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マジックフェスト・名古屋2019
決勝:熊谷 陸(宮城) vs. Zhi, Yimin(中国) ~注文の多い料理店~
トップ8のうち、7名がフード(食物)系デッキ。「シミック・フード」に染まった今大会も、いよいよ残すところ決勝戦のみとなった。
それぞれ色の内訳は純正シミックにスゥルタイ、バントとバリエーションはあれど、いずれのリストも20枚の固定枠は変わりない。つまり、この大会は《金のガチョウ》、《王冠泥棒、オーコ》、《意地悪な狼》、《世界を揺るがす者、ニッサ》、《ハイドロイド混成体》を巡る戦いだったということだ。
そんな中で、決勝に残った2名のプレイヤー、熊谷 陸とヂィ・イーミン/Zhi, Yimin。このうち片方がフード・デッキであることは自明の理だが、残る1名はまったく戦略を異にするデッキだった。
6 《島》 4 《平地》 4 《神聖なる泉》 4 《平穏な入り江》 3 《ヴァントレス城》 2 《アーデンベイル城》 4 《寓話の小道》 -土地(27)- 2 《厚かましい借り手》 2 《裏切りの工作員》 1 《老いたる者、ガドウィック》 -クリーチャー(5)- |
3 《ドビンの拒否権》 2 《霊気の疾風》 1 《物語の終わり》 3 《吸収》 3 《牢獄領域》 1 《神秘の論争》 4 《薬術師の眼識》 4 《時の一掃》 2 《集団強制》 4 《時を解す者、テフェリー》 1 《覆いを割く者、ナーセット》 -呪文(28)- |
2 《浄光の使徒》 4 《拘留代理人》 3 《ガラスの棺》 2 《霊気の疾風》 2 《魔術遠眼鏡》 1 《敬虔な命令》 1 《栄光の終焉》 -サイドボード(15)- |
それがこのデッキ、「アゾリウス・コントロール」だ。
ヂィ・イーミン |
ヂィ・イーミン。海の向こうのお隣の国、中国からやってきた刺客は、今大会のアンサーとなり得るデッキを持ち込んでいた。
この「アゾリウス・コントロール」は、速いターンから強烈なフィニッシャーを連打してくる「シミック・フード」に対し、盤面での勝負を放棄し、徹底的に除去と打ち消しで行く手を阻みながら大量のマナを注ぎ込んだ《集団強制》で相手の褌を取るというデッキだ。ヂィはこのデッキを巧みに操り、今大会でスイスラウンドを脅威の14勝1敗という成績で、堂々1位突破を果たした。
そんなヂィの名前は我々にとってあまり馴染みがないかもしれないが、過去にはグランプリ・北京2017にグランプリ・北京2018、グランプリ・千葉2018といったグランプリでの入賞経験もある猛者だ。
いずれもリミテッド・グランプリでの入賞だったが、今回の入賞でその技巧がリミテッドのみでなく、構築戦でも十分に通用するものであることを結果を持って知らしめ、そしてトップメタに君臨するフード・デッキへの対抗勢力として、決勝ラウンドでも2名のフード・デッキを斬ってきた。
そんなヂィが、今大会で最後に戦う相手もまたフード・デッキであることに違いはない。違いはないが、決して一筋縄に行く相手ではないだろう。
熊谷 陸 |
相対するのは熊谷 陸。東北の強豪プレイヤーであり、グランプリ・東京2016での優勝を皮切りに、世界を舞台に戦うプレイヤーとしてその名を轟かせた日本を代表するプロの1人である。
使用デッキは「シミック・フード」。メタゲームブレイクダウンを見るに、今大会のトップメタは、フード系デッキの中でも同型対決に特化した「スゥルタイ・フード」だったようだが、熊谷の「シミック・フード」は純正の青緑2色。そして《厚かましい借り手》などを厚く採用し、テンポ・ビートダウンに寄せた構築になっているのが特徴だ。
多色化したことで土地へのライフ支払いに足を取られがちな「スゥルタイ・フード」に対して、そのテンポ戦略は非常によく刺さる。それでいて本来の「シミック・フード」の強みを歪めることなく、《王冠泥棒、オーコ》や《世界を揺るがす者、ニッサ》といったプレインズウォーカーの力を引き出して戦うミッドレンジ的な動きも可能となっている。こうしたデッキは得てして扱いが難しいものだが、熊谷のような実力者が使えばむしろ鬼に金棒といったところだろう。
