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グランプリ・静岡2018(スタンダード)
決勝:夏目 拓哉(神奈川) vs. 中島 篤史(神奈川)
いつからマジックをしていれば、「古い」プレイヤーだと周りに呼ばれるのだろうか。
いつマジックをはじめていれば、「新しい」プレイヤーだと人に言われるのだろうか。
そこに明確な決まりがあるわけではない。
『アルファ版』の発売以来25年マジックを遊びつづけるプレイヤーも、昨日グランプリ会場でマジックを知った『ラヴニカのギルド』からのプレイヤーも等しく同じマジック・プレイヤーだ。
今日グランプリに参加していたプレイヤー、誰しもが同じく優勝を志す。
プレイヤー紹介
「これが2回目のグランプリ参加」だと話す中島 篤史も、グランプリ・トップ32入賞を「3回」しているとプロフィールに記載する夏目 拓哉も、2人とも同じくマジック・プレイヤーだ。
そしてこの2人が優勝トロフィーと賞金と名誉を懸け、グランプリの決勝の座についている。今日会場で最後に戦う2人だ。
グランプリ・静岡2018(スタンダード)。レガシーとのダブル・グランプリとなった今大会は、それぞれのフォーマットでグランプリ・チャンピオンを輩出することが決まっている。
レガシーは昨日決まった。3度目の戴冠を果たした、覚前 輝也だ。「エルドラージ・ストンピィ」を使い、決勝戦では不利な相性とうたわれた「赤単プリズン」に劇的な勝利を収めて優勝した。
もう1人のグランプリ・チャンピオンは、これから決まる。中島か、夏目か。
中島はマジック歴およそ2年と少しで2回目のグランプリ参加だと話すが、実はすでにプロツアーへの参加経験がある。今年8月に開催されたプロツアー地域予選で権利を獲得してのプロツアー『ラヴニカのギルド』だ。
そのプロツアー地域予選では《ケルドの炎》型赤単を用い1位抜けをしているし、プロツアー本戦でも10勝6敗という好成績で実力の証明はしっかりと済んでいた。
先ほどもがぷり四つのロングゲームとなったゴルガリ・ミラーマッチを制してきたばかりで肩はあたたまっている。
対する夏目は1999年からマジックを遊びはじめ、20年の間に培った交流の広さを持つプレイヤーだ。所属するコミュニティでは主軸の立ち位置であり、「茶鴨」という愛称でも親しまれている。レベル・ジャッジとしてイベントに参加する姿を見たことのあるプレイヤーも多いことだろう。
今スタンダードもしっかりと練習を積んできており、デッキ選択をしている。予想していたメタゲームとは多少異なっていたようだが、その差分は熟練した腕で補完してきている。
中島と夏目。互いに同じ神奈川で活動するが、マジックの遊び方も考え方も、コミュニティとのかかわり方も異なる2人が、同じく決勝の席についた。
夏目「実は、どちらかというとレガシーに注力していたんだけど」
自らがスタンダードの決勝の舞台にいることを不思議がるような発言を見せる夏目。
中島「1日目をどう楽しむか、くらいしか考えてなかった」
グランプリがはじまる前まで、「14勝1敗」という会場一番のスコアでトップ8入賞を果たすことになるとはつゆにも思っていなかったという中島。
2人ともが今このスタンダード・グランプリの決勝の舞台に立っている事実を、良い意味で幸運だと感じているようであった。
顔色にも緊張の面持ちを思わせることもないままイベントは進行し、2人はヘッドジャッジから相手のデッキリストを受け取っていた。
夏目「ノー・バイですか!?」
中島のデッキリストを見て、夏目が声をあげた。
今回のグランプリでは不戦勝を持つプレイヤーは全員がオンラインでのデッキリスト提出という形が採用されていたため、交換用のデッキリストはそれを印刷したものを使用していた。
そのなかで中島はグランプリ参加に合わせての手書きでの提出であり、その実物が夏目に手渡されていた。
それはつまり、「不戦勝を持たずに第1回戦から参加し、この決勝まできた」ことを暗に示していた。
中島「ノー・バイです!」
中島はグッと親指を立てる。スイスラウンド14勝1敗、シングルエリミネーション2勝。「17戦16勝」というスコアを今使うデッキで記録していることになる。
