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津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ プロツアー『戦乱のゼンディカー』 新たな世界
津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ プロツアー『戦乱のゼンディカー』 新たな世界
こんにちは! 晴れる屋の津村です。
みなさん、プロツアー『戦乱のゼンディカー』はご覧になりましたか?
なんとなんと、決勝戦はプロツアー史上初の日本人対決となりました。過去にも世界選手権2006で三原(槙仁)さんと小倉(陵)さんが決勝戦を争いましたが、純粋なプロツアーではこれが初めてとなる快挙とのこと。
日本勢がプロツアーを制したのは、プロツアー・ホノルル2009の三田村(和弥)さん以来の出来事。
その間に彌永君やなべ君(渡辺 雄也)が世界選手権を優勝(2011年、2012年)したことはありましたが、プロツアーという観点で見ると、日本人が勝ったのは実に6年ぶりになるんですね。
今週はそんな今をときめく瀧村(和幸)さんと玉田(遼一)さんのデッキを中心に、プロツアーで活躍したデッキをピックアップしていきたいと思います。『戦乱のゼンディカー』の登場により、多色化が進んだスタンダード環境をご堪能ください。
「プロツアー『戦乱のゼンディカー』」トップ8デッキ
- 優勝・「アブザン・アグロ」
- 準優勝・「ジェスカイ」
- 3位・「ダーク・ジェスカイ」
- 4位・「アブザン・アグロ」
- 5位・「ダーク・ジェスカイ」
- 6位・「白緑・大変異」
- 7位・「アタルカ・レッド」
- 8位・「ジェスカイ・トークン」
「フェッチランド」と「バトルランド」により多色化が肯定された世界で、優勝の座を争った日本勢が選んだのは、実に堅実な3色のデッキでした。しかし、彼らのデッキもまた、「フェッチランド」と「バトルランド」による恩恵を存分に受けており、マナベースの安定性が大きく向上している点は見逃せません。
『戦乱のゼンディカー』の加入で、プレイヤーを最も悩ませたのはマナベースの構築でしょう。前述の通りマナベースが安定し、4色や5色のデッキを組むことも可能になりましたが、その反面で最適解を出すのは非常に難しくなっています。今回のプロツアーで勝ち残ったデッキは、カード選択だけでなく、マナベースも強固だからこそ結果を残せたと思うので、クリーチャーや呪文だけでなく、ぜひマナベースにもご注目いただければと思います。
それでは、各デッキリストをご覧いただきましょう。
「アブザン・アグロ」
2 《森》 2 《平地》 2 《梢の眺望》 1 《燻る湿地》 1 《窪み渓谷》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《樹木茂る山麓》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《乱脈な気孔》 2 《ラノワールの荒原》 -土地(26)- 4 《始まりの木の管理人》 4 《棲み家の防御者》 4 《先頭に立つもの、アナフェンザ》 4 《包囲サイ》 2 《風番いのロック》 3 《搭載歩行機械》 -クリーチャー(21)- |
4 《ドロモカの命令》 4 《アブザンの魔除け》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 1 《残忍な切断》 -呪文(13)- |
1 《風番いのロック》 2 《黄金牙、タシグル》 2 《強迫》 3 《絹包み》 3 《精神背信》 2 《究極の価格》 1 《自傷疵》 1 《真面目な訪問者、ソリン》 -サイドボード(15)- |
日本に久しぶりの栄冠をもたらしたデッキは、新世代の「アブザン・アグロ」でした。前環境と決定的に異なる点は、(1)マナ基盤が大幅に改善されたこと、(2)《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》という新たな軸を手に入れたことの二点です。
通称「バトルランド」と呼ばれるこれらの土地は、スタンダードに革命を起こしました。従来の「アブザン・アグロ」と言えば、《砂草原の城塞》や「占術ランド」で動きがチグハグになりやすいイメージでしたが、『戦乱のゼンディカー』加入後の「アブザン・アグロ」にはそれが当てはまりません。
