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マジックフェスト・横浜2019

観戦記事

第5回戦:畠山 省吾(島根) vs. 伊藤 敦(東京) 〜俺の知ってるモダンと違う〜

Hiroshi Okubo

 モダン環境といえば多種多様なアーキタイプが独自の進化・発展を遂げてきたマジック界のガラパゴス諸島のようなフォーマットだが、第5回戦のフィーチャーマッチテーブルにやってきたのはその多様性の枠をさらに押し広げる存在だった。

 伊藤 敦、またの名をまつがん。普段はカバレージライターとして活動している人物だが、独自の理論で不可解なデッキを組み上げるデッキビルダーとしても知られている。ここ2年ほどずっと使い込んでいる愛機「エターナル・デボーテ」(※詳細はこちら)を駆り、不戦勝無しから勝ち上がってきた。ちなみに本人曰く「新セットの影響でちょっとずつ強化されている」らしい。

 相対するのは畠山 省吾。島根県からはるばるやってきたプレイヤーであり、伊藤のことも知っているようだった。そんな畠山のデッキは奇怪なコンボを操る伊藤とは対照的とも言える存在、「ジャンド」だ。モダン黎明期から現代まで、その高いカードパワーと安定した戦略で環境上位に君臨し続けてきた王道の中の王道である。

 両者ともゲーム開始前に言葉を交わすことはない。否、交わす必要はない。

 向いている方向性は違えど、マジックという共通言語が彼らを結びつける。

 
畠山 省吾(島根) vs. 伊藤 敦(東京)

ゲーム1

 古き良きジャンドを操る先攻の畠山は、《》から《思考囲い》で伊藤の手札を覗き見る。

畠山「えぇ〜、コンボ……」

 伊藤の手札には《療治の侍臣》と《歩行バリスタ》の姿があり、たとえ伊藤の記事を読んだことがなくとも《献身のドルイド》との無限コンボデッキであることは看破できるだろう。だが、さらにそれらの脇に控えていた《召喚士の契約》の存在が抜くべきカードの判断を鈍らせる。つまり事実上コンボパーツは全て揃っている状態なのだ。

 畠山は頭を抱えながらも、伊藤の手札から《療治の侍臣》を抜く。これでひとまずトップデッキ以外では即座にコンボを決められる恐れはなくなった。

 
畠山 省吾(島根)

 返す伊藤は《通りの悪霊》と《ミシュラのガラクタ》でライブラリーを圧縮しながら第1ターンを終えると、第2ターンに《山賊の頭の間》をプレイする。クリーチャーに速攻を付与する土地――恐らくはキーカードの登場に、畠山は悪寒を感じ取った。

 畠山がどこまで伊藤の思惑に踏み込めていたのかは分からない。あるいは単に直感的にプレイしたのかもしれないが、返す畠山は《ゴブリンの熟練扇動者》で攻めることを選んだ。このターンはフルタップになってしまうが、クロックの速さは他の追随を許さない。少なくとも《療治の侍臣》は先の《思考囲い》で落としているので、見かけ上はまだ大丈夫なはずだ。

 だが、畠山のフルタップは伊藤にとって最高の攻撃のチャンスでもある。自らのターンのアップキープに3枚の《召喚士の契約》。これによって《献身のドルイド》と2枚の《野生の朗詠者》を揃え、支度を整える。

 このプレイの意味するところは「決死」だ。畠山のデッキはジャンドである。除去と手札破壊によってリソースを交換するその戦略は、伊藤にとっての鬼門だ。

 《稲妻》か《致命的な一押し》のどちらかだけでも握られていればコンボの成立は阻害され、《ゴブリンの熟練扇動者》によって速やかにゲームを終わらせられてしまうだろう。

 ましてこれから先畠山がフルタップでターンを終える機会があるかどうかも分からない。ならばターンを返してゆるやかに敗北するより、このターンのドローに懸けるのが得策と見たのだろう。

 渾身。ドローフェイズにカードを引く右手にも自然と力が籠もる。まずは《山賊の頭の間》経由で《献身のドルイド》をプレイし、すぐさま2マナを得ると《魔力変》。

 これで《療治の侍臣》を引けば伊藤の勝ちだが……

伊藤「投了します」

 届かず。

 かくして第1ゲームは畠山の勝利で幕を閉じた。

畠山 1-0 伊藤

 カバレージライターはいわば神の視点を持っている。つまり対戦中テーブルを回り込んでプレイヤーの手札を見ることもできるし、複雑なプレイングがあれば、ゲームが終わったあとプレイヤー本人に聞き取りを行って記事に盛り込むこともできるのだ。事実と想像の両面からプレイヤーの意図を探るわけである。

