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グランプリ・シンガポール2018

戦略記事

デッキテク:行弘 賢の「黒緑・殺戮の暴君」

Kazuki Watanabe

 《ゴブリンの鎖回し》か、青系コントロールか。

 グランプリ・シンガポール2018のメタゲームは大きく二分されている。正確に述べると、《ゴブリンの鎖回し》側は赤単と赤黒に分かれ、そこに青系コントロールが合わさって「三つ巴の戦い」を繰り広げている状態だ。

 では、このいずれにも有利を取れるデッキがあるとすれば?

 それは、言うまでもなく「最強」である。

 そして、世界中のデッキビルダーたちは「最強のデッキ」を目指し、デッキを構築する。日本が誇るデッキビルダーである彼も、同じくだ。

deck_yukuhiro1.jpg

 行弘 賢

 プロツアー『ドミナリア』で使用した「黒緑ランプ」は、英語公式のビデオカバレージで紹介されるほど話題となった。今回のグランプリには、現在のメタゲームに合わせて調整した「黒緑・殺戮の暴君」を持ち込んでいる。

 すでに解説記事も書かれ、本人も配信で使用しているため、デッキの基本的な動きを知っている人も多いことだろう。そこで今回は、プロツアー後のメタゲームに合わせた変更点と、デッキを生み出す秘訣について伺ってみた。

 そしてその背景には、世界最強の仲間たちが存在していた。

現在の環境で勝利するために

――まずはプロツアーで使用したデッキがこちらですね。

行弘 賢 - 「黒緑ランプ」
プロツアー『ドミナリア』 / スタンダード (2018年6月1~3日)[MO] [ARENA]
4 《
3 《
4 《森林の墓地
4 《花盛りの湿地
3 《ハシェプのオアシス
3 《イフニルの死界
1 《屍肉あさりの地
1 《オラーズカの拱門
1 《廃墟の地
1 《進化する未開地
-土地(25)-

2 《むら気な長剣歯
2 《殺戮の暴君
-クリーチャー(4)-
4 《致命的な一押し
3 《強迫
2 《喪心
1 《アルゲールの断血
1 《造反者の解放
4 《楽園の贈り物
4 《ヴラスカの侮辱
4 《約束の刻
1 《不帰 // 回帰
3 《ウルザの後継、カーン
1 《生命の力、ニッサ
3 《秘宝探究者、ヴラスカ
-呪文(31)-
4 《光袖会の収集者
1 《打ち壊すブロントドン
1 《豪華の王、ゴンティ
1 《殺戮の暴君
1 《歩行バリスタ
1 《強迫
1 《菌類感染
1 《魔術遠眼鏡
1 《大災厄
3 《ヤヘンニの巧技
-サイドボード(15)-

――プロツアーが終わり、メタゲームが動きましたよね。どのような変更を加えたのでしょうか?

行弘「当時は赤黒ミッドレンジ、コントロールといった少し重たいデッキに強い構成にしていました。ですが、その後少しずつ環境が前のめりになったので、そういったデッキを意識した構成にしてあります」

行弘 賢 - 「黒緑・殺戮の暴君」
グランプリ・シンガポール2018 / スタンダード (2018年6月23~24日)[MO] [ARENA]
4 《
3 《
4 《森林の墓地
4 《花盛りの湿地
4 《イフニルの死界
3 《ハシェプのオアシス
2 《屍肉あさりの地
1 《オラーズカの拱門
1 《進化する未開地
-土地(26)-

3 《殺戮の暴君
-クリーチャー(3)-
4 《致命的な一押し
4 《喪心
1 《アルゲールの断血
1 《造反者の解放
4 《楽園の贈り物
2 《大災厄
4 《ヴラスカの侮辱
4 《約束の刻
2 《不帰 // 回帰
4 《ウルザの後継、カーン
1 《秘宝探究者、ヴラスカ
-呪文(31)-
4 《光袖会の収集者
1 《打ち壊すブロントドン
1 《豪華の王、ゴンティ
4 《強迫
2 《菌類感染
1 《魔術遠眼鏡
2 《秘宝探究者、ヴラスカ
-サイドボード(15)-

――なるほど。では、今回使用しているデッキリストでは《秘宝探究者、ヴラスカ》や《強迫》がサイドに……メインでは《喪心》が4枚になって、軽い除去が増えていますね。

行弘「そうですね。やはり《ウルザの後継、カーン》の強さが際立っていて、2ターン目と3ターン目に除去を唱えて、更地に《ウルザの後継、カーン》を降り立たせることができれば、その段階ですでにかなり有利です。そこからは、ひたすらアドバンテージを稼いでくれますからね。その他の部分も、現在のメタゲームで勝てる構成を目指しています」

――では、現在のメタゲームについてもう少し詳しく教えてください。この環境で勝てる構成、というのは具体的にどのようなものなのでしょうか?