《始まりの木の管理人》からの流れるようなビートダウンは、「バトルランド」の恩恵があってこそ。新環境の「アブザン・アグロ」は、土地の問題に悩まされることなく、強力なカードを適正なターンにプレイできるようになったのです。
このデッキのマナベースがいかに強固であるかは、《砂草原の城塞》が入っていないことからも垣間見ることができます。このリストのタップインランドはクリーチャーとしてもカウントできる《乱脈な気孔》のみに絞られおり、とにかく土地で動きがもたつかないように徹底されています。
「バトルランド」がもたらしたこの強固なマナ基盤こそが、「アブザン・アグロ」が手にした最大の武器だと思われますが、もうひとつの新戦力が《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》。
このカードも「バトルランド」と同様に新環境を象徴するカードであり、白いデッキならばビートダウンデッキであれコントロールデッキであれ、すべからく採用を検討されるほどのカードパワーを秘めています。特に先手の強さは特筆もので、4ターン目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》はそれだけでゲームを支配してしまえるほど。
《先頭に立つもの、アナフェンザ》、《包囲サイ》や《ドロモカの命令》など、もとよりデッキの根幹部分が強かったデッキではありますが、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》のおかげで自然と全体除去呪文への耐性も上がり、より一層隙のないデッキへと昇華した印象です。
このリストは新環境の幕開けを飾るに相応しい素晴らしい完成度だと思いますが、準優勝に輝いた玉田さんのデッキも負けてはいません。
「ジェスカイ」
2 《平地》 1 《島》 2 《山》 2 《大草原の川》 1 《梢の眺望》 1 《燃えがらの林間地》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《樹木茂る山麓》 2 《神秘の僧院》 1 《シヴの浅瀬》 -土地(24)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 4 《道の探求者》 4 《カマキリの乗り手》 4 《搭載歩行機械》 -クリーチャー(16)- |
4 《焦熱の衝動》 4 《勇敢な姿勢》 1 《絹包み》 4 《ジェスカイの魔除け》 3 《宝船の巡航》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文(20)- |
2 《アラシンの僧侶》 1 《風番いのロック》 2 《引き裂く流弾》 1 《払拭》 2 《軽蔑的な一撃》 2 《見えざるものの熟達》 2 《正義のうねり》 1 《焙り焼き》 1 《絹包み》 1 《龍語りのサルカン》 -サイドボード(15)- |
玉田さんが選んだのは、3色純正の「ジェスカイ」デッキでした。《はじける破滅》のためにタッチ黒をした「ダーク・ジェスカイ」が主流になりつつある中で、このようなリストで結果を残したのは称賛に値します。玉田さんは《道の探求者》まで入れて序盤から攻める構成に仕上げており、それにより《ジェスカイの魔除け》や《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》はその真価を発揮しやすくなっています。
《ジェスカイの魔除け》は旧環境ではあまり見かけないカードでしたが、《搭載歩行機械》と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に強いカードということで、現環境で着実に評価を上げてきている1枚。《搭載歩行機械》には「クリーチャー1体を対象とし、それをオーナーのライブラリーの一番上に置く」効果が突き刺さり、「対戦相手1人を対象とする。ジェスカイの魔除けはそのプレイヤーに4点のダメージを与える」効果で速やかに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を葬り去ることができます。
他にもミラーマッチの《カマキリの乗り手》を考慮して、《乱撃斬》ではなく《焦熱の衝動》が優先されていたり、《払拭》にひっかかる《時を越えた探索》ではなく《宝船の巡航》が採用されていたりと、ミラーマッチ過多のメタゲームを読んだカード選択が目を引きます。
