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マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2022

観戦記事

準決勝:卯月 祐至 vs. Lull ~ラスト3分の選択~

伊藤 敦

 

 現代のマジックは、情報にあふれている。

 強いデッキの基盤は、インターネットを探せばすぐ手に入るだろう。マッチアップごとのサイドボーディングも、ことによると載せている記事が見つかるかもしれない。

 だがだとしても、メタゲームに合わせたデッキリスト細部の調整や、リスト公開で見えた実際の対戦相手のデッキに対してどのようなプレイやサイドインアウトをするのかという、そのひとつひとつの決断は、プレイヤー本人の選択によってしか為しえないものだ。

 The Finals 2019でトップ4に入賞した経験を持ち、《ファイレクシアの宣教師》と《邪悪を打ち砕く》が4枚ずつ入った特徴的な「エスパー・ミッドレンジ」を駆る卯月 祐至も。

 「ジャンド・ミッドレンジ」に《ヴェールのリリアナ》を搭載するという独自の試みを見せたLullも。

 そうした選択の積み重ねによって、それぞれここまで勝ち上がってきた。しかも相手の速度や場況によって目まぐるしくプレイが変わる、ミッドレンジ同士の戦いを幾度となく潜り抜けて。

 その事実だけでも、強者である十分な証明だ。

 だが、まだあともう少し足りない。優勝までは、あとたったの2勝。

 記憶に残る鮮烈な結果を残すために。

 己が選択の正しさを証明するために。

 激闘必至の準決勝が、幕を開けた。

 

ゲーム1

 先攻の卯月がマリガンスタートながらもLullの初動の《税血の収穫者》を《かき消し》し、3ターン目には婚礼の発表を着地させる。

 一方Lullも鏡割りの寓話で応えるが、この鏡割りの寓話》が《邪悪を打ち砕く》で即座に破壊されてしまうと、Ⅱ章による手札回転を期待していたLullにとっては手痛い。

回転

 それでもLullは《食肉鉤虐殺事件》「X=1」で2体の人間・トークンを除去しながらゴブリン・シャーマン・トークンによる攻撃で宝物・トークンを生成して盤面の主導権を握ることに成功する。

 さらにLullは卯月が5マナフルオープンでエンドしたのに対して《かき消し》も《軽蔑的な一撃》も当たらない《ヴェールのリリアナ》を通し、[-2]で人間・トークンを除去すると再びゴブリン・シャーマン・トークンで攻撃。加えて第2メインで《鏡割りの寓話》を追加する。

 ここで卯月もエンド前に《放浪皇》を出し[-1]で侍・トークン生成から自ターンに入って[+1]で《ヴェールのリリアナ》への攻撃を仕掛けるが、これはゴブリン・シャーマン・トークンのブロックによって守られる。

 そして、ゲームのクライマックスは突然訪れる。

 すなわち、Lullが《鏡割りの寓話》のⅡ章で落とした産業のタイタン》を《ギックスの残虐》で蘇生したのだ!

 手札も土地、返すターンのドローも土地で対抗できる手段がないことを悟った卯月は、時間節約の意図もあってか無駄に粘ることなく、迷いなく投了のボタンを押したのだった。

卯月 0-1 Lull

 

ゲーム2

 2ターン目《ファイレクシアの宣教師》スタートの卯月に対してLullが《強迫》を打ち込むと、《軽蔑的な一撃》《策謀の予見者、ラフィーン》《放浪皇》《夜明けの空、猗旺》に土地1枚というかなり強い手札が明らかとなる。Lullはここから《放浪皇》を落とし、返しの《策謀の予見者、ラフィーン》も一度「謀議1」を許したのみで即座に《切り崩し》して返すことに成功する。

 さらに4マナオープンで構えた卯月に対して《鏡割りの寓話》+《強迫》というスムーズな動きで《軽蔑的な一撃》をも落とす。

 だが、5ターン目には公開情報となっていた夜明けの空、猗旺》が着地する!

