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EVENT COVERAGE
プレイヤーズツアー・名古屋2020
第4回戦:行弘 賢(東京) vs. 岩田 稜司(埼玉) ~「高尾オーラ」初陣の雄姿を見よ!~
プレイヤーズツアー・名古屋2020。優勝賞金35,000ドル、賞金総額150,000ドルのビッグタイトルマッチが愛知県常滑市、Aichi Sky Expoで始まっていた。完全招待制であり、参加そのものが勲章であり強者の証である「プレイヤーズツアー」は『テーロス還魂記』のブースタードラフト3回戦を終え、パイオニアの構築戦が始まったところだ。
動画配信の隆盛もあり、各プレイヤーが不公平でないように「全員デッキ公開制」が採用されている。オンライン提出したデッキリストは紙に印刷され、全員が自分のものを渡されているという状況だ。
席につき、対戦相手に紙を渡すところからコミュニケーションが始まる。
マジック・プロリーグ(MPL)プレイヤー、行弘 賢は比較的この交換制に慣れているプレイヤーの1人だ。期間中、すべてのプレイヤーズツアーに参加する権利を持つ数少ないトッププロの1人は、にこやかに席についている。緊張とは無縁のようにも見える。
また行弘は「デッキビルダー」としても名を馳せている。今回持ち込んだオリジナルデッキは、とても特徴的なようだ。
その行弘に対する岩田 稜司は、対照的であった。「マジックは観るのも好き」と、配信者としても活躍する行弘を前に彼の「ファン」として喜びを隠さずにいる。行弘のオリジナルデッキと最初に当たったことに「(行弘のデッキを)特等席で観れる」とまで表現した。
行弘 賢(写真左) vs. 岩田 稜司(写真右) |
プレイヤーズツアーが大舞台であることは間違いない。しかしそこに参加するプレイヤーのすべてが緊張しているわけではない。行弘と岩田、ともに自分らしさを表現しつつ、なごやかにゲームは始まった。
ゲーム1
先手をとった岩田が《沼》から《どぶ骨》を展開する。すでにメタゲームブレイクダウンでも公開されている通り、トップメタの1つ、「黒単アグロ」だ。
これに対し行弘が示したアクションは、《秘密の中庭》からの《憎しみの幻霊》!
すでにデッキリスト交換で「それ」を見ている岩田は驚きこそしないが、パイオニアという環境においてこのカードが登場することを予期できるプレイヤーは今この瞬間までほとんどいなかったはずだ。新セット『テーロス還魂記』から採用されているこのカードは、どのような働きをしてみせるのか。始まったばかりのゲームはすみやかに進んでいく。
岩田は《致命的な一押し》でこの《憎しみの幻霊》を退場させつつ、《漆黒軍の騎士》を追加していく。小回りの利く「黒単アグロ」の良さが最高の形で発揮された周りだ。
岩田 稜司 |
しかし行弘に動じる様子はない。2体目の《憎しみの幻霊》に《結束のカルトーシュ》をエンチャントし、戦士・トークンを生成していく。少しずつ行弘のデッキの姿が明らかになってきたようだ。「オーラ戦略」を主軸にする「白黒」といった様子だが、まだその他のパーツの推測は立ちにくい。
岩田はこのサイズアップした《憎しみの幻霊》に《闇の掌握》を撃ち込んで攻撃を通していく。行弘は《憎しみの幻霊》の効果でカードを引きつつ、ブロックはせず戦士・トークンを守る。
この戦士・トークンに新たな《結束のカルトーシュ》をエンチャントしつつ、《命の恵みのアルセイド》を戦線へ送り込む。オーラに加えて、「クリーチャー・エンチャント」を多用するようだ。
岩田は行弘の盤面のクリーチャーのサイズを確認して《どぶ骨》でアタックを仕掛け、《結束のカルトーシュ》がエンチャントされた戦士・トークンにブロックされる。「2/1対2/2」で相打ちできるはずだったが、行弘が《結束のカルトーシュ》を指さして「ファーストストライク(先制攻撃)です」と告げた。