3色デッキと4~5色デッキの比較
当然ながら色を増やせば色を増やすほどカードパワーは向上しますが、その反面で安定性は下がってしまいます。「フェッチランド」と「バトルランド」のおかげで多色化が推奨されているのは確かですが、3色デッキならではの強みは、(1)安定性が高いこと、(2)マナシンボルを気にせずカードを選択できることです。
ひとつめの(1)安定性が高いことに関しては、あまり深く追求することもないでしょう。3色デッキは色事故の回数も、「バトルランド」がタップインする機会も少ないですし、やはり安定性の面では3色のデッキに軍配が上がります。
もうひとつの(2)マナシンボルを気にせずカードを選択できることは、言い換えればダブルシンボルのカードを採用できるかどうかです。いかに「バトルランド」のおかげで色マナが安定しているとは言え、4色のデッキは4色を揃える都合上、各色のダブルシンボルのカードを採用しづらい傾向にあります。デッキの構成や土地を置く順番である程度緩和することは可能ですが、ダブルシンボルのカードを適正なターンに唱えられるかどうか、それによって序盤の動きが歪にならないかどうかに疑問が残るためです。
一方で3色のデッキであれば、そういった悩みを抱えることはありません。『戦乱のゼンディカー』最大の注目株である《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》はその代表格で、このカードをスムーズに4ターン目に唱えられる点は、3色デッキ最大の利点と言って差し支えないでしょう。一見、瀧村さんの「アブザン・アグロ」とこのデッキは似ても似つかぬデッキに見えますが、「3色で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をフル活用したデッキ」という意味合いでは、非常に似通った思想を持つデッキだと思います。
惜しくも優勝こそ逃してしまったものの、「ジェスカイ・マスター」の名に恥じぬ至高のリストだと思います。続いては、今大会で大本命と目されていた「ダーク・ジェスカイ」を仕上げてきた「ChannelFireball Pantheon」のリストをご覧ください。
「ダーク・ジェスカイ」
1 《平地》 1 《島》 1 《沼》 2 《山》 2 《大草原の川》 1 《窪み渓谷》 1 《燻る湿地》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 4 《血染めのぬかるみ》 4 《神秘の僧院》 1 《遊牧民の前哨地》 -土地(26)- 1 《竜使いののけ者》 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 2 《魂火の大導師》 4 《カマキリの乗り手》 3 《黄金牙、タシグル》 -クリーチャー(14)- |
2 《払拭》 2 《焦熱の衝動》 2 《乱撃斬》 4 《はじける破滅》 3 《コラガンの命令》 3 《オジュタイの命令》 1 《完全なる終わり》 2 《時を越えた探索》 1 《龍語りのサルカン》 -呪文(20)- |
1 《竜使いののけ者》 3 《アラシンの僧侶》 1 《フェリダーの仔》 2 《強迫》 3 《軽蔑的な一撃》 1 《焙り焼き》 2 《光輝の炎》 2 《影響力の行使》 -サイドボード(15)- |
この度のトップ8入賞で、プロツアーで15回目となるトップ8を記録したジョン・フィンケル/Jon Finkel。彼にとってデッキの良し悪しなど関係ないのではないかと勘繰りたくなりますが、彼らのデッキが優れていたのも疑いようのない事実です。チーム「Pantheon」のリストの特徴は、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の採用を見送った代わりに、優秀な黒いカードが増量されている点です。
《黄金牙、タシグル》は目から鱗と言わんばかりの素晴らしい選択で、《ヴリンの神童、ジェイス》の能力や「フェッチランド」ですぐに墓地が増えるこのデッキであれば、3ターン目に登場することも決して珍しくありません。僕はミラーマッチ用に《時を越えた探索》の4枚採用を検討していましたが、それだと長期戦には抜群に強くなるものの、展開にムラができやすく、序盤の攻防で後れを取りやすいという致命的な弱点がありました。