勝率に直せば、94%。この驚異的としか形容のしようがないスコアに、夏目も「すごいですね」と驚きを隠せなかった。
デッキ紹介
手書きと印刷、それぞれに出力方法は異なるが、示す情報は75枚のデッキリストであることに変わりはない。
7 《森》 5 《沼》 4 《草むした墓》 4 《森林の墓地》 1 《ゴルガリのギルド門》 2 《愚蒙の記念像》 1 《探知の塔》 -土地(24)- 4 《ラノワールのエルフ》 4 《マーフォークの枝渡り》 3 《野茂み歩き》 1 《探求者の従者》 4 《翡翠光のレインジャー》 2 《真夜中の死神》 2 《貪欲なチュパカブラ》 2 《破滅を囁くもの》 2 《殺戮の暴君》 -クリーチャー(24)- |
2 《喪心》 3 《ヴラスカの侮辱》 3 《採取 // 最終》 1 《ゴルガリの女王、ヴラスカ》 2 《ビビアン・リード》 1 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -呪文(12)- |
2 《打ち壊すブロントドン》 1 《貪る死肉あさり》 1 《殺戮の暴君》 3 《強迫》 1 《暗殺者の戦利品》 2 《黄金の死》 1 《略奪者の急襲》 1 《ヴラスカの侮辱》 3 《最古再誕》 -サイドボード(15)- |
中島のデッキは「ゴルガリ・ミッドレンジ」。メインボードは《ゴルガリの女王、ヴラスカ》や《採取 // 最終》、《愚蒙の記念像》などかなり同型戦を意識したリストに仕上がっている。
夏目のセレズニア・トークンとは「《採取 // 最終》を引けるかどうかが全て」と話しており、3枚の全体除去をいかに効果的に引き込み使用するかにかかっているようだ。
4 《森》 8 《平地》 4 《陽花弁の木立ち》 4 《寺院の庭》 1 《オラーズカの拱門》 -土地(21)- 4 《アダントの先兵》 3 《協約の魂、イマーラ》 4 《敬慕されるロクソドン》 3 《不和のトロスターニ》 -クリーチャー(14)- |
3 《軍団の上陸》 4 《苗木の移牧》 4 《ベナリア史》 4 《議事会の裁き》 4 《開花 // 華麗》 4 《大集団の行進》 2 《暴君への敵対者、アジャニ》 -呪文(25)- |
3 《秋の騎士》 4 《無効皮のフェロックス》 3 《不可解な終焉》 1 《一斉検挙》 1 《イクサランの束縛》 1 《残骸の漂着》 1 《暴君への敵対者、アジャニ》 1 《ビビアン・リード》 -サイドボード(15)- |
《暴君への敵対者、アジャニ》や《オラーズカの拱門》など夏目も長期戦・消耗戦を明確に意図したカードを採用している。
特に顕著なのはサイドボードの《無効皮のフェロックス》だろうか。序盤の《貪欲なチュパカブラ》や《採取 // 最終》を乗り越えつつ《殺戮の暴君》を食い止めるキラー・カードとしての活躍を見越せるカードが、4枚。
それぞれどのような展開で活躍を見せるのか、互いのデッキが最後の活躍を見せる決勝戦が、いよいよ始まる。
夏目 拓哉 vs. 中島 篤史 |
ゲーム1
中島が「がんばりましょう」と声をかけ、ゲームが始まった。
《貪欲なチュパカブラ》といくらかの土地があるという、ミッドレンジ気味の初手をキープした中島。
夏目は《軍団の上陸》《アダントの先兵》《ベナリア史》と格好のスタートを切れそうな初手でゲームを始める。
初手のとおり、 夏目の攻勢でしばらくゲームが進んでゆく。
先手4ターン目に中島の《貪欲なチュパカブラ》が《ベナリア史》の騎士・トークンを破壊した。
夏目の盤面支配力が若干高い比重のまま、ここからお互いがどう動きだすかだったが……夏目の手札に、続けられるプレッシャーをかけるカードが少ない。
《オラーズカの拱門》をセットし、《アダントの先兵》をプレイ。来たる《採取 // 最終》に備えて、《苗木の移牧》は手札に貯める選択をした。
中島は《野茂み歩き》と《探求者の従者》を同時に展開し、ライフを取り戻してゆく。
特に《野茂み歩き》の2/4というサイズは《アダントの先兵》のアタックを食い止め、ゲームスピードをゴルガリにとって得意な遅いものへとシフトさせる。
