者たちがミラーマッチをどの程度意識しているのか(=グルールが多いと読んでいるか)を窺い知ることができます。

 「グルール・アドベンチャー」の使用者たちがミラーマッチを強く意識したのと同じように、使用しなかったプレイヤーたちもグルールを強く意識しています。各種ヨーリオン、「緑単フード」、「ティムール・ランプ」の3つは特にグルールを意識した選択肢で、今リーグで特筆に値するデッキ群です。

 第1週に続き高いシェアを誇ったヨーリオン・デッキですが、「雑多に対する強さ」を選択理由に置いた第1週と今回とではポジションが異なり、このデッキは上記で述べた「グルールに対し有利なデッキ」です。

 ヨーリオン・デッキといっても種類はさまざまですが、その中でも《予言された壊滅》を使うタイプのリストがグルールに対しては効果的です。《予言された壊滅》はグルールが用いるあらゆるパーマネントの処理に対応しており、多角的な脅威に耐性があります。

Andrea Mengucci - 「エスパー・予言された壊滅」
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(11月)MPL 7勝4敗 / スタンダード (2020年11月7~8日)[MO] [ARENA]
4 《平地
4 《
3 《
4 《啓蒙の神殿
1 《静寂の神殿
4 《欺瞞の神殿
4 《陽光昇りの小道
4 《清水の小道
4 《寓話の小道
-土地(32)-

4 《スカイクレイブの亡霊
3 《空を放浪するもの、ヨーリオン
-クリーチャー(7)-
4 《海の神のお告げ
3 《黄金の卵
2 《取り除き
2 《ガラスの棺
2 《無情な行動
4 《エルズペスの悪夢
3 《太陽の神のお告げ
3 《裏切る恵み
1 《払拭の光
4 《予言された壊滅
3 《絶滅の契機
4 《エルズペス、死に打ち勝つ
4 《エメリアの呼び声
2 《屋敷の踊り
-呪文(41)-
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン
-相棒(1)-

2 《塵へのしがみつき
2 《強迫
4 《神秘の論争
1 《ヘリオッドの介入
2 《太陽の恵みの執政官
1 《絶滅の契機
2 《サメ台風
-サイドボード(14)-

 

 「緑単フード」は冒頭で挙げたフェーズにおいて、緑系アグロの次のフェーズに位置するデッキのため構造的な優位があります。

 自身も《恋煩いの野獣》をプレイするためクリーチャー同士のぶつかり合いにおいてサイズ負けすることがなく、《貪るトロールの王》や《巨大猿、コグラ》は肉弾戦において最強格です。《意地悪な狼》も盤面構築を優位に進められる格闘および破壊不能の能力を有し、《エンバレスの宝剣》すらも受け止めることが可能です。自身も《怪物の代言者、ビビアン》や《グレートヘンジ》を採用していることからパーマネント対決にもしっかりと付いていくことができます。

行弘 賢 - 「緑単フード」
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(11月)MPL 8勝3敗 / スタンダード (2020年11月7~8日)[MO] [ARENA]
16 《
4 《ギャレンブリグ城
3 《眷者の居留地
-土地(23)-

4 《金のガチョウ
4 《絡みつく花面晶体
1 《漁る軟泥
4 《カザンドゥのマンモス
4 《恋煩いの野獣
2 《打ち壊すブロントドン
4 《意地悪な狼
4 《貪るトロールの王
1 《巨大猿、コグラ
-クリーチャー(28)-
3 《魔女のかまど
3 《パンくずの道標
3 《グレートヘンジ
-呪文(9)-
2 《鎖巣網のアラクニル
3 《漁る軟泥
2 《打ち壊すブロントドン
2 《怪物の代言者、ビビアン
1 《巨大猿、コグラ
2 《強行突破
2 《原初の力
1 《精霊龍、ウギン
-サイドボード(15)-

 

 「ティムール・ランプ」は「緑単フード」の1つ後ろのフェーズに属したデッキで、「緑単フード」より優位性がやや下がりはするものの「グルール・アドベンチャー」に有利を付けられるデッキです。

