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The Finals 2018
準々決勝:高橋 優太(東京) vs. 岡井 俊樹(東京)
高橋「岡井くんっていま何してるの?」
岡井「学生です」
高橋「まだ、いっぱいマジックできるね」
8回戦の激闘も終わり、選ばれた上位8名によるプレイオフがいよいよ始まる。本カバレージが取り上げるのは、予選を1位通過したいま最も勢いのある若手の岡井俊樹と、今期はマジックにオールインし世界各地で活躍を見せる歴戦の猛者・高橋優太の対戦である。
名誉と賞金がかかった準々決勝であるが、旧知の中でもある両者の会話は軽快だ。公開されたデッキ情報を確認しながら交わす会話に耳を傾けていると、特に高橋が上機嫌そうに感じる。若くしてトーナメントで活躍し始めた頃の自分を、岡井に重ね見ているのだろうか。
岡井が駆るのは高尾翔太が考案したものに手を加えた「ボロス・ウィニー」である。先手を取って理想的な展開ができれば、あっという間に軍勢を押し付けて勝利できる。その分、回りが悪ければ簡単に転んでしまう脆さも秘めている。それだけに、予選を1位通過した岡井には勢いが感じられた。
他方の高橋が駆るのは「ゴルガリ」。あらゆる相手に対して極端な不利がつかないデッキである。展開の偏りを嫌ったプロや猛者たちが積極的に選択し、今大会最大勢力を誇った。高橋のキャリアも踏まえれば、まさに「老師」のデッキと言えるだろう。後に岡井はこう語った。「ゴルガリとの相性は乗り手によります。相手がマスターレベルであれば不利かもしれない」。
予選の通過順位に応じて、すでに先手後手の決定権は決まっている。そこに来て「後手をもらいます」と笑いながら述べる高橋と、引き締まった面持ちでシャッフルをする岡井の姿は好対照と言える。果たして両者の勝敗はいかに決するのか。
高橋 優太 vs. 岡井 俊樹 |
ゲーム1
岡井はまさに理想的な形で高橋を攻め立てた。《平地》から《軍団の上陸》、《山》を置いて高橋が出した《ラノワールのエルフ》に《溶岩コイル》、次のターンに《ベナリア史》、その次のターンに《英雄的援軍》……。毎ターン土地を置きマナを使い切るという展開である。
高橋は事前に「岡井くん、ぶん回ってきそうだな」と述べていたのだが、実際そのようになった。なんとか《貪欲なチュパカブラ》などを出して岡井の展開を減速させようとしてきたが、この4マナ目の動きを前に「分水嶺だな……」とこぼして、少し考え始める。2/2に強化されたトークンをどうするか、というところである。
他の「ボロス・ウィニー」とは異なり、岡井のデッキは《短角獣の歩哨》を4枚採用している。このため、昇殿の達成――パーマネントを10個以上出されることはできたら避けたいところだ。そうでなくとも、倒せるときに歩兵たちを削っておかなければ、強化されて襲ってこられるのは目に見えている。もちろん、元は1/1の小粒なものが多いデッキである以上、2/2のチュパカブラを失うのは惜しくもある。最終的に、高橋は相打ちを選択する。そして、予定していたかのように岡井は《短角獣の歩哨》を召喚する。
高橋はすでに戦場にいた《ラノワールのエルフ》に加え、《マーフォークの枝渡り》で土地を引き込み、《僧帽地帯のドルイド》を出す。これで次のターンには確実に《殺戮の暴君》を唱えることができる。間に合うだろうか。
ターンが帰ってきた岡井、攻めることは確実だが、果たしてどのように攻撃するかを悩み始める。土地を置いて昇殿を達成した《短角獣の歩哨》を含んだ陣営が攻め立ててくる。高橋はこれを《僧帽地帯のドルイド》《マーフォークの枝渡り》2体でブロックし、岡井は《僧帽地帯のドルイド》の方を落とすことを選択する。だが、全く追撃の手が緩まない。続く第2メイン・フェイズで《アダントの先兵》《ボロスの挑戦者》が置かれ、ほぼチェックメイトがかけられる。