+1/+1修整、トークン生成、そして先制攻撃付与。1マナにして破格の仕事量を持つオーラは、いずれもが見事に盤面に影響を及ぼしていた。「テキストの見逃し」という形で手勢を失ってしまった岩田は苦笑を浮かべる。
ここまで守勢が続いていた行弘が2体目の《命の恵みのアルセイド》を追加し、さらに戦士・トークンに《天上の鎧》をエンチャントする。
ここで「オーラ戦略」と「クリーチャー・エンチャント」を多用することを繋げるキーカードが登場した。
1マナにして(現時点で)+4/+4という修整値を与える《天上の鎧》によって《闇の掌握》を自然と乗り越え、2体の《命の恵みのアルセイド》によって《致命的な一押し》をも乗り越えるアタッカーが誕生した。
行弘 賢 |
岩田は2体の《命の恵みのアルセイド》を対処したあとにこのビッグサイズの戦士・トークンを捌かなければならないのだが、それを実現するには手札もライフも足らなかった。
行弘 1-0 岩田
行弘の新デッキは、アーキタイプとしては「白黒オーラ」という分類になるのだろうか。行弘はしかし、ともにデッキを作成・調整した友の名前をつけて「高尾オーラ」と呼ぶこととしている。行弘とともに稀代のデッキビルダーとして知られる高尾 翔太との合作であり、2人きりのシェア・デッキだ。
ゲーム2
岩田はウィニー・デッキに無類の強さを誇る《菌類感染》を初手に引き込んだ。《命の恵みのアルセイド》を乗り越えつつ、戦闘の計算を大きく狂わせるサイドカードだ。
マリガンした行弘も手札には《憎しみの幻霊》と《死の重み》があり、岩田の動きに対して的確ともいえる回答のセットを用意できている。
《血に染まりし勇者》から始めた岩田は、続いて《ドリルビット》を「絢爛」で唱え、《死の重み》より優先して「デッキのエンジン」となるであろう《上級建設官、スラム》を捨てさせる選択をした。《血に染まりし勇者》の2体目を追加しつつ、行弘の「出方」を伺う。
行弘は《憎しみの幻霊》に《歩哨の目》をエンチャントしつつ、攻撃を仕掛けていく。《血に染まりし勇者》はブロックできない能力を持つため、すれ違いのライフレースだが、「絆魂」の分、行弘に若干の利がありそうだ。
岩田は返すターンで《血に染まりし勇者》2体で攻撃を宣言する。《憎しみの幻霊》は2/3なので明らかに「コンバット・トリック」を匂わせるアクションだ。行弘はしばらく悩んだあとに《憎しみの幻霊》でブロックを宣言すると、そこに《菌類感染》が撃ち込まれる。そこで、行弘は《ドリルビット》では見せていない《ケイラメトラの恩恵》。+2/+2修整と呪禁をつけてこれを回避しつつ、ライフレースを一気に突き放し、なおかつ呪禁がついたことで「対象不適正による打ち消し」のために《菌類感染》の苗木・トークンの生成もできない岩田に計り知れない大きい誤算を与えた。
第2メイン・フェイズで《屑鉄場のたかり屋》を追加するが、これはすでに見えている《死の重み》で即座に退場に追い込まれ、かつ1枚ドローも与えてしまう。
行弘は2枚目の《歩哨の目》を《憎しみの幻霊》につけてサイズアップしつつ、攻撃を宣言。ライフレースの主導権をガッツリと握っていく。さらに第2メイン・フェイズで強烈なサイドカード、《浄光の使徒》を追加することで、岩田が主導権を取り返すための選択肢を一気に削っていく。
3マナと《漆黒軍の騎士》を用意し、《憎しみの幻霊》を一方的に打ち取ることには成功した岩田。しかし《憎しみの幻霊》によってカードを2枚引いた行弘は《上級建設官、スラム》を着地させてから《歩哨の目》を「脱出」させ、手札を減らさずに戦線を着実に育成していく。
《浄光の使徒》によって《屑鉄場のたかり屋》の戦場に戻る能力も牽制され続けると、岩田は後続を示せず「ゴー」の仕草を取ることしかできない。
《上級建設官、スラム》が生き残った行弘はもう1枚の《歩哨の目》も脱出させて《浄光の使徒》を育てつつ、カードを引いていく。《歩哨の目》プレイ、1ドロー。《結束のカルトーシュ》プレイ、1ドロー。