《黄金牙、タシグル》はクリーチャーデッキに対する壁としても非常に優秀で、中盤~終盤でもアクションの増加に貢献する完璧超人。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に対する牽制としてもうってつけですし、「フェッチランド」過多の構築を有効活用できる素晴らしいチョイスです。
もうひとつ、このデッキで注目すべきカードが《コラガンの命令》です。このカードと《オジュタイの命令》の存在ゆえに、とにかく長期戦に強い構成になっており、このデッキの《ヴリンの神童、ジェイス》はそれこそ不死身のように感じられるほど。
《完全なる終わり》は主に《搭載歩行機械》対策という意味合いが強いですが、このデッキにとって致命的な《見えざるものの熟達》であったり、「プレインズウォーカー」をも対処できる優れもの。《ヴリンの神童、ジェイス》で再利用できること、《時を越えた探索》で探しやすいことも含め、この手のデッキであれば1枚は採用しておいて損のないカードです。
黒いカードを増やすためには、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を諦めなければなりませんが、このリストにはそれに見合うだけの十分な見返りがあると思います。テクニカルなデッキがお好きな方にぜひともお勧めしたいデッキですね。
上位みっつのデッキを使ってみた感想としては、「アブザン・アグロ」・「ジェスカイ」・「ダーク・ジェスカイ」は安定性に長け、デッキパワーも頭一つ抜きん出ていると思います。しかしながら、「アブザン・アグロ」と「ジェスカイ」が比較的真っ直ぐな構成なのに対し、「ダーク・ジェスカイ」は多種多様なインスタントばかりで構成されているため非常に与しづらく、それゆえに「ダーク・ジェスカイ」が最も対峙したくないデッキだと感じています。
プロツアーの翌週に開催された「グランプリ・ケベックシティ2015」では、「ダーク・ジェスカイ」がトップ8に4名を送り込む大躍進を見せましたが、「対峙する際のプレイングの難しさ」はこのデッキが活躍した要因のひとつだと思います。使うにしろ使われるにしろ難しいデッキなので、しっかりと経験を積んでおきたいデッキですね。
「ジェスカイ・トークン」
2 《平地》 1 《島》 2 《山》 1 《大草原の川》 1 《窪み渓谷》 1 《燻る湿地》 2 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 3 《血染めのぬかるみ》 4 《神秘の僧院》 4 《戦場の鍛冶場》 -土地(25)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 -クリーチャー(4)- |
4 《ドラゴンの餌》 4 《軍族童の突発》 1 《荒野の確保》 3 《乱撃斬》 1 《焦熱の衝動》 4 《絹包み》 4 《ジェスカイの隆盛》 2 《ジェスカイの魔除け》 4 《宝船の巡航》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文(31)- |
2 《風番いのロック》 1 《払拭》 1 《焦熱の衝動》 3 《軽蔑的な一撃》 3 《正義のうねり》 1 《否認》 2 《はじける破滅》 1 《影響力の行使》 1 《卓絶のナーセット》 -サイドボード(15)- |
《かき立てる炎》の退場とともに、死滅すると噂されていた「ジェスカイ・トークン」。以前ほどの爆発力はありませんが、それでもトップ8入賞としっかり結果を残しました。このデッキの注目点は、4枚採用されている《絹包み》でしょう。
《絹包み》は《搭載歩行機械》、《ヴリンの神童、ジェイス》、《カマキリの乗り手》に《先頭に立つもの、アナフェンザ》と、現環境を象徴するクリーチャーの多くをシャットアウトしてくれます。「破壊」ではなく「追放」するため、《コラガンの命令》や《オジュタイの命令》による再利用すらも許さず、正しくマスターピースと呼ぶに相応しい逸材です。
さらにこのデッキにおける《絹包み》は、対戦相手の《ドロモカの命令》から《ジェスカイの隆盛》を守るという大役をも担います。
《ジェスカイの隆盛》に極度に依存したこのデッキにとって、メインデッキから無理なく「エンチャント」対策を兼ねる《ドロモカの命令》の存在は悩みの種でした。《絹包み》は除去として優秀なだけでなく、このデッキの天敵対策も兼ねている合理的なカード選択というわけです。
