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マジックフェスト・名古屋2019

戦略記事

デッキテク:斉田 逸寛の「スゥルタイ・食物」全容解説

Moriyasu Genki

(本記事は土曜日第7回戦終了後に取材したものです)

 「《王冠泥棒、オーコ》の秋」。

 スタンダードをめぐるメタゲームは先日の《死者の原野》禁止を経て、より顕著なものとなった。《王冠泥棒、オーコ》を活用する「食物」デッキの隆盛と、それに対抗するチューンが施されたその他のデッキといった様相だ。

 過去のスタンダードにおいても、1つのデッキが強烈な存在感を示していることはあった。『ミラディン』期の「親和」や、『ゼンディカー』期の「白青石鍛冶」、『タルキール覇王譚』期の「アブザン・ミッドレンジ」など。そうした覇権を取ったデッキと並び称されるのが《王冠泥棒、オーコ》擁する「青緑を含む食物」デッキだ。

 その中でも「スゥルタイ・食物」は今大会、群を抜いて一番人気となったアーキタイプだ。

 《金のガチョウ》、《意地悪な狼》、《王冠泥棒、オーコ》、《ハイドロイド混成体》という「食物」デッキの基本は残しつつ、その派生としてミラーマッチや「ゴルガリ・アドベンチャー」といったデッキに強い《害悪な掌握》などの黒い対策カードを採用している。

 「スゥルタイ・食物」そして「シミック・食物」が確実に数が多いことを見越した上で、「ミラーマッチに強いスゥルタイ・食物」を組み上げること。それが今大会、自らが「覇権デッキ」であることを認識した上で「スゥルタイ・食物」を選択するプレイヤーたちに事前に課されていた課題であった。

 そしてこの課題に対して、明確に結果で答えているプレイヤーが一人いた。斉田 逸寛。

decktech_saida1.jpg

 斉田はすでに金曜日のプレイヤーズツアー予選にも参加しており、結果はスイスラウンド6戦全勝からの準決勝敗退。そのうち計6戦が「スゥルタイ・食物」「シミック・食物」とのミラーマッチで、5勝1敗だ。

 グランプリ・名古屋2019本戦ではインタビューを行った第7回戦終了時点までで全勝であり、この2日間での総合成績は14勝1敗と驚異的な勝ち星の数だ。

 グランプリ本戦ではミラーマッチ・スコアは1戦1勝を積み重ねて、トータル勝率で見ても実に8割を越えている。斉田が「スゥルタイ・食物」を使いこなしていることは、揺るぎない事実だろう。

斉田 逸寛 - 「スゥルタイ・食物」
グランプリ・名古屋2019 / スタンダード (2019年11月2~3日)[MO] [ARENA]
7 《
2 《
1 《
4 《草むした墓
4 《繁殖池
4 《湿った墓
3 《寓話の小道

-土地(25)-

4 《金のガチョウ
4 《楽園のドルイド
4 《意地悪な狼
4 《ハイドロイド混成体

-クリーチャー(16)-
2 《夏の帳
2 《むかしむかし
4 《害悪な掌握
1 《戦争の犠牲
4 《王冠泥棒、オーコ
1 《ゴルガリの女王、ヴラスカ
4 《世界を揺るがす者、ニッサ
1 《戦慄衆の将軍、リリアナ

-呪文(19)-
2 《打ち壊すブロントドン
2 《虐殺少女
1 《夏の帳
3 《強迫
3 《軍団の最期
2 《否認
1 《軽蔑的な一撃
1 《神秘の論争

-サイドボード(15)-

 75枚のうち、斉田しか採用していないシークレット・カードがあるわけではない。斉田は「現時点で最も強いデッキ」として「スゥルタイ・食物」を選び、調整を積み重ねた。「どうして今スゥルタイ・食物が強いのか」、そして「主要なマッチアップにおけるサイドボーディング」などを中心に、話を伺った。

斉田「先日、MTGアリーナのMC(2019ミシックチャンピオンシップⅤ)の結果が出ました。《死者の原野》禁止以降かつグランプリのラウンドに近い大規模な大会ということで、ある程度正確な結果が出やすいということで正直『食物』デッキが圧勝という形で。正直、デッキが強すぎる。デッキ相性とかを乗り越えて強いので、『同型に強いスゥルタイ・食物』にすることにしました。仮に同型戦に寄せた構築にしても、もともとのデッキの強さがあり、他デッキに対しても負けるほどパワーを落とすというようなことはないというのが僕の読みでした」