およそ3ターン目以降、執拗に繰り返される理不尽なパワーカードの応酬。それこそが「シミック・フード」の強みだ。そして、そんなデッキの強みを最大限活かすことができる熊谷は、この決勝の舞台で、マジックを通してヂィへと問いかける。
《王冠泥棒、オーコ》を、《世界を揺るがす者、ニッサ》を、《ハイドロイド混成体》を全ていなしてみせろと。そしてヂィもまた、その問いかけに全力で当たることになるだろう。
さあ、注文の多い料理店の開店だ。卓に供されるのは環境屈指の難題の数々。
今宵のメインディッシュは「シミック・フード」のフルコースです。当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください。注文はずいぶん多いでしょうが、どうか一々こらえてください。
弾幕のごとく張り巡らされるフィニッシャーの連撃。もし、そのすべてのオーダーに応えたなら――
熊谷 陸 vs. ヂィ・イーミン |
熊谷とヂィ。2人のうち本当の捕食者はどちらだったのか、物語の結末が語られる。
ゲーム1:百億の答えと千億の問い
先攻のヂィが1マリガンを喫した裏で、後攻の熊谷は第1ターンから《むかしむかし》で《総動員地区》を手札に加えつつ、《金のガチョウ》をプレイする立ち上がり。「シミック・フード」の黄金ムーブに、決勝のボルテージはじりじりと上がっていき、ヂィは静かに土地を並べ、睨み合いの中で序盤を進める。
先に沈黙を破ったのは熊谷だ。3点クロックである《厚かましい借り手》をプレイし、ヂィがそれに《神秘の論争》で応じる。まずは最初の問いかけには応えた。しかし――
熊谷はすぐにニの矢を継ぐ。ヂィから《神秘の論争》を引き出したことで、続く《王冠泥棒、オーコ》が通り、そしていたずら好きのフェイのプレインズウォーカーは食物・トークンを大鹿へと変貌させ、ヂィへと攻勢を仕掛けていった。熊谷からの2つ目の注文だ。さあ、この《王冠泥棒、オーコ》を捌いてみせよ。
ヂィはこのオーダーにもまた動じることなく、返すターンに《牢獄領域》で《王冠泥棒、オーコ》を処理。3/3の食物は残ってしまったが、いったん脅威は去った形と言えるだろう。
だが、熊谷からの注文は止むことはない。おめでとう、《王冠泥棒、オーコ》を除去できたね。じゃあ、次も頑張って。そう言わんばかりに、《世界を揺るがす者、ニッサ》をプレイする。ゼンディカー出身のエルフの手によって土地に生命が吹き込まれ、そしてその猛攻がヂィのライフを蝕んでいく。
しかしヂィもさる者。続く熊谷のドロー・ステップのドロー後に《霊気の疾風》をプレイして《世界を揺るがす者、ニッサ》を除去。置き土産は残ったし、脅威を後回しにしたに過ぎないが、しかし確実に熊谷からのオーダーをこなし、その胴体へと一歩ずつ迫っていく。このマッチアップで最も重要なのは、「すぐに負けない」ことだ。早いターンから繰り出されるマウンティングにいちいち膝を折っていては、決して勝利には近づけない。
ならばと熊谷がプレイしたのはX=2の《ハイドロイド混成体》。サイズは小さいが、着実にアドバンテージを稼ぐ。そして何よりヂィのライフを削るクロックであることには違いない。決して無視することはできない存在が、徐々にヂィのライフを剥ぎ取っていく。
返すヂィはメイン・フェイズに《薬術師の眼識》をプレイして手札を整える。「シミック・フード」との戦いは、連打されるプレインズウォーカーの被害を最小限に抑える必要がある。現在のところヂィはうまく熊谷の注文に対応してきているが、しかし「シミック・フード」側もまた、たとえプレインズウォーカーが素早く処理されてしまったとしても、しっかりと置き土産を残して対戦相手に圧をかけてくる。すなわち、どこかで一度無理をしてでも一手に置き土産を除去する全体除去をプレイしなくてはならないのだ。
熊谷にしてみれば、ヂィが全体除去呪文による巻き返しを狙っていたとしても、すべきことは変わらない。先ほど《霊気の疾風》によってライブラリートップへと押し戻されてしまった《世界を揺るがす者、ニッサ》を再び唱え、クリーチャー化した土地と《ハイドロイド混成体》でヂィのライフを攻めていく。
