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エターナル・ウィークエンド・アジア2018

観戦記事

オールドスクール決勝:Choi, Kiho(東京) vs. 近藤 大視(東京)

Yohei Tomizawa

 オールドスクールと聞きなれない単語を耳にしたとき、疑問は生まれ、環境を調べるうちに、それは確信へと変わる。

 「Old School 93/94」に基づいた環境は、現代のマジックプレイヤーたる我々にとって、楽しみを提供できるのか。

 《ゴブリンの鎖回し》が支配するスタンダード。

 「赤黒・復讐蔦」や「クラーク族の鉄工所」と、目まぐるしく動き続けるモダン。

 「青黒・死の影」を得て、新たな探求の道へと踏み出すレガシー。

 過去と現在が交錯し、パワーとシナジーが織りなす世界、ヴィンテージ。

 スピードとパワーとバランスと。いずれの世界も、瞬きで見逃しかねないカードの応酬が繰り広げられ、マナカーブ通りというよりも、テンポよくマナを使い動けた方が好まれる。ある程度の刺激を味わった我々に、刺激をもたらしてくれるのだろうか。

 それでも、今日。目の前でプレイされるオールドスクールの世界を見て、私たちが愛してやまないマジックは、変わらずここにもあったのだと気づかされる。

「やべー、決勝だわ。」

 準決勝戦を《火の玉》で制し、スリップのスコア欄に「2」と記しながら、普段通りの口調で近藤は言った。

 決勝の舞台に臆することもなく、かといって興奮するわけでもない。淡々と普段通りに。それこそ彼が好んで遊んでいる統率者戦と同じ感覚で、デュアルランドを強くプレイする仕草は変わらない。

 近藤 大視、通称のびた。今は無き「渋谷フォーラム」の生き残りは、まるでドラフトと同じように力強く、自身のカードをプレイする。例えヴィンテージのカードであってもデュアルランドでも、コモンのように、勢いよくプレイするのだ。

 近藤のデッキは青赤のカウンターバーンに、《Sedge Troll》と《Demonic Tutor》用に黒を足したグリクシスカラー。そして何よりもオシャレなのは、《Time Vault》と《ぐるぐる》による追加ターンコンボだ。

 除去耐性のある《Sedge Troll》でクロックを刻み、追加ターンでダメージレースをひっくり返す。最後の数点は火力で決める構成だ。

 対するチェは東京在住のプレイヤー。レガシーを中心にプレイしており、近藤とは見知った顔同士だ。『リバイズド』から始まった長い経歴。一時期はマジックに触れ合うことも難しくなったというが、今なお続けている。

 マナベースは弱いと言われた環境ながら、チェが使用するのも3色デッキ。白をメインカラーに据え、相棒に《サバンナ・ライオン》を選び、青と赤のカードでバックアップするジェスカイカラーのウィニーだ。

 さあ、時はきた。日本初のオールドスクールチャンピオンを決めよう。

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ゲーム1

 3色揃ったマナベースに《Sedge Troll》と除去、バランスのよい手札をキープすると近藤の《ミシュラの工廠》で決勝戦は始まった。

 チェが《ツンドラ狼》で終えると、《ミシュラの工廠》をクリーチャー化してダメージレースの形を作る。チェは《十字軍》をプレイし《ツンドラ狼》で殴り返すと、互いにライフは18。

 続く3ターン目、近藤はタップアウトで《Sedge Troll》を召喚する。もちろんセット済みの《Badlands》により、サイズは3/3へとパンプアップ済みだ。このクリーチャーが生き残れば、相手のクリーチャーもダメージ系除去も無力化し、地上を完全に制圧できる。

 当然チェも理解しており、再生マナがない間に《稲妻》し、続くターンに近藤が設置した《破裂の王笏》も《解呪》。戦場をコントロールしながら、淡々と2点クロックを刻んでいく。

 ここでクロックサイズをアップするために召喚するのは、環境最強クリーチャー《セレンディブのイフリート》。《稲妻》などのダメージ除去に強いこのカードは、わずかなライフを犠牲に毎ターン3点を確約してくれる。

 合計5点という暴力的なクロックサイズだが、発生源はわずかに2体。数に着目すると近藤は《稲妻》を《ツンドラ狼》へプレイし、制限カードである《イス卿の迷路》をセット。これにより3点を与え続けるはずの《セレンディブのイフリート》は、攻撃先をさまようイフリートへとなり下がり、コントローラーであるチェに牙をむく。アップキープでのライフ喪失が、重くのしかかる。

 チェは《Time Walk》を唱える。本来であればクリーチャーを用意し、戦闘ダメージが倍化するように使いたいが、クリーチャーはなく、ほとんど「カードを1枚引く」程度と変わらない効果でしかない。それでも近藤は許さず《対抗呪文》で応じ、自身は《Time Walk》で追加ターン。

 近藤は2枚目となる《Sedge Troll》の召喚で完全にゲームを支配する。《セレンディブのイフリート》が《イス卿の迷路》の効果で毎ターンアンタップするため攻撃こそ通らないが、アップキープのダメージは蓄積し続け、気が付けば攻めていたはずのチェのライフは13まで減っている。

