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エターナル・ウィークエンド・アジア2019
デッキテク:黒川 直樹の「RUGデルバー」~新時代の到来~
2007年、アメリカ合衆国でiPhoneが発売された。
以来12年の歳月を経て、iPhoneをはじめとしたスマートフォンというデバイスは我々の生活の様式を一変させた。スマートフォンの影も形もなかった頃から、人類は十分に文明を謳歌していたはずなのに、今やコンビニに行くにもスマートフォンなしでは心許ないような気がする。「完成されたプロダクトは人間の習慣そのものを変える」という一例と言えるだろう。
そして偶然にも、iPhoneが世に生まれ出たのと同年、レガシー環境では
それこそが「カナディアン・スレッショルド」である。GenCon 2007 Legacy Championshipsにて、ピーター・オルシェウスキー/Peter Olszewskiを優勝へと導いたデッキだ。
2007年より前から「青緑スレッショルド」というデッキ自体は存在していたが、特に『未来予知』で強力な2マナクリーチャーである《タルモゴイフ》を得たこと、さらに土地基盤を攻める戦略として《もみ消し》が起用されたことで、このデッキは一躍スターダムへとのし上がることとなる。
そのピーキーなまでのテンポ戦略はレガシー環境のレンジを変えるのに十分な存在感を発揮し、当時隆盛していた「ゴブリン」や「ランドスティル」のように妨害が薄かったり遅すぎたりしたデッキは次々に淘汰されることとなった。そう、レガシープレイヤーの習慣は根底から覆されたのだ。
完成されたプロダクトが人間の習慣そのものを変えるのだとしたら、レガシーという環境の転換期であり、レガシープレイヤーの習慣を塗り替えたのは他ならぬ「カナディアン・スレッショルド」だったと言えよう。
そんな「レガシー」というフォーマットに寄り添い続けてきたデッキが、現代ではさらなるアップデートを遂げているという。
果たして最新の「カナディアン・スレッショルド」は時代にさらなる革新をもたらすのか? Magic Onlineのレガシー・リーグで「カナディアン・スレッショルド」を操り、2019年8月現在世界上位のトロフィー数(※)を誇るという黒川 直樹に話を伺った。
(※リーグで5-0した際に獲得できる勲章。黒川は現在14個のトロフィーを所持している。)
黒川 直樹 |
「カナディアン・スレッショルド」という名前はもう古い?
――まず最初にあえて伺いますが、今回黒川さんがご使用されているデッキは何ですか?
黒川「……『RUGデルバー』ですかね。『モダンホライゾン』が発売されてから、デッキから『スレッショルド』の要素が完全に抜けてしまったので」
――えっ!? ということは、《敏捷なマングース》が解雇された……?
黒川「ええ、デッキには1枚も《敏捷なマングース》を採用していません。代わりに『モダンホライゾン』からの新カードである《呪詛呑み》を4枚採用しています」
――スロットが1枠完全に入れ替わった形ですね。《敏捷なマングース》といえば、長らく「カナディアン・スレッショルド」の主要クリーチャーのひとつでしたが、なぜ《呪詛呑み》に変わってしまったのでしょうか?
黒川「まず挙げられる要因のひとつとして、《敏捷なマングース》と《呪詛呑み》の素のパワー/タフネスの違いですね。《敏捷なマングース》は『スレッショルド』を達成していればもちろんクロックが早くて強力ですが、『スレッショルド』の達成はかなり早くても3ターン目以降なので、いつまでも1/1のままという状況も少なくありませんでした。するとクロックが遅くて、なかなか相手のライフを削りきれない状況もありました」
――なるほど。その点で言えば、《呪詛呑み》は最初から《サバンナ・ライオン》なのでゲームスピードへの影響は大きそうですね。とはいえ、本来ソーサリータイミングではあまり土地をタップしたくない「RUGデルバー」にとって、「Lvアップ」の能力は微妙に噛み合っていないような気がします。
黒川「僕もそう思って、『モダンホライゾン』が出た当初はまったくのノーマークでした。それよりも《否定の力》や《レンと六番》に気を取られていたので……しかし、調整仲間から《呪詛呑み》を勧められて試してみたんです」
――確かに、『モダンホライゾン』には魅力的なカードが多かったですからね。
黒川「すると、《呪詛呑み》は『中盤以降のゲームレンジで強いという点で《敏捷なマングース》と同等』であることが分かりました。本質的に似ているカードだったわけです。その上で『無理にLvアップしなくても強い』、さらには『Lvアップしたときのバリューが非常に高い』といった点で《敏捷なマングース》に勝ると感じて、スロットを完全に入れ替えるに至りました」
――「Lvアップ」コストについてはいかがでしたか?
黒川「これまでの『RUGデルバー』にはなかった動きですから、最初は慣れませんでしたよ(笑)。とはいえ《呪詛呑み》を入れて練習を行っているうちに、だんだんと使いこなせるようになってきた、という感じですね。また、練習を続けているうちに一度Lv3に達してしまえばほとんど除去されなくなるので、分割でマナをつぎ込み続けているうちにLv8まで育つことも多々あるということも分かってきました」
――なるほど《敏捷なマングース》が《呪詛呑み》に変わったのは納得です。
『モダンホライゾン』はカードの宝庫だった
――『モダンホライゾン』以降、他にもデッキには変わった点はありますか?
黒川「まず、メインに《レンと六番》が3枚入りました。《呪詛呑み》以上にこちらの方がインパクトがあるかもしれませんね。このカードには公開当初から注目していたのですが、思った以上に強かったです」
――《レンと六番》入りの「RUGデルバー」、流行っているようですね。しかし、やはり私にはこのデッキにフィットしているカードという認識がありません。具体的にどういった点が強いのでしょうか?