この猛攻によっていよいよライフが7となったヂィだったが、その表情はまったくのポーカーフェイスだった。反撃の狼煙を上げんと、5枚の土地をタップし、《時の一掃》。これが熊谷の戦線を2枚の土地もろとも粉砕し、ヂィが一手にアドバンテージを取り戻した。
……とはいえ、依然ライフが危険水域へ足を踏み入れている状況は変わりない。今度は熊谷から除去耐性持ちのクリーチャー、《意地悪な狼》がプレイされ、ヂィは再び脅威に晒されることとなる。
熊谷の、「シミック・フード」の永遠に続く責め苦。それはいわば、「シミック・フード」側が一方的に注文を付け、そしてそれらすべてに「アゾリウス・コントロール」が完璧な回答を返す必要のある、不公平なゲームだ。このターン、熊谷の《意地悪な狼》と《世界を揺るがす者、ニッサ》の両方を何らかの手段で処理しない限り、次のターンを迎えることはできない。
最後のオーダー、その回答としてヂィが選んだのは、静かに息を吐き、そしてターン終了を宣言することだった。ヂィの健闘も虚しく、返す熊谷の無情な一斉攻撃が、熊谷に初戦の白星をもたらす。
熊谷が、グランプリ優勝に王手をかけた。
熊谷 1-0 ヂィ
このマッチ、熊谷のワンサイドゲームであるかのように見えて、ヂィに勝ちの目がなかったわけではない。実際、《世界を揺るがす者、ニッサ》が着地してしまうまでは、ヂィは熊谷の攻撃に対して対応し続けてきたのだ。
しかし、熊谷の攻撃があまりにもクリティカルだったのだ。もしも対戦相手が半端なプレイヤーだったなら、ヂィにはあと1ターン程度の猶予があったかもしれない。そしてその1ターンの猶予があれば、勝負には綾がついたかもしれなかった。
熊谷はその猶予を決して与えはしなかった。圧倒的な力、その全力をもって、目の前の対戦相手を排除する。そうした鉄のプレイングを積み重ねてきた上で、文字通り勝利を掴み取ったのだ。かつてグランプリ優勝に輝いた経験もある熊谷は、グランプリ決勝という最高の舞台で、決して油断も慢心も見せることはない。第1ゲームの結果は、熊谷の冷静沈着さが――数ターン先の展開を見越して常に正解のプレイを探り続ける理性的なプレイが勝ち取った白星だったと言える。
――2人はジャッジから手渡されたデッキリストを一瞥するのみで、一言も発することなく、すぐに返却してサイドボーディングに集中する。どうやら試合の前から、どちらもサイドボードの方針を決めていたようだった。
ゆえにそこにあったのは、ただただ静謐な空気の中に流れる緊張感。
熊谷とヂィの間には言葉の壁があったかもしれない。しかしだからといって、会話がなかったのは言葉の壁が問題だったのではないはずだ。なぜなら2人はカードを通じて雄弁に語り合っていた。そんなコミュニケーションの前に、言葉は無粋だったのかもしれない。
だから。
第2ゲームもまた、そんな静寂の中で開始される。
熊谷はヂィへと注文をつける。この最高の舞台で、最高の答えを聞かせてくれ。
ゲーム2:理想郷 の住民
熊谷が《金のガチョウ》から動き出し、第2ターンの《楽園のドルイド》を戦線に追加して攻撃。さらに続くターンに2枚目、そしてさらに次のターンに3枚目の《楽園のドルイド》を並べ、素早くクロックを刻んでいく。
対するヂィは《拘留代理人》をプレイ。熊谷の《楽園のドルイド》たちが、アゾリウスの勾留魔法によって一斉検挙されてしまう。いかにパワー2といえど、これ以上《楽園のドルイド》の攻撃を喰らい続ければ後がなくなってしまう以上、ここが仕掛け時と踏んだのだろう。ヂィもまた、数ターン先を見据え、勝ち筋をたぐる。
だが、熊谷はヂィのターン終了時に《厚かましい借り手》の《些細な盗み》によるバウンス! もしも通せば《拘留代理人》をバウンスされ、再び《楽園のドルイド》が解き放たれることになる。すると再びクロックに頭を悩ませることになるのはもちろん、熊谷のマナが7マナへと到達することになるため、何が起こってもおかしくない状況へと押し込まれてしまう。
ヂィはやむなしと虎の子の《神秘の論争》を切り、この《些細な盗み》を打ち消す。フルタップでターンを返す。そのことのリスクを承知の上で。