 「食物」デッキに絶対の信頼を置く斉田。もともと「シミック・食物」同型戦を乗り越えるために多色化として派生した「スゥルタイ・食物」だが、ここからさらに「同型に強い」というのは、どういったアレンジが必要だったのだろうか。

斉田「僕の場合は《夏の帳》をメインに2枚採用しています。限界値ですね。元々《害悪な掌握》4枚に加えてなので、『赤単アグロ』などに対しては捨て牌が6枚もメインデッキに入ってしまう。ただメイン《夏の帳》2枚というのは、メジャーな構築ではないはずです。ただ直近で八十岡さんがTwitterで挙げたリストにはメインに1枚あったので脳裏にはあるかもしれまんが、それがなければほぼメイン戦では想定されていないだろうというところです」

 今戦、解説として参加するMPLプレイヤー・八十岡 翔太も「スゥルタイ・食物」の調整を続けてきた1人だ。ツイッターでは「もしグランプリに出るなら」とサンプル・リストを掲載している。

decktech_saida2.jpg

斉田「そうすると《戦争の犠牲》は《夏の帳》さえなければどんな不利な状況でも一発でまくれるカードなので、《戦争の犠牲》と《夏の帳》が同型を強くする要素かなと思っています。元から減らしているのは《むかしむかし》ですね。これは同型に弱い、というか個人的に使い勝手が悪いと感じてます。初手かマナが伸びた後に欲しいカードであって、同型戦で重要な中盤で2マナで使ってしまうとダブル・アクションが取れなくなってしまう。枚数が多いとそれが発生しやすくなってしまいます。2枚が適正だと思いますね」

 《王冠泥棒、オーコ》や《意地悪な狼》、《世界を揺るがす者、ニッサ》といった中盤戦のキラー・カードの提示に対して、《むかしむかし》を打っただけでターンを渡すようなことが発生してしまうと取り返しのつかない盤面になってしまう。斉田は初手でほぼ確実にアクションを取れることのメリットを取ることよりも、中盤戦で押し負けないためのデメリットを回避することを選んだ。

斉田「《夏の帳》をメインに採用した、またもともと対ビートダウンを想定した《恋煩いの野獣》を不採用にして、増えるであろうと想定した『青白コントロール』や『ティムール《荒野の再生》』などに強くするように《強迫》や《否認》を採用しました」

 「スゥルタイ・食物」が増えることで、そこに標的を合わせた他のデッキも必然的に増えることが予想されていた。その代表格が「青白コントロール」と「ティムール《荒野の再生》」であり、「《恋煩いの野獣》サイド4枚型」ではさらにそこに対する回答を用意するには枚数が足りないという流れだ。

斉田「対アグロには従来の《王冠泥棒、オーコ》、《意地悪な狼》で勝てる試合も多く、対コントロールの方が負けやすいです。そうしたデッキに対しても《夏の帳》は強いので、メインの方が良いですね。ただアドベンチャー(出来事系デッキ)の《エッジウォールの亭主》は負け筋となりうるカードなので、《軍団の最期》は枚数を増やしています。逆に(《グルールの呪文砕き》に触りにくくなるため)『グルール・アグロ』などには耐性が落ちていますね」

 また斉田自身、かなり早くから「スゥルタイ・食物」が環境を支配するデッキとなることを予測していた。

 話は再び、2019ミシックチャンピオンシップⅤ(MTGアリーナ)の話に戻る。現行のスタンダードにおいて、やはりMTGアリーナの動向は注目すべき舞台の1つのようだ。

斉田「《死者の原野》が禁止される前のアリーナMCによってプロたちが環境を定義しました。『ゴロス・デッキ』と『食物・デッキ』の二強環境で、その地点の最適解は(アンドレア・)メングッチが使っていた『バント・食物』でした。《拘留代理人》が両方に強いデッキだった。その上で禁止改定によってゴロスが退場したので、食物の一強環境になるということが予想されました。そうするとゴロスに強い《拘留代理人》と、ゾンビにブロックされないというのが強みだった《探索する獣》が入れる必要がなくなり、よりダイレクトに同型に強い《害悪な掌握》を採用してスゥルタイにたどりつくのは自然な流れでしたね」