行弘「この環境では、クリーチャーが入っていないデッキを使うか、もしくは《ゴブリンの鎖回し》を使うか、という二択だと思っています。《巻きつき蛇》のようなデッキももちろん存在するのですが、生半可なクリーチャーは《ゴブリンの鎖回し》の餌食になるだけですからね」

――そして、行弘さんは前者を選んだわけですね。《ゴブリンの鎖回し》を使う、という選択肢も考えたのですか?

行弘「もちろん考えました。このデッキではまったく勝てないな、という状態だったら使っていたと思いますね。ただ、赤いデッキに関してはほとんど経験がなかったので、これから赤いデッキを使いこなすためにリソースを投じるよりは、プロツアーに向けて練習してきたデッキをアップデートするほうが良いかな、と思ったんですよ」

――なるほど。基本的な構成はプロツアー前と変わっていないので、デッキの強さはまだまだ顕在、ということですね。

行弘「環境の主軸になっているデッキと、十分に戦える強さを持っていると思います。以前の構成と比べると、メインでは青白コントロールに対して若干不利になっているのですが、サイドボード後は十分に戦えますからね。除去を抜いて、《強迫》などをサイドインすれば良いだけなので」

 

行弘が語る、「言語化の重要性」

――今回のデッキを始めとして、行弘さんは独創的なアイディアでオリジナルなデッキを生み出し、見事に結果を残していますよね。どのようにデッキを生み出しているのですか?

行弘「とにかく、スクラップビルドですね。作っては崩して、をひたすら繰り返します。ただ、環境初期の段階で正解に出会うことはほとんどないんですよね。重要なのは、環境が煮詰まって、ある程度強いデッキが決まった段階です」

――まさに、プロツアー、そして現在の環境ですね。

行弘「そうですね。《ゴブリンの鎖回し》を使ったデッキと、コントロールに強いデッキを生み出せるか? と考えて、いろいろなアイディアを投じて原型を作り、細部を詰めていく感じですね」

――細部を詰めていく上で重要なことはありますか?

行弘「言語化できるか、ですね。デッキリストを見た人から『このカードはどうして入ってるんですか?』『あのデッキにはどうやって勝つんですか?』なんていう質問を受けたときに、明確な答えを出せるかどうか。これがとにかく重要なんです。誰かにしっかりと言語化して説明できないということは、デッキがまだまだ弱い、調整が甘いという証拠なので。相談というか、意見をくれる仲間の存在は大きいと思いますね」

――なるほど。行弘さんの場合、世界最強の相談相手たちがいますよね。

Musashi_Team.jpg

行弘「そうですね。『武蔵』の面々は、本当に頼りになります。例えば、僕がオリジナルのデッキを作った場合、世界トップレベルのメンバーを納得させなければならないんですよ。中途半端なデッキだったら『こっちの方が良いよ』で終わりです。彼らが『なるほど。確かに強いね』と言ってくれたならば、間違いなく環境での立ち位置は良いはずですから」

――たしかに、『武蔵』のみなさんが納得したのならば、自信が持てますね。

行弘「そうやって言語化する段階で、自分のアイディアや、思考回路がブラッシュアップされていくんですよ。言うまでもなく、『武蔵』の面々はしっかりと思考を積み重ねて、環境を読み解いているわけですから、彼らの言葉から気付かされることは多いです。あと、これはデッキビルドだけじゃなくて、プレイでも一緒なんですよね。『なぜ、その呪文をプレイしたのか』『どうして、攻撃をスルーしたのか』なんていう、ひとつひとつのプレイにも、しっかりとした言葉で説明できる理由があるはずですから」

 

 言うまでもなく、行弘 賢は日本のトッププロである。プレイヤーとしても、デッキビルダーとしても、彼の実力が高いことは言うまでもない。しかし、プレイヤーとしての実力のみならず、「観られる立場」としての立ち振る舞いを心得ている、という意味でも、彼には「トッププロ」という言葉がふさわしい。何度も取材をし、彼の言葉を直接聞いてきた私は、そう確信している。

 そして、言語化の重要性を語る彼を見て、その確信は一層強いものとなった。

 私が最後に投げかけた、「ファンに向けてメッセージを」という問いに対する答えも、実に彼らしい……つまり、プロプレイヤーらしい、彼のマジックに対する思いが言語化されたものであった。

deck_yukuhiro2.jpg

行弘「これからも、できる限りオリジナルなデッキを生み出して、活躍をしたいと思っています。そして、それをしっかりと皆さんに届けられるようにしたいんですよね。そうすることで、僕自身も気付くことがありますからね。マジックの面白さをもっと伝えていきたいと思っていますので、応援よろしくお願いします」

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