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グランプリ・神戸12
ラッシュと学ぼう~シールドの秘訣~
by Jun'ya Takahashi
今回の『グランプリ・神戸2012』は、初日に「イニストラード」3パック+「闇の隆盛」3パックの『シールド戦』を9回戦、二日目には初日の成績上位者によるイニストラードブロックの『ブースタードラフト』3回戦を2回と、参加者は計15回戦の長丁場を戦うこととなった。その後に16回戦終了時の上位8名によるプレーオフが行われ、栄えあるグランプリチャンピオンが決定する。
今回のような限定戦における二日制のトーナメントの肝は、プレイする種目が『シールド』と『ブースタードラフト』の2つに分かれている点にある。
構築戦のように二日間を同じデッキで戦いぬく形式とは異なるため、参加者には『シールド』と『ブースタードラフト』の二種目における豊富な知識と経験が問われる。また、二日目に進出する為には初日に好成績を収めなければならないことも事態を複雑としている。
初日の『シールド』を勝ち抜かなければ二日目の『ブースタードラフト』をプレイすることすら叶わないからだ。これは『ブースタードラフト』の自信があるだけでは二日目に辿りつけない可能性を示している。
もちろん、初日の『シールド』を得意としていても、二日目の『ブースタードラフト』での成績が振るわなければ15回戦が終了した時点での成績上位に名前を連ねることは難しい。どちらにしろ参加者に求められていることは2種目をバランス良く戦いぬく実力には違いない。
ただ、目前にある足切りラインを越えなければ未来が無いことには変わりないことも事実である。そこの比重も含めて、今回は"常勝"と呼ばれるトッププレイヤー達にグランプリを勝ち抜くコツをこっそりと教えてもらおう。
石井 「青白は除去能力がどうしても不安だから、今回はちょっと無理して使ってみることにした。《スカースダグの剥ぎ取り》の必要性は分からないけれど、ハマれば強いカードは好きだし。」
ただ、思い通りのカラーコンビネーションではあるものの、『回避能力』という点においては不安があるとも続けていた。青と白を使用しているにしては飛行クリーチャーがとにかく少なく、《霧のニブリス》と《鎮魂歌の天使》の2枚程度しかいなかったのだ。やや不安の残る出来栄えらしいが、前回チャンピオンの活躍には期待がかかる。
やはりキーワードは『軽量クリーチャー』なのだろうか。今回の渡辺のデッキは"既に十分に強力な内容"だということが前提であることは忘れてはいけないが、カードの強さだけに引っ張られず、対戦相手や環境における最適戦略を冷静に選択したことは堅実な彼の性格らしい。
渡辺 「サイドボードからも入れ替えられるしね。対戦相手に合わせて色なんてコロコロ変えるよ。だからこそメインボードは無理せずバランス良くって思ったんだ。」
そこで口を挟んだのは八十岡だった。
八十岡 「色を選べるなんて恵まれ過ぎだろ。」
無言で差し出された八十岡のカードプールには、余り使用する機会が無いであろうカードが大勢眠っており、青緑黒という八十岡が大好きな3色はそれらに食い潰されてしまっていた。
だが、残った赤と白は《護符破りの小悪魔》《血の抗争》《地獄の口の中》2枚を筆頭に構成された強力な布陣だ。すこしクリーチャー陣が心許ないが、それを補うだけの除去呪文は持っている。これでも文句があるのか。十分に強いんじゃないのかな、と首を傾げていると、
八十岡 「色が選べるのが恵まれているって言っただけだよ。このデッキ?まあいいんじゃない?ちょっと重すぎるかもだけど。」
5枚も入っている6マナ域を指さしながら、いつものヤソ節を歌ってくれた。どうやら《血の抗争》はバランス調整の末に不採用としたようで、渡辺がコメントした『カードパワーだけを追求するのではなくバランス調整が重要』という点には無言の同意を示してくれた。
相手の脅威に対応することが重要であれば、それを相手に強いることも同様に重要に違いない。渡辺と八十岡がポイントとして取り上げた『カードパワーよりもバランスを意識する』とは、あくまでもカードパワーを優先した上で、それらを尊重しすぎないように心掛ける歯止めなのだ。強いカードは使おうというのが基本にあってこその応用である。
中村 「最後はこの環境ならではといった点なのですが、早い軽量クリーチャーを主軸にしたゲーム展開の早いデッキも会場には少なからず存在します。そこで、カードの速度のぶつけ合いだけでなく、周囲の速度へと対応できるだけの序盤を支えるカードがあることを確かめることです。」