 黒いデッキにとっては天敵と言っていいこのカードに対し、対処手段のないLullはまずゴブリン・シャーマン・トークンで「チャンプアタック」。《食肉鉤虐殺事件》を警戒した卯月がこれをスルーすると、第2メインに宝物・トークンから黙示録、シェオルドレッドを送り出して、対処できないまでもクロックを実質的に低減させようとする。

 だが卯月は天上都市、大田原の「魂力」で《黙示録、シェオルドレッド》を戻して1ターンを買い、一気にLullのライフを詰める。そのまま《黙示録、シェオルドレッド》は出し直されるが、卯月が引き込んだ《ファイレクシアの宣教師》「キッカー」で《策謀の予見者、ラフィーン》を回収しながら5点アタックを叩きこんだ時点でLullの残りライフは2点

 それでもLullは通常ドローして4点に戻ったライフを生かし、ギックスの残虐の「先読」によるⅡ章でライフ3点とゴブリン・シャーマン・トークンのチャンプアタックで宝物・トークンを生み出しながらも土建組一家の魔除けを構えることに成功する。

 返すターン、卯月は《策謀の予見者、ラフィーン》を出して《夜明けの空、猗旺》と《ファイレクシアの宣教師》で攻撃。「謀議2」に対応して《土建組一家の魔除け》が飛ぶが、卯月は夜明けの空、猗旺》が死亡したときの能力でカウンターを置くモードを選択し、Lullは5/6となった《ファイレクシアの宣教師》を《黙示録、シェオルドレッド》で相打ちにとらざるを得ず、さらにライフ1の状態で《ファイレクシアの宣教師》も戦線に追加されてしまう。

 Lullは《ギックスの残虐》のⅢ章で卯月の墓地から《夜明けの空、猗旺》を蘇生しつつ《ヴェールのリリアナ》[-2]で耐えようとするのだが、返しの《策謀の予見者、ラフィーン》と《ファイレクシアの宣教師》との2体攻撃に対しては、キキジキの鏡像》と《夜明けの空、猗旺》をどちらも一方的に失うだけのブロックとなってしまう。

 だが、Lullもここから粘る。《夜明けの空、猗旺》の死亡時の能力が《ヴェールのリリアナ》をもたらし、さらに《ギックスの残虐》をトップデッキしたことで、Ⅲ章でまたも《夜明けの空、猗旺》を蘇生。《策謀の予見者、ラフィーン》攻撃は《夜明けの空、猗旺》でチャンプブロックし、死亡時効果で今度は《不笑のソリン》がもたらされる。

 ターンが返ってきたLullは《不笑のソリン》[-2]と《ヴェールのリリアナ》[+1]をそれぞれ起動。吸血鬼・トークンのブロックであと1ターンだけ耐えられれば、《ヴェールのリリアナ》[-2]で《策謀の予見者、ラフィーン》を処理して逆転が見える

 その、逆転まであと一歩手前というところで。

回転

 卯月が引き込んだ墓地の侵入者が、残りライフ1点でギリギリ踏みとどまっていたLullに無情にもトドメを刺したのだった。

卯月 1-1 Lull

 

ゲーム3

 先攻3ターン目《鏡割りの寓話》スタートのLullに対し、卯月は2ターン目《ファイレクシアの宣教師》から3ターン目《策謀の予見者、ラフィーン》でファイレクシアの宣教師》を「謀議1」で3/4に育てつつの3点アタックという軽快な立ち上がり。

 一方Lullも《土建組一家の魔除け》で《策謀の予見者、ラフィーン》を除去しながらゴブリン・シャーマン・トークンの攻撃で宝物・トークンを生成して切り返すと、卯月がなおも《ファイレクシアの宣教師》で3点アタックから4マナ構えでターンを返してきたのに対して、再度の攻撃で宝物・トークン生成から《かき消し》《軽蔑的な一撃》のいずれの打ち消しもかいくぐる《墓地の侵入者で着実に盤面を強化する。

 ここで構えをすかされた格好の卯月はそれでもターンエンド前の《切り崩し》で《キキジキの鏡像》だけは処理し、みたび《ファイレクシアの宣教師》で攻撃。そしてLullが耐えきれず唱えた「キッカー」込みの《羅利骨灰》に《かき消し》を当てる。

 しかし、それはLullの布石だった。相手のターンにカウンターとマナを使わせたLullは、返ってきた自ターンにギックスの残虐を叩きつける!

 だが、卯月はこれをも軽蔑的な一撃》で打ち消す!

