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週刊デッキ構築劇場

第84回:井川良彦のデッキ構築劇場・トウキョウネズミーワールド

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週刊デッキ構築劇場

2012.10.29

第84回:井川良彦のデッキ構築劇場・トウキョウネズミーワールド

演者紹介:井川 良彦

 2007年の横浜でプロツアーに初参加、「初の海外旅行は、マジックのプロツアーで行きたい」という自身の言葉を2010年のプロツアー・サンディエゴで実現、海外緒戦にしてトップ8入賞を決めてみせた「驚嘆の男(ザ・ワンダーリング・ワン)」。
 その後も、伊藤 敦・高橋 純也と組んだ調整チーム『神様へのブラフ』で切磋琢磨し、日本選手権2011で4位に入賞するなど、多忙な日々にあってもフォーマットを問わずマジックに取り組む、情熱あふれるプレイヤー・ライターである。


 プロツアー「ラヴニカへの回帰」、閉幕。

 サニーサイドアップを駆り、三日間無双を続けたStanislav Cifkaが見事優勝を飾りました。
 「今回のプロツアーは彼のためにあった」と言ってもいいほどの勝ちっぷり。構築は9勝1敗からの日曜日3連勝。ドラフトも6戦全勝とまさに圧勝ですね。

 日本勢からは、皆さんご存知、世界最強プレイヤーの一人である渡辺雄也が準優勝。マジック・プレイヤー選手権に続き、連続の快挙は流石としか言いようがありませんね。強すぎる!!

 また、ラウンド15で敗れてしまい栄光のプロツアーサンデーには一歩届きませんでしたが、グランプリ・横浜でベスト4に輝いた山口聡史が見事トップ16に入り、次回のプロツアーの権利を得ています。おめでとうございます!

山口 聡史(グランプリ・横浜2012にて)

 僕自身も、実に一年ぶりにプロツアーに参戦しました。
 伊藤敦・高橋純也との調整の末、選んだデッキはソウルシスターズ。

「My Soul, Your Beats!」[MO] [ARENA]
21 《平地

-土地(21)-

4 《魂の管理人
4 《魂の従者
4 《セラの高位僧
4 《砂の殉教者
4 《アジャニの群れ仲間
4 《戦隊の鷹
4 《イーオスのレインジャー

-クリーチャー(28)-
3 《流刑への道
4 《清浄の名誉
4 《幽体の行列

-呪文(11)-
2 《ブレンタンの炉の世話人
2 《エイヴンの思考検閲者
3 《墓掘りの檻
1 《流刑への道
3 《石のような静寂
1 《四肢切断
2 《隔離する成長
1 《光と影の剣

-サイドボード(15)-

 Magic Online上で人気のアーキタイプで、「《出産の殻》」「《虹色の前兆》入り《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》「ストーム」「感染」といったデッキにはかなり不利ですが、その分「ジャンド」「青白」「Delver」といった中速のクリーチャーデッキに滅法強いのが特徴です。

「《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》は負け組」
「ベスト8にはジャンドや青白のような万能中速デッキが勝ち上がってくる」

 という想定から、このデッキを選びました。

 プロツアー本番のメタゲームも基本的には想定通りで、構築ラウンドは二日間で7勝3敗と上々の成績でしたが、リミテッドラウンドで黒星を重ねてしまい、トータル9勝7敗の106位でフィニッシュ。

 悔いの残るプロツアーとなってしまいました。
 次回、プロツアーに出られるのはいつになるか分かりませんが、次こそは結果を残したいものです。


 閑話休題。


 『ラヴニカへの回帰』でのリミテッドは、既に皆さん楽しまれているかと思います。
 そして、多くの方がこのカードの強さを味わったのではないでしょうか。

 この可愛くもなんともないネズミこそが、《梅澤の十手》以来のリミテッド「2キル」カードなのです!