 だから、上述のような伊藤のプレイングの意図はカバレージライター並びにフィーチャーマッチテーブルの近くで対戦を見ていた人間にしか分かるまい。もし先ほどのゲームを畠山の一人称視点に絞ってカバレージにしたら……

 

ゲーム1

 1ターン目に《思考囲い》したら伊藤のデッキが《献身のドルイド》コンボだったことが判明した。その後なんやかんやあって突然伊藤が狂ったように《召喚士の契約》を連打してきて、投了された。

 もしかして俺今メダパニ唱えてた? なんなの? こわっ……

 みたいな記事になるだろう。いや、畠山が「怖い」と感じたかまでは分からないが。

 ただ少なくとも、サイドボーディング中の畠山が

畠山「……ええ〜???(超小声)」

 という、ため息ともうめき声ともつかない疑問符に満ちた声を漏らしていたのを、私は聞き逃さなかった。

ゲーム2

 伊藤は《通りの悪霊》を「サイクリング」しつつ《古きものの活性》へと繋ぎ、《ミシュラのガラクタ》+フェッチランドで疑似占術。手札を高速で循環させ、ライブラリーを掘り進めていく。

 対する畠山は伊藤の怪しげな挙動に目を細めながらも第2ターンに《タルモゴイフ》。墓地にあるのは土地、クリーチャー、ソーサリー、アーティファクトの4種類。すなわち4/5だ。伊藤の高速回転が裏目に出た形と言えよう。

 これに対して伊藤が《妖術師のガラクタ》で自らの墓地の《古きものの活性》をライブラリーの下に送り、そのクロックをわずかに減らすも、返す畠山はさらに2体目の《タルモゴイフ》をプレイする。

 
伊藤 敦(東京)

 伊藤のライフは残り14。土地は《》が1枚。さすがに無駄なドローをしている暇はないが、即死するというほどでもないし、まだ余裕は――

伊藤「投了します」

畠山「え、ええ〜???」

 今度は小声ではなかった。

畠山 2-0 伊藤

 ギャラリー含め誰も状況を理解していない。ジャッジは「もう終わったの?」という顔でこちらを見ていた。

畠山「え? あの、僕はなぜ勝ったんですか?」

伊藤「? 勝ち手段がなくなったからです」

畠山「?????????」

 いや、それじゃ説明になってないから。伊藤は「え? 勝ち手段がなくなったからですが、何か?」という顔をしているし、畠山の頭に浮かぶ疑問符は無限に増えている。筆者自身もあまりの急展開に状況が飲み込めていなかったので「それじゃ言葉が足りてないですよ」と伝えると、伊藤はふむと唸って言葉を継いだ。

伊藤「僕のライフは14でそちらの場には3/4の《タルモゴイフ》が2体。つまりこのターンに《山賊の頭の間》を設置できなければ最低でも12点のダメージを受けます。だからです」

(※編注:2体目の《タルモゴイフ》が現れた時点で、伊藤目線ではすでに「返しのターン中に勝利条件を用意できない=敗北」という状況になっていた)

畠山「なるほど。《タルモゴイフ》出しただけで勝ったのでビックリしました」

 畠山が狐につままれたような気持ちになるのも無理からぬことだろう。『俺が勝てないから負け』という哲学は、間違っているとは言わないまでもマジックの内包する要素をあまりにも削ぎ落としすぎている。少なくとも畠山はマジック:ザ・ギャザリングをプレイするつもりで伊藤の前に座した。対する伊藤はマジックによく似た何か別のゲームをプレイしていた。

 要するに最初から土俵が違っていたのだ。冒頭で「マジックという共通言語」と言ったな。すまん、ありゃ嘘じゃ。というか僕は今何を書いているんだ? おい、デュエルしろよ。

 そうツッコミを入れようとしたが、すでに伊藤は席を去る支度を終えていた。そして去り際、伊藤は誰に語りかけるでもなくこう呟いた。

伊藤「マジックが対人ゲームだとしても俺はそれを否定する。モダンは、自分との戦いなんだよ……!!」

 ……ええ〜???(超小声)

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RESULTS

対戦結果 順位
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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