 斉田がメタゲームを適切に読み解いてたどり着いた「スゥルタイ・食物」。

 そこから今回の75枚のリストにまでブラッシュアップをしたが、実際のゲームにおいてはサイドボーディングも判断の難しいところだ。

 特に「メインに《害悪な掌握》や《夏の帳》を採用している状況」にあって個人差も大きそうな「ミラーマッチのサイドボーディング」は、斉田はどのように行っているのかも明らかにしてくれた。

斉田「メインに《夏の帳》を入れているので、ミラーマッチではあまり多く入れ替えません。そもそもインアウトを2枚から4枚程度までに抑えられないと、それは同型戦を見越したメインデッキとは言い難いのかな、と思っています。大事なのが、後手番でどうやってまくるのか、というところですね。《神秘の論争》と《虐殺少女》は後手のときに輝くカードです。逆に先手のときは《ゴルガリの女王、ヴラスカ》が強いです。後手のときには基本的に出ているパーマネントの数で1つ負けているので、[-3]能力から入ると死にやすいのですが、先手であれば同じ数のはずなので、生き残りやすくマウントを取りやすいですね」

 《ゴルガリの女王、ヴラスカ》のインアウトの理屈は言語化されると明白だ。《王冠泥棒、オーコ》を対処できるカードであることは間違いないが、「スゥルタイ・食物」の脅威はそれだけではない。斉田はカード1枚1枚の有用性をしっかりと見つめ直していた。

斉田「抜けるカードは《ゴルガリの女王、ヴラスカ》と《むかしむかし》2枚のあたりを中心に枚数を調整しています。《世界を揺るがす者、ニッサ》も《害悪な掌握》でテンポを取られやすいので減らすときもあります。ただ《夏の帳》の枚数を中心にリスト、インアウトともにかなり流動的な環境なので厳密に決めすぎない方が良くて、ゲームの中で相手の75枚を予想しての細かい判断は必要になってきますね」

 ミラーマッチに対して強いと表現した《戦争の犠牲》も、相手の《夏の帳》の枚数次第では減りうるという。ただしそれは「4枚型であれば減らし、3枚以下であれば残しそう」というような本人の表現もあり、その枚数差をゲーム中に確実な情報として得ることは難しいだろうということもあって、「事前に決めすぎない方が良い」というのは繰り返し斉田の口からこぼれた。

 続いて、「食物」の次点でメタゲームの一角を支える「アドベンチャー(出来事)」デッキのインアウトの考え方も、細かく伝えてくれた。

斉田「『アドベンチャー』に対しては重い《戦争の犠牲》や《戦慄衆の将軍、リリアナ》がそんなに強くないので抜ける候補ですね。特に《戦争の犠牲》は相手の構成にかなり効能が上下してしまいますね。また相手のサイズが大きく、3/3でマウントを取るという流れにならないので、《世界を揺るがす者、ニッサ》はガッツリ減らしても良いのかなと思います。入れるのは《軍団の最期》と《虐殺少女》ですね。また除去がキープ基準になるので、《楽園のドルイド》のようなカードを少し減らしても大丈夫です。あと《ゴルガリの女王、ヴラスカ》も絶対に定着できないので弱いですね。そもそも緑も黒も強いカードが多いので、アドベンチャーといってもミッドレンジやコントロール的に動く人やリストもいるので、一番サイドボードが流動的かな。プレインズウォーカーの枚数が多いと《虐殺少女》でまくれなかったりしますね」

 《帰化》能力を有する《打ち壊すブロントドン》は、その他の多くのデッキに対して有用に働くようだ。

斉田「《打ち壊すブロントドン》は『ジェスカイ・ファイアーズ』の《轟音のクラリオン》耐性や《創案の火》対策と、あと『ティムール《荒野の再生》』用ですが、『かまどデッキ』に対しても《魔女のかまど》に触れつつ優秀なブロッカーということでインします」

 メタゲームの推移の「見方」とサイドボーディングの「考え方」。斉田は今回のスゥルタイ・食物に関してのことのみならず、今後も参考になることを多く語ってくれた。

 そのキーワードの1つに「MTGアリーナ」があることも間違いなさそうだ。テーブルトップとMTGアリーナ、その両方から進んでいく今後の競技シーンはどのようなものになっていくのだろうか。

 そして斉田自身の戦績もここからどう積み上げられていくのだろうか。興味と注目が集まる。

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RESULTS

対戦結果 順位
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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