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EVENT COVERAGE
2019ミシックチャンピオンシップⅥ(リッチモンド)
ストラスキーの完全復活
2019年11月14日
オンドレイ・ストラスキーは次々と土地をタップし、呪文を唱えた。放たれた《集団強制》がパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaのクリーチャーたちをストラスキーの側に寝返らせ、ゲームの形勢は一気に傾いた。次の瞬間、殿堂顕彰者は右手を伸ばした――2019ミシックチャンピオンシップⅥ(リッチモンド)決勝の相手であるストラスキーの勝利を称えて。ストラスキーは思わず飛び上がっていた。そこへ彼の友人たちがなだれ込み、口々に祝いの言葉をかけた。チェコ出身のオンドレイ・ストラスキー、24歳。人生が変わった瞬間だった。
厳しい戦いだった。決勝は第5ゲームまでもつれ、2時間に迫る長期戦だった。その直前にも、決勝ラウンドの激戦を乗り越えてきた。歴代で見ても試合時間が長くなりがちな環境において、ストラスキーは19回戦を戦い抜いたのだ。今大会は、参加者のマジックの技術だけでなく体力も試される、まさに消耗戦だった。その中で彼は最後の呪文を唱えるプレイヤーとなり、頂点に立った。
そして今度は、「王者」としての仕事が始まる。
ストラスキーは友人たちとのハグもそこそこに席を離れ、カメラの前でインタビューを受けた。この大会の行方を追っていた何千という視聴者が、王者の言葉を待ちわびていた。続けて、解説者たちとともにプレイの振り返り。それからトロフィー・ショットの撮影……すべてを終える頃には、夜も遅くなることが確定していた。そして記事用のインタビュー――ミシックチャンピオンシップという一大ショーを取り挙げようとジャーナリストが待機しており、ストラスキーはまさに時の人だった。その後、彼はさらにいくつかのインタビューを受けて、ようやく一息つけた。そして、人生初のミシックチャンピオンシップ王者になれたという事実を噛み締めた。
それでも、ストラスキーは普段の彼と変わらなかった。トロフィーを片手に面白いポーズを取ったり、あとでトロフィーで祝杯をあげますといったジョークを飛ばしたりした。インタビューでは必ずダモ・ダ・ロサを称えることから話を始め、同じ質問にも何度でも丁寧に答えた。成し遂げたことのあまりの大きさに、実感が伴うには時間がかかった。「次は?」という質問にも、意味ありげな顔で「ディナーです」と答えた。
ストラスキーは成人してからの日々をマジックに注ぎ込み、その中で彼自身が変わることはなかった。2015年当時、ミシックチャンピオンシップ・トップ8ラウンドの前夜にも関わらず戦いに備えて熱心に練習するのではなく友人と遊び歩いた彼について、あるライターは「若く、伸び伸びとした子供」だと評している。(翌日、ストラスキーは準々決勝で勝利した。)彼の友人たちも長年にわたって、ストラスキーの成功の要因を「純粋さが呼ぶ幸運」だと冗談混じりに考えていた。
ストラスキー自身も、楽しむことを重視する姿勢に満足していた。そんな彼についてよく話題に上がるのが、彼の引退にまつわるジョークだ。昨年、彼は「グランプリ・プラハ2018を最後に競技マジックから引退する」とツイートし、話題を呼んだ。だがそのグランプリ・プラハ2018で彼は準決勝まで進出し、わずか数週間後のグランプリ・ストックホルム2018では優勝を果たしたことで、引退を撤回することになったのだ。
「今でもたまに――いや、実は毎週のように誰かがそのことをネタにしていますよ。面白いジョークがたくさん生まれてます」と、ストラスキーは笑顔を見せる。「でもツイートした当時は本当に引退しようと思っていた、というのが真実です。真剣だったんですよ」
今ではマジック・コミュニティ内の有名なジョークになったストラスキーの引退宣言だが、その軽い口調の奥には、当時の彼が人生の大きな岐路に立たされていた事実が隠れている。
「正直、とても悲しかったです。友人たちにさよならを告げて、その先のことは何も決まっていませんでした」と、ストラスキーは当時の心境を打ち明けた。「5年もマジックに注ぎ込んできて、他にフルタイムの仕事を探したこともありませんでした。今ジョークとして笑い飛ばされるのは気になりませんが、当時の僕にとっては深刻な悩みだったんです」
このインターネット・ミームにある背景は、多くの点でストラスキー自身を映す鏡であった――楽しみながらも、思慮深く。カジュアルに、しかし全力で。自身4度目のトップ8入賞、そして自身初のミシックチャンピオンシップ優勝を遂げた今、確かなことが1つある。ストラスキーの成功の要因は、決して「純粋さが呼ぶ幸運」だけではないと。
1年前、ストラスキーはマジックから離れるつもりだった。今大会を迎える前は、配信を含めたさまざまな収入でマジック・プレイヤーとしてやっていけるか見積もった。決勝の第4ゲームでミシックチャンピオンシップ史上に残る大逆転劇を演じる前は、準優勝で終わったときのことを考えた。
そして今、ストラスキーは賞金総額100万ドルの世界選手権と、マジック・プロリーグ入りの可能性を計画に盛り込めるようになった。
「浮き沈みが激しいですよ。今大会を迎える前は、マジックをやっていても楽しくないときがありましたからね」と、ストラスキーは言う。「ひとまずもう1年は続けて、今後のことは来年の夏頃の状況を見て決めます。今は世界選手権に出られるし、MPL入りまで見えてきました。信じられませんよ」
ストラスキーはマジックとともに成長し、その過程で学んできたことすべてが彼をミシックチャンピオンシップ王者たらしめた。2020年は殿堂顕彰者に比肩するマジック界の有名人として迎えることになり、世界選手権の結果次第ではさらなる高みへ至るだろう。
予想される質問について、ストラスキーから先に答えておきたいと言伝があった。これにて「正式に」引退撤回、だそうだ。
Oh and this also! #NewProfilePic pic.twitter.com/R30w38Gc0H
— Ondřej Stráský (@OndrejStrasky) 2019年11月11日
(Tr. Tetsuya Yabuki)
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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