 普通に起動しているだけでも、3ターン目に2体目、4ターン目に3体目、5ターン目には4体目が出て、4/4が4体並んでいる場になります。次のターンに6枚目の土地を置いたら、さぁ大変。2回起動することにより6/6が6体並んでいるという、《原初の狩人、ガラク》の奥義発動と同様な盤面が完成してしまうのです。

 重かった《マイアの繁殖者》ですら動きだすとなかなか強かったのですが、この《群れネズミ》は完全に次元が違う強さですね。

 早いターンに戦場に降臨してしまい、一度起動を許してしまえば、そのゲームは95%ぐらいはその《群れネズミ》だけで負けることになるでしょう。

 世界トッププレイヤーの一人であるMartin Juzaは、プロツアー「ラヴニカへの回帰」の2ndドラフトで《群れネズミ》を2枚ピックできたことで、その2枚以外はすべて《》という、まさにネズミ単デッキを作り上げました!!
 残念ながら1-2という結果に終わってしまいましたが、この「《》38、《群れネズミ》2」デッキは、その「2キル」力により、3-0してもなんら不思議ではなかったと言えます。

 また、渡辺雄也とLuis Scott-Vargasは、先週末に行われたグランプリ・フィラデルフィアの初日(フォーマットはシールド戦)にて見事《群れネズミ》を引き当て、2人とも全勝を飾っています(リンク先に当日のデッキリストあり)。

 トッププロが持つ《群れネズミ》は、まさに鬼に金棒。対戦相手の方へ同情を禁じえません。

 「リミテッドで強いカードは構築でも強い」というのは昔から良く言う話。
 同じ2キルカード、《梅澤の十手》が構築であれだけ強かったのですから、《群れネズミ》もリミテッドだけでなく構築でも強いに決まっています!!!

 年末には「関東ファイナルズ(仮)」、そして来年にはプロツアー予選も控えるモダン。
 この《群れネズミ》で、モダン環境を制圧しようじゃありませんか!!


 とうわけで、今回のデッキはこちら。

「ネズミ式トレーニング ~ときどき卵、たまにX=40~」[MO] [ARENA]
2 《
2 《
1 《
4 《闇滑りの岸
3 《新緑の地下墓地
3 《沸騰する小湖
2 《黒割れの崖
2 《湿った墓
1 《蒸気孔
1 《血の墓所
1 《沈んだ廃墟

-土地(22)-

4 《群れネズミ
3 《呪文滑り
3 《ルーデヴィックの実験材料

-クリーチャー(10)-
4 《訓練場
4 《霊気の薬瓶
4 《手練
4 《血清の幻視
3 《思考囲い
3 《コジレックの審問
2 《魔力変
2 《交錯の混乱
2 《知識の渇望

-呪文(28)-
4 《イゼットのギルド魔道士
1 《小悪魔の遊び
3 《大祖始の遺産
3 《ハーキルの召還術
2 《魔力変
2 《疑念の影

-サイドボード(15)-

 《群れネズミ》の最大の欠点である起動コストの重さ。そのハードルを《訓練場》でクリアすることにより、《群れネズミ》はモダンのステージに上がることができました!!

 たった1マナと手札1枚で己のコピーを出す様は、もはや宇宙の領域ですね。
 「黒の最強の2マナ域は《闇の腹心》じゃない! この《群れネズミ》だ!」と大声で言い張りましょう!

/

 1ターン目《訓練場》、

/

 2ターン目《群れネズミ》と動けば、

/

 3ターン目には3回《群れネズミ》を起動することにより、4体の4/4《群れネズミ》が盤面を制圧します!!

/

 もちろん、2ターン目に《群れネズミ》を出して即《稲妻》や《流刑への道》を食らうのは寂しいので、《思考囲い》《コジレックの審問》で相手の妨害カードを抜いたり、《呪文滑り》をプレイしてから場に出すと、より磐石なネズミワールドが展開できるでしょう!

