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EVENT COVERAGE
マジックフェスト・横浜2019
準々決勝:細川 侑也(東京) vs. 小林 崇人(東京) ~あなたは計算できますか?~
参加者総数2400人を超えたグランプリ・横浜2019。『ラヴニカのギルド』で颯爽と登場した《弧光のフェニックス》は当初、実用性に乏しい「ロマン」のカードだと思われていた。しかし今やこのカードをそう呼ぶプレイヤーはいない。 使われるやいなや評価は上がりつづけ、スタンダードを席捲し、モダンの王者デッキに輝いた。
「フェニックス」以外ももちろん影響を受ける。「フェニックス」に勝つための構築が軸となり、そのリストは新しいものへと変貌してゆく。1年前のモダンとはまるで景色の異なるメタゲーム環境であった。
今回の2日目のメタゲームブレイクダウン記事でも全体の10%を超えていることが示された「イゼット・フェニックス」、次いで「5色人間」「バーン」「緑単トロン」「黒緑ミッドレンジ」を中心にした環境が形成されていることが分かる。
だがしかし、その割合のままに彼らが勝ち進むのかというと、決してそんなことはない。2日目スイスラウンド6回戦を終えて決勝トーナメントに残った8人のデッキは「ドレッジ」3つ、「イゼット・フェニックス」、「バント・スピリット」、「黒緑ミッドレンジ」そして「鱗親和」と「エスパー・コントロール」だ。数だけを見れば「ドレッジ」の海という表現もできるだろうか。
その中で準々決勝の1つは、「鱗親和」の小林 崇人と「エスパー・コントロール」細川 侑也、非「ドレッジ」同士の戦いとなった。
プレイヤー紹介
細川 侑也
グランプリ・プラハ2018では当時の環境を読み切って《崇拝》をサイドに3枚採用した「無限ドルイドコンボ」で9位に入賞している。過去にも「アドグレイス」のデッキテク・インタビュー(グランプリ・シンガポール2015)や、「ドレッジ」に関する情報発信などがあり、多様なモダンデッキに対して幅広い引き出しと見合う実力を持っていることは明らかだ。
その細川が今回、チューンナップして持ち込んだのは「エスパー・コントロール」。黒の要素は非常に限定的なため、ほとんど「青白コントロール」と呼ばれるデッキタイプだ。黒マナ源の採用枚数には細やかな調整で適正枚数になったという自負もある様子がある。
今回も初日全勝という偉業を遂げつつのトップ8入賞だ。
2 《平地》 5 《島》 1 《沼》 2 《神聖なる泉》 1 《湿った墓》 3 《溢れかえる岸辺》 3 《汚染された三角州》 4 《天界の列柱》 4 《廃墟の地》 -土地(25)- 3 《瞬唱の魔道士》 -クリーチャー(3)- |
4 《選択》 4 《流刑への道》 1 《失脚》 1 《大祖始の遺産》 1 《呪文嵌め》 2 《マナ漏出》 2 《否認》 1 《拘留の宝球》 3 《謎めいた命令》 1 《至高の評決》 4 《終末》 2 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》 4 《精神を刻む者、ジェイス》 2 《ドミナリアの英雄、テフェリー》 -呪文(32)- |
2 《ヴェンディリオン三人衆》 1 《変遷の龍、クロミウム》 2 《外科的摘出》 2 《斑岩の節》 1 《儀礼的拒否》 1 《払拭》 2 《天界の粛清》 1 《軽蔑的な一撃》 2 《漂流自我》 1 《機を見た援軍》 -サイドボード(15)- |
メインで採用されている黒いカードは1種類( 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》)だけだ。
この 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》は墓地のフェニックスを的確に追放できる優秀なプレインズウォーカーであり、《教区の勇者》や《霊気の薬瓶》にもカードを失うことなく対処できる点で、色を足してでも必要なカードという判断のようだ。
小林 崇人
小林 崇人もまた、細川と同じく初日全勝の1人であり、知られているプレイヤーの1人だ。Magic Onlineでのネームは"kbr3"。Magic Online開催のプロツアー予選を幾度となく勝ち抜いた、世界的強豪だ。
昨年末に開催された「第12期モダン神挑戦者決定戦」では決勝戦まで勝ち残り、"kbr3"健在を証明している。
今回のデッキは先述の神挑戦者決定戦と同じく、「《硬化した鱗》親和」だ。こちらも「イゼット・フェニックス」同様、比較的最近登場したデッキタイプであり、特に《活性機構》の登場は革新的だった。
その中でも小林がここまで最も活躍したと語るカードは《ゲスの玉座》。
メタゲーム変遷の結果、昨年末にいた高速コンボデッキである「ブリッジヴァイン」の減少などでこのカードが実力を発揮できるようになった。
