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グランプリ・静岡2014

観戦記事

準々決勝:彌永 淳也 (東京) vs. 高尾 翔太(東京)

By Masami Kaneko

 富士の頂、静岡の都。

 山頂を目指す権利を手に入れたのは、たったの8人。

 もう目の前、あと三歩。しかしこの三歩こそが、とてつもなく重い。

 まずは第一歩を踏み出すべく席に着いたのは、彌永 淳也と高尾 翔太。

元世界チャンピオンである彌永にとっては、グランプリのトップ8も慣れたものだ。緊張など感じさせず、いつも通りふらっと席に現れた。

 一方の高尾にとっては初の大舞台。緊張の面持ちで席につく。


 お互い静かに席に着くと、デッキをシャッフルし始める。
 元世界チャンプたる彌永が、早速「そのデッキ良いですね」と話しかける。
 はにかみ、照れ笑いながら高尾が「有難うございます」と応える。
 彌永は「正直キツいかも......。」と愚痴を零す。

 普通の会話。とても一般的な会話だ。

 しかし彌永が、「あの」彌永が他のデッキを褒めている。彌永はストイックであり正直だ。毒とも取られるような厳しいその言葉は「彌永節」と呼ばれることもある程に正直だ。他人をお世辞で褒めたりしない。自分が思ったことは素直に言う。その彌永が相手のデッキを褒め、そして「キツい」と話す。それ程に高尾のデッキは素晴らしい物なのだ。

 彌永の使用するデッキはエスパーコントロール。高尾はエスパー人間ミッドレンジ。

 戦略記事でもフィーチャーさせていただいた高尾は、今売り出し中ともいえる若手だ。デッキの強さと確かな実力で高尾は予選ラウンドをトップで通過した。14勝1敗、実に堂々たる成績だ。予選ラウンドを一位で駆け抜けた高尾が「先行で」と告げ、大切な試合が始まる。


彌永vs.高尾
ゲーム1

 彌永がマリガン。高尾にとっては初めての大舞台。彌永のマリガンを待つ間も手に力が入り震えている。

 高尾が《万神殿の兵士》を2枚連打するところからゲームは始まる。彌永は《欺瞞の神殿》を置き、山札の上の《思考を築く者、ジェイス》と見つめ合ったうえで彼の助力を乞うことにした。

 高尾は黒マナこそ用意できずに手札の《ザスリッドの屍術師》などが展開できないものの、《変わり谷》を場に置いて静かにクロックを突きつける。《解消》を抱えている彌永にはこれが辛い。

 4ターン目、彌永は少考。手札の2枚ずつの《解消》と《拘留の宝球》では解決にならない。《思考を築く者、ジェイス》をプレイするのは確実だ。問題はどの能力を使用するか。[+1]の延命能力か、[-2]で解決策を求めるか。かの強力なプレインズウォーカーからどのような助力をもらうのか、彌永は思考する。

 彌永の結論は[-2]。単純な盤面ならば[+1]が正解だ。この[-2]はつまり、高尾の手札に《拘留の宝球》があると読んでのプレイだ。実際にこの時高尾は《拘留の宝球》を抱えており、もしも[+1]を使用したら彌永の負けはほぼ確定、「詰み」となっただろう。しっかり読みきった彌永のプレイが光る。

 とはいえ、盤面は辛い。現在のところ、高尾の2枚の《万神殿の兵士》と《変わり谷》に対処できないのだ。どうにかジェイスの助力で《破滅の刃》《肉貪り》を手札に加えてターンを返す。返しの《変わり谷》を含めた攻撃で《思考を築く者、ジェイス》が役目を終えた。


彌永 淳也

 彌永は《神無き祭殿》をアンタップで戦場に置き、高尾の攻撃に対して《肉貪り》《英雄の破滅》を合わせ、どうにか2点のライフで踏み止まるものの、最後のクロックである《万神殿の兵士》に対して手札の《拘留の宝球》達は無力なのだった。

彌永 0-1 高尾

 しかたないといった顔でカードを片付けサイドボーディングに入る彌永。事前には笑顔で談笑していたが、今の顔は真剣そのもの。サイドボーディングを終え、何かを考えるようにシャッフルに入る。

「《思考を築く者、ジェイス》の時、《拘留の宝球》持ってました?」

 自身のプレイを反芻し、正しかったのか振り返る彌永。高尾の「持っていた」との回答に、どこかほっとしたような顔でシャッフルを続けた。

ゲーム2

 お互いに手札を見て即座にマリガンを宣言。彌永は土地が2枚と少し不安な手札をキープする。高尾はさらにマリガンを重ね、5枚でのスタートとなってしまった。

 高尾の《果敢なスカイジェク》がファーストアクション。土地が2枚で止まってしまった彌永は、手札の《今わの際》を悲しそうな目で見つめている。とはいえ白マナを引いて《鬼斬の聖騎士》が展開できれば、と思われるシーンだ。そして高尾もまた土地が2枚でストップしてしまう。


高尾 翔太

 先に3枚目の土地を引いたのは高尾だった。これまた《今わの際》の効かない《リーヴの空騎士》が展開される。彌永もどうにか《欺瞞の神殿》を置くが、この「タップ状態で戦場に出る」のたった一言が彌永の希望を消していく。

 頼みの《至高の評決》さえも《思考囲い》で落とされ、4枚目の土地も引けなかった彌永に抵抗の術は無かった。

彌永 0-2 高尾

 勢いのある高尾は、相手の不運にも助けられ準決勝に進出を果たした。様々な人に「禍々しい」「本当に回るのか」と言われ続けたデッキを携え、グランプリの予選を一位で通過し、そしてその優勝という山頂への道を一歩進めた。もはやフロックでは無いだろう。ただの若手では無いだろう。高尾の実力は、本物だ。


 一方の彌永としては、不運に見舞われ言うなれば「ツいてなかった。」と愚痴をこぼしても良いようなゲームだ。しかし彌永の考えは違う。

彌永「自分はデッキの選択も最善だったかわからないし、今日何度もプレイミスをした。やる気に溢れているわけでもない。自分よりも、彼が勝つほうがマジックというゲームにおいて相応しい。」

 彌永は、どこまでもストイックであり、誰にでも厳しい。そう、自分に対してさえも。

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