回転

 《ルーデヴィックの実験材料》は、《群れネズミ》を引かなかった時のお守りであり第二の勝ち手段です。
 これも《訓練場》さえあれば、たったの5マナで一気に《ルーデヴィックの嫌悪者》へと孵化します!
 《ファイレクシアン・ドレッドノート》よりデカいその御姿には、最強生物と名高い《タルモゴイフ》ですらタジタジ。2体並んでもこの巨大な化け物を倒すことは難しいですね。

 デッキの根幹部分は《訓練場》なので、《手練》《血清の幻視》《知識の渇望》といったドローカードをフルに活用して、手札を揃えましょう。

 《交錯の混乱》は相手の除去や《風景の変容》をカウンターしつつ、《群れネズミ》をサーチできる優れもの。

 《霊気の薬瓶》は《群れネズミ》《ルーデヴィックの実験材料》のような、「マナがかかる起動型能力があり、除去耐性が低く、マナコストが軽い」クリーチャーを出すには最適なカードです。エンド前に《群れネズミ》からのコピー作成で、盤面をいきなり制圧したりもできます。


 サイドボードには、《訓練場》を活かしたコンボを搭載してみました。

 《訓練場》と《イゼットのギルド魔道士》がある状態で《魔力変》をプレイします。
 そしてその《魔力変》を対象として、
「{2}{U}:点数で見たマナ・コストが2以下の、あなたがコントロールするインスタント呪文1つを対象とし、それをコピーする。あなたはそのコピーの新たな対象を選んでもよい。」
 の能力を{U}で起動。

 すると、《魔力変》のコピーが作成され、2マナ出て1ドローします。そしてこの今《魔力変》から出たマナを使ってまた《イゼットのギルド魔道士》の能力を使って・・・

 と繰り返すことにより、残りライブラリーの枚数分だけマナを生み出し&ドローをすることができるのです。
 そうして生み出したマナを使って、ライブラリーから手札に加えられた《小悪魔の遊び》でフィニッシュ! ライブラリーの枚数にもよりますが、40点ぐらいは与えることができるでしょう。

 従来のコンボと異なり、メインに入れても腐らない《魔力変》がコンボパーツであること、そして《むかつき》+《天使の嗜み》のようなコンボと違って、《猿人の指導霊》という不安定なカードを使わずに済むのが大きいですね。

 変形サイドボードを採用しても、《大祖始の遺産》《疑念の影》《ハーキルの召還術》といったメタカードをしっかり採用することができました。

 《大祖始の遺産》は、今をときめくサニーサイドアップ対策に。《残響する真実》されてしまうので完全な対策にはなりませんが、ハンデスと併用すれば効果を発揮できるでしょう。

 《疑念の影》は《風景の変容》と《出産の殻》対策です。特に前者には非常に刺さりますので、ギリギリまで見せずに勝ちたいところ。

 《ハーキルの召還術》は、親和対策です。モダンといえば親和、といえるほど安定した勝率を叩き出す最速のビートダウン。常に警戒しなければいけないアーキタイプの一つです。

 ジャンドに《突然の衰微》が搭載されるようになり、風当たりが強く感じるかもしれませんが、その分《大渦の脈動》が減ったので、むしろ《群れネズミ》勝ちはしやすくなったように感じますね。

 《訓練場》さえ《呪文滑り》で守ればいくらでも勝てるのが、このデッキの強みです!



 《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》の解禁はあれど、全体的にはかなり停滞しているモダン環境。

 既存のデッキの完成度が高いのが一つ。そしてプレミアイベントの数が少ないのがもう一つの理由といえます。

 ですが、『ラヴニカへの回帰』には《世紀の実験》のように面白く活用しがいのあるカードが沢山あります。

 現在の環境には存在しないデッキを使って、環境に新しい風を吹かせましょう! モダンシーズンが今から待ち遠しいですね!
 それではまた次回!

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