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Kelvin Chew(シンガポール) vs. Craig Wescoe(アメリカ)
EVENT COVERAGE
プロツアー『ニクスへの旅』
第5回戦: のるかそるかの大試練?
Kelvin Chew(シンガポール) vs. Craig Wescoe(アメリカ)
Blake Rasmussen / Tr. Tetsuya Yabuki
2014年5月16日
ケルヴィン・チュウ/ Kelvin Chew(白黒緑「星座」) vs. クレイグ・ウェスコー/ Craig Wescoe(白青「英雄的」)
さあみんな、寄っておいで。これからある物語を話そう。強烈な逆風にも決して自分を失わず、デッキに《審判官の使い魔》を4枚採用してプロツアーを勝ち抜いた、あるプラチナ・プロのお話だ。男の白への信心は深く、彼ひとりでヘリオッド様を顕現させてしまうほどだった。男の白い軽量クリーチャーで攻撃することへのひたむきさは、彼ひとりで「十字軍」を組織するほどだった。男が同じスタイルのデッキ――あるいはまったく同じもの――で収めた数々の成功は、彼自身がそのアーキタイプ名で呼ばれるほどだった。
さあ、クレイグ・ウェスコーの話をしよう。
華々しい経歴に彩られた31歳のクレイグ・ウェスコー。昨年ブロック構築で行われたプロツアー『ドラゴンの迷路』での優勝を含め、プロツアー・トップ8に3度その名を刻む。グランプリ・トップ8にも同じくらいの入賞を果たしているが、この週末それ以上に注目すべきは、彼の持つブロック構築での勝率だ。実に70.9%という数字は、この会場内の誰よりも高いのだ。変わったことに、彼はカリフォルニア州で開催されたプロツアー以外でトップ8入賞を収めていない。だがそれは裏を返せば、彼の力はアメリカ西部でこそ発揮されるということだ。
彼はまた一流の人格者でもある。言葉つきは上品で穏やかで、どんな対戦相手にもフレンドリーに接する。彼の操る不屈の白軍団を打ち破った者に対しても。そして彼の本領は、攻撃に次ぐ攻撃、止むことのない攻撃で大会を蹂躙することを厭わない《オレスコスの王、ブリマーズ》やその仲間たちで軍勢を固めたときにこそ発揮されるのだ。
奇しくも、このラウンドでウェスコーと相対するケルヴィン・チュウもまた、西海岸での活躍が見受けられるプレイヤーだ。シンガポール出身の彼が記録する唯一のプロツアー・トップ8は、シアトルで行われたプロツアー『ラヴニカへの回帰』だった。彼はまた、世界選手権2011のチーム戦で第5位という結果を残している。
攻撃ステップを熟知しているのは、モダン版「感染」デッキでプロツアー・トップ8入賞を果たしたチュウも同じだ。しかし彼は今大会に臨み、ただひとつ、採用した色を除いて、明確に違ったアプローチを選択した。それでも、「ウェスコー先生のマジック教室」から逃れるすべはないのだろうか。
それぞれのデッキ
まずはわかりやすい方から語っていくことにしよう。ウェスコーが今大会に向けて選んだデッキに、もはや意外性はない。『テーロス』ブロック構築には、白で十分に戦える攻撃重視の戦略がいくつもあるのだ。気になることがあるとすれば、彼が白の「英雄的」軍団とどの色を組み合わせるのか、ということぐらいだ。ウェスコーは最終的に青を選んだ。主に採用したのは《戦識の重装歩兵》や《液態化》、《タッサの試練》、《白鳥の歌》など。そこへ《層雲歩み》が添えられている。
ウェスコー。白。「英雄的」。説明はこれくらいでいいだろうか?