ここで夏目は引き込んだ《不和のトロスターニ》を展開して《アダントの先兵》を育てて攻勢に向かわせるという選択肢もあったが、すでに中島は5マナに到達している。
ライフをいくらか攻めたとしても、ここで展開すると《採取 // 最終》で全てが流れることで攻め手を失うことを嫌った。
《苗木の移牧》をキッカーでプレイして《採取 // 最終》を「撃たせて」から、《不和のトロスターニ》を展開する順序を選んだ。
実際、そこまでは夏目の思惑通りにゲームが進んだ。だがカウンターを合計3つ乗せた《野茂み歩き》が残った盤面に、中島が《翡翠光のレインジャー》を追加すると一気に話が変わった。
フィニッシャークラスに肥大化した《野茂み歩き》が、《不和のトロスターニ》とライフレースを始める。
チャンプブロックと《アダントの先兵》の破壊不能で何度かアタックをしのぐものの、ライフかクリーチャーかのどちらかがじりじりと減っていく。
中島 篤史 |
それでも「土地をもう1枚引きこみ6マナにして手札の《開花 // 華麗》が打てれば、よもや」という盤面もあったが、残念ながらドローが応えてくれなかった。
夏目の6枚目の土地より先に、すでに6マナが用意されている中島のもとに追加のフィニッシャーである《殺戮の暴君》がライブラリーから届けられることとなった。
夏目 0-1 中島
ゲーム2
《無効皮のフェロックス》を中心に、中長期戦をよりハッキリとイメージしたサイドインを行う夏目。
中島はもちろん《黄金の死》のように横並びを意識したカードを入れて、よりコントロール気味にシフトしてゆく。
「先手いただきます」と声をかけた夏目だったが、「ちょっとお待ちください」と脇に置いていたお茶のペットボトルを手にした。中島も合わせて、水分を補給する。
ここまで緊張らしい緊張の様子を見せない2人だったが、この一息であらためて気を引き締めた様子だった。
ゲーム2は後手中島の1ターン目《強迫》から動き始める。
公開されたカードは3枚の土地と《協約の魂、イマーラ》、《アダントの先兵》、そして《不和のトロスターニ》。
落とせるものは何もないが、ゲームプランを立てやすくなったというメリットも捨てがたいものだろう。
手札を見られている夏目も、「知ってるでしょ」とばかりに《アダントの先兵》、《協約の魂、イマーラ》と予定調和的な展開をすすめる。
この2体が揃ったところで中島が《黄金の死》を合わせると、カード・カウント的には1対2交換であり、《強迫》が空振りした分は帳消しという勘定になった。
夏目が《苗木の移牧》をプレイした返しに、中島が《翡翠光のレインジャー》で探検を行う。
めくれたカードは、再びのセレズニア・キラーこと《採取 // 最終》。もちろん上に残して、中島はターンを渡す。
このタイミングで《敬慕されるロクソドン》を引いた夏目。
「(相手のライブラリー・トップが)《採取 // 最終》なんですよね……」もらした一言。
ここでこの《敬慕されるロクソドン》を召集で戦場に送り込んでもトークンごとまとめて処理されてしまうため、動けない。
ひとまず《不可解な終焉》で《翡翠光のレインジャー》をよけつつ、アタックを仕掛けてゆく。
翌ターンに引けた《不和のトロスターニ》は、この展開のジレンマを解消するカードだ。
《不和のトロスターニ》をプレイしたあと、《不和のトロスターニ》本体を含めた5体召集で《敬慕されるロクソドン》を唱える。
これで《採取 // 最終》でも2/5の《不和のトロスターニ》と、強化された5/5の《敬慕されるロクソドン》が残る形だ。
「ああー……」
ターンの終了時、声がもれた。声をもらしたのは、盤面を揃えられた中島ではなく、攻め手に回ったはずの夏目。
終了ステップに合わせて中島が示したカードは《ヴラスカの侮辱》。
《不和のトロスターニ》が追放されると、盤面には無数のトークンと《敬慕されるロクソドン》が「タフネス4以下」の状態で残る。
そのまま自らのターンに《採取 // 最終》ですべてを流した中島。ゲーム1同様、この盤面を一掃した《採取 // 最終》がすべてを決めてしまうのか。
しかし、今度は夏目のもとに、解決策が届くのが早かった。
