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Patrick Chapin(アメリカ) vs. Nam Sung Wook(韓国)
EVENT COVERAGE
プロツアー『ニクスへの旅』
決勝:エルズペスが輝くこの一瞬に
Patrick Chapin(アメリカ) vs. Nam Sung Wook(韓国)
Blake Rasmussen / Tr. Tetsuya Yabuki
2014年5月18日
パトリック・チャピン/Patrick Chapin(白黒緑ミッドレンジ) vs. ナム・サンオク/Nam Sung Wook(白黒緑「星座」)
パトリック・チャピンは長きにわたり、マジック:ザ・ギャザリングに携わってきた。それこそ今日この舞台にいる誰よりも長く。彼が成し遂げた最初の成功は、今では廃止されたジュニア部門にまで遡る。この殿堂顕彰者が初めてプロツアー・トップ8に入賞したのは、プロツアー・ニューヨーク1997でのことだった。2度目のトップ8入りは、その2年後のプロツアー・ロサンゼルス1999だ。
その後彼は2度のトップ8入賞といくつものトップ16入りを達成し、最も有名なプレイヤーのひとりとなった。プレイヤーとして、ライターとして、最も長くマジックというゲームに携わった選手のひとりになったのだ。彼はグランプリ・トップ8入賞回数よりプロツアー・トップ8入賞回数の方が多いという大変珍しいプレイヤーだが、それは最高の舞台にこそ集中してプレイヤーとしての時間を過ごしてきたからだろう。後世にわたり揺るがぬ名声を手に入れ、あらゆる時代のプロツアーに参加してきたチャピンだが、彼にはただひとつ抱える想いがあった。プロツアー初優勝を遂げることだ。
以前にも惜しいところまで行ったことはあった。世界選手権2007、彼は「ドラゴンストーム」で当時のフォーマットを席巻し、自らをプロツアー・チャンプと呼べるまであと一歩というところまで肉薄した――そして今に至る。プロツアーに優勝すれば、彼の「死ぬまでにしたいことリスト」からひとつの項目が消えるだけでなく、彼が「夢」だと語る世界選手権への出場が現実のものとなるのだ。
そんな彼の前に立ちはだかるのは、考えられる限りのスピードで早くも頂点を狙うことになった男だ。ナム・サンオクは今年のグランプリで2度のトップ8入賞を果たし、そのうちのグランプリ・メルボルン2014では栄冠を獲得している。またMagic Onlineでも、現在プレイヤー・オブ・ザ・イヤー・レースで先頭に立つプレイヤーだ。この週末にこうして決勝の舞台に上がっていることに加えて、チーム「MTG Mint Card」に所属していること、それから韓国出身のプレイヤーで初めてトップ8入賞を果たしたことを鑑みると、彼が現在急上昇株であることは明らかだろう。
それぞれのデッキ
チャピンが信頼を置く「白黒緑ミッドレンジ」デッキは、この週末を通して10ラウンド以上を戦い負けがひとつだけ、と彼の期待にしっかりと応えた。彼の所属するチーム「ChannelFireball: Pantheon」のメンバーの多くが「黒青緑コントロール」を選択したが、チャピンは黒と緑の呪文と共に《太陽の勇者、エルズペス》や《羊毛鬣のライオン》、《オレスコスの王、ブリマーズ》を使うため、3色目に彼らとは違う色を選んだのだ。
このデッキには爆弾レアが詰め込めるだけ詰め込まれている。ゆえにチャピンは、彼のデッキのことを「白黒緑レア」と好んで呼んでいた。
そう、そのデッキは「白黒緑『星座』」とは呼ばれなかった。その名前はナムの《開花の幻霊》のためにある。《開花の幻霊》自体はもちろん、ナムはクリーチャー・エンチャント――《脳蛆》や《責め苦の伝令》など――をいくつもデッキに採用し、仕上げにもはや欠かせない存在となった《太陽の勇者、エルズペス》でまとめ上げている。
