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Magic Story -未踏世界の物語-

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レオヴォルド調書

Nik Davidson

2016年8月24日

原文はこちら

 パリアノに生きるというのは何と愉快なことだろうか!駒は全て所定の場所に、明かりは灯され、遊戯が始まろうとしている。

 前回の物語:血濡れの教え

 パリアノの情勢が不安定な昨今、情報にはあらゆる宝物と同等の価値がある。そしてトレスト大使レオヴォルド以上にそれを熟知する者はいない。彼は正当な人々から集めたものを、正当な価格で提供してくれるだろう。


マルチェッサの戴冠

 社交会の計画には時間を要する。何故か? 前回大使館で開催した際には、内装設計者や菓子職人と交渉し、我々の豪奢な紋章とそれに伴う青色の影を正確に再現させるためだけに一週間を費やした。女王曰く、ブレイゴは自分を後継者として指名する意志を残していたと。とても可笑しいことだ(あの王を貶めるつもりはないが、幽霊が資産計画を立てるとは思えない)。だが彼女の陰謀の真の証拠について話そう――戴冠を宣言した当日、直ちに玉座の間は黒薔薇のタペストリーで飾られ、護衛の全員が黒薔薇の紋章を盾に掲げ、中心街には黒薔薇の旗がひらめいた。彼女がいかにして戴冠の合法性をカストーディに確信させてのけたのか、市民は公然と訝しんでいる。だが私が知りたいのは、彼女がいかにしてあれほどの量の刺繍を、誰にも気づかれることなく都市のあらゆる裁縫師や仕立屋に依頼できたのかということだ。


アート:Titus Lunter

 次はブレイゴの死の件だ。(二度目の死? さらなる死? これを表す言葉が要るかどうかわからなかったが、どうも必要らしい)。私は新女王の宮廷へ自由に立ち入りはできないが、噂と皮肉のピースを出来る限り組み合わせて推測される状況は次の通りだ。暗殺者が宮廷に侵入し、何らかの手段をもって石壁を通過し、ブレイゴの私室へ辿り着いた。確かに、どのようにして幽霊を殺すのかは不明のままだが(永久に殺す? 追加で殺す? これを表現する言葉を探すよう作家に依頼しよう、でなければ私が狂ってしまいそうだ)、宮廷を訪れた者曰く、新女王の王冠はブレイゴの容貌が纏っていたあの霊的エネルギーに輝いていたということだ。


アート:Kieran Yanner

 この新君主についての情報伝達網を再び確立できたなら、更なる情報が手に入るだろう。ありきたりな決まり文句だが、用心して手を伸ばさねばならない。この薔薇は花弁ではなく棘が本体なのだから。

 レオヴォルド


アルベロンのセルヴァラ

 その帽子の下に類稀なる判断力を隠す聡明な若き女性、セルヴァラ。彼女は心から愛そうとしている都市との騒乱に二度巻き込まれている。彼女はブレイゴの隣で憲章を起草し(王が今よりも幾らか生きていた頃の話だ)、それを条約へと導いた。だがその好意は裏切りと虜囚という形で報われた。彼女は辺境地へ隠棲し、都市に戻ったのは一度、あるパリアノ貴族がムッツィオの人造召使の代わりとして異国の獣を所望した時だけだった。

 私は川辺の料理店でセルヴァラと話し、友情の握手を差し伸べた――彼女は今もトレストにいる従兄弟らと、定期的に連絡を取り合っているのだとか(その連絡については国家安定法に基づく概要が作成されており、調査目的の閲覧が可能だ)。彼女の苦境について長々と話した――新たな美しき女王は宮廷でのセルヴァラの存在を喜びはしないだろうと、そしてセルヴァラはアドリアナ隊長との同盟には何ら興味はないとの事だった。後者は彼女が大切に守る命令に対して中立であるために。