5 《森》 1 《地平線の梢》 4 《ラノワールの再生地》 2 《ペンデルヘイヴン》 4 《ダークスティールの城塞》 4 《墨蛾の生息地》 1 《ちらつき蛾の生息地》 -土地(21)- 4 《電結の働き手》 4 《電結の荒廃者》 1 《金属ミミック》 4 《搭載歩行機械》 4 《歩行バリスタ》 -クリーチャー(17)- |
4 《オパールのモックス》 3 《溶接の壺》 4 《古きものの活性》 4 《活性機構》 4 《硬化した鱗》 3 《ゲスの玉座》 -呪文(22)- |
1 《呪文滑り》 1 《溶接の壺》 4 《自然の要求》 3 《墓掘りの檻》 3 《減衰球》 1 《倦怠の宝珠》 2 《四肢切断》 -サイドボード(15)- |
グランプリの決勝ラウンドはデッキリスト事前公開制だ。互いにしっかりと読みふけり、細川は対「鱗親和」の、小林は対「青白コントロール」「エスパー・コントロール」のゲームプランを想定する。前評判は《終末》などを擁する「コントロール」側に分があるとされているが、果たして結果やいかに。
ゲーム内容
ゲーム1
後手、小林の《活性機構》でゲームが始まる。2ターン目には《ちらつき蛾の生息地》をセットしつつ《電結の働き手》を出して《活性機構》が誘発し、トークンを生成する。
最序盤から示された「《活性機構》が生み出すトークン」をめぐる戦いとなった。細川は《電結の働き手》をパスした後は、しばらく土地を伸ばすばかりで雌伏の時を過ごしていく。
小林は《ラノワールの再生地》を置いて、「土地に置かれている+1/+1カウンターを《活性機構》の起動型能力で増やし、誘発型能力でトークンを生成する」ということを繰り返す。その種とするために、《ラノワールの再生地》の+1/+1カウンターは絶対に途切れることのないように動き続けていた。
手札に展開できるカードがあっても細川が動かない限り、ひたすら小林は細川のターンエンドにトークンを生み出すという戦法に努めた。これは「青白コントロール」の打ち消し呪文(特に《謎めいた命令》)によるカード・アドバンテージの損失を防ぐだけではなく、土地が伸びるロングゲームというマッチの性質的に、トークンの影響力は次第に無視できないものになっていき、本来リアクションに努めたい「青白コントロール」側に先に動くことを強要してゆく戦法だ。
また細川もトークンの増援を単に指をくわえて見ているばかりではない。《謎めいた命令》は打ち消しではなくトークン・バウンスと1枚ドローのモードでターン・エンドに唱えたあと、 《精神を刻む者、ジェイス》を展開してドローを整えつつ逆にプレッシャーをかけていく。
この返し、小林は細川の土地が寝ていて確実に打ち消されない隙に《溶接の壺》、《オパールのモックス》、《硬化した鱗》、《電結の荒廃者》と一気に手札を吐き出す。残るマナで《ちらつき蛾の生息地》起動で 《精神を刻む者、ジェイス》を落としたところまでが一連の動きだ。
細川が 《精神を刻む者、ジェイス》で仕込んだ《終末》の奇跡でトークン数体を含む盤面は一掃されるが、よく見ればカードとしては《電結の荒廃者》との1対1交換という見方もできる。本来、勝負を一気に決めうるクリティカルなカードのはずだが、「1対2交換を取られない」ことを念頭にした小林がここまで選択し続けたトークン戦法のたまものだ。
小林はふたたび《活性機構》によって再展開を続ける。しかし細川が次に示した脅威、《ドミナリアの英雄、テフェリー》と新たな 《精神を刻む者、ジェイス》が盤面に並んだ上、《大祖始の遺産》設置から戦闘時に起動・ドローされ、《終末》奇跡誘発というビッグアクションの連打には、さすがに苦しい。
《ドミナリアの英雄、テフェリー》の[+1]能力と 《精神を刻む者、ジェイス》の[0]能力が繰り返され、小林の攻め手以上にそれを防ぐ細川の呪文が多いという状況になる。
《ドミナリアの英雄、テフェリー》の忠誠値が奥義起動のための「8」に近づくごとに、小林に残された時間が少ないことを時計のように告げていく。毎ターン2~3体生成されるトークンの勢いよりも、細川の手元に届く呪文の枚数の方が多いのだ。
細川のドローはやがて 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》を呼び込んだ。《活性機構》や《硬化した鱗》を盤面から取り除き小林の「戦線供給力」を一気に削いだところで、《ドミナリアの英雄、テフェリー》の[-8]能力を起動するところまで到達し、 《精神を刻む者、ジェイス》の[0]能力で一気に戦場のパーマネントを追放すると、小林はここでゲームを畳んだ。
細川 1-0 小林
