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グランプリ・シンガポール2018
「英雄譚」ゴールドレベル・プロ、熊谷陸の求め続ける場所
熊谷「初めてのグランプリのプレイオフに進出できたあの時は、嬉しい気持ちの方が大きくてあまり緊張は感じずプレイできたと思います」
2016年。19年の時を経て東京にグランプリが帰ってきた。日本のスタンダードイベントで最大の3335人を集めたグランプリで優勝を果たした熊谷陸は懐かしそうに当時を振り返った。
当時宮城の強豪としてプロツアー出場を何度か経験していた彼は、この優勝をきっかけにプロ・プレイヤーズ・クラブを駆け上がり、今期はプロツアーへ年間を通して参戦できるゴールドレベル・プロの座を手にした。
世界でも限られたプレイヤーしか手にすることのできないゴールドレベル、「英雄」たちの世界に足を踏み入れた彼の思いと軌跡を追った。
Ⅰ マジックとの出会い、そして競技プレイへ
熊谷がマジックを始めたのは中学生の時、『ラヴニカ:ギルドの都』を手にとった彼は地元盛岡の友人を誘いカジュアルにこのゲームを楽しんでいた。
高校生になってからはマジックと距離を置いていた熊谷だが、転機となったのは『ゼンディカー』のころ。進学により仙台へ引っ越すと、「五城楼杯」を始めとした草の根イベントへ積極的に参加するようになる。
彼が頭角を現すのに時間はさほど変わらなかった。「ポンッと権利が取れた」というプロツアーに初出場を果たすと、熊谷はより大きな情熱を持ってマジックへ向かうこととなる。
そこから彼は、仙台での草の根トーナメントが減少したこともあり、グランプリやプロツアー予選といった競技イベントへのめり込んで行く。
熊谷「プロツアーで戦い続けたいと思ったんです」
熊谷の根源となる思い。
Ⅱ グランプリ優勝、そして
その後もグランプリと年に一度ほどのプロツアー出場を続けていた熊谷だったが、連続でのプロツアー出場はなかなか叶わなかった。それでも前を向き続け、グランプリ・名古屋2016の好成績により権利を獲得したプロツアー『イニストラードを覆う影』。
結果は10勝5敗1分。
次回プロツアーの権利を獲得するための11勝5敗に一歩届かない、熊谷にとってはもどかしい結果となった。
失意の中、熊谷はそのプロツアー『イニストラードを覆う影』で使用したデッキを微調整しグランプリ・東京2016へと臨んだ。
結果は、自身初のプレミア・イベント入賞からの優勝。
このシーズン、シルバーレベル・プロとなった熊谷は念願のプロツアー連続出場を成し遂げると、またしても大きな転機を迎える。
数々のプレイヤーをサポートしている「晴れる屋」から期待の若手としてオファーを受けたのだ。
そうして「Hareruya Hopes」として活動を始めることとなった2016−2017シーズン。熊谷はグランプリ・北京2018トップ8入賞など好調を保ち、翌シーズンには1年間プロツアーへの参加が保証されるゴールドレベル・プロの座を手にすることとなる。
文字通り「プロ」となった熊谷は「Hareruya Pros」としてより大きな期待を戦いを続けている。
Ⅲ プレイヤーとして、プロとして
そうして迎えた今シーズン。熊谷はプロツアー・チームシリーズにも「Kusemono」の一員として参加し、名実ともにトッププロの仲間入りを果たしている。そしてそれは単にプロツアーでプレイできる、ということには留まらない。単にマジックをプレイしていたころとは違い、その立場に恥じない立ち居振る舞いを心がけるようになったという。
熊谷「やはり人に見られる立場になったと思いますし、他のプレイヤーに『また対戦してもらいたい』と思われるように、誠意を持ってプレイするよう意識しています」
熊谷は自らの立場に大きな期待と責任を感じている。
それでも、今も原点は変わらない。
マジックを始めた時期が近いこともあり、熊谷と私はインタビュー中、少しの間思い出話で盛り上がった。
その話題は「かつてのプロツアー予選(PTQ)」。
今のプロツアー予備予選(PPTQ)とプロツアー地域予選(RPTQ)という二段階の予選システムになる前は、年に幾度か日本各地で一発勝負の予選トーナメントが行われていた。
思い出補正もあるのだろうが、そのころのプロツアー予選の空気は息も詰まるような緊張感が漂っていたように記憶している。
その話を熊谷にふると「そう!そうなんです!」と大きく声を弾ませ、「あのピリっとした空気とプロツアーの空気は似通ったものがあって……そういうゲームができたらいいなと思ってマジックを続けてます」と続けた。
熊谷にプロとなった今、目標について聞くと返ってきた答には彼の責任感と思いが凝縮されていた。
熊谷「ただプロツアーでプレイするだけでなく、模範となれるようなプレイができればいいなと思います」
かつて盛岡でマジックを始めた少年は、今や日本のトッププロになり、そして世界に羽ばたこうとしている。
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