高橋、次のターンに《殺戮の暴君》を出すことはできたが、数で押してくる相手を防ぐだけの頭数が足りない。返しのターンに全員でアタックを仕掛けてきた岡井の軍勢のうち、なんとか《ボロスの挑戦者》を討ち取るも、残りライフは1。続くターンで何か解決策があるかのように追加の《殺戮の暴君》を召喚するも、即座に「負け」と宣言してカードを片付ける。
サイドボーディングしながら頭の中でゲーム1を振り返った高橋は、「いや、ノーミスだった」と呟いた。
高橋 0-1 岡井
高橋 優太 |
ゲーム2
お互いが完全に正着のプレイをした場合でも勝敗がつくというところに、マジックの奥深さがあると言えるだろう。先手か後手か、マリガンがあるかないかなど、自分には操作できない重要な要素もある。先手だから必ず勝つわけではない。しかし、この先手番を高橋は必ず勝利しなければならない。
初手をキープした高橋、《森林の墓地》のタップインを処理してエンドする。一方の岡井は1マリガンからのスタート、《平地》こそあるものの最初の動きは《短角獣の歩哨》、この段階では無害な0/3に過ぎない。その後はお互いに土地とクリーチャーを順番に並べていく展開。高橋の場には《僧帽地帯のドルイド》《ラノワールのエルフ》が並び、岡井の場には《トカートリの儀仗兵》《軍団の上陸》が並ぶ。
《トカートリの儀仗兵》は探検や《貪欲なチュパカブラ》の誘発型能力を無効にする代表的なゴルガリ対策のカードであり、岡井はこれを3枚取っている。このため、後手番ながら岡井の方がある程度有利にも思われるが、5マナに到達した高橋が繰り出したのは《ビビアン・リード》。[+1]能力で《森》を獲得し、《殺戮の暴君》を召喚可能な6マナ目を確保する。
一方の岡井、対抗して《暴君への敵対者、アジャニ》をプレイ。小ぶりなクリーチャーたちを[+1]能力で強化して、《ビビアン・リード》を討ち取りたいが、《トカートリの儀仗兵》を失うわけにはいかない。控え目な攻撃で1点だけ《ビビアン・リード》の忠誠値を減らすに留まったところ、返しのターンで高橋が《ビビアン・リード》の[+1]能力から手に入れたのは《殺戮の暴君》。即座に自陣に召喚する。
高橋「ハンドは2枚?」
岡井「2枚です」
ここでわずかでも攻撃しておくかどうかで悩んだ高橋だったが、ひとまず何もせずにターンを返すことを選択する。自分の手番になった岡井だが、どうあっても《殺戮の暴君》に一方的に討ち取られることや、全員で攻めても一発では《ビビアン・リード》を仕留められないことに、苦しい選択を強いられる。
考え抜いた岡井、まずは《平地》を置いて昇殿を達成、続けて《正義の模範、オレリア》をプレイ。さらに《暴君への敵対者、アジャニ》の[+1]能力で自陣のクリーチャーを強化し、全軍で《ビビアン・リード》を狙う。《トカートリの儀仗兵》を失いながらも3/3になったトークンの攻撃が通ったため、《ビビアン・リード》の忠誠度が2まで減らされる。本来なら飛行を持つ《正義の模範、オレリア》は《ビビアン・リード》の[-3]能力の格好の的なのだが、それを使うことを封じたのだった。
しかしそれは、高橋が《貪欲なチュパカブラ》を持っていないことを期待した賭けでもあった。返しのターン、生き残った《ビビアン・リード》の[+1]能力で高橋は《貪欲なチュパカブラ》を見事に引き込み、《正義の模範、オレリア》に生還を許さない。そして《殺戮の暴君》で《暴君への敵対者、アジャニ》を攻撃、墓地行きにした後に、追撃として《翡翠光のレインジャー》をプレイする。
完全に劣勢に追い込まれた岡井、なんとか《ビビアン・リード》だけでも落とそうと攻撃をするも、高橋の展開したクリーチャー軍に阻まれ、続くターンにさらなる《貪欲なチュパカブラ》と《僧帽地帯のドルイド》を追加されたのを見て、投了を宣言した。
高橋 1-1 岡井
岡井 俊樹 |
ゲーム3
高尾翔太が開発した「ボロス・ウィニー」を雛形とする岡井のデッキは、事実上、先に複数のクリーチャーを展開し、全体強化で一方的に圧殺することを目指した、理不尽さを押し付けるデッキだと言えるだろう。そう考えれば、岡井が先攻を取るゲーム3は彼に優位があるとも言える。しかし、それは言わば手札というリソースを理想的に使い切ったときに生じるマックスのパフォーマンスである。したがって、このデッキはマリガンに弱いと言える。しかも、岡井自身が語るところだが、このデッキのマナベースは「終わっている」と言う。確かに、うっかり序盤に《山》を固めて引くなどしたら、自らブレーキを踏みながら相手の蹂躙を待つのみになってしまう。