 しかし、まだまだ状況は卯月にとって予断を許さない。《ファイレクシアの宣教師》のアタックから《勢団の銀行破り》を出して寂しくなった手札を補充しにかかるが、Lullはなおも《鏡割りの寓話》を2連打。うち1枚は《かき消し》するが、そろそろ3/4絆魂だけではダメージレースが厳しくなってきた。

 それでもここまで卯月が我慢強く攻撃を続けてきた甲斐あってLullのライフは残り6点。さらに《ファイレクシアの宣教師》素出しでライフにプレッシャーをかけつつゴブリン・シャーマン・トークンの攻撃による宝物・トークンのタダ得を許さない構えを見せる。

 しかし、ここで《鏡割りの寓話》のⅡ章が土地2枚の代わりにLullにもたらしたのは黙示録、シェオルドレッド》!

 カードを引かなければ状況が解決しない、しかしカードを引けばライフが詰められる。そんなダブルバインドに追い込まれた卯月はそれでも《勢団の銀行破り》を起動して解答を追い求める。一方無理に攻める必要がなくなったLullは放浪皇》をケアして攻撃せず、そのタイミングでターンエンド前に見事ドンピシャリで《放浪皇》が着地するという冴え渡った嗅覚を見せる。

 卯月も2回の[+1]で5/6先制攻撃にまで育てた《ファイレクシアの宣教師》でアタックするが、Lullは邪悪を打ち砕く》ケアでリミテッドばりの全力ブロックにいく好プレイで、これは《黙示録、シェオルドレッド》と交換となる。それでも少しライフの余裕ができた卯月は《勢団の銀行破り》の3回目起動から策謀の予見者、ラフィーンを送り出す。

 だがLullは《キキジキの鏡像》で《墓地の侵入者》をコピーしてからの総攻撃で《放浪皇》を落とすと、なおも第2メインには《しつこい負け犬》に加え、先ほどから手札に抱えていた2体目の《黙示録、シェオルドレッド》を着地させる!

 いよいよ猶予がなくなってきた卯月は、《勢団の銀行破り》に「搭乗」しながら《策謀の予見者、ラフィーン》と2体で攻撃して「謀議2」で4点食らいながらも除去を探すが、見つけることができずに《しつこい負け犬》を出したのみでターンを返す。

回転

回転

 ここでLullが引き込んだ《強迫》により、卯月の唯一の手札が《見捨てられたぬかるみ、竹沼》であることが明らかになる。ライフは卯月が9点対Lull11点。《しつこい負け犬》「奇襲」と《墓地の侵入者》がアタックし、攻撃に対応しての《見捨てられたぬかるみ、竹沼》の「魂力」は対応してキキジキの鏡像》で《墓地の侵入者》コピーで墓地の《放浪皇》の回収を許さない。

 そして、このまま《黙示録、シェオルドレッド》が処理できなければ返して確実に死ぬ、そんな卯月にとってのラストターン。《見捨てられたぬかるみ、竹沼》の3枚削りで運良く回収できた《墓地の侵入者》による1点ドレインでライフ5点という状況で、ラストターンのアクションを考える。

「相手に《黙示録、シェオルドレッド》がいる状況で、解決策を引くために《策謀の予見者、ラフィーン》の『謀議』をいくつで発動させたらいいのか?」

 それは何度ゲームを繰り返したとしてもそのままの形で再現されることはないであろう、リハーサルがきかないこの瞬間だけの生の選択だ。

 攻撃が足りなければ、1枚の差で眠っているかもしれない解答を引き損なう。だが余分に攻撃しすぎれば、解答を引いたとしてもライフを詰められて死ぬリスクがある。

 しかも持ち時間は、残り3分を切った。

 そんな状況で、卯月は意を決して操縦者・トークンで「搭乗」した《勢団の銀行破り》のみでの単体アタックを選択する。

 「謀議1」が解決。

 そして。

 

 

 トップデッキ《邪悪を打ち砕く》!!

 これにより頼みの綱の《黙示録、シェオルドレッド》を打ち砕かれたLull。ライフは卯月3点に対してLullが10点だが、盤面の状況は卯月が圧倒している。返すドローは《冥府の掌握》だが状況解決には至らない。《ジアトラの試練場》の「サイクリング」で《切り崩し》を引き込んでもまだ足りない。黙示録、シェオルドレッド》を失ったことが、あまりにも大きい。

 それでも《産業のタイタン》をトップデッキできればあるいはというところだったが、最後のドローは無情にも《鏡割りの寓話》。

 かくして3ゲーム合計1時間にも及ぶシーソーゲームの果てに、卯月が《黙示録、シェオルドレッド》という邪悪を打ち砕き、見事決勝進出を決めたのだった。

卯月 2-1 Lull

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