 《イス卿の迷路》の圧倒的な支配力でゲームをコントロールている近藤。しかし、じっと我慢のターンを過ごしていたチェに、待望のカードがもたらされる。

 それはたった1枚の土地。この「Old School 93/94」のルールでのみ4枚使用することを許された、最強のアンチ土地カード。《イス卿の迷路》を破壊すると、束縛されていた《セレンディブのイフリート》を上空へと解き放つ。さらに《支配魔法》が《Sedge Troll》へエンチャントされると、一転してチェ有利となる。

 ドロー呪文を引かず、近藤の手札は枯渇気味。《セレンディブのイフリート》への解答もないまま、都合3体目となる《Sedge Troll》。地上は止まっているが、近藤のライフは7しかない。

 そして《ツンドラ狼》を追加したチェの場には《セレンディブのイフリート》、《Sedge Troll》、《ツンドラ狼》と3体のクリーチャー。

 近藤は《Demonic Tutor》をトップデッキすると、《Ancestral Recall》と《Timetwister》の2枚を掲げ、考える。チェにしても手札はない。ここで相手にも7枚のカードを与えるリスクは、決して軽くはない。それでも《セレンディブのイフリート》への解答を引かないことには、2ターンでゲームが終わってしまう。

 迷った結果、5マナタップアウトで《Timetwister》をプレイ。このターンは土地も出していないため、軽いアクションのカードならば使うことができる。それこそ《Black Lotus》や《イス卿の迷路》があれば、最も効果的な動きとなる。

 なんと! 近藤に配られたのは7枚のカラフルなカード。土地はおろかマナアーティファクトもなし。隠しもせずに吹き出すと、ターンを渡すことを意味するように右手を軽く前に払う。

「エンドフェイズに。」

 一言おくと、チェは7枚の手札から極上の1枚《Ancestral Recall》を提示する。《Sedge Troll》がブロックしても、すり抜けるダメージは5点。近藤は諦め気味に、

「《稲妻》あれば投了するよ?」

 と声をかける。

「引かない……。」

 とチェは短く返す。しかし、近藤はタップアウトなのだ。《稲妻》も何も気にする必要はない。この環境に《意志の力》に代表される代替コストを持つカードもないのだから。

 「残り7?」と再度確認すると、チェは《セレンディブのイフリート》へ《不安定性突然変異》をエンチャントする。

 名前は不安定だが爆発力を秘めたこのオーラによって、近藤のライフは0を割った。

チェ 1-0 近藤

 
チェ・キホ
 
ゲーム2

 重いリソースカードを抜くと《赤霊破》、《火の玉》といった軽いユーティリティと除去を増やす。このサイドボーディングに噛み合うように、近藤は《Library of Alexandria》からスタート。7枚の手札と土地を1枚タップ、たったこれだけの条件で毎ターン余分に1枚のカードを得ることができる。

 チェの手札に《露天鉱床》は、ない。苦笑しながらも《サバンナ・ライオン》と最高のスタートで応え、《青霊破》の意思表示と《Mox Sapphire》を置く。

 7枚の手札を見せつけると、《Library of Alexandria》タップで1枚ドロー。近藤は手札を増やし、チェはダメージを刻む。《白騎士》と《稲妻》の交換を経て、3ターン目には《Black Lotus》を生け贄に捧げ、《Sedge Troll》召喚。《Library of Alexandria》の効果を維持できるように、あえて土地を置かない。

 チェは近藤のアンタップ状態の土地が《Library of Alexandria》と《真鍮の都》だけなのに着目し、構わず《サバンナ・ライオン》をレッドゾーンへ。近藤はスタックしての《稲妻》を警戒し、スルーでライフは15。

 《Underground Sea》で2枚目の黒マナを確保すると、チェは迷わずに《Sedge Troll》を対象に《稲妻》をプレイ。破壊が目的ではなく、再生によりタップ状態となるためこの間にダメージを稼ぐ算段だ。

 《ミシュラの工廠》に活を入れ、《サバンナ・ライオン》、《アイケイシアの投槍兵》と合わせて5点のダメージを与える。追加するのは《サバンナ・ライオン》。

 横に広がった盤面と一方的なダメージレース。手札こそ多いものの、近藤この状況をどう打開するのか。

 先ずは《Time Vault》をプレイすると《Sedge Troll》で3点。第2メインフェイズに《Time Vault》を対象に、《ぐるぐる》。

 1枚のカードにより、《通電式キー》のない世界で《Time Vault》は覚醒し、そして、近藤へ力を与える。

 《Sedge Troll》で3点、再度《ぐるぐる》。《Library of Alexandria》のために3枚目の土地を置くことすら拒んだ近藤は、ここで大胆に動く。この過程で手札は5枚となり、《Library of Alexandria》はどうやっても起動できなくなってしまう。

