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チャレンジャー / ライバルズ / MPLガントレット
世界選手権、4人のチャレンジャー
2021年8月20日
8月8日、日曜日。チャレンジャー・ガントレットにおいて、4人のプレイヤーが勝ち抜き、世界選手権の席を確保した。その4人とはサム・パーディー/Sam Pardee、茂里憲之、アルネ・ハッシェンビス/Arne Huschenbeth、そして佐藤啓輔だ。彼らは皆、デッキ選択、準備そしてタイトな試合のプレイングという大嵐を活かし、どんな競技プレイヤーにとってもキャリアのハイライトとなる成功を収めた。たとえ彼らがプロを目指すプレイヤーであろうが、プロシーンにおける歴戦の勇士であろうが。
彼らのスタンダードデッキの選択のように、4人のプレイヤーたちがこの瞬間に向けて歩んできた道のりはさまざまだった。
サム・パーディーはチャレンジャー・ガントレットに向けて確固たる自信を持っていた。昨シーズン、ギリギリのところでライバルズ・リーグ入りを逃し、競技シーンにおける未来が危ぶまれていたパーディーは、この1年を最大限に楽しんだ。
「パンデミックの間、プレイしていたのはただ面白いと思うものだった。僕にとってのそれは、たくさんのリミテッドと、たくさんのモダンだったのさ」 パーディーは、ガントレットの最終マッチの後に語った。「思うに、最終的にPTレベルのイベントに戻ってきた時、ビッグトーナメントでプレイするために体調を保つためにはそれが大きかったんだ」
サム・パーディーは徹底的な準備、参加者の中で最も競技面での実績が大きい人物のひとりであったこと、そして的確なメタゲームの読みによって自信を深めていった。
「チャレンジャー・ガントレットでの僕の成功の大きな要因は自信と経験だったと思う。自分がトーナメントの中でベストなプレイヤーであると知っていたし、メタゲームも安定して読めていた」
彼は初日に最後まで無敗を続けたプレイヤーであり、2日目は熟練のプレイヤーにとって少し不安定なものとなったが、それでもスイスラウンドでは唯一9勝を挙げた唯一のチャレンジャーだった。
「2日目の最初のラウンドが一番ストレスを感じたかな。どうやら『ジャンド』か『ジェスカイ』ミラーの組み合わせになりそうだということは分かっていたんだ。『ジャンド』は嬉しいマッチアップで、『ジェスカイ』は嫌だった。『ジェスカイ』相手にペアリングされて、初日は最高だったけど2日目に燃え尽きるという破滅的なシナリオがちらついたけど、なんとか運よく勝つことができて、ヒストリックを好調に終えることができたんだ」
パーディーは週末最後の試合に臨むにあたって、そのような心配はしていなかった。
「最後の試合ではとても落ち着いていて、同時に頭は活性化していたよ。人生で大きなものがかかった試合は数多く経験してきたし、そこまで緊張するタイプではないんだ。キャロライン(彼のパートナーだ)に試合が終わってから階段を下りて勝ったことを伝えると、彼女は僕が飛び跳ねて大喜びしていないことに腹を立てていたよ。でも僕が彼女に行ったように、もし僕がそういうタイプの人間だったら、試合ではもっとナーバスになっていただろうね。勝った後、アドレナリンの波が切れて、自分を落ち着かせるために一瞬だけ時間を置く必要があったことはその通りだけど、試合自体はこれまでに10万回以上こなしてきたオンラインのマジックでのマッチのひとつのように感じたよ」
その試合は数多の中のひとつだったのかもしれない、しかしそれによってパーディーはわずかな最高のプレイヤーでしか望めない栄誉を掴んだ。2016年に初出場した世界選手権、その、2度目のチャンスを。
「長い間、マジックは僕の人生において大部分を占めてきた。もう一度世界選手権のタイトルに臨むことができるのは信じられないし、戦いが楽しみだ。そして、数年ぶりに、大きなものがかかったドラフトができることに本当に興奮しているよ」
「パウロ(ヴィター・ダモダ・ロサ)にも感謝しているよ。今回は彼のカードを使ったからね」と彼は勝者インタビューで述べた。「もしかしたら、来年は誰かが僕のカードを使ってくれるかもね」