アート:Tyler Jacobson

 あるいはパリアノは人間とその幽霊による統治が長すぎたのかもしれない。真の調和の下の統治を心がける、世話人の役割を担うような者が現れる時なのかもしれない、そう私は提案した。彼女は私がよく知る視線を返した。野望......自身のためではなく、大いなる過ちを正すための......炎を煽る僅かな怒りとともに。別れる前に確かめたのだが、トレストにいるという従兄弟は彼女を支援することにとても興味を持っているらしかった、彼女が将来目指すものが何であろうとも。

 レオヴォルド


アドリアナ・ヴァローレ(前)隊長

 パリアノの若者を観察することに相当な時間を費やしている。その不可解な振る舞いには実に引きつけられるものがある。精鋭の集まる大学に、下層民の市場やギルドに、人間の若者は開け広げに愛を語らう。ああ、何と喜ばしい戯曲だろうか!最もありふれた悲劇とは、そして最も頻繁に劇場に上るものは、報われぬ愛の物語かもしれないというのに。

 悲しいかな、哀れなアドリアナよ。彼女が都市へと抱く愛は揺るがぬものだ。ブレイゴの最期が訪れ、都市の方では彼女を愛してはいないと示そうとも。彼女は持ち前の大胆さで女王の戴冠をかろうじて生き延びたに過ぎない。彼女はきっと女王の使者からの予告なしの訪問を受け続けるだろう、そのうち一人が説得に成功し、前王の仲間に加わらせるその時まで。

 だがその終わりが来るよりも早く彼女は心を決めたらしい。力の限り、正義の名のもとに社会不安を引き起こすと。伝令を介して彼女に接触しようとしたが、その伝令は鼻を砕かれシャツを徹底的に破かれて戻ってきた。鼻は癒えるだろうが、悲しいかな、そのシャツにしてやれる事は何もなさそうだ。


アート:Chris Rallis

 今は、これが舞台のどの段階にあたるのかを正確に見極めるべき時だ。我らが気高き女主人公は愛の障害を乗り越え、新世代の平和と平等と繁栄の案内役となるのだろうか? それともその希望なき平等主義の楽園はかつて仕えた王のように儚いものだと証明されるのか? 賭け好きのエルフならば(ああ、保証するが私は違う)後者に賭けるだろう。図らずも我々はこの劇的な物語を最前列で観覧しており、この先の信書は幕間で入手できそうだ。

 レオヴォルド


評議会議長、法による統治の保証者、高層都市の絶対主権者、パリアノ王室ならびにその一切の権利権能の正統なる後継者、黒薔薇のマルチェッサ1世女王

 別名:黒薔薇、マルチェッサ・ダマーティ

 経験から言うと、猟獣には二種類がいる。一つは、追跡の興奮と奉仕の喜びのために狩るものだ。それらは乗物を追いかけ、もしくは馬の後ろを大股で走り、歓喜の吠え声を大気に轟かせる。その獣は乗物や馬にとって何ら脅威ではない。単に走ることを愛しているのだ。

 そしてもう一種類がいる。狩りの最中にその違いを見極めるのは困難だろう。獲物を追いながら、両者とも矜持と達成感に満たされているのだから。違いは、目的の一つだ。追跡し、殺したいからそうするのだ。陽気に楽しんでいるようだとしても、それは偶然か見せかけだ。その獣は狩る、何故ならその目的のために生まれたからだ。今日は、もしかしたら、主人が命令したものを殺すかもしれない。だがそういったものが無くとも、殺すのだろう。

 マルチェッサは後者の類だ。

 その兆候を見逃していた我が前任者を責めはしない。注意深く確立された仮面、上品ぶった「暗殺者の母」という役割を彼女は長年演じ、全ては「影から支配し影響力を振るう」という野望のためと思われていた。思えば、その仮面こそただの見せかけだったのだ。玉座こそがずっと彼女の標的だったのだ。ずっと。

 街路では、彼女を簒奪者と呼ぶ者もいる。ブレイゴが残した空隙の「横取り女」とあざ笑う声を聞いた。だが彼女の意図はただ権力を手にすることではない。

 支配だ。


アート:Daniel Ljunggren

 玉座を手にしてから数時間のうちに、宣言と方針が出された。明らかに数週間、数か月をかけて考えられてきたようなものが。権力を統合し、大衆の神経質な受理を得て、統治を正当化するために全て狙いがつけられていたのだ――皆が布告に従うならば、彼女は当然、女王だ。