カードパワーが影響し始めるのは、それらの強くて重いカードを使用できるだけのターンを迎えてからになる。それまではいくら強力な一枚であろうと手札に眠ることとなるため、それらを効果的に使用する為には、それらを使用するコンディションを整えることも重要だということだろう。
力弱い前置きとは裏腹に、綺麗に整理された戦略は、聞いただけで自分が上手く構築できるようになったと感じるほどシンプルかつ分かりやすいものだった。
ディフェンディング・チャンピオン
遡ること2年。日本で行われた前回のリミテッド・グランプリは2009年に開催された『グランプリ・北九州』だった。ゼンディカーブロックならではの上陸生物を筆頭にエスカレートした高速環境を制したのは、"何かを引き寄せるマンモス"こと石井 泰介(神奈川)だったことは記憶に新しい。環境は違えどもリミテッドはリミテッド。共通する技術は存在するだろう。彼には今回の構築の注意点と色の選択方法について尋ねてみた。 石井 「青白がとにかく強い色の組み合わせだから青白をやりたいね。」 こんな言葉から話を始めた石井は、『回避能力』『低マナから潤沢にある質の良いクリーチャー』という2点を強調して、青白というカラーコンビネーションの強さを主張してくれた。『回避能力』については「地面を止めて上から殴れ」という最高の基本戦術の鍵となるポイントであることはご存知の方も多いだろう。石井はそれを重視してしすぎることはないと力強く肯定している。 2点目の『潤沢な低マナクリーチャー』に関しては、この環境ならではの応用技術だと含めた上で重要なポイントとして取り上げてくれた。 石井 「シールド戦はドラフトと比較してちょっと遅いゲームの傾向があるのが常だけど、この環境では早いゲーム展開を意識するべき。」 これは序盤からこちらの行動を強要する"変身"クリーチャーの存在や各色の優秀な軽量クリーチャーが大きな要因だという。 石井 「で、青白がいいなーと思っていたら、青白しか組めないパックを貰ったんだ。」 《聖トラフトの霊》と《鎮魂歌の天使》が特徴的なパックで、他の色はそもそもデッキを組むための枚数が足りなかった。ただ、石井は青と白だけで構築するのではなく、《スカースダグの剥ぎ取り》と《遠沼の骨投げ》の2枚の黒をアクセントとして加えていた。POYの選択
会場を歩いていると八十岡 翔太(東京)と渡辺 雄也(神奈川)が仲良く歩いていたので話を聞いてみた。彼らと年間最優秀選手賞である『プレイヤー・オブ・ザ・イヤーPOY』のタイトルを取った者同士であると同時に世界トップクラスのリミテッド巧者で知られている。 渡辺 「どう組んでも強いんだけど、その微妙な差の判断が上手くできなかった。もしかしたら間違っているのかもしれない。」 いきなり自信が無さそうな発言が飛び出して困ってしまったが、確かに鞄から取り出したデッキはその言葉通りの出来栄えだった。石井が指摘したように軽量生物が潤沢に採用され、それらの攻勢を3枚ずつある強化呪文と除去呪文でバックアップできる盤石の緑白だ。 タッチで採用されている《扇動する集団》と《硫黄の流弾》も十分に強力で理想的なデッキだ。土地には《ガヴォニーの居住区》もあって文句なしに見える。 渡辺 「いや、だから強いんだってば。でもね、緑じゃなくて黒も良さそうなんだよ。」 そういって取りだした黒いカード数枚には《大天使の霊堂》《悲劇的な過ち》《神聖を汚す者のうめき》2枚を筆頭とする優秀なカードが多く含まれていた。メインカラーである白は不動の位置にあり、相方を黒とするか緑とするかという選択なのだが、筆者の目には黒のカードの方が僅かながら強力に映った。そこで黒を諦めて緑を選んだ理由を尋ねてみた。 渡辺 「確かに黒のカードの方が強力なものが多いね。でも、強力であるってことは重いカードってことでもあるんだよ。やっぱりテンポよくゲームを展開したいし、緑でも十分に強力だからね。黒を使うほどカードの強さを追い求めなくていいかと思ったんだ。」Hatman Returns