世界選手権のふたつめの席を掴んだのは茂里憲之だ。彼は型破りなスタンダードのデッキ、「イゼット・コントロール」で戦場を震撼させた。
「彼が勝ち得たのは、マジックプレイヤーにとって最大級の栄誉、世界選手権への出場権とそれに伴うマジック・プロリーグへの招待だけではない。自身で作り上げたローグデッキでそれを成し遂げたんだ」 ルイス・スコット=ヴァーガスはそう茂里の勝利を結論づけた。「文字通り、マジックプレイヤーが夢見ることだね」
茂里は出場者の中で唯一「イゼット・コントロール」を使用していたプレイヤーだが、ひとりでたどり着いたわけではなかった。
茂里によれば、彼の「テストチームのメンバーの助け」が、ガントレットでの成功の最大の要因だったという。「特に、小坂和音とのディスカッションはいつでも有意義なものでした」
茂里のローグデッキは、参加者の中で彼を際立たせた唯一の要因ではない。彼はマジックを2019年に始めたばかりで、ガントレットの他のプレイヤーと比べても圧倒的に最近のことだ。彼は『カルドハイム』チャンピオンシップで4位に入賞したが、彼にとっては初めてのプレミアイベントだった。その成績が、彼をチャレンジャー・ガントレットへのスタートを切らせ、世界選手権出場へのきっかけとなったのだ。
このような新顔としては信じられないような出来事の連続だが、彼は努力を積み重ねてきた。彼はアリーナを2019年に始めてから、実に2500試合以上も記録してきたのだ。
「マジックを8時間、研究を8時間、睡眠を8時間。それが私の1日です」 茂里は勝利の後に語った。驚くべき量の準備であり、このことが茂里にとって2回目のプレミアレベルのトーナメントでの成功に導いたのだ。
「これからどうやって世界選手権に向けて準備をするか、まだ決めていません。このイベントへの準備でスケジュールが埋まっていましたから」と茂里は続けた。「リミテッドの練習をしないといけませんね。好きではあるんですが、苦手なんです」
トップ4入賞に至っても、茂里は彼の献身と準備が彼にもたらしたものを信じられないという。「正直、まだ実感がわいていませんが、いつも通りマジックを楽しみたいと思います!」
茂里の今の心境は、マッティ・クイスマ/Matti Kuismaとのガントレット最後の試合に臨んだ時とよく似ている。巡る期待に時には興奮し、時には苦悩することは、熟練のプレイヤーたちにとってお馴染みの複雑な感情だ。
「今は興奮すると同時に不安ではありますが、真剣にナンバー1になりたいと思っています」と茂里は話した。「何かの競技をしていれば、トップに立ちたいと思うことは普通のことだと思います」
次は、世界選手権の席を手に入れるための2度目のチャンスを得たアルネ・ハッシェンビスだ。スイスラウンドでの並外れたパフォーマンスにより、日曜日の開幕時にはトップ4の位置にいたが、最初の試合でサム・パーディーに敗北を喫した。
ハッシェンビスのの感情的なインタビューや、試合中のリアクションは視聴者のお気に入りとなったが、そういったリアクションを引き起こす神経質さは、試合中にマイナスに働くこともある。
「ストレスに耐えるため、私はサム・パーディーとの対戦前に考えを紙に書きだしたんだ」とハッシェンビスは言った。「思うに、それが助けになったんだ」
メモにはこう書かれている。「これはただのマジックのゲームだ。何があったって大丈夫だ。もう25ドルを手に入れた! 私には愛する家族、愛する彼女、素晴らしいコミュニティのサポートがある。本当に勝ちたいし、ベストを尽くす。そしてパーディーが勝ったとしても嬉しいんだ」
世界選手権の出場を決める前から、すでにハッシェンビスにとっては信じられない1年であり、飛躍的な成長を遂げたトーナメントの人気者だった。
「こんなチャンスはいつだって手に入れられるものではない。これまでも、そして多分これからもそうだ」。ハッシェンビスは最終戦の前に語った。「今年は私にとって信じられない年だったよ。今年の初め、私には何もなかった。私は予選ウィークエンドを抜けて、それから突然チャンピオンシップの決勝戦の場にいた。手に入れたものすべてに満足しているよ」