ゲームを落としこそしたものの、「対青白」戦においておそらく満点に近い立ち回りをし続けた小林。合計10体を超えるトークンを生み出す種となった「《ラノワールの再生地》に置かれた+1/+1カウンター」と、そのエンジンである《活性機構》を重要視し続けた。おそらく一般的なリストと称されるものよりも多く、両方とも最大枚数である4枚採用しており、「この戦い方が対コントロールにとって基本戦法の1つとなるものだ」ということを観る者に教えてくれているようでもあった。
細川も「受ける側から押し込む側への戦略の切り替えタイミング」を繊細に見計らい続けた結果の勝利だ。
《終末》を「仕込む」ためにプレイした 《精神を刻む者、ジェイス》の展開から明確に攻め立てる側となったが、いずれの展開も一歩・一手間違えば即座に主導権を取り返されるなかでの勝ちにつながる正着手の連打であった。
グランプリ準々決勝。その大舞台で2人の熟練プレイヤーはその実力をいかんなく発揮しあっている。
ゲーム2
今度は「親和」の系譜に恥じない「1ターン目《ダークスティールの城塞》、《活性機構》、《オパールのモックス》、 《硬化した鱗》」の超高速展開でゲームが始まった。小林は2ターン目には《ちらつき蛾の生息地》と《ゲスの玉座》も置いて、クリーチャー以外に必要なパーツは出そろったというところだ。
細川のキープ・ハンドも決して悪いものではない。数少ない黒マナ源を含む土地3枚と 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》でゲームを始め、3ターン目に着地させることができている。しかしこの 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》の着地の寸前に小林は《ラノワールの再生地》をセットしており、《活性機構》の起動型能力・誘発型能力を合わせてトークンを生み出すことが間に合ったため、移植によって2/2となったトークンが 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》を退場させている。
ここからは小林のトークン戦法が再び始まる。細川はドロー後《ヴェンディリオン三人衆》で小林の手札唯一の有効牌である《歩行バリスタ》を抜きこそするが、毎ターン2体ずつ増えるトークンを食い止め切れていない。また途中追加された《墓掘りの檻》も《瞬唱の魔道士》の誘発を止める厳しいカードだ。
細川 侑也 |
細川はターン・エンドに《謎めいた命令》でこの《墓掘りの檻》をバウンスして、手札の《瞬唱の魔道士》が動けるようにしておく。次のターンには早速、《瞬唱の魔道士》からの《謎めいた命令》フラッシュバックでトークンをタップさせて凌いでいく。《墓掘りの檻》がバウンスされたことによってここまでを読んでいた小林は「第1メインでの打ち消し・フルタップ」という一番厳しくなるモードを選ばれないように、しっかりと戦闘後である第2メインで《墓掘りの檻》を唱えなおし、通す。
このやりとりを終えて細川がナチュラルに《終末》を「奇跡」したあと、《拘留の宝球》で《墓掘りの檻》を指定するが、これは小林が《活性機構》の起動型能力からの誘発型能力でトークンを並べたあと、《ゲスの玉座》の起動コストにしてトークンのサイズアップのための餌にする。
細川の土地の多くが寝たところで小林がプレイしたのは《電結の荒廃者》。《終末》が奇跡されるまでにトークン・アタックで大分削がれていた細川のライフは、《電結の荒廃者》の能力でパンプアップされたトークンのワンショットを受け止めるほどの量は残されていなかった。
細川 1-1 小林
細川「kbrさん、めっちゃうますぎじゃない? 俺(が「鱗親和」側)だったら、負けてるよ」
これで1勝1敗とした細川が、小林をたたえる。
小林「リスト公開制って影響大きいですね。普通だったら《石のような静寂》のために《自然の要求》いれようっていうのがない(細川のリストでは不採用)。《悪斬の天使》もないから《四肢切断》も入れなくて、今回のケースだから《墓掘りの檻》を入れられたっていうのがあったね」
細川「そうなんですよね。普段だったらスロットの問題で《墓掘りの檻》を入れるところまでできないはずなんですけど、めっちゃ効きます」
互いの75枚を知った状態でのゲーム・サイドボーディング。2人はその特徴的な情報戦を高度に楽しんでいるようであった。1枚1枚のカードの評価をしっかりと行い、事前にサイドボードプランを練り込んできたからこそリスト公開制のなかでより「正しい」と思えるサイドボーディングが行える。
そうして互いに実力を示しあったゲーム1、2が終わり、いよいよラストゲームが始まる。
デッキの理解、ゲームの理解、サイドボードの理解。それらが互いに同じくらい高いところにあったとしても、決勝トーナメントはシングル・エリミネーションだ。必ず勝者は決まり、必ず敗者も決まる。
グランプリ・横浜2019、準々決勝。細川 侑也 vs. 小林 崇人。
互いに1勝1敗のまま運命の第3ゲーム、開始!