 起動できない? いや、最早起動する必要などないのだ。2度の追加ターンでマナは十分にある。近藤はフルタップで1枚の呪文を唱える。

 かつて、日本人プレイヤーをプロツアー優勝へと導いたX火力は、近藤の力となって、チェの盤面を一掃する。

 重なったターンにより、ダメージレースは近藤10-11チェと拮抗し、2体目の《Sedge Troll》が現れると近藤有利に大きく傾く。

 レッドゾーンに送り込まれた2体の《Sedge Troll》の片割れを《ツンドラ狼》でチャンプブロックし、残りは5。

 近藤は、歴史を再現するかのように、力強く土地をタップする。

 《火の玉》を、あなたに。

チェ 1-1 近藤

 
近藤 大視
ゲーム3

「これで決まるね。」

 静かに近藤は言う。

「先攻にすべてを懸けてる。」

 そう、最後ゲームはチェの先攻。軽いクリーチャー、カウンターとパーマネント対策。クロックパーミッションの始祖といえるチェのデッキは先に動けてこそ、最高に輝く。

 チェがマリガンを宣言する一方で、近藤の手札は《Ancestral Recall》、《Time Walk》という2種のパワー9に、バックアップする2枚の《赤霊破》と《Demonic Tutor》。マナも申し分なく、余裕のキープ。

 先手後手の差もあり、《サバンナ・ライオン》発進できるならと、マリガン後の新たな6枚を手に取る。

 そして、なんと。チェは手札を再度デッキへと戻す。

「今日はここまでマリガンほとんどしなかったんだ。よりによってここで。」

 決勝戦でのダブルマリガン、しかし悪夢は終わらない。キープを宣言したチェの手札は2枚。その2枚にも土地はなく、ターンを返す。

 近藤が《Demonic Tutor》で《Library of Alexandria》を探した返し、3ターン目にしてチェは《Tundra》を引き込み、《Ancestral Recall》で手札を潤す。マリガン分を少しでも埋め、有効なカードは手に入っただろうか。

 瞬間的な3枚よりも、継続的な1枚。《Library of Alexandria》はゆっくりと、確実に近藤へとカードを届ける。慌てる必要はない。《Tundra》を《露天鉱床》で叩き割り、溢れた手札から《赤霊破》を捨てる。

 チェは《平地》をセットすると最初のクリーチャーとして《アイケイシアの投槍兵》を召喚。

 近藤は丁寧にプレイする。カードを引き、マナを潰す。基本土地すらも許さない《露天鉱床》は《平地》を割り、《アイケイシアの投槍兵》以降身動きの取れなくなったチェに《Ancestral Recall》からの《象牙の塔》と、絶望を突きつける。毎ターンライフ4点ゲインのため、クリーチャーを捌かずとも自然とライフが増えていく。

 タップアウトで召喚した《Sedge Troll》こそ、《稲妻》で落とされるが近藤はどこ吹く風。そう、その1枚程度では最早、どうにもならないくらいなのだ。

 それでも、最後の対戦だから。チェも応えるべく、和やかに紳士に、それでいて諦めずにゲームを続ける。

 《Library of Alexandria》と《象牙の塔》は毎ターン過剰にライフと手札を供給する。《Time Walk》を挟み、リソースこそ増えるが盤面は平穏なまま。それこそ《Sedge Troll》が生きていれば、ある程度ダメージは重なっていたのに。

 のらりくらりと、受動的に動いていた近藤は一転、タップアウトでクリーチャーを召喚する。プレイヤープロフィールにも書かれた、とっておきの1枚。

 マジックの世界を代表する深紅の龍は、上空へと姿を現す。

 圧倒的に強く、早く。何よりもカッコよく。

 近藤の愛という名の加護を得た龍は、レッドゾーンを自由に舞う。

 上空を見上げ、チェは、右手を差し出した。

チェ 1-2 近藤

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 決勝戦を前に近藤に声をかけ、デッキを見せてもらうと、1枚のカードに目が留まる。自身がお気に入りと挙げていた《シヴ山のドラゴン》だ。

 マジックを始めた当初は誰もが憧れた《シヴ山のドラゴン》。

 オールドスクールの環境を考えれば《稲妻》で落ちず、《セラの天使》を受け止める。ブロックすら許さない飛行と、ダメージレースをバックアップするブレス効果。

 筆者は一つだけ、近藤に質問する。「なぜ《シヴ山のドラゴン》なのか」と。それこそ上記にあげた理由であっても、近藤の口から直接、聞いてみたかった。

 近藤は、短く、はっきりと。そして彼らしくシンプルにこういった。

「好きだから。」

 近藤と深紅の龍との間には、見えない絆。それが具現化し、近藤の期待に応えるかのように、勝利を届けた。

 そうだった。使うカードに理由など、不要だ。好きだから、この一点だけでいい。

 時を経て、環境が変わり、見えなくなる世界、失われていく感覚。

 それを取り戻す、根源的な楽しみ。環境だけではなく、プレイヤー自身の心まで、童心に帰らせてくれる。それが、オールドスクール。

 オールドスクールは、君と《シヴ山のドラゴン》を待っていた。

 近藤 大視、君こそが勝者に相応しい。

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近藤 大視、「エターナル・ウィークエンド・アジア2018」オールドスクールチャンピオン、おめでとう!!
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