また、このデッキも《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を非常に効果的に使用できるデッキのひとつです。トークンを多用する構造上、[-4]能力が最も光り輝くデッキであり、追加の《ジェスカイの隆盛》のような役割が期待できます。
マナベースにはまだ改善の余地があるのではないかと思いますが、前環境でこのデッキを愛用していた方はぜひお試しください。
ここまではトップ8に残ったデッキをご覧いただきましたが、それ以外にもたくさんの魅力的なデッキが勝ち残っていたので、それらもご覧いただきましょう。
「バント・トークン」
4 《平地》 4 《森》 2 《大草原の川》 2 《梢の眺望》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《溢れかえる岸辺》 2 《樹木茂る山麓》 2 《伐採地の滝》 1 《荒廃した森林》 -土地(25)- 3 《エルフの幻想家》 4 《巨森の予見者、ニッサ》 3 《風番いのロック》 4 《搭載歩行機械》 -クリーチャー(14)- |
3 《荒野の確保》 2 《払拭》 4 《絹包み》 2 《停滞の罠》 4 《エメリアへの撤退》 1 《隔離の場》 1 《次元の激高》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文(21)- |
3 《棲み家の防御者》 1 《忘却蒔き》 2 《消去》 4 《正義のうねり》 2 《進化の飛躍》 2 《勇敢な姿勢》 1 《否認》 -サイドボード(15)- |
いつも摩訶不思議なデッキで僕たちを魅了するサミュエル・ブラック/Samuel Black。今回も独自の「バント・トークン」を持ち込み、使用者のうち3名が8勝2敗を記録する快進撃を見せています。このデッキのキーカードとなっているのは、驚くべきことに《エメリアへの撤退》です。
リミテッド専用かと思われたこのカードも、サムの手にかかればあっという間にスタンダード級のカードに大変身。「フェッチランド」と組み合わせることで継続的にトークンを生成でき、十分な数のトークンが溜まれば全体強化ですぐさまゲームを終わらせてくれます。
トークン戦略・「エンチャント」・「プレインズウォーカー」と多角的な攻撃手段が魅力的なデッキで、単体除去があまり効かない構成に仕上がっています。一見攻撃手段が貧弱に見えますが、《エメリアへの撤退》と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》のおかげで見た目以上に殺傷能力が高く、そこに《荒野の確保》が加わればあっという間にゲームセットという仕組みです。
パッと見ではとても強そうなデッキには見えませんでしたが、プロツアーで8勝2敗を、それも3名が記録したデッキが弱いはずがありません。一度《荒野の確保》と《エメリアへの撤退》のコンボを味わったならば、このデッキがただの面白いだけのデッキではないとお分かりいただけると思います。
今や世界を代表するトッププロ、サミュエル・ブラックの新作をぜひご堪能ください。
エスパー・コントロール
1 《平地》 3 《島》 1 《沼》 3 《大草原の川》 3 《窪み渓谷》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 1 《血染めのぬかるみ》 2 《吹きさらしの荒野》 1 《乱脈な気孔》 1 《精霊龍の安息地》 3 《魔道士輪の魔力網》 -土地(27)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 2 《アラシンの僧侶》 -クリーチャー(6)- |
3 《究極の価格》 2 《予期》 2 《風への散乱》 4 《オジュタイの命令》 2 《完全なる終わり》 2 《次元の激高》 1 《残忍な切断》 4 《時を越えた探索》 1 《宝船の巡航》 4 《意思の激突》 2 《精霊龍、ウギン》 -呪文(27)- |
2 《アラシンの僧侶》 1 《深水の大喰らい》 2 《龍王シルムガル》 2 《払拭》 2 《強迫》 3 《正義のうねり》 1 《軽蔑的な一撃》 1 《否認》 1 《残忍な切断》 -サイドボード(15)- |
長期戦の王「エスパー・コントロール」。近頃では《龍王オジュタイ》を軸にした形が主流でしたが、《はじける破滅》の入った「ダーク・ジェスカイ」の隆盛を受け、フィニッシャー不在とも言えるこういった形も散見されるようになりました。