プロテクション(黒)という不可触のクリーチャーのサイズアップが終わるころには、岩田はマッチの終了を示す握手を行弘に求めていた。
行弘 2-0 岩田
試合後
岩田「めっちゃ楽しかったです! 来てよかったです。行弘さんのオリジナルデッキと戦えて。」
マッチ終了の直後、口を開いたのは負けた岩田だ。そしてその口ぶりは「負け惜しみ」は一切感じさせず、ひたすら行弘への尊敬がこもった明るい言葉だった。行弘も勝った相手から「そこまで言ってもらえるとは」と、喜びを見せる。
岩田「黒単、目の敵にしてますよね。黒単を使った上で、最初に当たれて、間近で見れて、こんな良いことないです!」
トップメタの「黒単アグロ」を持ち込んだ岩田が、それを「狩る」ためにオリジナルデッキ「高尾オーラ」を作り上げた行弘と戦い、負ける。この事実に対し、「岩田は悔しいはずだ」と傍観者が表現するのは適切ではない。
マジックに対し、遊ぶことも観ることも等しく楽しんでいる岩田の表情や言葉に、暗い感情は微塵もない。
岩田「勝ちに貪欲にならないとって言われちゃうかな」
元々長期的な休暇の必要な海外大会への出場は検討しておらず、名古屋かつ土日での開催という好条件の重なった今回だから出場できたという岩田。
こう書くと「旅行気分」のようにも見えるが、彼が権利を獲得した大会はMOPTQであり、その難度は予選大会でも屈指のものだ。さらに「レガシー」での権利獲得であり、この大会において岩田は自らの立ち位置が特徴的なものだと感じていた。
岩田「ただこの場所にいれたことが嬉しいし誇らしい」
試合に負けたその岩田がここまで表現を強めるのは、相手がマジックに勝ちと同じくらい「楽しさ」を求める行弘と対峙したからであり、その行弘が自らと自らのデッキをしっかりと敵と認識「してくれた」からだろう。
戦うことの楽しさ。試合を観ることの楽しさ。そのどちらも岩田は行弘から受け取っていた。
デッキを作ることの意味、楽しさ。戦うことの意義、楽しさ。大会に挑むことの想い、楽しさ。行弘はトップ・プロとして、試合を通して他のプレイヤーたちにそうした気持ちを伝えていく。
行弘 賢、Win!
6 《平地》 1 《沼》 4 《神無き祭殿》 4 《秘密の中庭》 4 《コイロスの洞窟》 1 《マナの合流点》 -土地(20)- 4 《命の恵みのアルセイド》 4 《憎しみの幻霊》 2 《恩寵の重装歩兵》 4 《上級建設官、スラム》 3 《騒音のアフィミア》 -クリーチャー(17)- |
4 《結束のカルトーシュ》 4 《天上の鎧》 4 《ケイラメトラの恩恵》 4 《歩哨の目》 3 《グリフの加護》 4 《きらきらするすべて》 -呪文(23)- |
1 《浄光の使徒》 1 《脳蛆》 1 《死の重み》 1 《墓掘りの檻》 1 《思考囲い》 1 《不可解な終焉》 1 《試練に臨むギデオン》 -サイドボード(7)- |
15 《沼》 4 《ロークスワイン城》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 4 《変わり谷》 -土地(24)- 4 《血に染まりし勇者》 4 《どぶ骨》 4 《漆黒軍の騎士》 4 《屑鉄場のたかり屋》 4 《残忍な騎士》 3 《悪ふざけの名人、ランクル》 2 《騒乱の落とし子》 -クリーチャー(25)- |
4 《致命的な一押し》 4 《思考囲い》 2 《闇の掌握》 1 《死の国への引き込み》 -呪文(11)- |
1 《ゲトの裏切り者、カリタス》 1 《菌類感染》 1 《集団的蛮行》 1 《自傷疵》 1 《ドリルビット》 1 《死の国への引き込み》 1 《虚空の力線》 1 《霊気圏の収集艇》 1 《最後の望み、リリアナ》 -サイドボード(9)- |
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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