 グルールはカラーリングの都合上《精霊龍、ウギン》への対応策を持たないため、少しでも展開が遅れ《発生の根本原理》やウギン本体に繋がる勝負になればたちまちゲームを決定付けます。ただし早い展開の《エンバレスの宝剣》には回答を持たないため、「平均的な回りであれば」の前提が必要になります。

石村 信太朗 - 「ティムール・ランプ」
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(11月)ライバルズ 9勝3敗 / スタンダード (2020年11月7~8日)[MO] [ARENA]
6 《
3 《
2 《
4 《ケトリアのトライオーム
4 《岩山被りの小道
2 《河川滑りの小道
2 《寓話の小道
-土地(23)-

4 《豆の木の巨人
-クリーチャー(4)-
4 《火の予言
4 《ジュワー島の撹乱
2 《乱動への突入
1 《垣間見た自由
4 《耕作
1 《神秘の論争
3 《移動経路
4 《サメ台風
4 《発生の根本原理
2 《髑髏砕きの一撃
4 《精霊龍、ウギン
-呪文(33)-
3 《運命の神、クローティス
2 《砕骨の巨人
2 《アゴナスの雄牛
2 《焦熱の竜火
1 《垣間見た自由
1 《否認
3 《神秘の論争
1 《アクロス戦争
-サイドボード(15)-

 

 各々異なるアプローチで「グルール・アドベンチャー」の攻略を目指しています。前述したように、これらのデッキはグルールに対して相性が良い代わりに他のデッキに対し相性が悪く、「壊滅ヨーリオン」および「緑単フード」は「ティムール・ランプ」が、「ティムール・ランプ」は「ディミーア・ローグ」が特に厳しい相手なのですが、これらのデッキは今回のフィールドにおいて使用率が低く、メタゲームを正確に読み切ったプレイヤーが成果を挙げた週でした。

 またメタに回ったデッキ群の中にも相性があり、「緑単フード」は「壊滅ヨーリオン」に強く、「ティムール・ランプ」は「緑単フード」と「壊滅ヨーリオン」の双方に有利です。ヨーリオン・デッキがグルールに次ぐシェアを誇ったことから「緑単フード」と「ティムール・ランプ」は今リーグで明確な勝ち組となりました。第1週のグルールよろしく、使用者全員が勝ち越しの成績を収めています。

MPL+ライバルズ勝ち組成績
所属 選手名 アーキタイプ 成績
MPL 行弘 賢 緑単フード 8勝3敗
MPL Chris Kvartek 緑単フード 7勝4敗
ライバルズ 石村 信太朗 ティムール・ランプ 9勝3敗
ライバルズ Matthieu Avignon 緑単フード 8勝4敗
ライバルズ 藤江 竜三 緑単フード 7勝5敗

 

勝ち組に見られる傾向

 リーグ・ウィークエンド第2週から1週間が経過した頃、国内最大級のオンライントーナメントであるSekappy COLOSSEUMの2次予選が開催されました。

logo-sekappy.png
(画像はSekappy COLOSSEUMのページより、引用ののちサイズ変更)

 

 このイベントには1次予選を通過したプレイヤーに加え、我々日本人ライバルズプレイヤーを始めとした多くの招待選手が参加しており、国内トーナメントの中でも非常にレベルの高いものになっていました。このトーナメントの結果からもメタゲームの変遷を感じ取ることができます。まずは11月28日(土)に開催される決勝大会進出を果たした上位13のデッキ分布は以下の通りです。

sekappy COLOSSEUM 2次予選突破デッキ
アーキタイプ 使用者数
ディミーア・ローグ 4
ティムール・ランプ 2
グルール・アドベンチャー 2
緑単フード 1
その他 4

 リーグ・ウィークエンド第2週の場でわかりやすく突出した「緑単フード」と「ティムール・ランプ」は使用者が急増し、今大会においても多くのプレイヤーが選択しました。「グルール・アドベンチャー」は徐々に立場を悪くしているものの相変わらず使用者は多く、今大会でも最大のシェアを誇ったため、上記デッキ群が活躍する土壌は整っていたと言えます。