八十岡と渡辺といえば、今では日本の代表的なプレイヤーとして世界を股にかけて戦っているが、筆者からすると彼らの無名時代を良く知っているだけに未だに強い実感が持てない。そして、彼らとプレイすることで「ダメだ。こいつら強すぎるよ。」と思い知らされ、プロツアーやグランプリの会場でスポットライトを浴びている姿を見るたびに筆者の馴染みない彼らが浮かんでくるのだが、やっぱり筆者の中の彼らはいつまでも共に青春をMTGに費やした悪友と先輩でしかないのだ。 では、筆者の思う『世界を股にかけて戦う、日本の代表的なプレイヤー達』は誰かと問われれば、私は中村 聡(東京)だと迷わずに答える。『中村聡のマジック:ザ・ギャザリング五輪の書』を読んで育った世代だからかもしれないが、独創的な構築技術や帽子を使ったパフォーマンスを見るために、プレミアイベントのたびに遅いインターネット回線を急かしてページの更新を待った思い出がある。 海外のプロツアーのカバレッジに"Hatman"という愛称と共に載っていたその人が今回のグランプリに居ると偶然耳にした時、筆者の記憶の中では現役の"日本代表"であるNACが語る現環境の攻略法を聞きたい気持ちを抑えることはできなかった。 中村 「あまり詳しく語ることはできないのですが。」 一言前置きした後に、ゆっくりと『シールド』を構築するポイントを3点語ってくれた。 中村 「『シールド』では多くのプレイヤーが強力なクリーチャーを持っています。なので、それに対処する手段は欲しいですよね。少し無理をしてでも除去を積極的に採用する必要があります。」 多くのプレイヤーが受け取ったカードプールの中から最高水準のカードを採用することは当然で、その中には戦場に残ってしまっただけでゲームを終わらせてしまうものも少なからず存在する。そして、それを簡単な前提とするならば、対抗策を持たないことは悪手だということだ。実際に中村は除去の有無を基準に色選択をし、赤と白と黒の除去を含んだ3色のデッキを構築している。 中村 「次に重要なのは、ゲームに勝てる手段を持つことです。除去を持っていても、こちらからゲームを終わらせるだけのカードを採用することは必要になります。今回の私のカードプールでは《異教徒の罰》や《高まる献身》、《頭目の乱闘》がそれに相当するでしょう。やや物足りない感じはあるのですが、今回手にしたカードプールの中ではトップクラスの3枚です。」New Wave
永井 「シールドはドラフトと比べてゲーム展開が遅いので、2マナ圏はそこまで必要無いんじゃないですか?」 ずらっと並んだ3マナ域を最低マナ域に据えた期待のニューカマーは、飄々とした口ぶりで筆者の質問に応じてくれた。つい先日の『プロツアー・闇の隆盛』で鮮烈なトップ4入賞を果たしたことが記憶に新しい永井 守(神奈川)は、先に紹介したトッププレイヤーである4人が歩んできた道を同じように歩き始めている。 永井 「あまりパックが芳しくなくて、この青緑タッチXという組み合わせしか組めなかったので難しかったです。」 《高まる残虐性》や《死体生まれのグリムグリン》、《鏡狂の幻》はパックに含まれていたものの、クリーチャーの総数の都合や、白の除去である《罪の重責》を採用した都合でそれら3枚をデッキに組み込むことができなかったことは残念そうだった。 その分だけバウンスでない相手のカードに触れるカードを重視することで、青緑というベースカラーにも関わらず対応に偏った消耗戦を挑める作りとなっていた。 永井 「とにかくカードプールが弱かったので今回は厳しそうです。せめて事故での負けを減らすために色を減らして、手札に余ってしまう可能性のあるカードも減らしました。デッキに点数をつけるなら?そうですね。60点は確実に無さそうです。」 誰にでも不運はあり、同様に幸運もあるだろう。パックの内容が不運でも、代わりにゲーム中の幸運を手にできるかもしれない。60点以下のデッキだったとしても、安定性を徹底して消耗戦を意識した構成とプロツアートップ4を経験したプレイ技術があれば、幸運を掴むことで明日へと道を繋げることができるだろう。まとめ
全体的に色の選択に自由は無さそうで、組める色で組むというのは多くのプレイヤーに共通していた。その他の事故するリスクとのバランスや、カードパワーだけを追求せずに現在の少し早いと言われるゲームのスピードにしっかりと追いつくことのできる攻勢が大事という点は、皆が口を揃えて指摘していた。 以上がトッププレイヤーたちのコメントと構築手法だったわけだが、一期一会の『シールド』においては、どれだけ技術や戦略を根本的な部分で流用できるか、という応用力が重要だと彼らの話を聞く中で感じた。トレンドや周囲への対応力が求められる『ブースタードラフト』に対して、自身の中の構築技術の引き出しの多さが『シールド』といった技術の違いが見られた気がする。 彼らの意見を試してみるもよし、それは違うと自分なりの意見を固めるもよし。皆さんの『シールド』構築の選択肢の幅が広がれば嬉しい。RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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