返すターンに熊谷は《王冠泥棒、オーコ》。満を持してプレイされたこのトリックスターは、早速食物を大鹿へと変貌させ、ヂィのライフを再び刻み始める。
後手に回ってしまったヂィ。しかし確実に《牢獄領域》で《王冠泥棒、オーコ》を追放し、《時を解す者、テフェリー》で熊谷の大鹿をバウンスし、熊谷の2枚目の《王冠泥棒、オーコ》にも《魔術遠眼鏡》でその能力を封じ込める。
さらに、この《魔術遠眼鏡》によって明かされた熊谷の手札は《金のガチョウ》のみだった。これはヂィにとって吉報である。熊谷の大鹿も《牢獄領域》に押し込め、ようやく熊谷の脅威の全てを捌き切る。
だが、無情にも熊谷がトップデッキしたのは《世界を揺るがす者、ニッサ》。
あまりにも完璧なドローに対し、ヂィができたのは頭を抱え、天を仰ぐこと。そして《厚かましい借り手》で《世界を揺るがす者、ニッサ》をバウンスすることだけだった。
無論、一時しのぎにしかならない上、《世界を揺るがす者、ニッサ》によって覚醒した3/3の土地と、次のターンにプレイされるであろう《世界を揺るがす者、ニッサ》の対処を強いられることとなる。
頭を抱えながらドローし、ターンを終えるヂィ。そのドローは《ドビンの拒否権》だった。熊谷の《世界を揺るがす者、ニッサ》を打ち消すことのできる絶好のドローだ。しかし依然3/3のクロックは止まることなく、いよいよヂィのライフは3。次の攻撃を耐えきることはできず、完全に追い詰められてしまった。なんとかこの状況を打破できるカードを探さんと、《ヴァントレス城》の能力を起動し、ライブラリートップをめくる。
そして、トップデッキはヂィに応えた。切り札、《集団強制》が熊谷の土地へと向けられ、反撃の狼煙が上がる。
――かと思われた。熊谷がプレイしたのは《神秘の論争》。《世界を揺るがす者、ニッサ》に続く完璧なドロー。この意味するところ――ヂィは、物語の終着点を察した。
先のターン、《ヴァントレス城》にてライブラリートップを見ている。次のドローは《覆いを割く者、ナーセット》だ。ヂィの戦場には7枚の土地。すなわち《覆いを割く者、ナーセット》をプレイした後に残るのは4マナのみである。つまり、《覆いを割く者、ナーセット》の能力がこの状況を返すことのできる唯一のカードである《時の一掃》をめくったとしても、それを唱えることは叶わないのだ。
後の物語はすべて予定調和へと回帰する。熊谷が3/3の土地で攻撃し、ヂィは《拘留代理人》でチャンプブロック。アゾリウスの枷が失われたことで、3枚の《楽園のドルイド》が地上へと解き放たれる。
ヂィは笑みを浮かべていた。このグランプリの優勝者が分かってしまったのだから。《覆いを割く者、ナーセット》をプレイし、ライブラリートップ4枚をめくる。そして最後の言葉を――
「I don't have solution. (答えを持ち合わせていないんだ)」
と述べ、《栄光の終焉》を公開する。最大でもX=2でしか唱えられないこの呪文は、続く熊谷の総攻撃を耐えるには1マナ足りない。熊谷の注文に、応えきることができなかった。
そして熊谷と、理想郷を臨む司祭たちが、この物語にピリオドを打つ。
熊谷 2-0 ヂィ
マジックというゲームの性質上、目の前にいる対戦相手とは、対戦を通じて決着をつけることになる。それはすなわち、人と人の人生が摩擦するということだ。そうした摩擦が物語を生み出す。
熊谷は、「シミック・フード」というデッキは、その狩人たるヂィとその得物である「アゾリウス・コントロール」に数々の注文をつけた。
《王冠泥棒、オーコ》を除去せよ。《世界を揺るがす者、ニッサ》を除去せよ。これらの残した3/3にも対応せよ。ヂィはそれに命の限り呼応し続けたが、しかし熊谷はなおも難題を与え続けた。物語が結末を迎えるまで。熊谷が、二度目の戴冠に至るまで。
さあ、カーテンコールに応えよう。覇者となった傑物の名をここに刻み、この物語の幕引きとしよう。
グランプリ・名古屋2019、優勝を収めたのは熊谷 陸!
おめでとう!!
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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