黒川「『RUGデルバー』は自身も《不毛の大地》を使うデッキではありますが、3色デッキな上に土地の枚数を切り詰めているため、デッキのマナソースはデュアルランドだけでした。なので《不毛の大地》入りのデッキには弱いという弱点があったのですが……」
――その点は《レンと六番》で補えるようになったわけですね。
黒川「そうです。単に《不毛の大地》を使いまわしても強いですし、現在デッキに1枚だけ《焦熱島嶼域》を採用しているのですが、これでドローを進めることもできます。そもそも軽いアドバンテージソースというだけでも偉いですからね。プラス能力を連打してアドバンテージを稼ぎながら奥義のプレッシャーをかけるという動きができるようになったことで、以前は苦手だった『白青奇跡』のようなコントロールデッキに対しても、若干ではありますが耐性が付きました」
――なるほど。小マイナス能力はいかがですか?
黒川「この能力も強いです。『カナディアン・スレッショルド』には《稲妻》以外の5~6枚目の除去が不足しているという弱点があり、《四肢切断》や《二股の稲妻》などを採用していた時期もありましたが、《レンと六番》は《若き紅蓮術士》や《スレイベンの守護者、サリア》といった厄介なクリーチャーの除去をしてくれるようになったので、除去不足の解消に繋がりました」
――確かに。奥義までたどり着けば勝利はほぼ確実といった感じですかね?
黒川「僕、一度対戦相手に《相殺》《精神を刻む者、ジェイス》《基本に帰れ》を並べられた状態から《レンと六番》の奥義だけで勝ちましたからね。そのときは《赤霊破》を何度も『回顧』して勝ったのですが……」
――《目くらまし》や《渦まく知識》を「回顧」されるのも嫌ですが、《赤霊破》などのサイドボードカードを連打する動きは凄まじいですね……《レンと六番》の他にも得たものはありますか?
黒川「あとはメインに《マグマの陥没孔》1枚と、サイドボードに《否定の力》が1枚入っています。前者は《グルマグのアンコウ》や《反逆の先導者、チャンドラ》、それにレアケースですが《稲妻》ケアで忠誠値を増やしてきた《精神を刻む者、ジェイス》も除去できるので強力です」
――《マグマの陥没孔》はたしかにいいカードですね。「探査」呪文を採用できるのも「スレッショルド」を気にしなくてよくなった恩恵と言えそうですし、《呪詛呑み》の採用がここでも活きていますね。《否定の力》の方は感触はいかがでしょうか?
黒川「《否定の力》は見た目通りの強さですが、3マナと軽いので素撃ちもできて、《壌土からの生命》や《罰する火》といったカードを封殺できる点では《意志の力》にも勝りますね」
――ありがとうございます。『モダンホライゾン』の影響は凄まじいんですね……もしかして、レガシーのデッキの中でも一番カードをもらっている(採用できるカードが増えている)んじゃないでしょうか?
黒川「そうとも言えるかもしれません。というより、元々『RUGデルバー』というデッキは昔からあるデッキだったので、その分デッキリストが完成されていて、調整の余地が少ないというか、リストが変わりづらいデッキではあったんですよね」
――デッキが完成されすぎているがゆえに、リストが変化しにくい。だから実質的にカードが増えにくかった、と。
黒川「実際、《レンと六番》や《呪詛呑み》についても否定的な人は多かったですし。ただ、実際に使ってみると非常にデッキに合っているカードだということが分かりましたし、『モダンホライゾン』を通じて、『RUGデルバー』にはまだまだ構築面・プレイング面の両方で開拓の余地が残されていると感じました」
――ありがとうございます。この後も頑張ってください!
完成されたプロダクトは人間の習慣そのものを変える。しかし、真に完成されたプロダクトなどこの世に存在しない。iPhoneにしてもデッキリストにしても、常に時代の流れに合わせてアップデートを繰り返してきた。その進化の積み重ねこそが文明や文化の礎であり、習慣を超えた「進歩する習性」と言えるのかもしれない。
「カナディアン・スレッショルド」が超えるべき相手は、実際のところ《死儀礼のシャーマン》でもなく白青奇跡でもなく、「カナディアン・スレッショルド」という枠組みそのものだったのかもしれない。
『モダンホライゾン』というエターナル環境に現れた新たな地平は、「カナディアン・スレッショルド」の枠組みを根本から入れ替え――「RUGデルバー」として生まれ変わった。この先、このデッキはレガシー環境の習慣を変えるのだろうか?
それは分からないが、「カナディアン・スレッショルド」というアーキタイプのもたらしたパラダイム・シフトを思えば、「RUGデルバー」というデッキの持つポテンシャルに期待せずにはいられない。
3 《Volcanic Island》 3 《Tropical Island》 2 《溢れかえる岸辺》 2 《汚染された三角州》 2 《沸騰する小湖》 2 《霧深い雨林》 1 《焦熱島嶼域》 4 《不毛の大地》 -土地(19)- 4 《秘密を掘り下げる者》 4 《呪詛呑み》 3 《タルモゴイフ》 1 《真の名の宿敵》 -クリーチャー(12)- |
4 《稲妻》 4 《渦まく知識》 4 《思案》 3 《呪文嵌め》 2 《呪文貫き》 4 《目くらまし》 4 《意志の力》 1 《マグマの陥没孔》 3 《レンと六番》 -呪文(29)- |
1 《カラカス》 3 《トーモッドの墓所》 2 《紅蓮破》 1 《赤霊破》 1 《水流破》 2 《古えの遺恨》 1 《否定の力》 2 《水没》 1 《乱暴 // 転落》 1 《仕組まれた爆薬》 -サイドボード(15)- |
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