 これからの数週間、数か月は重要になるだろう。このクーデターの大成功は正しく進めた結果ということなのかもしれないが、同時に他の勢力が彼女の権力統合を支えたのかもしれない。私はトレストの代理として公的に情報収集を行ってきた。女王陛下の返信を添えて至急更新のこと。

 レオヴォルド


王室の地下牢管理人、グレンゾ

 私はゴブリンが好きだ。この言葉がどう思われるかはわかっている、だが本当だ! ゴブリンは生来、我々に自らを理解させてくれる。ゴブリンは我々にない全てを持っている。攻撃的で、獰猛で、無骨で、煩い。あるゴブリンが真に生来の性質のままに生き、そしてそれを極めている時、私は親愛の情を抱かずにはいられない。グレンゾの場合でもそれは当てはまる。ただ、関わることにならない限りの話だ。夜中にあれとあの群れが、私や私が愛する者を殺すことのないように。


アート:Svetlin Velinov

 グレンゾはパリアノの機構の一部に組み込まれていた。彼は地下世界の広大な範囲を支配することでその地位を確立した。ブレイゴの牢番として仕え、奴隷、賞金稼ぎ、犯罪者の揺るぎない忠誠を張り巡らせ、都市において決して自身の手を汚す必要のない強大な力となった(これはただの成句で、思うに、その手は常に汚れているだろうが)。

 ブレイゴの後援を失い(それと、かつての王はどのような扇動的な出来事からグレンゾを大目に見るようになり、彼の仕事を進めさせたのかは全くもって定かではないが)グレンゾは別の戦略に適応した。それは彼が以前用いた数々と同等に私を驚かせた――堂々たる造反だ。彼は群集を暴力に駆り立てた。新女王その人に向けてではなく、都市という概念そのものに。彼は既に二度、アドリアナ隊長が集めた群集を利用し、それらに浸透し、平穏な行進を暴徒に変えた。今のところ、彼の目的は完全に不透明だ――確かに彼は権力の座に就いてはいない。だがあらゆる権力を零落させて終わりをもたらそうとしているのならどうだろうか。


アート:Steve Prescott

 この無秩序状態は実のところは一つの政治思想だというのだろうか? 私はグレンゾに有利な解釈をしたいらしい、長年の間に彼を気に入るようになったからか。あるいは彼は本当に王の喪失を悼んでおり、そして怒りを通してそれを表現している? 疑わしい、だが私はそれを判断はできない。この混乱は新女王の命令によるものなのだろうか? 彼女好みの遊戯の手法ではないように思える。もしくは彼は単に、基本的な本能に立ち返っているのかもしれない。ガラスの砕ける音、炎が踊る様という純粋な栄光のために壊し、燃やす。それはともかく、今や街角はこれまでにない程に移り気になっている。我が外交員達には大規模な集会には近寄らないよう指示をしておいた。

 レオヴォルド


 追記:先週、私の外交随員の一人が、新女王の工作員から密書を奪い取った――その中身が他ならぬ本物の書類だったことを知った私の驚きと喜びを想像してくれたまえ! 中の記述は全て、誠実な褒め言葉として受け取っておこう。


トレスト大使レオヴォルド

 評議会議長、法による統治の保証者、高層都市の絶対主権者、パリアノ王室ならびにその一切の権利権能の正統なる後継者、黒薔薇のマルチェッサ1世女王陛下へ

 御命令により、都市国家トレストより先日任命された大使について更なる情報を収集しておりました。彼はその都市では豪奢な社交会、晩餐会、「文化交流」を意図するらしき見世物を開催することで名を知られております。