一方のチュウが選んだのは、じっくりとゲームを進める白黒緑のデッキ。《開花の幻霊》でアドバンテージを取り、それからウェスコーが注力するアグレッシブなデッキさながらにビートダウンを進めるのが狙いだ。調整はチーム「MTG Mint Card」で進め、チュウと仲間たちは環境がアグロ寄りであると判断を下した。メタゲームが読み通りなら、彼らが用意した75枚は十分に渡り合えるだろう。
一見すると、チュウに優位があるように見えるこの戦い。しかし、ひとたび実際の試合が行われる世界へと飛び出せば、もうクレイグ・ウェスコーが勝つ可能性を無視することはできないだろう。白の軽量クリーチャーで攻撃する彼の姿を見てしまっては。
期待せずにはいられない。
ゲーム展開
例のごとく、先手を打ったのはウェスコー。《イロアスの英雄》を送り出し強烈な展開を見せると思われたが、《思考囲い》が彼の手札に刺さり、ただひとつのアタッカーも《払拭の光》を受けてしまう。
ウェスコーは《恩寵の重装歩兵》で盤面を回復し、続けてそこへ《ヘリオッドの試練》をエンチャントして攻撃を始めると、1ターン後、ライフも10点回復した。《白鳥の歌》で《思考囲い》を弾き手札を守るために展開を一時的に止めたものの、彼の「英雄的」エンジンは動き出していた。
チュウも自らのデッキのエンジンを起動しにかかる。《開花の幻霊》がカードを流し始めると、チュウは《恩寵の重装歩兵》への解答を探した。《脳蛆》はまともな妨害にならなかったものの、《開花の幻霊》との組み合わせでただ戦場に出るだけで効果があった。《恩寵の重装歩兵》に《払拭の光》を当てて道を拓くと、チュウはさらに攻勢を強めた。
さて、状況を説明すると、この時点でウェスコーの手札にはカードがなく、戦場には3/3の《イロアスの英雄》があるのみだ。一方のチュウは多少の手札を抱え、戦場には《開花の幻霊》が。
『テーロス』の世界では、英雄が神々の世界の住人を相手に戦うには何かしらの助けが必要だ。ウェスコーはその手段を引き込めなかった。やがて《イロアスの英雄》におあつらえ向きな《英雄の破滅》が差し向けられ、チュウの道が開けた。
チュウの軍勢はやや精強さに欠けるため、対戦相手を倒すには少し時間がかかった。それでも《開花の幻霊》が除去を呼び込み続け、ウェスコーが盤面を回復することを許さない。《英雄の破滅》が何度か続くと、チュウは1ゲーム目の勝利への道に立ちはだかるウェスコーという障害を完全に取り除くことに成功したのだった。
第2ゲーム、ウェスコーは実に「彼らしい」スタートを切った。《恩寵の重装歩兵》から《戦識の重装歩兵》とテンポ良く繰り出したのだ。ところがチュウの2ターン目、手札にあった唯一のコンバット・トリックは《思考囲い》で抜き去られた。
とはいえコンバット・トリックを満載したデッキでは、ウェスコーが2枚目を引くのに時間はかからなかった。《タッサの試練》をまとった《戦識の重装歩兵》の攻撃が通ると、3枚目の土地を引き込む前にチュウのライフは12点まで落ち込む。彼のデッキの土地がタップ状態で戦場に出るものばかりであることを鑑みると、土地を引いてもすぐさま起死回生とはならないと思われた。
幸運なことに、チュウはアンタップ・インの土地を引き込んだ。あと1ターンで達成のところまで来ていたウェスコーの「試練」を、《英雄の破滅》が断ち切る。これでチュウは猶予を稼ぎ出し、《開花の幻霊》を繰り出すチャンスを得た。少なくとも1ターンはある。
その猶予は極めて短かった。ウェスコーの軍勢は《アジャニの存在》の後押しを受け、チュウの「星座」持ちたちを薙ぎ倒した。チュウのライフは6点へ、続けて2点へと落ち込んだ。《英雄の破滅》とチャンプ・ブロックで時間を稼ぐチュウ。2枚目の《英雄の破滅》が彼のライフをわずかに1点残したが、戦場ではまだ《恩寵の重装歩兵》が彼を睨んでいた。
残りライフ1点。できることはもうないが――大丈夫。
《信者の沈黙》が《恩寵の重装歩兵》の攻撃を阻む。これで再びターンを稼いだチュウは、ついに《太陽の勇者、エルズペス》を引き込んだ。信者が沈黙し、その沈黙はウェスコーの攻撃ステップにまで及んだのだ。
そしてすぐさま、チュウは3体の1/1クリーチャーたちでウェスコーの《戦識の重装歩兵》の攻撃に備える。それでもウェスコーのデッキに《液態化》や《層雲歩み》が入っている以上、まだ安全には見えなかった。
チュウは気合を入れ直し、2枚の《開花の幻霊》を用いてエンジンを起動した。今やブロックの心配は必要ない。ドローを繰り返し《太陽の勇者、エルズペス》の最終奥義が決まると、チュウはかろうじて危機を脱し――ウェスコーの勝利の目は潰えることとなった。
チュウ 2-0 ウェスコー
「エルズペスをトップ・デッキするくらいのラッキーが必要でした」と、チュウ。「あのときは1枚サイド・アウトしていて、デッキに2枚しかなかったんです」
確かにトップ・デッキ自体はラッキーだったのだろう。しかしチュウは「英雄的」デッキに対して特別なゲーム・プランを持っており、この試合でそれがうまくいったのだと考えられる。
「手札破壊で《神々の思し召し》と《白鳥の歌》を必ず落とすことですね」と、チュウは解説してくれた。その2枚によって除去やブロッカーが無力化されてしまうためであるという。アグレッシブなデッキとのマッチアップではサイド・アウトされることの多い《思考囲い》をチュウがサイド後も残した理由は、まさにそこにある。チュウのチームも、アグレッシブなデッキに対して《思考囲い》をサイド・アウトするのは試した。その上で、《思考囲い》と《脳蛆》は1マナの守備呪文をかわすための鍵となることが明らかになった、というわけだ。そしてその先に、除去と優秀な戦力が「英雄的」デッキのシナジーを打ち崩し、突破する道があるのだ。
この勝利でケルヴィン・チュウは4勝1敗と戦績を伸ばし、一方、前回のブロック構築プロツアーの覇者であるウェスコーは3勝2敗と後退を余儀なくされたのだった。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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