ゲーム3
小林は《オパールのモックス》、《ペンデルヘイヴン》から《古きものの活性》で《搭載歩行機械》を入手。2ターン目には《ダークスティールの城塞》を置いてこの《搭載歩行機械》をX=1でプレイ。金属術を達成した《オパールのモックス》で2枚目の《古きものの活性》から《活性機構》を入手、とゲーム2の超高速展開にも劣らない目の覚めるような立ち上がりだ。
対して細川は動きにくそうだ。1ターン目《選択》の次アクションは3ターン目《瞬唱の魔道士》の《選択》「フラッシュバック」で、小林の展開に触れていない。小林は3枚目の《古きものの活性》で 《ダークスティールの城塞》を入手・セットしつつ《歩行バリスタ》を展開している。
小林 崇人 |
小林の4ターン目、プレイされた《活性機構》を細川は《謎めいた命令》で打ち消し、《搭載歩行機械》をバウンスして、小林の盤面をいくらかのマナソースと《歩行バリスタ》のみにする。当面の攻勢は避けられた……細川がそう判断するよりも早く、小林は手札からの展開を速やかに続けた。
この4枚を見た瞬間、細川は「足りてますね」とゲームを畳んだ。
小林Win!なのだが、これには少し説明が必要かもしれない。《硬化した鱗》がある状態で《歩行バリスタ》と《電結の荒廃者》の他に《オパールのモックス》、 《ダークスティールの城塞》、《墓掘りの檻》と3つのアーティファクトがある。この3つのアーティファクトを《電結の荒廃者》の起動型能力で食べると、《電結の荒廃者》には「《硬化した鱗》によってカウンターが2個置かれることが3回繰り返される」で6つ増えて、8つのカウンターが置かれることになる。
《電結の荒廃者》自身の能力で《電結の荒廃者》を生け贄に捧げると接合能力が誘発し、《歩行バリスタ》にこの《電結の荒廃者》分が移動する。移動した結果、《硬化した鱗》で増えて《歩行バリスタ》は+1/+1カウンター10個の状態になる。まずそのうちの1つを使い、《瞬唱の魔道士》を焼く。その後、攻撃宣言でアタック。9点。その後、《歩行バリスタ》の能力でカウンター分のダメージをプレイヤーに与えて、さらに9点。細川はすでにフェッチランドの起動とショックランドの2点支払いでライフ18を割っているため、これでゲーム・エンドということだ。
一瞬でこの判断と計算に至った両者が、いかにモダンという環境をやりこんでいるか示しつつのゲーム・エンドとなった。
細川 1-2 小林
あらためての、小林Win!
非常にロングゲームでの牽制しあいとなったゲーム1、2と違い、ゲーム3は先手4ターン目に致死ダメージが発生するスピーディな決着となった。このスピードの「振れ幅」も「鱗親和」の強みだと小林は語っている。
「スピードのあるデッキだと思われがちだが、ロングゲームにこそ強いデッキだ」としながらも、必ずしも対戦相手はその両面を受けられる想定・手札ばかりではない。
「鱗親和」が持つアグレッシブなトップスピードも、繰り返される全体除去にものともしない耐久性のどちらもその本領を発揮させ続けた小林 崇人。「鱗親和マスター」の異名が今日、今にでも贈られるべきだと感じた戦いだった。
細川「あと、頑張ってください」
細川の想いも背負って、準決勝に進む。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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