両プレイヤーにとって、この試合が初めての対決というわけではない。予選ラウンド後半にチャピン唯一の黒星をつけたのが、ナムなのだ。実を言うと、そのときチャピンの側は勝ち点の関係でナムと競う必要がなく、軽く会釈を済ませるだけでもトップ8の席は約束されていた。それでも2本先取の予選ラウンドでは、ナムの優れたドロー・エンジンがチャピンを乗り越えていった。そして今、ナムはこの3本先取となった試合で、そのときの再現に挑む。
ゲーム展開
このマッチアップならではのじっくりと進むゲームの中で、最初にわずかなアドバンテージを探り出したのはチャピンだった。《森の女人像》でマナを伸ばし、彼は《骨読み》をプレイする。ナムも同様に盤面を作り、《脳蛆》でチャピンのプランを崩しにかかった。ゲームの序盤であっても、両プレイヤーは毎ターン小さなアドバンテージを削り取っていく。
中盤を越えた頃、ゲームはにわかに加速した。《羊毛鬣のライオン》が戦場に出て間もなく《英雄の破滅》により英雄的な死を迎える。そしてその遺志を《オレスコスの王、ブリマーズ》が引き継ぎ、攻撃を始めた。
ここでナムが不可思議なプレイを見せた。マナは十分にあり、チャピンの次のターンには《思考囲い》が来ることが(《クルフィックスの狩猟者》によって)わかっていたにも関わらず、《開花の幻霊》を戦場に出さなかったのだ。それから彼はそのターン「占術」を行ったため、《思考囲い》で落とされたくない何かをライブラリー・トップに隠したことが明らかになった。
その「何か」とは、《オレスコスの王、ブリマーズ》をどこか、私も知らないところへと飛ばす《払拭の光》だった。こうして盤面は一時、均衡したかに見えた。
だが、それは一時に過ぎなかった。
《信者の沈黙》が《脳蛆》を沈黙させ、チャピンのもとへ《太陽の勇者、エルズペス》が戻った。数ターンにわたり対処法を見つけ出せなかったナムは、1勝目をチャピンに譲ることになったのだった。
チャピンはサイド後のゲームで勝利を確保するために必要だと判断し、様々なサイド・カードを用意していた。中でもナムとのマッチアップでは《神討ち》、《異端の輝き》、そして《夢の饗宴》が有効だと思われた。
だがナムにもその手のプランに対する備えがある。エンチャント除去を満載してくるデッキへの保険として、《羊毛鬣のライオン》と《荒野の収穫者》があるのだ。チャピンが挑むべき問題は、相手の脅威に対してバランス良く的確な除去を用意することだった。
チャピンの《思考囲い》が、ナムの興味深い手札を公開させた。土地の中に《思考囲い》2枚と《信者の沈黙》があり、チャピンは《信者の沈黙》を落として再びじっくりとゲームを進めることにした。自分の番を迎えたナムも手札破壊を1枚使い、こちらも《信者の沈黙》を捨てさせた。
両プレイヤーが手札破壊を撃ち合い、《クルフィックスの狩猟者》が何ターンか機能したのちに、ナムは《荒野の収穫者》を着地させた。このマッチアップにおいて、《荒野の収穫者》は《太陽の勇者、エルズペス》無しには極めて除去しにくいカードなのだが、前のゲームでチャピンのもとに姿を見せた援軍は、現れずじまいだった。
なんと《太陽の勇者、エルズペス》が舞い降りたのは、対戦相手側だったのだ。ナムは《太陽の勇者、エルズペス》を呼び寄せると《クルフィックスの狩猟者》からの防衛に当たらせ、さらに数ターン後、《羊毛鬣のライオン》を怪物化した。《太陽の勇者、エルズペス》が紋章を発動させて戦場に残る5体の兵士・トークンを強化しても、チャピンは死んではいなかった。それでも、敗北は時間の問題だった。
次に《太陽の勇者、エルズペス》を呼び出すのはどちらのプレイヤーか? また彼女の支援を受けることができない場合に、対戦相手の《太陽の勇者、エルズペス》を打ち倒すことができるだろうか?