このデッキの長所は、やはり圧倒的なまでの長期戦の強さです。メインデッキに「アタルカ・レッド」を意識して《アラシンの僧侶》が投入されていますが、それでもまだお釣りがくるほどに長期戦に強いデッキです。このデッキの使用者であるリード・デューク/Reid Dukeは、このリストを改良し、翌週の「グランプリ・ケベックシティ2015」でトップ8に入賞していますし、初速の早いデッキ以外にはこれといった弱点が思いつかなかったため、プロツアー後はこのデッキがメタゲームの中心に回るのかと思っていました。
しかしながら、グランプリ・ケベックシティ2015で「エスパー・コントロール」にとって致命的なとあるデッキが登場してしまいました。そのデッキは近年のスタンダードでは珍しいほどに相性差がはっきりとしており、「エスパー・コントロール」の将来はそのデッキの流行り具合次第といったところでしょう。
「今週の一押し」は、グランプリ・ケベックシティ2015で突如として現れたそのデッキをご紹介させていただきます。
「今週の一押し~赤緑エルドラージ~」
14 《森》 1 《山》 4 《ウギンの聖域》 4 《見捨てられた神々の神殿》 1 《荒廃した森林》 1 《精霊龍の安息地》 -土地(25)- 4 《ジャディの横枝》 4 《搭載歩行機械》 2 《龍王アタルカ》 3 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 -クリーチャー(13)- |
4 《森の占術》 4 《荒野の地図作成》 3 《ニッサの巡礼》 4 《爆発的植生》 3 《面晶体の記録庫》 4 《精霊龍、ウギン》 -呪文(22)- |
2 《巨森の予見者、ニッサ》 2 《囁きの森の精霊》 1 《破滅の昇華者》 1 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 3 《引き裂く流弾》 2 《カル・シスマの風》 4 《大地の断裂》 -サイドボード(15)- |
グランプリで堂々の3位入賞を果たしたのは、《絶え間ない飢餓、ウラモグ》をフィニッシャーに据えたマナ加速デッキでした。基本戦略は大量のマナ加速から、《精霊龍、ウギン》や《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を速やかに呼び出すのみ。
序盤の足止めは、今をときめく《搭載歩行機械》と、このデッキならではの《ジャディの横枝》がしっかりと。
《ジャディの横枝》は見た目以上に強いカードで、《ニッサの巡礼》・《爆発的植生》との相性も抜群。複数体並んだ際の驚異的な回復力も魅力的ですし、この手のデッキなら少なくともサイドボードには搭載されてしかるべきでしょう。
このデッキの秀逸な点としては、このデッキ専用と思われる土地カードが、事前の予想よりも遥かに強力だったことです。
前者は息切れ防止手段として、後者は土地でありながらマナ加速を実現してくれる優れ物。《ウギンの聖域》から次々と連鎖する《絶え間ない飢餓、ウラモグ》は圧巻の一言。対戦相手のやる気を一瞬で消失させてしまいます。
また、《ウギンの聖域》はX=4以上の《搭載歩行機械》でも誘発するので、急ぐ必要がない展開で、なおかつ手札が弱い場合には《搭載歩行機械》を温存しておくといいでしょう。
前述の通り、このデッキは近年稀に見るほど相性差がはっきりとしています。例えば、先ほどご紹介した「バント・トークン」や「エスパー・コントロール」に対しては無類の強さを発揮しますが、その反面で序盤から積極的に攻めてくる「アタルカ・レッド」のようなデッキには苦戦を強いられます。環境が遅ければ遅いほどその真価を発揮しやすいため、「アタルカ・レッド」が数を減らすのであれば、このデッキは最適な選択肢になると思います。
そうなると、次に考えなければならないのはミラーマッチですが、Magic Onlineではすでに研究が進んでいるようです。
これはどちらもMagic Onlineの対戦相手が唱えてきたカードです。《虚空の選別者》は、一度着地してしまえば対戦相手は《精霊龍、ウギン》も《絶え間ない飢餓、ウラモグ》も唱えられなくなるので、実質ゲームエンドと同義です。
《塵への崩壊》は見た目通り《見捨てられた神々の神殿》対策で、片方だけ《見捨てられた神々の神殿》のないゲームはハンデ戦のようなもの。今後ミラーマッチ対策が一般的になるのであれば、このカードに出くわす機会も増えると思うので、幸運にも複数枚の《見捨てられた神々の神殿》を引けた場合には、積極的に《見捨てられた神々の神殿》からセットランドするように心がけましょう。