《採取 // 最終》の返しに《無効皮のフェロックス》をプレイ。
これ自身は追加のマナ支払いと合わせて《貪欲なチュパカブラ》で落とされるが、続く《不和のトロスターニ》が生き残る展開となった。
《暴君への敵対者、アジャニ》を使い捨てて《アダントの先兵》《協約の魂、イマーラ》を復活させたあと、2枚目の《暴君への敵対者、アジャニ》で戦線のサイズを上げていく。
夏目 拓哉 |
中島は再びの《採取 // 最終》でクリーチャーたちを流すが、《暴君への敵対者、アジャニ》には触れていない点は大きく異なる。
夏目が再び引いた《無効皮のフェロックス》も追加すると、中島は攻撃を受けきるだけのライフがすでにないことを自ら示した。
中島「投了します」
夏目 1-1 中島
ゲーム3
1勝1敗。ここまで「夏目の展開力対、中島の対応力」というような構図が続いた。
お互いが7枚をキープしてゲームが始まると、ゲーム3はこれまでと大きく構図が変わることとなった。
先手1ターン目。中島、《森》から《ラノワールのエルフ》スタート。
後に「頭に全然なかった」と話すように、《ラノワールのエルフ》の登場に驚きを見せる夏目。
環境最軽量のマナ加速を止める手立ては、「セレズニア・トークン」というデッキではごくごく限られてしまう。
加えて夏目の今回の初動は《協約の魂、イマーラ》だ。これが3ターン目《貪欲なチュパカブラ》で破壊される。
続ける《ベナリア史》こそ順調にトークンを生み出すものの、トークンを活用するための《敬慕されるロクソドン》には《ヴラスカの侮辱》が当てられてしまう。
ゲーム3は中島の行動が夏目の先を行くことが続いた。《破滅を囁くもの》展開で夏目の《ベナリア史》のⅢ章による攻撃までも完封。
他のカードで横に並べようとすれば《貪欲なチュパカブラ》がそれを制する。
《破滅を囁くもの》の起動型能力で「トップ、トップ」と宣言してから引いた《採取 // 最終》を撃って《破滅を囁くもの》だけを戦場に残す「攻め」の一掃を行うと、夏目に返す手立ては残されていなかった。
夏目 1-2 中島
試合終了後
話の通り、全ゲームを通して《採取 // 最終》を活かしきった中島が夏目の横の展開を抑えきり、勝利をおさめた。
『霊気紛争』からスタンダードをはじめて2回目のグランプリ参加だという中島の勝利。
対して20年間マジックを遊び続けてきた夏目が敗れた。
マジックの勝敗はかけた年月の長さではないことを象徴している。
ただ、マジックのイベントの締めくくりは勝ち負けの結果だけではないことも同時に示していた。
準優勝の夏目がゲームの席から離れると、準優勝をたたえるため友人・仲間たちが多く集まり彼に続けて声をかけた。
夏目の長いキャリアは、彼自身のキャリアだけでなく、たくさんの交友関係を作っていた。
「嬉しいし、一番悔しいの俺分かるよ」。今回の夏目と同じくグランプリ準優勝の経験がある井川 良彦もそのうちの一人だ。
嬉しい。悔しい。相反しながらも両立する気持ちを産む準優勝という結果をたたえる友人たちに、「ありがとう」と言葉を返す夏目の姿があった。
この決勝のあと、中島は動画配信での優勝者インタビューにて「これを期にマジックの友達を増やしたい」と話した。
きっとこれから中島の友人は、その想いに応える形で増えてゆくことだろう。
しかし、その理由は今回グランプリを優勝したからだけではない。
動画を通して、記事を通して、対戦相手への声かけやマジックに対する姿勢に、そして実際のゲーム中の姿勢の良さに、中島の人柄の良さを見出すプレイヤーはきっと多いはずだ。
「良い姿勢でゲームに挑めば、デッキが応えてくれる」 笑いながらそう話す中島の背筋はピンと張っている。
これからカードショップで会ったとき、大会で対峙したとき、これ読んだ皆さんもぜひ彼を祝福してほしい。
新たなプレイヤー。新たな、良き、プレイヤー。中島 篤史、優勝おめでとう!
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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