アート:Howard Lyon

 トレスト人は我々の文化的基準に苦戦し、富や優雅さと思われているものを誇示しようとしている模様です。とはいえそういった催しへの参列者曰く、彼らは大仰で粗雑との事でした。トレストのエルフは旧式かつ後進的な傾向にあり、それは驚くべきことではございません。レオヴォルド氏は大仰な身振りと友情の大胆な宣誓から、腰の低い主催者兼宮廷道化師という役割を演じているように見てとれます。彼が貴族にも平民にも同様に取り入ろうとしているのは明白であり、幾らかの成功を得ております――そのトレスト人大使は公的社会において通常歓迎されております。下層階級においても同様です。

 大使館は小規模の武装衛兵部隊を保有しております。大使館の人員を鑑みるに不自然なものではございません。申し分なく訓練されていながら攻撃的な様子はなく、見た所このフィオーラ最大の都市の光景や音へと友好的に驚嘆しております。


アート:Anthony Palumbo

 とはいえ、トレスト人代理人の何者かが小規模の外交的事件に関与しているという噂がございます――諜報活動の類に関与しているという疑惑です。これらの報告については二通りの解釈が可能と考えます。レオヴォルド氏と随員が共に、国家に対する高度な諜報活動に従事している可能性。もしくは氏の派遣員の何者かが単に周囲を嗅ぎ回り、時折些細な窃盗を行っているという可能性です。

 私としましては後者の可能性が高いと考えますが、前者も完全には排除できないことは確かです。大使の動向について監視を続けますが、現在の状況を鑑みるに、多くの人員は割けない状況にあります。更に緊迫した問題が複数ございます。

 女王陛下の棘、ルシア・コヴィ


幕が上がる

 パリアノに生きるというのは何と愉快なことだろうか! 駒は全て所定の場所に、明かりは灯され、遊戯が始まろうとしている。あらゆる目が女王へと向けられている。そう、反逆のアドリアナ隊長に立ち向かうべく動き出した女王へと。マルチェッサにのみ忠誠を誓う兵達によって隊長は地位を失ったが、その兵らは気高き諜報員と暗殺者であり、秩序を保つべく訓練された一団ではない――彼らの多くは鎧を纏って馬上高くに座すのではなく、暗き路地で短剣を隠し持つ方が似合いのように思える。

 以前の衛兵? 何人かは投獄された、だが牢は穴だらけだ! グレンゾは女王の治安維持に手を貸す気は毛頭無く、その地位を放棄したと言っていい。アドリアナは苦戦の末、大胆にもかつての部下を救出して引き入れる段階にある――家畜ハイドラ、ミートパイを満載した荷馬車、そして洗濯女とはとても思えない変装の侵入者三名を用いた典型的な脱獄。まあこれは余談だ。

 アドリアナ隊長は都市のために戦うと宣言している、まるでそれが具現化した理想であるかのように。素晴らしいほどに詩的な構想、だが彼女の戦略はもっと物理的な領域にある。平穏に鎮圧するには大規模すぎる行進。女王のかつての地所への整然とした攻撃。そして演説。加えて、あの女性は声を発するだけでなくその姿も堂々と見せている。

 だが全ての目がこの主要行事に向けられている間、辺境地の活動も同じく活発になっている。輝かしく名高いセルヴァラ嬢を含む数人が、新女王に誘惑された厚かましい貴族の怠慢と贅沢を攻撃すべくこの情勢不安を利用しようとしている。解散を命じられたアカデミーの残存者に何が起こっているのかもまた不可解だ。かつての教師らはほとんどが都市内に残り、個人所有の工房に籠っている(その幾つかはむしろ小要塞と言っていい)。その明かりは毎夜消えることはなく、壁には影が投げかけられている、曙光がそれらを消してしまうまで。

 そして、子供らが松明を手に街路を駆ける中、我々は興奮の丘の頂上に座している。偶然は配置され、いずこから誘発が来るのかと待ちわびている。あるいは単に頭を下げ続け、勝者の好意にへつらうか。私は有能かつ着実な手をもって、更なる命令を待つことにしよう。

 敬具

 トレスト大使レオヴォルド


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