個人的にはプレイングではどうしようもないので、今のところ《虚空の選別者》がベストかなと思っていますが、まだ見ぬ対策カードもあるかもしれません。
「今週の一押し・その2~4色《先祖の結集》コンボ~」
1 《平地》 1 《島》 1 《沼》 1 《森》 1 《大草原の川》 2 《窪み渓谷》 2 《梢の眺望》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《進化する未開地》 -土地(25)- 3 《シディシの信者》 4 《エルフの幻想家》 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 4 《ズーラポートの殺し屋》 4 《地下墓地の選別者》 4 《不気味な腸卜師》 4 《ナントゥーコの鞘虫》 -クリーチャー(27)- |
4 《先祖の結集》 4 《集合した中隊》 -呪文(8)- |
4 《ジャディの横枝》 2 《アラシンの僧侶》 1 《肉袋の匪賊》 1 《無慈悲な処刑人》 3 《払拭》 4 《残忍な切断》 -サイドボード(15)- |
だいぶ長くなってしまったので、今週はそろそろ筆を置こうと思っていたんですが、あまりにもMagic Online上での勝率が良かったので、最後にもうひとつだけデッキを紹介させていただきたいと思います。
パスカル・メイナード/Pascal Maynardが使用したこのデッキは、《ズーラポートの殺し屋》と《ナントゥーコの鞘虫》を活用したコンボデッキです。
この2種類のクリーチャーが揃ってしまえば、あなたのクリーチャーは全て1点の砲台へと早変わり。《ナントゥーコの鞘虫》自身の能力と合わせれば、驚くほどの速度で対戦相手を葬り去ることができます。もちろん、これだけでは対戦相手の妨害手段を乗り越えてライフを削り切るのは困難なので、デッキ名にもなっている《先祖の結集》がフィニッシュを担います。
《先祖の結集》は文字通りの一撃必殺。複数体の《ズーラポートの殺し屋》さえいれば、ごくわずかなクリーチャーでもゲームに勝利することが可能です。
このデッキには《ズーラポートの殺し屋》以外にも、《地下墓地の選別者》や《不気味な腸卜師》など、クリーチャーが死亡することでボーナスを得られるクリーチャーが大量に搭載されているため、クリーチャーを展開していくだけで自然とゲームを長引かせることができます。
一度対戦相手に攻撃を躊躇させられたのならば、勝利は目前。あとは《先祖の結集》を探すか、物量で押し切ってしまうのみです。クリーチャーが死んでも痛くも痒くもないデッキなので、真っ当なゲームプランに非常に強く、苦手なカードも《先頭に立つもの、アナフェンザ》など数が限られています。
その《先頭に立つもの、アナフェンザ》に対しても、メインデッキには《集合した中隊》から探せる《シディシの信者》が、サイドボードには4枚の《残忍な切断》が控えており、十分に対処可能な範囲となっています。
今のところ使用したデッキの中で最も感触が良かったので、もしも明日グランプリがあるのならこのデッキで参加すると思います。このままでも十分すぎるほど強力なデッキですが、ミラーマッチを見越してサイドボードに《先頭に立つもの、アナフェンザ》を投入し、《払拭》ではなく《束縛なきテレパス、ジェイス》で使いやすい《強迫》をお試し中です。
動き自体も非常に面白いデッキですので、クリーチャーコンボデッキがお好きな方はぜひお試しください。
終わりに
今週のスタンダード・アナライズは以上です。「アブザン・アグロ」や「ダーク・ジェスカイ」以外にも、「アタルカ・レッド」や「白緑・大変異」など、前評判の高かったアーキタイプがプロツアー上位を埋め尽くしました。しかしながら、「ジェスカイ・トークン」や「バント・トークン」など、事前の予想を上回るデッキも数多く登場していますし、翌週に開催されたグランプリ・ケベックシティ2015では《絶え間ない飢餓、ウラモグ》の入ったデッキが活躍していたりと、まだまだスタンダードの研究に終わりはないようです。
次回は「グランプリ・神戸2015」前に、海外グランプリの結果を振り返ってみたいと思います。
それでは、また次回の連載で。
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