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マジックフェスト・京都2019
「英雄譚」:ミシックインビテーショナル招待プレイヤー、覚前 輝也 ~大いなる目標、大いなる手段~
覚前 輝也――。
プロツアー・チームシリーズでは、「武蔵」の一員として渡辺 雄也や八十岡 翔太、市川 ユウキ、山本 賢太郎といった日本を代表するトッププレイヤーとともに活動している言わずと知れた関西のトッププレイヤーの一人だ。
昨シーズンまで不調の時期が続いたことで一時期は引退をも考えていたという覚前だったが、思い悩んだ中で何かを掴んだのか、昨年プロツアー『ラヴニカのギルド』で17位に入賞すると続くグランプリ・静岡2018(レガシー)では優勝トロフィーを飾り、先月はMTGアリーナで世界ランク8位以内に入賞したことでミシックインビテーショナルの招待選手の枠も勝ち取った。
絶好調。波に乗っている。今や飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進を続けている覚前の姿を見ていると、ついそんな言葉が思い浮かぶ。しかし今日の覚前の輝かしい戦績の数々、それに至るまでの道のりは決して平坦ではなかったはずだ。
果たして彼を駆り立て、高みへと押し上げているモチベーションは何なのか? そしてその栄光の裏側にある思いはどういったものなのか? それらについて覚前に尋ねると、返ってきた言葉は意外なものだった。
Ⅰ プロマジックを続ける意味
覚前「武蔵のメンバーとしてマジックを練習していた中で、自分のマジックへの考えの至らなさを日々痛感しました。ヤソ(八十岡 翔太)も瀬畑(市川 ユウキ)も他のみんなも、自分よりずっとうまい上にずっと深くマジックのことを考えていて、『このままじゃ中途半端なままだ』と感じたんです」
仲間たちと切磋琢磨する。それは美談のようでありながら、同時に覚前の艱苦の種でもあった。プロたちの競技マジックはチーム戦であり個人戦でもある。武蔵のメンバーたちとデッキの調整や環境について意見を交わす中で、彼らが勝利を重ねる間にもなかなか結果を出せない自分に対して焦燥感を抱いていたのだ。
そして同時に、MPL(マジック・プロリーグ)プログラムの始動とプロマジック制度の変更。これらは覚前に引退の二文字を連想させることとなる。
覚前「制度変更によって、MPLプレイヤーに選出されることができればプロマジックに打ち込むことも容易になりました。その反面で、MPLプレイヤーに選出されなかったときのバリューは相対的に下がり、現状の制度ではプロマジックを続けていくのは厳しいかもしれないと考えたんです」
覚前は物腰こそ柔らかいが、目的から手段を逆算して行動の指針を決定するプロセスは徹底しており、自身のことに関しても客観性を持って冷静に決断を下す。それが覚前の勝負強さにも繋がっていると言えるわけだが、その冷静さゆえに「マジックの一線から退く」という選択肢が生まれることもまた自然なことだった。
ゆえに、覚前が「今、自身が成すべきこと」だと考えたのは、以下のようなものだった。
覚前「だから、MPLに到達しようと考えたんです」
Ⅱ 目的のための手段
2019年3月1日、覚前は、見事MTGアリーナの構築ランキング上位者としてミシックインビテーショナルへの参加権利を獲得した。
招待状が届きました??
— 覚前輝也/Teruya Kakumae (@fushiginokunin5) 2019年3月1日
一括になりますが、応援して下さった方本当にありがとうございました???♂?
凄く力になりました??
本戦の方も悔いの残らないよう全力で挑みます!! pic.twitter.com/JJu6hxADJC
覚前「ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019が終わって日本に帰国してからは、とにかくMTGアリーナ漬けの生活でした。少なくとも週に50時間はプレイしていたはずです。いわゆる走り込みですね」
週50時間。当たり前のようにさらりと言ってのけたがもちろん並のことではない。ミシックインビテーショナルの参加権利を得るまで、起きているほとんどの時間をMTGアリーナに費やしていたことになる。そして現在でもなお、その習慣は継続中だと言う。全てはミシックインビテーショナルで勝利するために。
覚前「もちろん出場する以上は優勝を目指していますからね(笑) 何より僕が今走り込みをしているのは、自分の限界を知りたいという部分もあるんです。真剣にやって、結果を出すこと。それが僕にとって今必要なことだと思っているので」
覚前の目的は「結果を出すこと」ではなく、あくまでもMPLプレイヤーへの到達だ。ゆえにプロツアーでの好成績やグランプリでの優勝、そしてミシックインビテーショナルの出場権利獲得だけでは足りない。全力で走り続け、結果を残し続けること。それこそが今の覚前にとっての目的のための手段なのだ。
世界の上位32名に加わること。そんな大きな目標を達成するためには、あくまでもストイックであるべきだ。そう考え、そして実践するのが覚前という人間だった。しかし、そんな彼のデジタルな思考の裏腹にあるモチベーションは、必ずしも理詰めで語られるものではないようだ。
Ⅲ 楽しいから上を目指せる
覚前「さっき走り込みと言いましたが、たぶんMTGアリーナは僕に合っていて、やってて全然苦じゃないんですよね。派手なエフェクトがあって楽しいじゃないですか」
インタビューのさなか、覚前の口からそんな言葉が飛び出した。ここまでのストイックな言動の数々からは、自分の理想を追求するためであれば地道な作業でも黙々と続けられそうなタイプかと思っていたために、「派手なエフェクトがあって楽しい(から続けられる)」という発言にはどこかギャップを感じる。
覚前「これって結構重要ですよ。Magic Onlineだとどうしても作業感があって『あと1リーグやったら終わろう』みたいな気持ちになっていましたが、MTGアリーナだといつまでもプレイできちゃうんですよね。楽しいということは一番のモチベーションですよ」
楽しい。根幹にあるその思いこそが、覚前がマジックと向き合う最大のモチベーションだった。ミシックインビテーショナルの招待枠圏内が見えてきて、ランキングを意識するようになっても、決して覚前は楽しむ気持ちを忘れることはなかった。それが彼の努力に繋がり、そして結果に結びついたのだろう。
そして、MTGアリーナからマジックをプレイした人に向けてこう言葉を継いだ。
覚前「MTGアリーナで初心者の方が増えていると思いますが、まずは好きなデッキを回してみてください。好きなデッキを回すのは楽しいし、練度が上がれば少しずつ勝てるようになります。もちろん行き詰まることもあるかもしれませんが、そのときになったら別のデッキを回せばよくて、あくまで楽しいという気持ちを忘れずにプレイすることが一番大切です」
インタビューの結びとして「今後の目標は?」と尋ねたところ、覚前は笑顔で「プロツアートップ8ですかね、まだ入ったことがありませんから」と述べていた。それもまた覚前にとっては大きな目的に対する手段の一つなのかもしれないが、しかし少なくとも、覚前はその手段を楽しみながら実践へと移している。
本記事は「英雄譚」と銘打ったが、彼が本当の意味で英雄となるのはまだ先なのかもしれない。彼自身が彼自身の望む姿となって再び我々の前に現れてくれる日を、私も楽しみに待ちたいと思う。
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