茂里のように、ハッシェンビスはガントレットでの成功における最大の要因をチームであると信じている。「サム・ロルフ、マティ(・クイスマ)、そしてデイヴィッド(・イングリス/David Inglis)抜きにはこうはならなかっただろうね」と彼は言った。名を挙げられた3人もまた、ガントレットにおいて日曜日に進出したプレイヤーたちだ。
「これは夢なのかな?」 勝利を決めた後、ハッシェンビスは問うた。「汗びっしょりで、震えていて、興奮しきっているよ。信じられるかわからない。言葉にするのが難しいよ。信じられないくらいに安心して、信じられないくらいに幸せだ。素晴らしい感覚で、いまだに実感ができないよ」
「このゲームの最大の舞台で戦えることをずっと夢見てきた。こんな偉業を成し遂げるなんて非現実的な気分だよ。最高レベルでの戦いが楽しみだね」
佐藤啓輔の世界選手権出場への日曜日の道のりは、もっとも困難なものだった。パーディー、茂里、そしてハッシェンビスが出場権獲得に1勝しか必要としなかったのとは異なり、佐藤はまずトップ12に入賞するために土曜日夜のタイブレーカーマッチを勝利し、日曜日には4連勝しなければいけなかった。
0勝3敗スタートの佐藤にとってはジェットコースターのようなトーナメントだった。彼はそこから「ナヤ・ウィノータ」を手に、スイス最終戦で「ディミーア・ローグ」を駆るジョアン・モレイラ/João Moreiraに敗れるまでに、6勝5敗と持ち直した。
「メイン戦は厳しいですが、サイドボードを含めれば分があると考えており、過去の結果からも自信をもって臨みました。しかし、結果はゲームカウント0-2で敗北。スコアは6-6になりました。自分はOWM(オポネント・ウィン・マッチパーセンテージ)が低く、トップ12やタイブレークマッチに進めないと考えており、この時点でライバルズないしMPLへの道は閉ざされたと感じとても絶望したのを覚えています。結果としては、タイブレークマッチに進むことが出来たためとても幸運でした」
「スタンダードでスコアを伸ばすことができたのは事前に準備したゲームプランが巧く嵌ったのが大きいです。それ以外では、最後まで諦めずに集中し、冷静なプレイをすることが出来たのがもう一つの大きい要因だと思います。初日のヒストリックラウンドで0-3という厳しいスタートとなりましたが、そこで精神的に崩れずに残りのスタンダードを3-0することができ何とか持ち直すことができました。2日目もヒストリックラウンドも厳しい状況でしたが、タイブレークマッチを含め最後まで冷静にプレイすることができて結果に結びついたのだと思います。また、日本の方の応援もとても励みになりました。ありがとうございました!」
観戦している日本のプレイヤーだけでなく、茂里が早期に勝利を決めたことも佐藤の刺激となった。
「無事に茂里選手が勝利したことで、自分の気持ちにも火が付きました。絶対に続いてトップ4に入るぞという気持ちが強かったのを覚えています。後は自分がやるだけです」
「しかし、そのような気持ちは確かにありましたが、試合自体は自分でも不思議なくらいリラックスし臨めていたと思います。この掛かっているものが大きすぎる大一番の試合でです。メンタルが強いという自覚はありませんが、そこまでプレッシャーを感じること無くプレイできました。もともと(0勝3敗の)どん底から這い上がり、勝てたらラッキー程度の気持ち(もちろん諦めていたわけではありませんが。)で3日目の試合に臨んでいたこともあり逆に開き直れたのが良かったのかもしれません」
佐藤はパーディー、茂里、そしてハッシェンビスとともに、冷静になるのが難しいまたとない機会に向かって進んでいる。しかし、この4人は皆、成功を勝ち取るために必要な情熱、献身、そして途方もない時間のハードワークを示してきた。
「競技プレイヤーとして世界選手権への参加はひとつの目標であり、夢でした。それもほぼ実現することは無い夢だろうと考えていたほどに。それを実現することができてとても嬉しい反面、信じられないという気持ちも強いです。勝った瞬間は色んな感情が爆発したの覚えています。世界最高のプレイヤーが集まる大会なのでどこまで自分の力が通用するかわかりませんが、今からとても楽しみです! 出場するからにはベストを尽くし、優勝を目指したいと思います!」
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