公開された岡井の初手は《平地》《平地》《平地》《山》《聖なる鋳造所》《軍団の上陸》《ベナリア史》という陣容。2ターン目の行動が確約されていない悠長さを嫌った岡井はマリガンを選択する。
一方の高橋の初手は《森》《沼》《沼》《森林の墓地》《ラノワールのエルフ》《貪欲なチュパカブラ》《殺戮の暴君》という申し分のないもの。最高の回りでなければいかに先手であろうとも斬り結べそうにない。
引き直した岡井の初手は《断崖の避難所》《聖なる鋳造所》《トカートリの儀仗兵》《ボロスの挑戦者》《ベナリア史》《ベナリア史》というもの。1ターン目には動けないが、2マナ域のクリーチャーは展開でき、そこにはキーカードの《トカートリの儀仗兵》もいる。何でもいいから土地を1枚でも引き込めれば、《ベナリア史》を連打して押し付けるゲーム展開も期待できる。岡井はこの手札をキープして占術を行った。土地は……ない。ライブラリーの下に送って、最終ゲームをスタートする。
岡井、《聖なる鋳造所》をタップインするところからスタートするも、その後は《トカートリの儀仗兵》から追加の《聖なる鋳造所》を引き込んで《ベナリア史》の展開に成功する。高橋、キラーカードのはずの《貪欲なチュパカブラ》がただの2/2になってしまい、痛恨の展開。岡井の《ベナリア史》重ね張りに対して、有効なカードを展開することができない。
気づけば岡井の場にあるクリーチャーは7体。《ベナリア史》のⅢ章で全体強化された上からさらなる《英雄的援軍》が打ち込まれ、このターンに生じたトークンにも速攻が付与される。+2/+2の修整を受けた軍勢が全軍で高橋を攻撃する。
都合、21点。
想像を超えた巨大なダメージが電光石火で叩き込まれる。場に残った《貪欲なチュパカブラ》がチャンプブロックすれば3点だけ軽減することができるが、すでにライフが17点を割り込んでいた高橋、「……何もないんだよね」と述べ、敗北を宣言した。
高橋 1-2 岡井
「《トカートリの儀仗兵》を引かれるかどうかだったんだよね」と高橋は述べた。だからといって、あの初手でキープしないという選択肢もなかった。「トップ8には入るけどなかなか優勝できないな」と述べる高橋に、真後ろで観戦していた八十岡翔太が「まあ仕方ない。準々決勝で半分が負けるんだから。優勝するのも、8分の1。先攻なら勝ってただろうけど、8位抜けだったからね」と声をかけた。
悔しそうにする高橋だが、その表情は不思議と穏やかである。このシーズンは、マジックにオールインするというライフスタイルに切り替えた高橋。そのことによって何が得られたのかと聞いたところ「前よりもメンタルが強靭になりましたね。今も、負けているけど和やかでいられるし」と述べた。人は勝利からのみ何かを得るわけではない、ということだろう。
「ゴルガリ」というデッキの感触についても聞いてみたところ、これをぜひ述べたいとのことだったので、ここに記しておく。
高橋「ゴルガリはアベレージデッキなんだよね。いつも70点を出すことができて、ハンドもだいたいキープできる」
八十岡「その分相性がいいデッキも少ないけどね。だから最後まで勝ちきれない。相手に90点の回りをされると負けてしまうから」
高橋「それも承知でIDしたんだけどね」
トッププロたちのゴルガリ観を披瀝してもらったが、まさにそのような対戦が展開されたと言えるだろう。とはいえ、それもまた今回のみの結果に過ぎない。果たして岡井の勢いはどこまで続くのか。勝ち上がってきた「ゴルガリ」が、岡井や「ボロス・ウィニー」にリベンジを果たすのか。続くプレイオフの帰趨からも目が離せない。
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