序盤にナムから放たれた《思考囲い》が、チャピンのかなり思い切ったキープを公開する。土地が2枚。《太陽の勇者、エルズペス》2枚。白マナが出ない状況で《異端の輝き》。《英雄の破滅》。《羊毛鬣のライオン》。墓地に送られたのは《羊毛鬣のライオン》で、ナムは《脳蛆》でチャピンへの妨害を続けた。
その後《マナの合流点》が現れると、ナムが《羊毛鬣のライオン》を選択したことは正解だったと判明した。
チャピンが(何でもいいから)できることは無いかと苦心する一方、ナムは《責め苦の伝令》で攻撃を始める。だが1回ダメージを通した後、《信者の沈黙》で《脳蛆》から取り戻した《英雄の破滅》によって除去された。
しかしながら、この《英雄の破滅》はやや早まった判断だったのかもしれない。ナムはその後すぐに、《太陽の勇者、エルズペス》を勢い良く送り出したのだ。そこでチャピンは、彼の取りうる唯一の解答で応えた。
《太陽の勇者、エルズペス》には《太陽の勇者、エルズペス》だ。
さらに、続くターンには《異端の輝き》も添えて。
だが残念なことに、チャピンは《荒野の収穫者》を倒すために《太陽の勇者、エルズペス》の[-3]能力を使う必要に迫られた。これによりナムの戦場に残ったトークンが、改めてチャピンの《太陽の勇者、エルズペス》を退場させる。
殿堂顕彰者の手札から、2枚目が姿を見せる。そこへ《英雄の破滅》が差し向けられる。その上でチャピンは、この試合3枚目となる《太陽の勇者、エルズペス》を着地させた。
そうとも、その通りだ。鍵を握るのはやはり《太陽の勇者、エルズペス》なのだ。
それでもなお、ナムは解答を持っていた。手札に残る最後の《払拭の光》がプレインズウォーカーを退場させる――少なくともそのときは。
《神討ち》。
彼女の忠誠度がまるで落ち着かなかったこの試合で、エルズペスはついに長居できる場所を見つけた。その後解答も突破するすべも受けなかったエルズペスは......つまりチャピンは......もうひとつゲームを勝ち取ったのだった。
エルズペス 3-0 その他
ここまでマジックをプレイする中で、チャピンは何度となく右手を差し出してきたであろう。彼は今、以前と変わらず落ち着きを見せ、集中していた。初のプロツアー優勝とそれに伴う戦利品のすべてが、あと1勝にかかっている。多少はナーバスになっても仕方がないはずだ。多少はその表情に不安の色が現れても仕方がないはずだ。
それでも、ここから見るチャピンの表情は穏やかで、集中していた。
対するナムは、初手に不安を感じているようだった。その理由は明白だ――手札にはキープ基準となる《森の女人像》があるものの、それを繰り出すための緑マナが無かったのだ。「占術土地」2枚をもってしても、彼は3枚目の土地を引き込むことができなかった。ナムの無念の表情をここに載せよう。
一方チャピンは緑マナを豊富に持ち、余裕を持って2ターン目《羊毛鬣のライオン》から攻撃へ送り出せた。
数ターンにわたり、ナムはドロー時ライブラリー・トップを伏せたまま慎重にテーブル上を滑らせ、ひと息入れてからマナかどうかを確認した。何度繰り返してもマナを引き込めず、彼はさらに深く自らの運命を悟る。
チャピンが撃ち込んだ《思考囲い》は様々な動きが可能なナムの手札を公開したが、そこに3枚目の土地はなく、すべてのカードがプレイできないものだった。あまりの土地の無さに、ナムは顔をしかめる。ようやく土地を引き込んだところで――初動は《払拭の光》だ――彼はわずかに笑みを見せるが、それも長くは続かなかった。
「怪物化」できるまさにそのタイミングで《神討ち》が《払拭の光》から《羊毛鬣のライオン》を取り戻すと、ナムの笑顔が消えた。
再び、ナムの土地が止まる。残りライフは12点、8点、4点。
終了。
これまで何度も惜しいところを逃し続け、膨大なプレイテストを経て、莫大な年月を経て得た勝利に、この殿堂顕彰者は何を思うのか?
「これで、世界選手権でプレイできるね」
ゲーマーは、ゲームをするために、ゲームをする。
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