 またこのイベントでは「ディミーア・ローグ」の躍進が目立っています。使用者の多かった「ティムール・ランプ」に相性が良く、ローグにもいくつか種類がありますが、中でも《トリックスター、ザレス・サン》を用いたタイプはグルールに対する相性が改善され、今大会に適した選択でした。「緑単フード」にはやや分が悪いものの、同デッキは「ティムール・ランプ」に不利なため、トーナメントが進行していけば徐々に数を減らしていくことが期待でき、トーナメント後半においては良好なポジションになるでしょう。実際の結果も「緑単フード」の通過者は1名のみで、「ティムール・ランプ」が2名通過し、「ディミーア・ローグ」は4名が通過しています。

 しかし、この1週間後に開催されたChannelfireball Clash Championshipでは上記の流れを踏まえた変化が生まれています。

CFB_Clash.jpg
(画像はChannelfireball Clashのページより、引用ののちサイズ変更)

 

 このイベントにおいても「ディミーア・ローグ」は数多く上位に進出を遂げたのですが、今大会の最大シェアはそれを見越しての「緑単フード」であり、「ディミーア・ローグ」はことごとく同デッキに敗れていきました。準決勝より後は「緑単フード」と「ティムール・ランプ」とで争われることになり、結果「ティムール・ランプ」が優勝しています。

cftsoc - 「ティムール・ランプ」
CFB Clash Championship 優勝 / スタンダード (2020年11月21日)[MO] [ARENA]
3 《
4 《
2 《
4 《ケトリアのトライオーム
4 《岩山被りの小道
2 《河川滑りの小道
4 《寓話の小道
-土地(23)-

4 《エッジウォールの亭主
4 《砕骨の巨人
4 《厚かましい借り手
4 《カザンドゥのマンモス
4 《恋煩いの野獣
4 《峰の恐怖
4 《豆の木の巨人
-クリーチャー(28)-
3 《耕作
4 《発生の根本原理
2 《グレートヘンジ
-呪文(9)-
1 《獲物貫き、オボシュ
-相棒(1)-

2 《鎖巣網のアラクニル
2 《運命の神、クローティス
2 《打ち壊すブロントドン
1 《アゴナスの雄牛
2 《厳格な放逐
4 《神秘の論争
1 《怪物の代言者、ビビアン
-サイドボード(14)-
MTGMelee より引用)

 

 また直近の「ティムール・ランプ」は構造が大きく変化しており、除去呪文と打ち消し呪文で時間を稼ぎながら《精霊龍、ウギン》に繋ぐタイプより、クリーチャーを展開し盤面を形成しながら《峰の恐怖》で勝利するタイプが主流となっています。《精霊龍、ウギン》の採用を見送ることで《獲物貫き、オボシュ》を相棒にすることができ、同カードは《峰の恐怖》と非常に相性が良く、《豆の木の巨人》と合わせて一撃で20点のダメージを叩き出すことも可能になります。

 リーグ・ウィークエンド第1週からこのイベントに至るまで、今期のスタンダードはその瞬間のベストポジションに付けることが命題と言えます。勝ち組に見られる傾向は「当該トーナメントのシェアを正しく読み取り、その上を行く選択」を行っていることであり、前週に活躍したデッキは標的となりポジションを悪くしています。「前週勝ったデッキなのだから強いデッキことは間違いないだろう」と安易にデッキ選択を行うと格好の獲物にされてしまいます。情報の収集だけでなく、それを分析し、的確な選択を行うことが環境攻略の鍵になります。

 「激動の1週間」が過ぎた後もスタンダード環境は刻一刻と変化し続けており、毎週のように異なるメタゲームが示されています。ほんの少し前に行われていた、特定のデッキが常に環境トップに固定されていたスタンダードと比べなんと流動的なことでしょうか。慌ただしく感じることもありますが、次はどのようにメタゲームが変化するのかワクワクしますし、環境を読み解く楽しみがあります。複雑な環境ですが、数ある選択肢から正解を選び抜く、そんなスタンダードのメタゲームは完全に取り戻されたのではないでしょうか。

 以上です。現在のスタンダードは難解で、今回の分析はこれまでで一番苦労しましたが、皆さんの環境理解の一助となることを願いつつ、今回はここまでとさせていただきます。

 それではまた次回。

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